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伝統謝罪とオレ

1.正座する

2.その場で斜め前方上空へジャンプ

3.姿勢を崩さず前方空中一回転

4.姿勢を崩さないまま着地

5.相手の足元に滑り込みつつ一礼

 先程まで某変態(イケメン)に絡まれてたオレですが、今別のヤローから羞恥プレイを現在進行形でされてます。

 只今絶賛針のむしろ中。

 何コレ? デュランの呪い?

 物っっ凄く他人のふりして逃げたいんですけど。


 オレは高々とジャンプした挙句足元に滑り込んできたアドルフを虚ろな目で眺める。


 うん、てか、逃げようとしたんだ、実際。

 ただ失敗して微妙に逃げ遅れたんだけどさ。

 そのお陰でオレは現在「お前、悪の枢軸かよ」ってな目でお店の人やお客さんに見られているという、何かの拷問っぽいピンチ的状況に置かれている。

 ここは一つ期待に応えて、目の前の床に這いつくばってるバカ男の、中身までピンクであろう頭を踵でハゲるまでグリグリと踏んづけるべきなんだろうか。


 かなり魅力的なアイディアっぽいこの考えはオレの中で圧倒的多数を持って賛成可決されそうだった。が、しかし、じいちゃんからジパング人の心意気、すなわち「ゲイシャ・ハラキリ・サムライ・タカヨージ」を教えられたトマトナデシコのオレにはそんなハシタナイ真似は出来ない。

 なんで、オレは取り合えずリュックを漁って、奴の頭に残ったミネラルウォーター全部をジョロジョローっとぶっかけるだけに留めといた。


 うむ、お上品だなオレ。


「ぶふっ! いきなり何しやがる!」


 おじいさん、アドルフが立ったわ!


「や、そりゃこっちのセリフだからアポロチョ○め」

「アドルフだ」

「オレの辞書にアドルフの文字は無い」


 ついでにこんな変態の知り合いも居ないったら居ない。


「変態、って……何でそうなるんだ。何処かおかしかったか?」

「頭から墓場まで」

「俺は既に死んでいる?!」


 かもね。

 てか、またお店の床濡らしちゃったよ……しかも注目度がこころなしかアップした気がするんですけど。

 これ以上は拙いかな、と思ったんでオレは立ってる水も滴る良いチョコになってるアドルフの袖を掴む。


「てかお前の人間としての尊厳の死はほっとくとして、アポロ、こっち」

「アドルフだっていうかなんだよ急に」

「良いから。邪魔だから」

「邪魔っておい……」


 何かブツブツ言ってたけど、とにかくオレは一秒でも早くその場を離れようとアドルフの袖を引っ張ってって一番近くにあった更衣室に奴を無理やり押し込んで、続いてオレも入る。


「で、なんだったんだよ、さっきの珍妙な動きは」


 ジャッとカーテンを引っ張って外からの視線を遮断して、オレはアドルフの方を振り返って……ってうわデカっ!

 そう言えばデュランも大きいんだけど、こいつもかなり背が高いんでした。

 しかもデュランは白っぽくてわりと優男っぽくひょろっとしてるんだけどこちらは何と言うか、あれです。細マッチョです。

 おまけに武器まで持ってるから専有面積パネェです。

 ちっ、こいつもかブルータス。縮めば良いのに。

 

 ま、とっさにこいつをあの場から連れ出したオレの瞬発力と判断力を誰か誉めてください。


 ……や、もう何か後悔し始めてますけどね。

 こんな狭いところに何で連れ込んじゃったんだろう。アホじゃなかろうかオレ。数秒前のオレ、ちょっとその辺で首吊ってこい。

 とか思いつつ、一応小声でお説教中です。


「いや、何って……つーか何で俺引っ張りこまれてるんだ。袖離してくれないか?」

「あんな衆人環視のもとで何繰り広げちゃってるんですか。アホですか、そうですか、死ねばいいのに」

「は? いきなりそこっていうか、いや、俺はただ謝ろうと」

「あんな斬新な謝り方があってたまるかー!」


 思わずム○クっぱりに叫ぶオレ、ただし小声。

 それに何故か驚愕の表情のアドルフ。


「斬新? いや、あれが伝統的なジパング式の謝罪方法のジャンピングドゲーザーだっていう」

「知るかっ!」

「知らないのかっ?!」


 知る訳ねーだろうがー!


