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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第一章 そうだ冒険者になろう
20/26

第一話 半年後

「ほいさっ!」


 カコンッ!


「よいさっ!」


 カコンッ!


 やぁやぁ、楓さんだよ?いきなりだけど、あれから半年が経った。えっ?急だって?そんなことはないよ。俺はちゃんと半年間過ごしてきたからな。ただ、やっていることが地味すぎてわざわざ報告するまでもなかったってだけだ。

 まぁ、それでもいろいろなことがあったけどな。そこら辺のことはあとでまとめて教えてあげよう。


 今?今は、薪割りをしているぞ。実は、そろそろこの森を出ようと思ってな。今のうちに薪の確保をしているんだ。ちなみに、半分ほど木炭にしようと思っている。木炭のほうが長く燃えてくれるからな。


「師匠。朝食ができましたよー!」


 そういって、俺に声をかけてきたのは月夜(つくよ)という十二歳くらいの少女だ。


「おー、今行く」


 月夜は俺がこの森の中心部にたどり着いたときに出会った狐の神獣である水無月(みなづき)の娘だ。水無月は元はただの狐だったそうだ。四百年前、この世界が異世界とつながった時に一緒に流れ込んできた濃密な神気を浴びて神獣となったらしい。


 そんな、水無月の娘である月夜が俺のところに来ることになったのは、神獣という特別な存在が関係している。

 そもそも、水無月が浴びた神気の量は水無月を獣神にするほどの量だったそうだ。だが、水無月は神獣になる前に魔獣に襲われ重傷を負っていたらしい。そして、獣神になる分の神気を怪我の回復に使ってしまったために、神気が足らず獣神よりワンランク低い神獣となってしまった。


 そのあと、四百年かけて神獣の何たるかを学んでいった水無月だったが、京都にいる狐の獣神との間にできた子を産んだところで問題が生じる。その子が、獣神だったのだ。

 ただでさえ、神獣になって初めての子供。他の神獣や獣神だって神獣や獣神の子供を育てるなんてやったことがないため、右往左往しているのに神獣である自分よりも格の高い獣神の育て方なんて見当がつかなかった。夫は京都の自分の領地を離れるわけにはいかないし、自分も同じであるため夫のもとに行くわけにもいかない。


 そこで、親友である鴉天狗に頼み連絡役になってもらって夫と育児相談。その結果、獣神は人間たちの守り神になっていることが多いと聞き、人間のことをよく知ったほうがいいのではないかという方向で考えていたそうだ。

 そんな水無月がいた森にのこのこと俺が転移してきたわけだ。そして、俺に会った水無月は半年ほどかけて俺の人間性を確かめて、つい一週間ほど前に人間社会のことを学ばせてやってくれと俺に月夜を預けたのだ。


「まったく、確かにこの国の首都であるシンジュクには行くが、だからって一人娘を俺に押し付けるかねぇ」


 それに、俺人間じゃないし。もちろんそのことも水無月にはいったが、人間社会を学ばせてくれるならば、お主が人間でなくとも問題はない、って言われてしまった。


「まぁ、のんびり一人旅もいいけど、複数人での旅が嫌いなわけでもないからな」


 ちなみに、水無月は三メートルくらいの七尾の狐で日の光が当たると体毛が金色に輝いて見える。その娘の月夜は一.五メートルくらいの三尾の狐で白金の体毛をしており水無月とは異なり日の光が当たらなくともキラキラと輝いている。


 ただ、二体(二人)とも人化ができるので俺と会うときは人化してもらっている。人化しているときはケモ耳っ娘となる。もちろん狐耳だ。尻尾は一本だが増やそうと思えば増やせるらしい。まぁ、本来の姿の数までだが。

 尻尾の数が力の度合いを表しており、それを考えると月夜はまだまだということだな。ちなみに、月夜と同じ獣神である水無月の夫は九尾である。京都住まいで九尾って……まぁ、獣神だし違うんだろうけど。

 てか、そう考えると水無月って強くね?神獣なのに七尾って。もともとは獣神になるはずだったからか?


