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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第一章 そうだ冒険者になろう

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第二話 新たなる弟子

「それで、これはどういうことだ?」


 そういって、俺は気まずげに目を背ける水無月を見つめる。


「い、いや、それがじゃな?(わらわ)の隣の領地の獣神にお主に娘を預けたといったんじゃがな」


「ふ~ん、それでどうしてその獣神が自分の娘を俺に預けようとしてくるんだ?」


「えと、その、じゃな?妾が娘に人間社会を学ばせるためだと言うたら、自分もと言いだしてのう」


「うむ。私に随分と自慢げに何度も話してくれたな。あれだけ堂々と自慢げに言われたら私だってその気になるというものだ。というより、カエデには話を通しておくといってなかったか?」


 ジロリ。


「……うっ。そ、そんなこともあったかのぅ~」


「結局、お前のせいじゃねぇかー!」


「すまんかったのじゃー!」


「はぁ、それであんたは?」


「おっと、私としたことが。名乗り遅れてすまない。私は栞菜(かんな)。四獣神の一角、東方青龍の栞菜だ」


 おいおい。なんだか、とてつもない肩書持ってるんですけど?そういえば、ここって北海道の日高山脈の西側の麓あたりだったか。ってことはその向こう側は北海道の東側、日本最東の地だな。うん、それならここにいるのも納得。ってできるか!


 オーケー、いったん落ち着こう。まだ、慌てるような時間じゃない。それに、問題はそこじゃない。


「……それで、そんな大層な肩書持つ神がなんで自分の娘を俺に預けようと思ったんだ?」


「ふむ。それは先ほど言ったと思うが」


「それで、俺が納得するとでも?」


 おい、水無月。なにを"えっ、違うの!?"って顔してんだ。栞菜さんも苦笑いしてるじゃないか。一応、ここにはお前の娘もいるんだから母親っぽくしてろよ。


「まぁ、ミナヅキと同じように獣神の育て方がわからないという理由もある。だが、本命はそこじゃない」


「というと、人間社会の勉強というところか?」


「察しがいいな。私はこの日本神皇国(にほんしんこうこく)という国の守り神の役目も担っている。そして、その一環として四獣神家と呼ばれる四つの家の一つ、東峯院(とうほういん)という一族と契約し力の一部を貸す契約をしている。そのため、ほかの獣神よりも我ら四獣神は人間とのかかわりが深い」


「なるほど。それで、人間社会の勉強ね」


「うむ。四獣神の娘として人間を知ることは必要不可欠なのだ。頼む、ツクヨ嬢と共に私の娘も一緒に連れて行ってはくれまいか」


「……はぁ~。その東峯院てのに頼むのは?」


「……それも考えたが、彼らでは私の元までたどり着くことができん」


 確かに、ここ北海道――いや、この世界ではエゾだったか。このエゾの地は日本中でみても世界中で見ても断トツでトップの危険地帯だ。

 いくら、栞菜さんの力の一部を使えても、よっぽどの強者でない限りこの覇者の大森林に入ることもできないだろう。ならば、ここから日高山脈を越えてさらに東にある栞菜の領地にたどり着けないのも納得がいく話だ。


「……わかったよ。一人も二人も大して変わらん。だけど、栞菜さんの娘さんはこのことを了承しているのか?」


「その点は問題ない。もともと、私の娘はツクヨ嬢と年が近いのでな。互いに仲良くしていた。其方とともに行くのは不安に思っているようだが、ツクヨ嬢も一緒だと言ったら乗り気だったぞ」


 いや、それは大丈夫なのか?一応、俺が保護者なんだよな。その保護者を不安に思ってるってかなりの問題じゃないか?

