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構え要求とオレ

 男だと思ってて悪かった。


 って……何言ってんだこいつ?

 良く分からんかったんで、続きを聞こうとオレは待ってみる。


「……」

「……」

「……」

「……」


 んー?


「……もしかしてさっきので終わり?」

「へ?」

「あっそう。ふーん」


 終わりですか。


「うん。まぁ気にするな。人生そう言う事もあるさ。ぼーいずびーあんちょびー。じゃ、さらばだ」

「いや、待てって」


 手を上げて立ち去ろうとしたら、首根っこ掴まれて引っ張り戻されました。


「ぐぇぇ」

「うわ、ごめ」

「げほっ……何だよ。まだ終わりじゃねぇのかよ。ならさっさと言えよ」

「いや、その、怒ってないのか?」

「あー、さっきのスライディング土下座だっけ? 他人事なら大笑いするけどなー。別に怒るほどの事じゃねぇし。ま、アンタが馬鹿なのはよーく分かってるから。じゃ、さらばだ」

「だから待てって」

「ぎゃぼ」


 手を上げて立ち去ろうとした瞬間にまた襟首ひっつかまれた。

 てか一瞬、今オレに某ピアニストが降臨してなかったか? 気のせい?


「何だよさっきからしつこいな」

「いや、だから……本当に怒ってないのか?」

「アンタが本題を切り出さずにオレの通行の邪魔してる事についちゃ、段々プチむかつき始めてますが何か」

「……お前変な奴だな」


 今のテメェだけにゃ言われたかねーですよ。

 てか、こいつ本当に阿呆だなぁ。

 オレはハーっと溜息をついて手を下ろす。


「あーのさぁ。変な奴だなーとか言ってる前にアンタもうちょっと考えて行動しろよな」

「いや、まぁ……あの謝罪方法は……」

「そこじゃねぇって。面倒な男だなぁ……」

「面倒な男、って……」


 何やらショックを受けてるっぽいチョコ男を見上げて、オレは肩を竦める。


「アンタが何気にしてるんだか、何言われたんだか知らんけど、オレはアンタに頭下げさせる覚えはねぇよ」


 溜息を吐いて、オレはちょっとアドルフから距離をとる。

 この距離はやっぱりちょっと辛いな……でも、どんなに滑稽なポーズだろうが一つの集団の指揮官であるこいつに、あの場でオレに頭を下げた格好をさせる訳にはいかないしさ。

 しょうがない。


「客商売にしたって、オレはアンタらに金払う立場じゃないし、アンタらの仕事にとっちゃイレギュラーもいいとこでしょ?」

「……ま、雇い主は陛下だけどな」

「そういうオレにまで気ぃ使って、そっちが悪いわけでもないのに頭下げるとかコビ売らんで良いよ」

「参ったな……」


 オレの言葉にアドルフが「そこまでうがった考えじゃなかったんだが」と苦笑いする。


「失態を犯したら謝罪するのは当然じゃないか?」

「失態ならね。でも、そっちの失態って言うのは仕事の話でしょう? それともデュランにオレのメンタル面までのケアをしろって言われてるとか?」

「そうは言われてないけどな」


 ふーん、オレがデュランからの依頼に含まれてる要素の一つだってことは否定しないのか。

 やっぱりね、と思いつつオレは「とにかく、見た目の件はどうでも良いんで謝罪不要です」と告げる。


 くどいようだが、別にオレ、怒っちゃいないのだ……てか、怒る理由がそもそも無いしさ。

 だって、オレはわざわざ(・・・・)男っぽく思われるように動いてるんだし。


「どうでも良い、って……」

「どうでも良くないなら、間違われた時点で自分で訂正してますよ……プライドの問題ぐらい、自分で片付けるし。譲ったようにみせかけて、相手に頭下げさせるような卑怯な真似は嫌いですから」

「……」


 や、何でそこで溜息吐くんですか?


「お前……本当に、本気で男と間違えられても気にしてないんだな」

「さっきからそう言ってんじゃん……アンタの記憶は再生後自動的に消滅する、とかいう機能でもついてんのか」

「いや、そう言う訳じゃないけどよ……緊張して損したつーか」

「何で緊張するのかイミフ」

「……」


 何? さっきのスライディング土下座に勇気が必要だったって事?

