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怨敵再来とオレ

ザリザリと書いていった結果、「失禁」の場面が交じりました。

あまり濃くは書いていないですが、苦手な方は読まない方が無難かと思います。


「誰だって赤ん坊の時はそうなんだし、平気平気」と言う方はそのままお進みください。

 気を抜き過ぎてた。

 アレが中央ここに居ることは分かってたのに。

 昨日、アレがオレもここに居るんだって知ってしまったことも分かってたのに。

 カタカタとみっともなく震えだす手を反対の手で掴んで抑える。

 あんな程度の奴の前で弱み何か見せて堪るか。


「マサキさん。マサキさん? ねぇ、どうしたの?」

「……いえ」


 オレは喉から絞り出すようにして息を吐き、表情を消して振り返る。


「何か御用ですか、先輩」

「御用ですかなんて気を使わなくて良いんだよ」


 相変わらず気持ち悪い笑顔を浮かべてる先輩をオレは黙って睨む。

 てか、気を使ってる訳じゃねぇよ。用も無いのに絡んでくるなつってるんです。

 相変わらずうざいくらいにポジティブシンキングですね。

 まったくもって見習いたいとも羨ましいとも思いませんが。むしろ去れ。


 心の中で教育上不適切な悪態を思いつく限り並べながら、オレは慎重に、なるべくゆっくりと落しちゃった商品を拾う。

 うっかりよろけようもんなら触られかねないし、そうでなくても後ろからじっとりとあのねちっこい目で見られるとか絶対嫌だ。そうでなくてもさっきからこの変態の視線がこー……うん、言いたくない。

 とりあえず今この瞬間は、ワンピ来てたのは大失敗だってことだ。

 出来ればこのままさっさと逃げ出して、へまちたわしでごっしごっしと……あれ? へまちだよね? あのキュウリのでっかい奴の名前。いや、ちょっと違う気がしてきた。なんだっけ? キュウリじゃないんだけど。でもへまちじゃないよな。だってへまち、だと「へい、お待ち!」の省略形みたいじゃん。でも何だっけ?

