異世界転移と問題児
そういえば、世間では七夕ですね。これといって予定はありませんが。
ある意味、この章のクライマックスです。
では、どうぞ!
夏休みの最終日、楓たちは久しぶりに部室に集まっていた。しかし、他に部活動をしている生徒はいない。それはおろか楓達九人以外誰もいなかった。
それもそのはずで、今の時刻は深夜の十二時である。こんな時間に生徒や先生方がいるはずもない。
「よし、全員集合したな」
「「「「うん」」」」
「おう」
「ええ」
「ああ」
「・・・・・・ん」
「はい」
楓の呼びかけにそれぞれが返事をする。
「ねぇねぇ、楓ちゃん。もう、手紙は置いてきたの?」
「ん?ああ、正義たちの机の中に入れといたぞ?」
「おお、楓の行動が珍しく速い。明日は雨か?」
楓の言葉を聞いて蓮が茶化す。
「蓮、明日にはもう俺たちはこの世界にいないんだよ?」
「知ってるから!そんな目で俺を見るな!ホントに知ってるからぁ!」
が、椿が憐みの表情で蓮を優しく諭した。
「そうよね。蓮は知ってるもんね。大丈夫、私はわかってるわよ」
「薫もそんな生温かい目で見るなぁ!」
「・・・・・・蓮、・・・・・・うるさい」
「ひどくない!?」
一通り、蓮を弄り終わり満足した楓たちは一転して真剣な表情を作る。
『・・・・・・』
少しの間、誰も話さず沈黙が部室を支配する。これは、楓たちにとってはとても珍しいことである。
「・・・・・・いよいよだな」
そんなとき、最初に言葉を発したのは、やはり楓だった。
「・・・・・・そうだね」
「ここまで、長いようで短かったわね」
「そうだな。実際、本格的に動き出したのって高校に入ってからじゃないか?」
「実質、半年ぐらいだね」
「一日の密度が濃すぎて三年くらいたったような気がしてたよ」
楓の言葉を皮切りに桜、薫、蓮、椿、葵の順番で話が広がっていく。
「なんでだろうな~」
『お前「楓」「楓兄さん」の所為だよ「ですよ」!』
「はっはっはっは~。ソンナバカナー」
「はぁ・・・・・・、まったく、楓はいつまで経っても変わらないよね」
「・・・・・・まぁ、それが楓だから」
「それをいったら、私たちもですけどね~」
『はっはっはっは~。ソンナバカナー』
茜の言葉に全員揃って先ほどの楓と同じ言葉を口に出し、お互いの顔を見合わせ笑いだした。
なんだかんだいいながら、楓たちは結局問題児で似た者同士なのであった。
「つーか、みんなはもう手紙置いてきたのか?」
『・・・・・・あっ』
ひとしきり笑った後、楓の言葉でようやく本題に戻ってきた桜たちだったが、どうやら全くもって忘れていたようだ。
「お前が珍しいことするから!」
「いや、話題変えたの蓮だったよね」
「うっ!・・・・・・すいませんでした」
「とりあえず、手紙置いてこようか。楓ちゃんはどうする?」
「俺はここで待ってるわ。今まで作った研究資料をまとめておく。あっちに持ってった方がいい物もあるだろうし」
「ん、わかった。じゃあ、みんな行くよ!」
「「「「「「「りょ~かい」」」」」」
「俺抜きでそれやるなよ!?」
楓が何か言っていたが、桜たちは全く気にせずに部室から出ていった。
「はぁ、・・・・・・資料まとめなきゃ」
桜たちが部室から出て行ってしばらく経ってから、楓はようやく作業を始めた。
「あ~、魔法理論の研究資料か・・・・・・。こんなのもあったなぁ。っていうか、アレが五月ぐらいのことだったから、まだ四カ月くらいしか経ってないんだよな。・・・・・・これは複製して片方置いていって正義たちに使ってもらおう。」
昔のことを思い出しながら、着々と資料をまとめていく。思い出に気を取られて作業が止まるなんてことはない。
楓は、基本一人で作業するときは早めに終わらせる主義なのだ。理由は簡単で『おもしろくない』からだ。
「ん?これは、流派関係の資料か。こうしてみると、かなりの流派考えたな、俺。これは一応持って行こう。正義たちには残さなくてもいいな。これは、あいつらには教えてないしな」
他にも、霊術関係や妖術関係、魔法陣関係の資料なども持っていくことにして他のいらない資料もまとめていた。
楓がある程度の資料をまとめ終わって休憩していると、桜たちが帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり~」
