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発進準備とオレ

 GRIFFON2100。

 メタルブラックの巨大な車体を前に、オレはぐっとつばを飲み込む。


「行くぞ」


 アドルフが手を差し出す。

 オレはそれにすがらずに、座席に手をかけてよじ登った。

 依頼を受けることを了承して、それからこの馬鹿みたいにデカイ黒いバイクを持ちだしてきた時にアドルフはオレに三つの選択肢を提案した。


 一つ目はこれを使わないで目的地まで行く。

 ただしこのバイク以上に早く目的地に着く手段は無い。そして、他の手段を用意すれば確実に十分以上のロスが生じる。


 二つ目、これを使うけれど速度は調節する。

 目的地に着く時間は遅れるが、後部座席にオレが単独で乗っても構わない。むしろこの場合は、オレが一人で座席に座っていても振り落とされ無い速度で走るかどうか、という質問だった。風はシールド展開で防げても加速度という目に見えない力までは打ち消せない。その見えない力が問題だった。

 通常運転でギアを入れれば、その瞬間オレはシートから飛び出して路面にたたきつけられるだろうとアドルフは淡々と説明してくれた。きっとその通りだとオレも思う。

 落下済みナカバの潰れたトマト風味の完成だ。ぞっとしねぇよ。

 幾らアドルフが凄いつっても、後部座席に座ってるオレが落ちないように、或いは落ちたら路面と熱烈なハグを交わす前にキャッチ・アンド・リリースしつつ、絶対にその辺のコニシキより重たいバイクを運転するとか、それは傭兵じゃ無くて曲芸のカテゴリーだろ。つまり、平たく言えば無理。

 ならばオレが後ろに乗るなら必然的に振り落とさないように運転するしかない訳で、バイクに感情があるなら「こんなんじゃ実力が出せないよ、○ノ」とか言い出すんだろう。モ○ラド。


 でも二つ目の話を聞いた時にオレはもう結論を出していた。 


「全力で」

「……その場合後ろに乗せてやることはできないぞ」

「全力で。急いでますから」

「なら前のシートに乗れ。俺が後ろから抱えて落ちないようにする」


 ……ま、それしかないだろ。

 オレが黙って頷くと、アドルフがちょっと困った顔をした。


「良いのか? 全力じゃ無くてもそれなりに早いぞ」

「何でそこで気遣ってますオーラが出てんのさ」

「いや、そりゃ……」


 言い淀んで、アドルフは迷うように視線をふらふらさせる。

 意外と珍しい物見た気がするけどちっとも嬉しく無い。当たり前か。


「はっきり言うが、お前、男が苦手だろ」

「……」

「どうも何か可笑しいとは思ってたんだが、そうだよな。陛下には面白いぐらい懐きまくってたから自信無かったんだが、今日のことを見ていて分かった。本当は俺とこの距離に居るのも駄目なんだろ」


 アドルフの言葉に、オレは黙って眼を閉じて、三数える。

 良し。


「全力で」

「いや、あのな……依頼主のケアっていうのは結構重要なんだ。だから」

「今はオレのケアとか言ってる場合じゃないから。てゆうか、お前はさ、オレからの依頼を同情とか優しさで受けて、同情とか哀れみで実行すんの?」

「……」

「それなら、それは止めてくれ。オレは真剣だし、こう言う時に優先するべきものは分かってるつもりだから」


 それは早さだ。

 一秒が惜しい。


全力ベストで」

「……了解、マスター」


 オレの言葉にアドルフは何を悟ったのかそれ以上言わずに、さっさとバイクにまたがる。

 そしてオレの方に手を差し伸べてきた。


「行くぞ」




 セーフガードを着けて、上からぐるっとマフラーを巻く。

 端っこは当然走行の邪魔にならないように輪っかの中にひっかけて抑えておく。

 それからリュックは腹の側に抱える。

 バイクの音だけ聞いて、余計なことは考えない。

 そう思ってるのに、背後に硬い別の体の感覚がした途端にヒュッと喉が鳴った。

 息、上げちゃだめだ。過呼吸になってどうする。落ちついて、吐いて、吐かなくちゃ。吐いて。


「……抑えるぞ」


 アドルフがちょっと間をおいてから、オレの腹に腕をまわしてぐいっと引きこむ。

 強く押さえつけられることで逆にパニックが少し収まった。事務的だな、って分かるだけの頭が残ってたのが良かったんだろう。

 おーけい。オレは冷静になれるはずだ。


「あ、あの……あの、電池」

「あ?」

「電池、ボックスの電池。電池が」

「……ボックス型電池か? 欲しいのか?」


 ああもう、ちゃんと言語しゃべれ。とにかく頷くオレに、アドルフは「ちょっと待ってろ」とボタンを操作した。プシューと空気が抜けるような音がして、バイクの左側についた物体が開く。

 あ、武器入れだったんだ。


「使用済み、良いから」

「あ? あー……逆にそういうのが無い気がするんだが。何で使用済み……ほら、これで良いか」


 差し出して、アドルフは何かを理解したのかオレの手を取って、開かせて、それからしっかり電池を掌の上に置いて、オレが握ったのを確かめてから手を離した。

 オレは視線を手元に落として、そこに見慣れた四角い電池があるのを確認する。白銀色の、小指ほどの長さの直方体にラベルが巻いてある奴だ。

 オレはラベルの端に爪をひっかけてみて、はがせそうだなと思う。


「ありがと」

「おう。……じゃ、しっかり構えておけ。発車するぞ」

「分かった」


 地鳴りみたいだったエンジンの音が急に高さが変わる。


「行くぞ」

「行こう」



 行こう。




 予想していたよりも滑らかに、バイクは走り出した。



 

【作者後記】

バイクって良いですよね。

スズキのバイクは名前もカッコイイ。カタナとか、ハヤブサとか、イナズマとか。

ホンダのCBRとかVFRも好きです。ワルキューレルーンも良い。


……もたこんぽ、も良いよね?



ご来訪の皆様、ありがとうございます。

既に物語は終盤の、佳境へと入りました。

一気にラストまで行こうと足掻きつつやって行こうと思います。


お付き合い頂いた貴方へ、しめの言葉に感謝をこめて。


作者拝

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