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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第一章 そうだ冒険者になろう
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第五話 英雄の誕生

「さてさて、回復もしてあげたことだしぱぱっと倒しちまうか」


「ぱぱっと、って。いや、できるんだろうけどさ」


「なんだか、釈然としないわね」


「ここに来る前の私たちの悲壮の覚悟を返してほしいです」


「本当にな。死んでも街を守る気だったんだぜ?」


 そういわれてもな。俺としては倒せるから倒すだけなんだが。そりゃ、まぁ、時間稼ぐためにいろいろとやったけど仕方ないじゃん。

 ある程度、継続して痛めつけないと自己再生するんだから。なんだか、途中で魔力切れになったのか再生しなくなったけど。だから、わざわざ俺が回復させたんじゃん?死なれたら困るし、素材がもったいないし。


「あれだな。強くなって問題なのは、弱い敵相手に加減ができなくなるってことだな」


「「「「SSランクの魔獣は弱い敵じゃない!!」」」」


 あ、そう?ま、いいや。いつまでも話し込んでいても仕方がないし。あと、ブラック某君がじりじりと後退してどさくさに紛れて逃げようとしてるし、とりあえず倒しちゃうか。


「なんか、敵さんが逃げようとしてるから倒しちゃうぞ?」


「「「「えっ?あ、本当だ!」」」」


 俺たちの視線が自分に向かっていることに気付くとブラック某君はビクッと体を震わせた。

 なんだか、本当に怯えられてるな。初めにあったころの威圧感はどうしたんだよ?なんか、シュロロロロロロ!って威嚇してきてただろ!

 あ、本格的に逃げようとしてる。させるわけないだろう!


「水風流、一之舞・風刃円舞」


 シュパパッ!


『グギャ……ッ――ァッ……!』


「散れ」


 ――カチンッ!…………バタンッ!


 ふぅ、終わったな。一瞬のうちにブラック某君の背後に移動した俺はすれ違いざまに七つあるブラック某君の首をすべて切り飛ばした。ヒュドラ種、というか、蛇型の魔獣は総じて再生力が高い。だが、ヒュドラ種の場合は分かれている首の根元にある魔石か、一瞬ですべての首を潰すか切り飛ばせば殺すことができる。


「「「「……えっ?」」」」


「ん?どうした?」


「いやいや、なんで一瞬で片づけてるんだよ!」


 えっ?一瞬で倒したらダメだったの?


「ありえないわ、こんなの」


「本当にSSランクの魔獣が敵にさえなりえないんですね」


「もう、驚き疲れたぜ」


「いや、でもちゃんと最後は刀抜いたぞ?」


 刀に付いてる固有能力は使わなかったけど、木刀で切ったら切り口が雑になるからな。


「「「「いや、見えなかったから!」」」」


 そりゃあ、認識できる速度で動いてねえもん。てか、クルトたちが見える速度で動いてたらブラック某君にも対処されるだろう。


「まぁまぁ。それより、この素材片づけてギルマスん所に戻ろうぜ」


 そういって、魔法陣を広げてブラック某君をアイテムボックスに入れる。


「ブラックテンペストヒュドラを素材扱い」


「というか、あんな容量の空間魔術見たことないんですが」


「たぶん、ただの空間魔術じゃないわ。見たことのない術式だったし、おそらく、オリジナルの魔術よ」


「おいおい、使い魔も放っているって言ってたし、剣術だけでなく異能術も規格外かよ」


 規格外って。あぁ、そういえば、オリジナルの異能術を使えるのってSランク以上の異能師だけなんだっけ?冒険者ギルド所属の異能師は知ってるけど、異能庁所属の国家異能師は知り合いにいないからな。正直、よくわからん。


「ギルマスから使い魔が飛んできて援軍に来たんだが、SSランクの魔獣っていうのはどこだ?さっき、ものすごい音がしたが」


 ものすごい音?ああ、ブラック某君が倒れた時の音か。なかなかに、大きかったからな。十メートルくらいの巨体が倒れたからそりゃすごい音もするよな。


「そこにいるのは『聖獣の守り火』だろ。SSランクの魔獣はどうした?戦闘痕はあるみたいだし、お前たちだけで退けたのか?」


「い、いや、SSランクの魔獣なら倒したよ。そこにいるゼロがな」


「……はっ?いやいや、そいつのことは俺も知ってるが、まだBランク冒険者だろう。それに、倒したなら死体はどうしたんだ?ここにはないようだが」


「……まぁ、信じられないのも無理はないか。ゼロ、ブラックテンペストヒュドラを出してくれ」


「ブラックテンペストヒュドラだと!?あの、七つの首からそれぞれ違う種類のブレスを出し、強烈な尻尾の一撃や牙には猛毒があったりして、嵐のように休むことなく暴れまわる災害級の魔獣だぞ!?あれを倒したってのか?」


 へぇ、そんな魔獣だったのか。名前ぐらいしか解析しなかったから能力やスキルはほどんど見てなかったな。


「ああ。そういえば、そんな魔獣だったな」


 あれ?違ったの?