「楓、そっちは終わったの?」
「ん、椿か。見ての通りだ」
椿は、楓に言われて辺りを眺めてみるが、一応書類が整理されているが実際の進行状況は全くわからなかった。
「いや、見ての通りって全くわからないんだが」
だが、椿が何か言う前に蓮が正に椿の言いたかったことを代弁した。
「んー、あっちに持っていくものは大体決まったよ。でも、こっちにも残しておいた方がいいものもあるし、処分した方がいいものもあるって感じでそれを分けてた。まぁ、大体八割がた片付いたって感じかな」
「分けてたって楓本読んでるんじゃないの」
「今、休憩中」
「楓、休憩もいいけど早く終わらせようよ。この後の予定もあるんだしさ。時間無くなるよ?」
「はぁ~、それもそうだな。ちゃっちゃと終わらせますか!」
葵の言葉に渋々といった感じで同意し、十分ほどかけて資料の整理を終わらせた。どうやら、本当に八割はすでに終わっていたらしい。
「さて、それでは買い出しに行きますか!」
「今からかよ!?」
「楓、もう深夜2時だよ?さすがに、スーパーやホームセンターなんかは閉まってると思うんだけど」
椿の最もな指摘を受けるが、楓は桜に目配せしてニヤリと笑った。
「大丈夫だ。桜」
「うん、楓ちゃんに言われた通りに私の会社の系列のスーパーとホームセンターに、今日は24時間営業でって指示しといたよ」
「というわけだ」
「さすが、兄さんです。こういうときには準備が早いですね」
「茜・・・・・・褒めるか貶すかどちらかにしてくれ」
「でも、なんで買い物に行くんだ?サバイバルの知識は学んでるから食糧なんかはいらないだろ?」
蓮が楓に問いかけるが、その質問に答えたのは薫だった。
「別に知識や能力があるからってサバイバルをしなきゃいけないわけじゃないでしょう」
「サバイバル訓練をしたのは、野宿なんかをしなきゃいけない状況にもなるだろうと思ったからで、別に異世界に行った時に食糧や野宿のための道具なんかを持っていくことがダメなわけじゃない。むしろ、万全を期すためには持っていった方がいいだろうな」
「なるほど。確かにサバイバルしに行くわけじゃないしな」
「そういうこと。どっちかっていうと引っ越しの方が近いだろうな」
「・・・・・・それじゃあ、出発」
『おぉ~!』
そう言って、楓たちは学校近くにあるスーパーやホームセンター、服屋なんかが一緒になってる場所を目指して学校から出ていった。
「それで、何を買うんだ、楓?」
楓たちは十分ほど歩いたところにあるスーパーに来ていた。ちなみに両隣にはホームセンターと服屋があり、服屋の隣に電気屋や本屋などもある。
もちろん、桜の会社が経営している店である。時間が時間なだけに店内に客はほとんどいないが、普段はかなり混雑している店だ。
「自由で」
『は?』
蓮に聞かれた楓は即答した。だが、当然桜たちは困惑した顔をする。
「いや、自分が必要だと思った物を好きに買っていくって形にしようと思うんだ。それぞれ必要になるものは違うだろうしな」
「つまり、自分の分は自分で買えってこと?」
「ちょっと違うな。皆の分を各個人で買うってことだ」
「それだと、重複するものが結構出てきそうだけど」
「あって困るようなものでもないだろ。アイテムボックスに入れておけばいいんだし、それにもし誰かが忘れてるものがあったとしても他の誰かが買ってるかもしれないだろ」
「少し腑に落ちないところもあるけど、まぁ、大体わかったよ」
「じゃあ、それぞれ買い物を始めようか」
そういって、楓たちは別々に分かれて買い物を始めた。
「とりあえず、水は20ℓくらいあればいいか。まぁ、魔法でも出せるけど」
楓は食品コーナーのところで、真っ先に水を買った。魔法でも出すことはできるが、それはあくまでも最終手段にするつもりのようだ。
「あとは、ベットと布団に毛布、本棚にランタン、あっ、ソファにテーブルなんかも欲しいな」
いろいろ言いたいことはあるが、楓はきっと異世界で必要になるだろう物をリストアップしていく。
「ん~、あとは、薬とかかな。おっと、野宿用に釘と金槌、ノコギリなんかも買っておいた方がいいか」
・・・・・・必要になるのだ。・・・・・・きっと!