「師匠?何を難しい顔でご飯食べてるんですか?もしかして、また失敗しちゃいましたか?」


「いや、味付けは大丈夫だ。ちょっと、月夜と会ったときのことを考えていた」


「会ったときですか?そういえば、かなり驚いてましたね。お母様に子供がいるって聞いて」


「そりゃあ、今まで見たことなかったしな。というか、旦那がいることさえ知らなかったし」


 そう、水無月のやつ月夜のことを俺に秘密にしてやがったのだ。そりゃ、確かに一人娘を会わせても大丈夫か不安はあったんだろう。だが、だからって預けるその日の紹介するやつがあるか!?

 全く話についていけなかったわ!


「あはは、……すいません」


「いや、月夜に呆れているわけじゃないから気にすんな」


 水無月のやつが過保護すぎるだけだ。おかげで、月夜はこんな森の中だというのに立派な箱入り娘だ。

 さっきも少し話に出たが、そもそも料理というものをしたことがなかったらしく、塩とか胡椒以前に切るとか焼くこともしなかったのだ。食事だといってイノシシをそのまま食べようとしたときは慌てて止めたよ。


 考えてみれば当たり前のことだ。月夜の母である水無月はもともと野生の狐だ。料理とかできるはずもない。その水無月に育てられた月夜もまた然りだ。

 それから、一週間すべて使って何とか食べられるくらいの料理にしたのだ。まだ、たまに調味料を間違えるが。


「……はぁ。とりあえず、早く食べて畑になってる野菜やら薬草やらを収穫しようか」


「わかりました」


 午後には水無月のところに近々旅立つってことを言いに行かないといけないし。











「……師匠。これ全部収穫するんですか?」


 そういって月夜が目を向けた先にはどこに出荷するんだというほどの広さの畑に様々な種類の植物が生い茂っていた。


「全部ってわけじゃないけど、ほとんどだな。何年かに一度帰ってこようと思っているけど、長い間放置するからな。折角だし、薬草系と香辛料系は自生させるためにいくらか残しておこうと思ってる」


「師匠はいったいここをどうしようと思ってるんですか?」


「そうだなぁ。転移で気軽に来れるし、別荘兼薬草園?」


 みんなとの合流地点であるシンジュクは一応この国の王都だ。小規模な家庭菜園ならともかく、この規模での栽培はできないだろう。

 俺がいなくなったあとも、結界は張ったままにして害獣の侵入は防ぐつもりだし問題ないだろう。


「……はぁ、わかりました。やりますよ、やればいいんですよね。それにしても、よく半年でここまで育ちましたよね?いま、春先ですよ?」


「そこは、魔法と魔術でちょちょいっと。てか、月夜も豊穣神なんだからこれくらいは息をするよりも簡単にできるようにならんといけないぞ?」


「そうはいっても、まだ神力の扱いさえよくわかりませんし」


「まぁ、そこらへんは要修行だな。それを教えるために俺がいるんだし」


「神力を扱える人間なんて極少数しかいないってお母様が言ってたんですけどね」


「ほら、俺って龍族だから」


「……そういえば、そうでしたね」


 まぁ、俺も自分が人間じゃないって自覚はないけどな。


「じゃあ、俺は薬草から収穫するから、月夜は野菜類を頼む。収穫の仕方はわかるよな?」


「はい。豊穣神の能力でそういうのは感覚的にわかります」


 あらためて聞くと便利な能力だよな。まぁ、俺も似たような能力持ってるけど。


「そうか。じゃあ、さっそく始めるか」


 そういって、俺は右端の薬草を収穫し始める。月夜は反対の左端からだ。野菜は量はそれほど多くないが、身だけを採取したり、そのまま引き抜いたりといろいろ手間がかかる。月夜は豊穣神ということも相まってか熟練の農家のように収穫しているが、普通はそうはいかないだろう。


 そんな他愛のないことを考えながらも収穫を進める。……む。これは残しておくか。良質なものはできるだけ残しておいて次代以降繁殖していることを願おう。実際、薬草もかなりの種類がある。ここにあるだけでも、新米冒険者がとってくるような薬草から伝説の秘薬になるような霊草まで様々だ。