「一方的に痛めつけられて戦意喪失してたわよね。途中、怯えちゃて完全に動きが止まっていたし」


「いやいや、おかしいからな!?一方的に痛めつけるって、ゼロってそんな化け物だったのかよ!」


「そうね、Bランクで止まっているのではなくて、まだランクを上げている途中ということかしらね。冒険者に登録してまだ三か月ほどらしいし」


「まぁ、ランクに然して興味はないけどな。そんなことより、移動しようぜ。ブラック某君を出すにしてもどうせギルマスに報告したら同じような反応するんだろうし、向こうに行ってからにしよう」


「ああ、そりゃそうだ。なら、一度に済ませたほうがいいな。クルトもルドルフのおっさんもそれでいいだろ?誰が倒したかは別にしても、もうここには魔獣がいないんだから」


 ダグラの言葉にクルトもルドルフと呼ばれたおっさんも渋々といった体で動き出す。












 現在、ギルドは大騒ぎだった。それもそのはずで絶望的だった魔獣の大群という脅威を乗り越えることができたのである。重傷者も出たが、それもポーションや回復魔術で治る範囲だった。なによりも、死者が出なかったのは大きい。

 そのため、宴と称して飲めや食えやのどんちゃん騒ぎである。特に、五百人もの冒険者をまとめ上げた『六花の誓い』の面々は大人気だった。


 そして、それと同じくらいの人気を誇ったのが俺たちである。まぁ、SSランクの魔獣を倒したのだから無理もないが。ネームバリューも大きいのだろう。さっきからクルトとダグラがひっきりなしに女性冒険者に迫られている。

 それを見たリーナがクルトの耳を引っ張り、リリアナがダグラに詰め寄っている。どうやら、クルトたち四人はそういう関係らしい。


 俺のところにも人が集まっていたのだが、ギルマスが俺に絡んできてほかの冒険者は寄ってこなくなった。

 そのギルマスは真っ赤な顔で『まさか、お前がそこまでの実力者とは思わなかった』もう何回目かの言葉を言って酒を呷っている。あとギルマス、それは俺ではなくどっかの重戦士が持っていた大盾だ。


「いや、本当にゼロが旅の途中でこの街に寄ってくれて助かった!」


 ああ、そういえば、この街には旅の途中で寄ったことにしてたんだったか。

 そしてギルマス、それは俺ではなく、ギルマスの惨状を見るに見かねてやってきたナンシーさんだ。


「もうっ、何をやってるんですか、ギルドマスター!ちょっとどいてください!私もゼロさんに話があるんです!」


 そういって、ナンシーさんはギルマスを椅子ごと放り投げた。おおう、すごいなナンシーさん。さすが、元Bランク冒険者だ。

 冒険者たちが魔獣と戦っているとき、ナンシーさんたちギルド職員は住民を領主館へ避難させていた。

 そして、衛兵と共に領主館を守り、住民たちの最後の砦となっていたのだ。他にも、街中を走り回って逃げ遅れた人がいないか見回っていいたり、冒険者たちのために各種ポーションを買い集めてきてくれたのである。本当に、街が一丸となって対処していたのだ。


「ちょっと、ゼロしゃん!聞いてりゅんでしゅか!?」


 うん、ナンシーさん。あなたもなんだかんだいって、酔ってますよね?あと顔が近いです。エルフ族ならではの美しい顔がとても近いです、本当にありがとうございます。でも、それがどうでもよくなるほど酒臭いです。お願いします、離れてください。


「聞いてます聞いてます。だから座ってください」


 ナンシーさんのような亜人と呼ばれる種族は他にもいる。エルフをはじめとして、ドワーフ、獣人などたくさんの種類がある。おそらくまだ確認されてないだけで、ほかにも亜人はいるだろう。特に獣人種は猫耳だったり、犬耳だったりさらに複雑化している。


「だいたい、ゼロしゃんはおかしいんでしゅよ!依頼受けに来たと思ったら、おもしろそうな依頼を聞いてきたり奇天烈すぎましゅ!毎日ゼロしゃんのために依頼を探しておく私の身にもなってくだしゃい!」


「毎日」


 俺、毎日はギルドに行ってないよな?なんで、毎日依頼を探していたんだ?ほかにも誰かいたのか?