「まぁ、一応、テントとか寝袋も買っておくか」
そういいながら、楓は次々と買い物を進めていく。
そして、楓が結局買った物は以下の通りだ。
・サイドバッグ 4個
・バックパック 4個
・米 100kg
・水 20l
・調味料各種 各5個ずつ
・稲の苗 30束
・野菜の種及び苗 各5個ずつ
・調味料の種 各10個ずつ
・果物の苗 各10株ずつ
・ベット一式 1つ
・ランタン 3個
・ソファ(二人掛け用) 1個
・ソファ(三人掛け用) 1個
・テーブル 1個
・ダイニングテーブル 1個
・椅子 4個
・医薬品各種 1個
・釘(2種類) 各20箱ずつ
・大工道具(金槌、ノコギリ、メジャーなど) 2セット
・ナイフ 2本
・テント 4個
・寝袋 4つ
・折り畳み式椅子 4個
・バーベキューセット 2個
・釣竿 2本
・釣り具セット 1セット
・木炭 5箱
・虫よけスプレー 5個
・花火セット 5個
・服一式 20着
・コート(厚地と薄地) 各3着ずつ
・ソーラー式腕時計 1個
・靴 5足
・玩具一式(トランプ、チェスなど) 1つづつ
・丸太 10本
・煉瓦 20本
・粘土 20kg
・その他 多数
「どこににキャンプに行く気だよ!?」
買い物が終わり、楓の買った物を知った蓮の第一声がこれである。
「別に普通だろ?」
「どこがだよ!?花火セットとか絶対にいらないだろう!それに丸太って、絶対にキャンプファイヤーするつもりだよな!?」
蓮が突っ込んだ後、桜たちも大きく頷いた。
「ほら、桜たちも同意してるだろうが!」
「確かに花火は大事だね」
「・・・・・・ん、超重要」
「あれっ!?俺に同意してくれてるんじゃなかったの!?」
桜と雫の発言で、蓮は桜たちが自分に同意して頷いてくれたのではないと、ようやく分かった。
ちなみに花火セットは九人中八人、つまり蓮以外の全員が買っていた。
「んじゃあ、そろそろ時間もないし学校に戻るぞ」
「なんだか釈然としないんだが!」
そういいながらも、楓の後についていく蓮なのであった。
学校に帰ってきた楓たちは、屋上へと来ていた。
時刻は午前三時半。東の空が明るくなってきており、そろそろ日が昇るというところだ。そして反対側では月の光が薄くなってきている。
「やばいやばい!早く魔法陣描かないと!」
そういって、屋上に教室から持ってきたチョークと黒板用の定規とコンパスで魔法陣を描いていく。
九人が入る魔法陣なのでそれなりの大きさになり、描くのに時間がかかってしまうため桜たちも共同で魔法陣を描いている。
「つーか、もっと早く準備しておけよ!」
蓮がそんなことを楓に言いながらも、その手は動き続けている。
「蓮、いまさら言ってもしょうがないことは置いといて、魔法陣描くのに集中しなよ」
椿の言うことはもっともで、今回か楓が考えた魔法陣はとてつもなく精密な魔法陣で百分の一単位のズレで魔法陣が発動しなくなってしまうのだ。
「あの、桜姉さん」
「なぁに?茜ちゃん」
「なんで楓兄さんはそんなに焦ってるんですか?まだ、先生方が出勤するまで時間がありますよ?」
こんな会話をしているが、もちろん二人も作業を止めていない。
「ああ、そういえば言ってなかったっけ。魔法陣を発動するとき、魔法陣が光るんだが夜だと目立つし、昼間だと生徒や先生方がいる。だから、日が昇った時に合わせて発動しようと思ったんだよ。そうすれば、極力目立たないしね」
「なるほど。確かに夜にやったら目立ちますしね」
納得した茜は、また作業に没頭する。
それから、楓たちは作業を進めて十分ほどで魔法陣を描き上げた。まだ、朝日が昇っていないことから、何とか間に合ったいったところだろう。
「そういえば、楓」
「ん?なんだ?」
魔法陣が完成し、全員が一休みしているとき、不意に凪が楓に声をかけた。
「この魔法陣って誰が発動するの?」
「ん~、誰でもいいんじゃねぇの?魔法陣に込める異能はみんな持ってるんだし。まぁ、全員で込めるってのはやめた方がいいと思うけど」
「へぇ、なんで?」