 それは単にこの森――覇者の大森林――が特異な場所だからだ。


 この森は、五つの異能力が円形状の層のようになっているのだ。一番外側が魔力、それから順に呪力、妖力、霊力、そして、中心部分が水無月やほかの神獣のいる神力。中心部に行くほど強力な魔獣や妖怪、霊獣が現れる。

 その影響か、この森では魔草と霊草が一緒に生えているなど普通ではありえないことが起こっている。

 水無月に聞いたところ、そんな特異な場所はここくらいしかないといっていた。

 水無月と仲が良く俺とも交流がある旅好きの妖怪でもある鴉天狗の爺さんも同じく見たことがないといっていたので本当にほかに存在しないのだろう。


 ちなみにだが、俺のいる拠点は霊力エリアにある。もともとは魔力のエリアにあったのだが、魔力エリアなだけはあり、魔獣が鬱陶しいほどいるので引っ越したのである。

 霊獣は話の通じるやつが多くて比較的平和に暮らしている。


「ん、んんぅ~。――ふぅ。ようやく薬草の収穫が終わったな」


 さて、次は香辛料だ。香辛料を栽培している場所は特殊で細かく結界で区切ってあるのだ。薬草もそうだが香辛料の中には砂漠のような熱い場所でしか育たなかったり、逆に湿気の多い場所で育てなければいけなかったりと結界の内部で環境を変えているのだ。

 薬草は、もともとこの森にあったのを使っていたので、そこまで環境を変える必要はなかったのだが、地球から持ってきた香辛料は話が別だ。

 これの栽培にはだいぶ苦労した。さすがの俺も香辛料を育てたことはない。どんな環境が適正かわからなかったのでなかなか手が出せなかったのだ。種や苗にも限りがあったからな。


 それを解決したのは水無月だった。水無月は豊穣神の力を使って、どの植物にどんな環境がいいか植物自身に聞いてくれたのだ。おかげで、その植物に一番合った環境で育てることができた。


「っと、よし!香辛料の収穫も終わったぁ~!」


 なんとか昼前に終わらせることができたな。


「うっ、早い。私が野菜の収穫している間に薬草だけじゃなく香辛料の収穫まで終わらせてるなんて。私の豊穣神としての立場が」


「それは、まぁスキルがあるかないかの差だろ。それに豊穣神は実らせる神で収穫する神じゃないしな」


 というか、俺のスキルも進化して生産王になったっていうのに、豊穣神の称号の副次効果だけで俺のスピードを超えられたら俺の、というか俺のスキルの立場がないわ。


「そんなに心配しなくても、スキルなら嫌で付くから。そんなことより、飯にしようぜ」


「……はい。今はそれで納得します」


 それは、本当は納得してないって意思表示なのかね。まぁ、いいか。さっ、飯食ったら水無月のところに行かないとな。












 昼食後、軽い休息を入れて俺たちは水無月のいる洞窟へと向かっていた。水無月は普段は三メートルほどの狐の姿をしているため、住処はその体が収まる洞窟内なのだ。


「しかし、ここら辺の霊獣は襲ってこなくていいよな。魔力エリアだったらこうはいかない」


「一応、魔獣よりも霊獣のほうが高位の存在ですから。魔獣と違って理性もありますし。私もお母様と暮らしてた時はこの辺まではきたことがあります」


 まぁ、確かに理性はあるのだろう。力ある霊獣なら人語を話すこともできるらしいし、一部の霊獣は人化もできるらしいしな。

 人が訪れることのないこの森で人化できることに意味があるかどうかはわからないが。


『おや、カエデさん。ミナヅキ様のところへ行くのですか?』


「ああ、いつものところにいるだろう」


 そういって、俺に声をかけてきたのは霊獣であるユニコーンだ。清らかな乙女しか背に乗せることはしないが、別にそれ以外の存在を嫌っているわけではない。背に乗ろうとさえしなければ、気のいいやつである。


『ええ。ですが、今はお客様がお見えのようです』


 ふむ、客?鴉天狗の爺さんのことはこのユニコーンも知っているし、わざわざ俺にいったりはしない。ということは、俺の知らないやつが来てるのか?