「はいはい、ナンシー。あんた、ちょっと酔いすぎよ」


 そういって、ナンシーさんと同僚の受付嬢がナンシーさんを連れて奥に引っ込んでいった。

 あの人は狼っぽい耳の獣人だったな。


「狼もいいよなぁ~」


「おっ、なんだ。ゼロはキアーゼさん狙いなのか?受付嬢たちはキレイどころだけど、だからこそなかなか落とせねぇぞ?


 ほう、あの人はキアーゼさんというのか。俺は、ナンシーさんがいなくなってすぐに近寄ってきたクルトに顔を振って答える」


「いや、キアーゼさんがどうこうというよりは、普通に狼の従魔が欲しいなって思っただけだ。あいつらは、総じて賢いからな」


「なんだよ、こんなときまで仕事のことを考えてるのか?」


「それもあるが、大きな狼に乗って移動とかあこがれるじゃないか。だって、もふもふだぞ?」


「そこかよ、なんだかおまえって変なところでずれてるよな」


 そうか?大きな狼をもふもふするとか誰でも憧れることじゃないのか?違うのか?


「ゼロの場合は見えてるものが違うのよ。だって、戦力を増やさなくても魔獣に負けることなんかないんだから」


 まぁ、確かに負けることはないけどさ。でも、ここで一つ下地を作っておくのも悪くないか。クルトが俺んとこに来たことでいい感じに注目が集まってるし。


「まぁ、確かに魔獣程度に負ける気はしないが、俺が強いと思うやつだっているんだぞ?覇者の大森林には俺の親友もいるからな」


「おいおい、それって神獣のことだろう。神獣はよっぽどのことがないと自分の領地から出ないって話じゃないか」


 まぁ、たしかに神獣や獣神は自分の領地から出るのを嫌うが今回はそうじゃない。


「いや、そいつは人間だよ。俺の武器の整備をしてもらっていた」


『人間!?』


「ああ。もうそろそろあいつも出てくるんじゃないか?採りたい鉱石採掘したら後を追うって言ってたし。俺と違って神獣に鍛えられてはいないが、あの森で過ごせるだけの力はあったからなかなかに強いぞ」


 もちろん、(おれ)のことである。いや、俺は人間じゃないけど、そのことは隠すつもりだし問題ないだろう。

 これで、近々俺が楓として訪れても問題ないし、楓とゼロとのつながりも作った。












 side ???


「くそっ、なんなんだあいつは!」


 俺はやり場のない怒りを抱えながら裏路地を歩いていた。

 計画は順調だった。むしろ、計画以上に順調だったといえるだろう。それを、あのゼロというやつにめちゃくちゃにされた。

 一度きりしか使えない宝珠の力を使ってまでSSランクの魔獣のテイムに成功させたというのにあんなぽっと出の新人につぶされるとは!


「いや、あいつは化け物だ。そこいらのSランク冒険者とは比べ物にならないくらいの」


 事実、同行していたAAランク冒険者ではわずかばかりの時間を稼ぐことすら難しかっただろう。Sランク冒険者がいないときを狙ったが、たとえいたとしても大した違いはなかったはずである。SSランクに勝てる存在など王都にいる騎士団の団長くらいしかいないのだから。


「それに、この街の冒険者たちの団結力も予想外だ」


 まさか、魔獣の群れが迫っている中であそこまでの連携ができるとは思わなかった。これも、特異点といわれるこのエゾの地の影響というわけか。

 厳しい土地だからこそ、あれほどの団結力が生まれたのだ。


「やはり、この街の冒険者たちは厄介だな」


 その排除のために一年の時間をかけて準備してきたのに最後の大詰めというところで失敗するとは!二千もの魔獣の群れが五百ほどの冒険者に殲滅されるなどと誰が考えつけるというのだ!

 計画の倍の数の魔獣を支配下に置けたと安心していたのにこれだ。最古参の幹部である私の立場が危うくなってしまう!