 とはいっても、栞菜さんと娘さんの間で話がついてるのは確かか。これは、受け入れるしかないのかね。なんというか、鎖なしの放し飼いで野生のクマ二匹を街中に連れて行く気分だ。

 クマが街中で暴れまわるか、衛兵に射殺されるか。いっそのこと首輪とリードでもするかな。いや、見た目獣人って感じの二人にそんなことをしたら、絵面がやばい。むしろ、俺が捕まるレベルだ。


「話が通ってるのはわかったから、とりあえずその娘さんとやらを紹介してくれ」


「おおっ、了承してくれるのか!恩に着るぞ、カエデよ!」


 そういって、栞菜さんは洞窟の奥に入っていった。たぶん、奥に娘さんがいるんだろう。ということは、すでに俺に預ける気満々だったわけである。まぁ、栞菜さんからすれば水無月が俺に話していて俺の許可は取ってあると思っていたのだから仕方がないか。


「リンちゃんも一緒に行くんですか!楽しい旅になりそうです」


「そうじゃろう!ツクヨが安心できるようにと思って妾も考えたのじゃ!」


 そういって、嬉しそうな月夜に胸を張る水無月。まったく、見た目は妖艶な美女のくせに喋るとポンコツ具合で一気に台無しになるな。


「お前は反省しろ。このポンコツ残念美人」


「うっ、……ぽ、ポンコツ残念っ」


 なんだか、水無月が項垂れてぶつぶつ言ってるがこのポンコツのことは置いておこう。そうしているうちに、栞菜さんが娘さんを連れてきたようだ。たしか、月夜が凜ちゃんと呼んでいたか。


「待たせたな。この娘が私の娘の凜華(りんか)だ。リンカ、この者がこれからお前とツクヨ嬢が世話になるカエデだ。ちゃんと挨拶しなさい」


 そうして、栞菜さんに背中を押されて前に出た少女は、栞菜さんと同じ青みがかった黒い髪をショートカット程度までの長さで切りそろえた月夜と同じくらいの少女だ。角の長さも栞菜さんよりも短いな。顔立ちは月夜よりも少し幼いか?












「り、凜華と申します!えっと、青龍でお母さんの――じゃなくて母であるカンナの娘です!よ、よろしくお願いしましゅ!あっ、痛っ!」


 噛んだな。というより、予想してたよりもなんというか、子供っぽいな。いや、月夜よりも見た目幼くて十歳くらいしかないから、年相応なのか?月夜が見た目に反して大人っぽいだけか。

 あれだな、栞菜さんがめちゃくちゃ落ち着いてるから、てっきりしっかりした娘かと思ったら予想を裏切られた感じだ。


 逆に、月夜の場合は母親があんな(ポンコツ)だから、しっかりした性格になったのだろう。まぁ、人間の常識はわかっていなかったがそれはある意味仕方がない。そもそも、人間じゃないんだし。


「俺は、風月楓という。楓と呼んでも月夜と同じように師匠と呼んでくれてもどちらでも構わない」


「わ、わかりました。じゃあ、ツクヨお姉ちゃんと同じように師匠と呼ばせていただきます。あと、私のことは凜華でいいです」


「ああ、わかった。それでいいよ。それと、たぶん水無月のことだから言ってないと思うけど、俺自身も人間じゃなく龍族だ。だから、というわけではないけどそんなに緊張しなくても大丈夫だ。青龍なら同族みたいなものだろう」


「そうなのか?」


「ああ、ステータスには種族は龍族って書いてある」


「ふむ。見た目は完全に人間のようだが」


「あ~、水無月は俺のことをどこまで教えてる」


 それによって説明の範囲が変わってくるからな。


「異世界からやってきた規格外の強さを持った存在だと聞いている。あと、信頼できる相手だとも」


 ほお?そんなこと言ってたのか。まぁいい。


「そんなもんか。俺のいた世界はステータスとか見ることができなかったからな。だから、この世界に来る前はわからないが、少なくともこの世界に来た時点で種族は龍族になっていたな。あとなんでか知らんが不老不死にもなってたな」


「なるほどな。ミナヅキが規格外の存在というわけだ。というより、自力で異世界からくる存在など四百年前にもいなかったぞ。あれは、究極の自然現象だったからな」


 栞菜さんが言ってるのは、四百年前に世界各地で異世界へと通じる穴が開いたことだろう。穴から魔力や霊力と共に魔獣や霊獣もやってきたと聞いたが、文脈から察するにそいつらも望んできたわけではいないらしい。