 それにユニコーンの言い方から察するにユニコーンよりも高位の存在のようだ。


「へぇ、日を改めたほうが?」


『いえ、おそらく大丈夫でしょう。ミナヅキ様のことです。あの方をカエデさんに紹介しようとしているのかもしれませんね』


「そうか。ならこのままいってみるか」


『ええ、それがいいでしょう』


 ユニコーンとそのまま別れて、水無月のいる洞窟に入る。


「おーい、水無月。楓さんだよ~。"みんなの頼れるお兄さん"楓さんだよ?」


『お主、そのきゃっちこぴーいい加減辞めないかのう?そもそも妾よりも年下だろうに』


「嫌だよ、それにこのキャッチコピーは気に入ってるんだ。死ぬまで使うつもりだ。死なないけど」


 一応、不老不死だし。(限定)ってついてるけど。致命傷負っても死ななかったし。でも、身長は伸びたから不老ではないんだろうな。たぶん、(限定)ってそういう意味だと思う。


「それで、今日ここに来たのは近々この森を出るんでな。事前に知らせておこうと思ったんだ」


「いささか、急ではないか?まだ、お主に月夜を預けてから一週間ほどしか経っていないだろう」


 そういいながら、水無月は詳しく話を聞く気になったのか俺と話しやすくするために人化した。


「急も何も前からある程度この世界の情報を得たら、王都に向かうって言ってただろう」


 水無月、というよりも鴉天狗の爺さんからある程度の情報はもらえたからな。鴉天狗の爺さんは鴉たちと意思疎通ができるらしく、人間の街のこともよく知っていた。

 それに、この半年の間に盗賊を討伐した。そのときに、そいつらが持っていた――たぶんどこかの商人から奪った――本で人間たちの常識もある程度は身についている。

 これ以上は、実際に村や街にいってみないとわからないだろう。


「それに、だ。俺の兄弟たちとの約束もある。さすがに、そろそろでないと間に合わなくなる」


「う、む。それなら仕方がないのかのう。じゃがなぁ、ということはもう、お主のくっきーは食べられんということかのう」


 こいつ、言うに事欠いて俺のクッキー目当てかよ。たしか、こいつを崇めてるやつらがいるんだよな?こんなんで大丈夫なのか?見ろよ、月夜がものすごく冷たい目をしているぞ。母親としてそれはいいのか?あ、よだれ垂らした。


「わかったわかった。森を出る前に作り置きしてやるから」


「ホントじゃなっ!言ったからな!?聞いたからな!?嘘ついたら天罰を下すぞ?」


 そんなことで天罰を下すな。邪神かなんかか、お前は。


「はいはい。んで、さっきユニコーンからお前に客人が来てるって聞いたんだけど?」


「む?おおう、そうじゃったそうじゃった。おぉーい、カンナ。ちょっと来てくれ!こやつがさっき言っておったカエデじゃよ」


「なんだ、ミナヅキ。急に出て行ったと思ったら」


「カンナ。こやつがさっき妾が話していたカエデじゃ」


 水無月の声をきいて出てきたのは、青みがかった黒い長髪の和服美人だった。髪の間から後方に伸びる黒く長い角が特徴的だ。だが、角以上に纏う雰囲気で只者ではないのがわかる。

 実力で言えば、水無月よりも上だろう。ということは、間違いなく獣神であるということだ。それも、月夜と違いこの世界が異能に満ちた時代から――四百年前から生き続けた力ある神だ。


「ほほう!この者がミナヅキの言っていた信頼できる者か!そして、私の娘を人の世に連れて行ってくれるものだな?」


 ……はい?いったいこの神は何を言ってるんだ?そう思って俺は、事情を知ってそうな水無月に視線を向ける。……おい、こっち向けや。何"やっべ、言うの忘れてた"って顔してんだ!


「……ほほう?」


 これは詳しく説明してもらう必要があるな。なぁ、水無月?


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