22年間持っている男
その男は持っている。
かなり持っている。
男の名は 三枝 雄一、22歳。
身長は183cm、痩せ型で色白・・・モデル体系で足が長い。
髪は少し長く、クセがあり、オールバック。
キリリとした眉と澄んだ大きな瞳、スゥーっと通った鼻筋に高い鼻。
薄い唇に強い意志を感じさせる口元。
そして尖った顎。
一昔前の正統派美男子、そういう形容が当てはまる。
雄一はチヤホヤされる事に慣れている。
あまりに整いすぎた顔は現代っ子には馴染みが無い。
美男子をそのまま素直に受け入れられるのは小学生まで。
事実、彼は小学校5年生の2月14日、バレンタインデーに10個のチョコをもらう、
という快挙を成し遂げた。
翌年にはライバル争いに勝ち残った女子だけが彼にチョコを手渡した。
しかし、基本引っ込み思案の彼には両想いが限界であった。
無理もない、小学生なのだから。
中高生ともなると警戒心が芽生え、美男子=モテるの図式は無い。
むしろ、おもしろい、ちょっとワルいぐらいがちょうどいい。
ただ、既婚女性や、オバサマ世代、老女などは彼を素直に男前、美男子と称した。
そういった女性陣はすぐに彼をもてはやす。
それと小学校時代の快挙により、彼はチヤホヤに慣れてしまったのだ。
自分が美男子であると自覚を持ってしまうと、中々それは離れない。
三枚目を演じる事も難しくなった。
彼はその仕草一つとっても二枚目を演じる事しかできなかった。
常に誰かの視線を意識した振る舞いは、さらに彼自身を高め、
周りとの距離を開けるに至った。
そして雄一はその外見ために、女性からのアプローチが少なかった。
彼には絶対女がいる、そう諦める女性が大半。
いないといってもいるように見える。
モテないといっても、謙遜に聞こえる。
女性を紹介して欲しいと言っても、逆に頼まれる・・・。
彼にも友人がいた。
そして友人たちは彼の存在価値を見出していた。
街を雄一を含め4人で歩くとする。
外見評価を点数にすると、
雄一 10点、A 6点 B4点 C3点 としよう。
雄一がいるといないでは平均点が1点以上変わる。
これをコンパなどの席に置き換えると、
全て雄一が持っていくのではないか?と考えられるが、
実は違う。
雄一はあくまで、エサ。
そしてトークでさらっていくのが残りの3人だ。
その外見のために、同年代の女性が近寄らず、
女性に慣れ親しむ事も少ない。
本来の性格にも問題があるかもしれないが、
三枚目にも成りきれない。
そして周りは場数を踏み、経験し成長していく。
負の連鎖がそこに成り立つ。
18歳の頃、雄一は決心をした。
とりあえず自らが動かねば・・・。
彼は告白を決意した。
雄一は面食いだった。
当時同じクラスのEさん。
クラスはおろか、学校のマドンナ的存在の彼女は、
高校2年から上級生と付き合っていた。
高校3年になると、その相手の男性は大学に進学し、
不仲だの離れただの噂が立つようになった。
幾人もの男性が心の中で名乗りを挙げていたに違いない。
だが、傷つきやすい自身を守るように
雄一は彼女を避けた。
別に嫌いな所は無い。
むしろ顔や性格は好みのタイプだ。
しかし、自分が一番可愛かった。
後に彼は知る、20歳の成人式。
お酒の席でのEさんの告白。
高校の頃、実は雄一の事が好きだった時期があった事を・・・。
しかし、そんな事は後の祭りだ。
当時の雄一は友人から得た情報により C子に告白する事を決意した。
C子は雄一がモロ好みだと言うらしい。
雄一はC子は好みではない。
彼の採点によると5.5点になる。
今は彼女を作るという目的達成と、恋愛経験の拡充を図った雄一だった。
やはり自分が可愛いのだろう、雄一は告白する。
「付き合って欲しい」
これが雄一がC子に与えた唯一の言葉だった。
好きとは言えない雄一の素直さがあった。
悲しいかな、女の勘は鋭い。
顔が好みで雄一に惚れた女性の好きという感情は、底が悲しい程浅かった。
付き合い始めがピーク、後は下り坂。
テレビの中の俳優を見るように、熱い眼差しを送っていたC子も、
どんどん出てくる雄一の人間味まで愛する事ができなかった。
そうして下っていった先で、C子は二人の関係を客観的に見てしまう。
致命的であったのは、当初誇らしげにデートをし、雄一を見せ回ったC子も、周囲の声が耳に入ったこと。
「なんであんな子が、あんなカッコイイ彼氏連れてるの?」
彼が私を好きと言ってくれたから・・・。
その一つの理由が雄一から得られなかった。
そして雄一もサラっとそれが言えなかった。
二人は別れる事となる。
雄一は経験する。
恋愛には言葉が必要だ。
しかし、相変わらず彼は嘘が言えなかった。
大学進学と同時に彼は決意する。
人生をここで変える・・・と。
敢えて彼は地方の大学へと進学した。
一人暮らし、友人もいない状況。
まずはサークルに入ろうと画策する。
引っ込み思案で決して愛想がよくない彼が、無口でそこにいると、
周囲はやはり彼を遠ざける。
単独で行動するしかなかった。
できもしないテニスサークルの新入生歓迎コンパへ足を運んだ。
サークルの先輩たちは暖かかった。
彼を男前と持ち上げながらも後輩としてイジル事を怠らず、彼の本性を見抜いていった。
雄一の心は裸になっていった。
女性の先輩は彼をカワイイと称した。
雄一は自分の居場所を見つけた。
ここで一から自分を作り直す、そう決めた雄一だった。
しかし、彼の外見はその足を引っ張る。
サークルの先輩の彼女が雄一にちょっかいを掛けるようになった。
このモーションを上手くかわす能力は雄一には無い。
雄一は見事に二股の一つへと成り下がった。
内心雄一は焦っていた、二つの事に。
先輩にバレる=居場所を失う
ここで女性を知ることで、自分を変える事。
天秤に掛けられた二つの事は、どちらも捨て難い大切な事だった。
優柔不断なまま、先輩に二股がバレてしまう。
彼は両方を失う事となる。
ここから孤独が始まる。
大学へ通いはするものの、友人もいない。
例の一件の噂だけが、自分に付いてくる。
「女ったらし・・・先輩の女に手を出した」
彼はその女性から何も得ていない。
傷付けられたのはむしろ自分の方だと説明して回りたかった。
同級生は彼に冷ややかな視線を送る。
彼の外見はそれを受け入れるように、そして周囲の人間をさらに拒絶する。
そんな生活が続いて3年目に入ろうとしている。
彼は持っている・・・22年間ずーっと変わらず持っている。
ええっと、別に僻んでいる訳ではありませんが。
男前を題材にしたかっただけです。
結果として僻みになってしまいましたが。
よろしければ、感想、ダメ出しなどいただければ幸いです。