テレビ
「なぁ、昨日、学校終わったら何やってたんだ?」
1限目の休み時間、前の席の男子が話かけてきた。ここのところ、毎日のように私に話かけてくる。休み時間は、本を読みたいんだが。
「…家に帰ってテレビ観てた。」
無視するのもどうかと思うので、受け答えをしてしまっている。流されやすいこの性格は日本人特有のものだと、昨日のテレビでも言っていた。
「奇遇だなぁ!!俺も、テレビ観てたんだよ!!」
意味が分からないガッツポーズと、輝く目がこちらに寄ってきた。
「そりゃ、家に帰ったら、テレビくらい観るでしょうよ。テレビの普及率は90%超えてるのよ。」
「そ、そうだけどさ…。じゃあ、何のテレビ観てたんだよ。」
「密着精神学24時観てた。」
そう、昨日は私の楽しみにしている精神学系の番組が放送されていた。医療には興味はないが、人の精神を支配している科学には興味がある。
「俺もそれ観てたよ!!女性は同調されると、異性に対して好感が得られるって言ってたよな!!」
「確かに言ってたけど、『女性は』って、とこが気になった。だって、男でも、自分の好きな話題を振ってくれる人に、好感持つのが普通じゃない?今まで、そんなの感じたことないけど。」
会話といえば、話しかけるタイミングを見極める、というコーナーを、他番組で放送していた。会話は二人で行うもの。相手の目の前の男にもその番組を観せてやりたい。
というか、
「悪いんだけど、私、休み時間は本を読みたいんだけど。」
何だか悪い気もしたが、私の本心を彼に伝えないのもそれはそれで失礼だろう。
目を見開き、悲しそうな顔でごめんと、つぶやいた彼は前に向いて机に突っ伏してしまった。折れ曲がった彼の背中は小さく、弱々しい。何だか、私が悪い事を言ってしまったような気持ちにさせる。
家に帰った後も、彼の事を考えていた。
好きだったテレビ鑑賞。最近は彼に邪魔をされている。