「良いか、良く考えろ。あの姿勢から「なっ?! 座ったままの姿勢! 膝だけであんな跳躍を、何者?」みたいな謝罪方法、普通の奴が出来ると思うのか? な? なぁっ?」

「いや、簡単だったけど」

「お前はな!」


 一般人の性能舐めんな、と胸倉……は微妙に掴み難いんで、シャツの腹を掴んで揺さぶって居たら、ようやくアドルフが戸惑った顔で「もしかして、ああ言うのは無いのか」とかほざきやがった。

 さっきからそう言ってます。

 最初に目の前で、何の心の準備も無くアレを見ちゃったオレの心臓のドッキリを返せ。


「あいつら……騙しやがったな……」

「あいつらって何だよ……とにかく、やめてください。迷惑です。奇異の視線集めまくってました」

「あぁ……もう二度とやらない」


 是非そうして下さい。


「……待てよ、っつーことは何だ? 俺は店内で客を前に謎の奇行をする男っていうカテゴリーで見られてたのか?」

「今更?」

「……」


 がっくりとうなだれて「俺の今まで築き上げてきた信頼とかネームが」と呻いているアドルフの肩をオレはポム、と手に持ってたスパッツで叩く。


「ご臨終です」

「それを言うなら御愁傷様、だ」

「いや、恥で死ねるかなーと」

「……。はー」

「まぁ頑張りたまえよ少年」


 何故か睨まれました。


「……俺の方が年上だよな?」

「あー、だっけか。なら年上らしくしゃんとしろよ。みっともねぇぞ、ほら、背筋伸ばす!」

「お、おお……」


 バシッとスパッツでしょぼくれてる背中を叩いたら、ビシッとアドルフが背中を伸ばした。

 よしよし、良く出来ました。

 うむうむと胸を張って腕組みして頷いたオレに、何か微妙に複雑そうな目を向けて来るアドルフ。


「お前……そんなんだからこっちがなぁ……」

「ん?」

「あー、いや。すまん。もうちょっと俺は頭冷した方が良いみたいだ」

「ふーん。冷やすんならも一度かけてやろうか?」


 リュックを漁ってみるオレにアドルフは「いやもう良い」とひきつった顔で手を振る。


「お前、この分だと今度はコーラでも取り出しそうだしな」

「おお、その手があったか」

「やめてくれ。トマトジュースと水でもう懲りた」

「ふーん」


 何と無く相槌を打ったオレに、アドルフは微妙な顔をして頭を掻いた。


「えーっと……その、何だ。えーっと」

「いや知らんし」

「そう、知らないんだ」


 ……はい?

 あぁ、頭がおかしくなったのか。

 さっきスライディングしてきた時にどっか打ったんだな。きっと。

 や、こいつの場合チョコ頭は元からか。


「何だ、その生温い視線は」

「や、可哀そうだなぁ、と……全てが」

「全否定?!」

「で?」


 オレはどうにも進まない会話に溜息を吐いて、更衣室の鏡によっかかる。


「アンタ結局何がしたいんだよ」

「その前に、お前の名前を教えてくれないか?」

「はぁ? 何で?」

「いや、チビた……待った、待て、怒るな」


 無言でヤツの急所めがけて足を繰りだそうとしたオレの前でわたわたと手を振って、アドルフが慌てた様子で弁解する。


「だから、そう呼ぶと嫌だろうから名前訊いてるんだよ。確かさっきアカギって呼ばれてたと思ったんだが……」


 誰、その妙にザワザワしてそうな名前の奴。


「全然違うし。マサキだよ、マサキ」

「……あぁ、マサキか」


 「ジパング風の音だな」と、何か妙に感慨を込めてアドルフがオレの名前を呟く。


「陛下も何度か呼んでたのに、随分間違えて覚えてたんだな……悪い」


 いや、デュランはマサキなんて呼んでないから随分違うのは当たり前だけどな。

 まぁ、アカギってのも相当違うが。


「や、別に。で?」

「その……あのさ、マサキ」

「おぅ」


 さっさと終えれ。

 そう思って待ち構えるオレの前でアドルフは妙に真剣な顔をして、勢いよく頭を下げた。


「男だと思ってて悪かった。すまん」




 ……えっと?



 

 


【作者後記】

何気なく凄いことをアポロがやってます。

流石DDDの有望株ですね。(棒読み)

ちなみにジャンピング土下座は某岩男の敵役さんが発祥だとかなんだとか。


そんな豆知識を呟きつつ今晩は、膝が痛くて正座が出来ない尋でございます。

初めましての方ようこそ。礼節って大事ですよね。

またお会いできたそこの方いらっしゃいませ。間違ったジャパニーズのイメージを集めてみました。


さて、随分前に拍手で張っておいた話がやっと回収にかかりました。

一応きちんと詫びるアポ……アドルフですが、ナカバの反応は如何に。

次回に続く。


……ということで、縁が合えばまた次回でお目にかかりましょう。


作者拝

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