 お前、勇気の無駄遣いしたな。うん。

 そんなことに勇気を浪費してる暇があったら、奉仕活動に励むと良いと思うよ。

 「中央セントラルの未来に御奉仕するにゃん」とか。


「じゃ、もうオレ行っていい?」

「……今更だけど、お前が連れ込んだんだよな?」

「本当に今更ですね。じゃっ」


 くるっとターンして出ようとした瞬間、オレの後ろでカーテンがふわっと動いて、背後から二本の腕が生えた。

 それは迷わずオレを捉え、


「?!」


 更衣室の外に、引きずりだされました。

 勢い良すぎたせいですっ飛んだオレの後頭部がゴン、と何かに当たる。ぐえ。

 文句を言おうとするより先に、のっしとオレの肩にかかる重み。

 振り返るより先に感じた匂いに、ソレの正体が判明する。


「……」

「……」

「……」

「……重い」

「そうか」


 ふっ、そうか……じゃねぇですよ。

 オレの「ほっそりした華奢な」……うん、ゴメン嘘ついた。オレの大して広くも無い、骨っぽい肩にずしっとかぶさってる無駄にでかくて、無駄にお美しくていらっしゃる腕を半眼で睨んでオレは溜息を吐く。

 何ってあれですよ。

 この流れ的にどう考えてもあれですよ。

 てか、袖がワイシャツっぽい奴になってるってことはもう購入済みの着替え済みなんですね。

 そうですか、良かったですね。

 オレはまだ買ってすらいませんよ。


 てかさぁ、アドルフ。

 何かその同情してるみたいな目でオレを頭の上から見下ろすのは止めてください。

 オレだって不本意なんですから。

 や、何のかんの言って大して体重掛けないように気遣われてるらしいから、重さでその場にベチッとかプチ潰れたりする心配は無いんですけどね。

 ただ、暑苦しい。

 ベシベシと腕を叩いてみたけど、まぁそんなことを気にして離れるような性格してませんよね?

 はいはい、分かってますよ。

 チッ、面倒な奴め。

 さびしんぼうか貴様は。

 構わないと死ぬんですか? じゃあ是非死んでください。

 某バニラっぽく「振り向いたら死ぬ」フラグが立ってる気がするので、ひたすら肩の付け根に乗っかってる何か頭っぽい物を見ないようにしながら、オレは無言で後ろにくっついてる「ソレ」をゲシゲシとかかとで蹴りあげる。

 落ちろー、落ちろー、落ーちーろー!


「……」


 ぜいっ、ぜいっ、ぜひゅー。


「……あのー、陛下? そろそろ離してあげたほうが……彼女が死にそうですけど」

「楽しそうだな」

「は?」


 アドルフ、今のお前の反応は正しい。

 そうだよなー、そういう反応になるよなー。うんうん。

 そんな風に心底同意してオレがふかーく頷いていると、何が不満だったのか乗っかってる腕にぐいっとさらに引き寄せられました。


「ぐぇ……てめぇ、どういうつもりだ」

「八つ当たりだ」

「八つ当たりかよっ!」

「俺が居ない間に面白い遊びをしていたようだな」


 うにょわー!!


「耳元で喋るんじゃねぇっ!」


 もう限界だー! と手を振りまわして奴の頭を力ずくでぐいっと押しやったら、アドルフが「うわ、勇気あるな」と何故か青ざめた。

 いやだって、あのえろボイス耳元で流されたら誰だってこうやって原因を引っぺがすと思いますよ?

 生命の危機だし。

 人間の尊厳の危機だし。

 さっきのジャンピング土下座で尊厳も人生も全部、場外ホームランの勢いで投げ捨てたアドルフには関係ないかも知れんけど。

 ちなみに引っぺがされた物体Aこと、全ての魔族の王にして魔界の支配者、重度のコーヒー中毒者で永遠の二十四歳年齢詐称疑惑まっただ中ことディアヴォロス・デュラン様は、ただいま何処となく憮然とした微笑みを浮かべてオレ達の方をご覧になってあらせられございますです。

 てか、さっきの登場シーンってまるっきりホラーの定番じゃなかった?


「俺が居ない間に面白そうなことを……」

「あー、はいはい。煩い煩い」


 ベシベシとまだ握りしめてたせいでちょっとしわがついちゃってるスパッツで奴のことを叩いたら、何か辺りで息をのむ音がした。

 だから、何でその反応なんですか。

 というか、さ。


 オレはじーっとこっちを見てるデュランを見上げる。

 うん、見おぼえがあります。あの目。


『おねえちゃんばっかりずるい』


 むかーしむかし、良く弟が構って欲しい時とか、拗ねた時に見せてた目だ。

 あの頃はオレよりちっちゃかったのに……。

 古き良き時代を思い出して溜息をついたら、デュランが怪訝そうに首を傾げた。


 お前、今本当の五歳児と比較されてるからな。分かってる?


