あの時からひと月後(前)
あの最悪の婚約から1か月たったある日。
あの日邸に帰ってからイリスリアは寝込み、少し良くなると思い出し泣きまた寝込むという事を繰り返していた。
侍女達も「お嬢様お可哀想に・・・・・・」と涙を浮かべ、父親である公爵は憤り母親のシューメイは泣き濡れる娘に寄り添っていた。歳の離れた兄ウェルツは他国に留学中で手紙を受取りすぐ帰国しようとしたが、侍従に止められやたら分厚い手紙を送るだけに留まっていた。
この間も婚約したにも関わらずライノールかは手紙の一つもない。その代わり王妃からシューメイに手紙が何通も届き、その中にルクレからイリスリアに宛てた手紙も入っていた。
そしてイリスリアの体調も良くなったという事で王妃が2人をお茶に呼び、久々の顔合わせとなった。もちろんその場にルクレも同席していた。
「やはりのう・・・・・・」
王妃の自室で香り高い紅茶を一口飲みため息混じりにこぼされた言葉は、予測していたという思いが含まれていた。
「イリスリアとの婚約は嫌がらせであろう。王族の婚約を軽くみておる」
自分の名前が出てビクッと肩を震わせるイリスリアにシューメイが背中を擦る。
「大丈夫じゃ。わらわに考えがある。ルクレ、イリスリア、必ず2人の成婚を約束しよう。但し、そなたらに成人するまで我慢を強いる事になる。覚悟はできるかえ?」
ティーカップを置いた王妃は扇を開き、ルクレとイリスリアを射すくめるような視線を向ける。張り詰めた空気にぐっと喉が締まるが負けないように姿勢を正す。
「母上!イリスリアと結婚できるなら成人までの8年、耐えてみせます!」
「わ・・・・・・私もルクレ様と一緒にいられるようになるなら我慢します!」
「うむ」
決意に満ちた2人の顔を見て満足そうに頷く王妃は1枚の紙を見せる。それは玉璽が捺されたものだった。
「これは先日陛下に《《お願い》》して賜ったものじゃ。とても良い事が書いてあるであろう」
『第一王子ライノールの瑕疵により婚約解消または婚約破棄の場合速やかに第二王子ルクレとイリスリアの婚約を成し同時にルクレの立太子をする』