「まぁ、というわけで異世界出身だし龍族だけど栞菜さんや凜華とはちょっと違うかもしれないが、全くかかわりがないことはないだろうし、よろしく頼むよ」


 そういって、俺は改めて凜華に向き合った。


「そうですよ。師匠は見た目人間っぽいですが、中身は規格外の存在ですから変に緊張してると疲れちゃいますよ」


「おいおい、ずいぶんな言い草だな」


「違うんですか?」


「残念なことに、ここで違うと断言できないのがつらいところだ」


 さすがの俺も、自分が規格外だという自覚はあるよ?なんたって、今じゃ水無月相手でも負ける気がしないほど強くなってるし。


「ふふっ、なんだか子弟というよりも兄妹みたいです」


「むむ?こんな息子はごめんなのじゃ」


「俺だってこんなポンコツが母親なんてごめん被るね」


「ま、また、ポンコツって言ったのじゃあー!」


 ポンコツにポンコツといって何が悪いのだろうか。まさか、こいつ!?自分のことを優秀だとでも思っているのか!?


「な、なんじゃ?そんな驚愕の目で見つめて。あっ、わかったぞ!ようやく妾の偉大さに気付いたんじゃろ!?まったく、時間がかかりすぎなのじゃ」


 マジか。いや、自覚がないからこそのポンコツということか。


「なんで、そんなかわいそうな奴を見る目で見るんじゃー!」


「ふふふっ、お主らは本当に仲がいいのだな。ある。リンカ、カエデのもとでならのびのびと人間社会のことを学べるだろう。四獣神の一角である限り人間たちとは切っても切れぬ仲だ。ミナヅキとカエデ並みとまではいわんが、人間の友人もできるといいな」


「はい、お母さん。私もなんだか楽しみになってきました!」


「そうだな。私も次の世代がどのように人とかかわっていくのか今から楽しみだ。まぁ、とはいっても私もミナヅキも不老不死なので私が殺されるか世界が滅びるまではずっと生きているわけだが」


 そう、基本的に神獣や獣神は不老不死なのである。だから、次代といっても月夜たちが跡を継ぐのはずいぶんと先になるだろう。そもそも、本当に跡を継ぐのかも怪しい所だ。もしかしたら、娘と交代制で領地を守るかもしれないな。たとえば、百年たったら交代みたいな。

 まぁ、俺も不老不死であることだし、実際はどうなるのか楽しみに待っていようか。

 そのためにも、月夜と凜華の教育をしっかりとやらないとな。間違っても、水無月のようにならないようにな。


「なんじゃ、その意味深な目は?言いたいことがあればはっきりといえばいいんじゃ!」


「いや、水無月みたいなポンコツにならないように気を付けて教育しないとなって思っただけだ」


「はっきりといいすぎじゃ!?」


 うむ、凜華も随分と緊張がほぐれたみたいだな。月夜と一緒になって笑っているし。だが、水無月よ。娘にまで苦笑されるのは母親としてどうなんだ?












「そういえば、カエデよ」


「ん?どうした、水無月よ」


 水無月の言葉を聞きながらトランプのカードを水無月から一枚引く。おっ、揃った。

 現在、俺と水無月はババ抜きの真っ最中である。月夜はこの一週間に俺が月夜に教えたことを簡単に栞菜さんと凜華に説明している。二人でするババ抜きなんて、トランプで一番つまらないと思うのだが、水無月は楽しそうだな。……何も考えてないだけか。