「別に遊んでないんです。誠意を持ってのお話し合いですよ……こいつが人生を暴投してたから」

「え、俺そういう目で見られてたんだ……」

「成程」

「陛下もそこで納得しちゃうんですかっ?」

「?」

「いや……良いっすけどね」

「あ、そうだアポロ」

「アドルフ。何だよ」

「さっき、サンクス」

「へ? あ、あぁ……あいつか」


 奇想天外な謝罪方法っぽい物を見せられたお陰で言いそびれてましたが、ちゃんと感謝はしてますよ。

 何と言うか、あれはもう理屈抜きでムリなんで……。


「ナカバ、買わないのか?」

「はいはい、買いますよ。買います。自腹切ります」

「切るならば中身がはみ出さない程度にしておけよ」

「表現怖っ!?」


 はみ出すほど中身入ってませんけどね。

 今時珍しいお財布を取り出しつつ、オレはレジに向かう。

 流石セントラルのお店。現金オッケーでした。


「ちょっと、一発履いて来るー」

「お前女ならそういうこと大声で言うな!」

「うっさいなー、チョコの癖に。何? 公衆の面前でオレに「下着」って言わせたいの?」

「ばっ……くっそ、信じらんねぇ何だこのガキ……」

「ナカバ。アドルフで遊んでないで着替えて来るなら早く行って来い」

「はーい」


 ちぇーと呟いたらアドルフの顔が引きつってた。

 ま、八つ当たりさせて貰ってて悪いなーとは思うんだけど。お疲れさんと言う気持ちを込めて、寸止めパンチを奴の腹に打ち込んでおいて、オレはさくっと着替える為にトイレに向かった。


 で、


「装着完了であります」

「御苦労」

「……なんだこのノリ」


 お前はノリ悪いなぁ。

 敬礼ポーズの手を下ろして、オレはとりあえずデュランの横に寄ってく。よし、この位置だ。


「で、この後はどうするんですか陛下」


 何か投げやりな感じのアドルフの声に、デュランがわざとらしく片眉を上げる。


「おや、もう隠れないのか?」

「隠れるって何?」

「……一応俺ら護衛なんですけどね」


 はー、と溜息を吐くアドルフ。


「一応邪魔にならないように護衛しようとしてたつもりなんですが……」

「ですが?」

「陛下が面白半分に俺らを撒くんで止めました」

「つい、な」


 つい、じゃねぇよ。護衛引っぺがしてどうすんだよ……ってお前はそういう奴だったよな。

 きらきらした笑顔で「すまんな。ああされると悪戯心が」などとまったく誠意のこもって無い謝罪をしているデュランに、アドルフが頭を抱えている。


「いや、素人に撒かれるっていう俺らが悪いんですけどね……陛下、勘弁して下さい」

「ふふ……」

「本当に勘弁して下さい……」

「良い気晴らしになっただろう?」


 お前の気晴らしですね。良く分かります。

 オレに憂さ晴らしされ、魔王に気晴らしのネタにされ、もしかしてDDDってものすごーく可哀そうな人達の集団なんじゃなかろうか?

 しかもお客だから文句が言えないというジレンマ。

 デュランもまた尾行を撒くとか、向こうが文句を言いづらいようなところをピンポイントで突いてるし。

 そりゃ、仮にも世界有数の傭兵部隊の人が一人プラス荷物オレに撒かれちゃダメでしょう。

 護衛頼んでおいて、ついてきたら撒くっていうデュランもどうかと思うけど。

 後でいたいけな傭兵さん達を弄んだ詫びにってことで、慰謝料でも足しておくんだろうか。

 ちっ、これだからブルジョワは……金で解決できると思ってんのか、チッ。貧乏人の僻みで呪い殺されろ。


 デュランを睨み上げたら、不思議そうな顔で首を傾げられた。


「空腹なのか?」

「ちげぇよ」

「そうか、では行こうか」



 いや、今の言葉のつなぎの意味が分かりません。





【作者後記】

ホラー映画が苦手です。

絶叫マシンも駄目です。むしろブランコのレベルでも嫌です。

お化け屋敷は夏祭りの日に近所の公民館でやってるレベルでも十分すぎると思います。


世の中怖いことがいっぱいですね、とにこやかにほほ笑みつつ今晩は、尋でございます。

初めましての方、いきなりこの文字量で申し訳ない。

また来たよの方、たまにはこんな日もある五千文字弱。

本当は二つに分ける予定だったとか、そんな話は二人だけの秘密にして下さい。



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