二人の会話を聞いていた葵が、つい、といった感じで聞いた。よく見ると、桜たちも二人の話に聞き入っている。
「普通の魔法陣だったら、複数人で魔力や異能力を込めても大丈夫だと思うけど、これは特殊な魔法陣だからな」
突然始まった楓の魔法陣講座に、桜たちは真剣な表情で聞き入る。
「この魔法陣は八つの魔法陣が重なってできている。異能力ってのは人それぞれ波長が違う。だから、複数人でこの魔法陣を発動させると、別々の魔法陣に別々の人の力が加わって、運が悪ければ、自分が発動させた魔法陣しか発動しなくなる」
「ということは?」
「最悪、ここに取り残されえる者やそれぞれが別の世界に転移されることも考えられる」
「なるほど~」
楓の魔法陣講座を聞いた桜たちは、は~っと息を吐いた。
「まっ、今回は俺がやるよ。作ったのは俺だしな」
楓は腰を上げて、大きく伸びをした。それを見て桜たちも立ち上がる。
「さて、もう日も昇ってきたことだし、始めますか!」
『おぉ――――――!』
「お前らぁ、異世界に行きたいかぁ――!?」
『おぉ――――!!』
「忘れ物は無いかぁ―――!」
『おぉ―――――!!』
「武器は持ったかぁ――――!!」
『おぉ――――――!!』
「宿題やったか!?夜更かしすんなよ!?歯ぁ磨いたか!?」
『おぉ―――――――!!』
「良いお年を!」
『なんでやねん!!!!』
深夜を過ぎ、おかしなテンションに入っている楓たちだった。
「まぁまぁ、・・・・・・では改めて、異世界に行くぞぉおおお――――――!!」
『おぉおおおお――――――――――!!!』
そういって、楓たちは魔法陣の上に立つ。
「んで、本当に忘れ物は無いんだな?」
「大丈夫だよ、楓ちゃん。それに、何も持ってなくても大丈夫なように訓練もしたんだし」
「それもそうだな。じゃあ、始めるか」
そういって、楓は六つの魔法陣に六つの力を均等に流し込む。間に挟んでいる空白の魔法陣に力が流れないように注意しながら、数分かけて力を流し込んだ。
そこに、朝日が昇り光が楓たちを包む。
「第一層神術陣に神力注入開始―――完了」
「空間連結術式発動―――完了、空間固定術式発動―――完了」
「第二層仙術陣に仙力注入開始―――完了。神術陣との反発はなし」
「時間連動術式発動―――完了、時間固定術式発動―――完了」
ここまでは順調だ。異能といってもひとつとは限らない。魔術や霊術といった様々な種類があるのだ。
楓たちはこれからまだ増えるかもしれないが、今のところ六種類ほどの異能を使える。そのほかに魔法という魔術とは違った魔力の使用法を編み出した。
今回、楓たちが異世界に行くために作り上げた異能術式陣はこの魔法を使った魔法陣を基礎に使っている。
「全員、魔法陣に乗れ」
「「「「「「「「りょーかい」」」」」」」」
ここから本番。全員が一気に仕上げようと気を引き締めた。
「第三層霊術陣に霊力注入開始―――完了」
「各地点の要石の座標を固定―――完了」
「第四層呪術陣に呪力注入開始―――完了」
「要石との連動を確認―――完了」
「第五層妖術陣に妖力注入開始―――完了」
「魔法陣の増幅処理を開始―――規定値にまで増幅を確認」
「第六層魔法陣に魔力注入開始―――完了。全異能術式陣は反発せずに正常に作動しているよ」
「よし、みんな準備はいいな?」
楓はそういいながら、兄弟たちを見渡す。すでにみんな楓のほうを向いており力強く頷いてくれた。そこで楓は最後の術式を発動させる。
「俺のターン!ドローッ!罠カードオープン!転移術式起動!このカードが発動した時に魔法陣の上にいたものを異世界に転移させる!異世界転移発動っ!」
「「「「「「「「最後の最後でネタに走るなぁああああ!!」」」」」」」」
こうして楓たちは魔法陣の光と朝日に包まれながら異世界に転移した。
楓「遂に俺たちが異世界に!」
桜「しかしそこで待ってたのは!?」
壮「私だ!」
蓮「お前かよ!?」
薫「というより、この後書き続くのね」
壮「作者が気に入っちゃったからね!」
感想・アドバイスなどお待ちしております。