「このまま、帰るわけにはいかん!なんとしても、汚名を返上せねばっ!それに、この地の冒険者は必ず邪神様復活の邪魔になる!最悪、儂の存在が露見してでもこの街の機能を停止させねば」


 そのあと、儂は教団の幹部どもに消されるだろう。これでも、最古参の幹部なのだ。教団のやり方はわかっている。だが、邪心様復活の礎となれるのであればそれも本望だ。


「儂が命を懸けて動けば、ほかの幹部たちも本気で動くだろう」


 儂の計画は数ある計画の一つでしかない。儂の計画の結果を受け止めてほかの幹部たちがうまくやってくれることを祈ろう。


「よし。では、誰を狙うかを決めねば」


 いくら儂でも一人でこの街の機能を停止できるわけがない。というより、できるなら魔獣を使わずにやっている。


 やはり、冒険者ギルドのギルドマスター、ジン・グリードにするべきか。やつ本人の実力もさることながら人脈の広さも侮ることができん。噂ではこの国の(おう)とも知らぬ仲ではないそうだ。やつを殺せば、間接的にこの街に多大な被害を与えることができるだろう。


 それとも、魔獣の群れを止められた《六花の誓い》にしてくれようか。こっちは割合簡単だ。なにせ、やつらのランクはAランク。ジンに比べればどうということもない。


 AAランクの《聖獣の守り火》という手段もある。やつらは、いづれSランクになるほどの逸材だ。ここでつぶしておかなければ後々面倒になる。


「くっ、どいつもこいつも邪魔になるやつばかりではないか!


 いや、だが、命がけで狙うのならば今回の件の一番の原因である――


「やはり、ゼロを狙うのが一番だな」


 そうと決まれば、すぐさま教祖様に報告して――


「俺がどうかしたのか?」


「なっ、お前はっ――!?」


 そいつの顔を見た瞬間、儂の意識は消えていった。


 ――――。


 ――――――っ。


 わ、儂は一体、……そうだ、教祖様に報告しなければ!


「――えぇ、テイムした魔獣が暴走して魔獣の群れの統率ができなくなり、任務は失敗しましたっ」


『――そうか、宝珠の力をもってしてもSSランクの魔獣のテイムはならなかったか』


「――いえ、儂の実力不足ゆえです」


『そういうな。お前以上のテイマーは我が教団には存在しない』


「恐れ入ります。それで、今後のことですが」


『ああ。たしか、SSランクの魔獣は暴走状態のまま覇者の大森林に入っていったのだったな』


「ええ、いくらSSランクの魔獣といえどもあの森では生存は厳しいでしょう」


『そうだな、あそこには化け物がウヨウヨいる。それでお前はどうする?』


「一度戻ろうと思います」


『ほう?』


「どうやら、この街の冒険者着ギルドマスターが儂らの存在に勘づいているようです。その一環としてSSランクの魔獣を誰かが討伐したことにするようです。それで、儂らの反応を見るようです」


『あれか。あれは現役のころからなかなかの切れ者と有名だったからな』


「そうなのですか。それで、誠に遺憾ながら今ここで儂が動けば儂らの存在が世に露見する可能性があります」


『……ほかの幹部の計画が動いている中でそれはまずいか』


「はい。ですから、恥を忍んでここは撤退しようかと思います」


『……仕方がないか。よかろう、許可する』


「ありがとうございます」


 そういって、頭を下げ通信を切る。


「……今に見ておれよ!いづれ、この世は邪神様の手によって闇に落ちるのだ!」


 遠くに見える冒険者ギルドを忌々しく思いながら、儂は誰にも気づかれぬようにこの街を後にした。


 ――――。


 ――――――。


 ――――――――。


「いったか」


 俺は、街を離れていく邪神教団(自称)の幹部の姿を眺める。悪いが、あの幹部(笑)の頭の中を弄らせてもらった。


「誤った情報はときとして毒となるんだよ?」


 俺の実力を過小評価させると同時に、俺とギルマスがあいつの存在に気付いていないと思わせるためにあえて捕まえなかったのだ。

 あいつは、冒険者たちが魔獣と戦っているときにはすでに街の中にいた。さすがのギルド職員や衛兵も逃げようともしないで隠れ潜んでいたあいつの存在には気付かなかったようだ。


「こういうのは、一網打尽にするに限る」


 ああいう輩は、下手に逃がすと自暴自棄になってメンド臭いことを起こすからな。あとは、ギルマスから事情を聴いて丸投げしよう。教祖様の話じゃ切れ者らしいしな。


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