「どさくさに紛れて忘れていたのじゃが、いつ頃この森から旅立つんじゃ」


「う~ん、本当は三日後くらいを予定していたんだが、凜華が慣れる時間も必要だから一週間後くらいに延長かな」


「そうか、急に押し掛けたようですまなかったな」


「いや、少しくらい伸びても構わない。まだ、二年半ほど時間はあるしな」


 具体的にいつまでと決めているわけじゃないから、多少遅れても問題ないし。……蓮あたりはうるさそうだがな。


「うん?たしか、ここから王都までは人の速さでは一年ほどで行けたよな?」


「ああ。だけど、せっかく異世界に来たんだから色々見て回りたくてさ。寄り道とかも考えて余裕を持っていきたいんだよ」


「なるほど、それなら納得だ。それに、多くのものを見ることは二人にとってもいい経験になるだろう。大きな町での生活しか知らない獣神なんて笑い話にもならないからな」


 シティ派の獣神か。あれか、家ネコとかそんな感じか?それはそれで見て見たい気もするが、この世界でそんなことにはならないだろう。

 大きな街は強い魔獣の標的になることも多いみたいだし。神が近くにいて、人がすがらないはずがない。


「気を付けるよ。まぁ、俺の弟子である限り大丈夫だと思うけど」


 素材集めで秘境やら魔境に入るし、強力な魔獣の素材とかも欲しいしね。もちろん、月夜たちも同行させるつもりだ。月夜は豊穣神。系列で言うなら生産系の神だ。

 だから、生産にかかわることは一通り教えようと思ってる。


「そういえば、栞菜さんや凜華って何を司る神なんだ?」


 青龍だし、水神か?


「ああ、そういえば言ってなかったな。私たちは雨や海といった水にかかわるもの全般を司っている。それと、先ほども言ったようにこの国の守り神でもあるから守護神や戦神でもあるな」


 なるほど。自然現象を司る神でもあり戦闘系の神でもあるのか。格で言えば、どう考えても水無月よりも上だよな。

 というより、ずいぶんと教えることが幅広くなったな。自然系統に生産系統に戦闘系統。てか、自然系統ってどうやって教えるんだよ。精神修行ぐらいしか思いつかねーぞ!


「どうした、難しい顔をして」


「いや、戦闘系はともかく水の操り方なんて俺知らんしなって思ってな」


「なんじゃ、そんなことか。お主をよくやっているではないか。ほれ、水出してみるんじゃ」


 よくやっている?とりあえず、言われた通りに魔術を使って水を出す。


「それが、水を操るということじゃ」


「いやいや、ただの魔術じゃん」


「そもそも、妾たちもただで物を操れるわけないじゃろ。神の権能というものは神力を用いて行うものじゃ。お主の言う異能術の一種じゃよ」


「なっ!?」


 なんだって!?……いや、なるほど。いわれてみれば確かに。神獣や獣神なんだ。神力を使って行っていると考えたほうが自然だよな。あ~、地球での固定概念が変な方向に働いたな。神なんてものは自分の司っている力をなんの制限もなく使えるものと思い込んでいた。

 そうだよな、神力なんてものがあるという時点でその可能性を考えるべきだった。


「なるほど、それなら大丈夫だ。異能の扱いは心得ている」


 伊達に自力でこの世界まで来たわけじゃない。神々は知らんが、異能の扱いで人間に負ける気はしない。


「助かったよ、水無月。前の世界の固定概念が邪魔してその発想はなかったわ」


「う、うむ。わかればいいのじゃ」


 なぜそこでどもる。あれか、褒められ慣れてないからか?


「とりあえず、月夜にも凜華にも俺が教えられることはすべて教えよう。異能術も戦闘技術ももちろん生産技術もな」


「「はい、よろしくお願いします!」」


「とりあえず、拠点に帰ったら基本的なことから教えるからな。特に料理」


「「「「うっ!」」」」


 ん?いま四人の声が重なったような?おいっ!水無月たちだけかと思ったら、あんたら母娘もか!せっかく、人化できるんだから料理ぐらい勉強しろよ。特に水無月と栞菜さん。あんたら、四百年も生肉貪り食ってたの?飽きるだろう、普通!


「……水無月、栞菜さん。二人も料理覚えてみるか?」


「「……はい、お願いします」」


 はぁ~。二、三日は料理に費やすことになりそうだな。旅することを考えたら、血抜きや解体から教えたほうがよさそうだな。水無月や栞菜さんもそれぐらいできるようになったほうがいいだろう。

 できれば、切ると焼くくらいは覚えてほしいが、難しいだろうな。

 料理してない期間が長すぎる。


「……一週間でマシになることを祈ってる」


「「「「ドリョクシマス」」」」


 まったく、不安しかないわ。


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