 オレがぼけーっと「へまち」の正体について考えてると、先輩の方が動いたのがちらっと見えた。

 足がビクッとなる。

 逃げたい。

 でも動けない。足が動かない。


「マサキさん、今日すごくかわいいよね。そういうの似合うなぁ、センス良いよ。そういうの好きだなぁ」

「……はぁ、そうですか」


 アンタの好みはどうでも良いですが。


「僕の為にこういうことしてくれるなんて、マサキさんって本当に可愛いよね」

「……は?」


 いや。いやいやいやいや。可笑しいだろ。

 そもそもお前に会う気なんかさらさらねぇし。会う予定も無かったし。……てか、何でここに居るんだ。


「違いますけど」

「照れちゃって可愛いなぁ。この後何処に行こうか」

「オレが何処に行こうと先輩には関係のないことだと思いますけれど」

「遠慮しなくて良いんだよ」


 してませんから! というオレの叫びは喉からは出てこなくて、逆に奴の手が伸びてきたことでみっともなくひきつった息しか出なかった。

 根っこが生えたみたいに動かなかった足がやっとで動いて、でも下がり過ぎて衣装のラックにぶつかってガシャンと音を立てる。


「あ、マサキさん大丈夫?」

「や……」


 止めて、触らないで。


「はい、そこまで」


 あとちょっとの所まで来ていた先輩の手とオレの体の間に、水色の線が入った。


「な……」

「下がれ」


 きらきらした淡い水色の真っ直ぐな剣。それを握ってたのはがっちりしたチョコレート色の手。

 いちごピンクの眼が先輩の方を冷たく見据えている。


「……ソーダのアイスバーとチョコバーのストロベリー味」

「チョコじゃねぇって言ってんだろ……お前この場に及んでそういうこと言うか」


 正直な感想にアポロチョコ改めチョコバーのアドルフが目つきを少し緩めて、呆れたようにぼやく。

 それに、ぽかーんと馬鹿ツラ晒して停止していた先輩がぱっと顔を赤くした。

 はいはい、キモイです。


「お前!」


 ちなみに怒るとこの人声が裏返ります。耳触りですし、どうでも良い情報でしたね。


「何をするんだ。馬鹿にしているのか!」


 二言目には馬鹿にしているのか、がくるのも定番です。

 それをチョコバー改めアドルフが黙って横目で見た。

 途端に黙りこむ先輩キモオ

 ぎりぎりと歯ぎしりして、生白い顔を赤くしているのが更に気持ち悪い。


「店内で武器を抜くなんて……誰か、警備員を呼べ! 警備員を!」

「残念だったな。DDDの5th以上はたとえ中央の中であっても武器の携帯及び使用の許可が下りて居るんだ。そんなことも知らないのか」

「D……っ?! DDD、だとっ? 何でこんな人殺しの怪物キメラが店内に居るんだ! 警備員は何をやっている、客の命令だぞ! 早く来て僕をこの人殺しから助けるんだ! おい!」

「ちっ……本当に煩いな」


 そうですね、とオレが後ろでうんうんと頷くと呆れたような目を向けられた。

 なんだよ。心底同意しただけじゃんか。

 四六時中これに付きまとわれてるオレが頷くぐらい良いじゃんかー。

 そう思って睨んだら、何か深い溜息を吐かれた。

 何がそんなに不満何でしょうか。


「ったく、ヤる気が削がれた……ま、取り合えず、お前。仕事の邪魔だ、去れ」

「ひっ」


 アドルフの一睨みでぺたんとその場にアヒル座りする先輩。

 同時にアンモニア臭がして、オレはさっと距離を取った。


「うわ、きったねー……」

「店員、悪いけどこれ片付けて置いてくれ」


 アドルフが冷静に指示を出してる間、先輩はメソメソと上と下を濡らして泣いていた……っぽい。

 気持ち悪すぎてちゃんと見てませんけど何か?

 ところで、この水色のアイスバー気になるな。

 何か美味しそうだな。ひんやりした空気も出てるし、やっぱり触ったら冷たいんじゃ……


「うっわ! 何やってんだお前は!」


 あ、取り上げられた。チッ。


「いや、チッじゃなくて。触るな、危ないだろ! まったく、見たもの全部口に入れようとするとか……幼児かよ」

「別に口に入れる気はねぇし……ちょっとおいしそうだったけど」

「武器を食おうとするな!」

「あ、武器なんだ」

「……何だと思ってたんだ」


 先輩がさっさかと手際よく店員さんによって運び出されてゆくのを第三の眼で眺めながらオレは「ラムネ味のアイスバーみたいな剣?」と首を傾げる。

 アドルフが嫌そうな顔をした。


「どうあっても俺をお菓子シリーズにしたいんだな。そうなんだな」

「お菓子の家に住んでて、いたいけな幼女とかを捕まえてきて美味しく頂いてるんだよな」

「犯罪者にするな!」


 え? ただのお伽噺ですけど?

 「もうこいつの相手は嫌だ……」と軽く泣きが入ってるアドルフにオレはニヤッとして、それから表情を改める。


「お手数おかけしました」

「……はー。ま、仕事だからそれは良い。料金のうちだ。それよりも、なんださっきのは」

「さっきのって、あの変態ですか?」

「違う」


 ピンクの眉を寄せて、アドルフはオレを睨む。って、え? オレ?


「言っただろう。何かあったらすぐに助けを求めろって。それをいつ呼ぶかと思ってたらいつまでも……俺の言ったことは分かってないのか? 事態が拡大してから収めるのは大変なんだぞ」

「あ、えっと……」

「何で呼ばなかった。呼ばないまでも、せめて孤立しないように動くぐらいは出来ただろ。何で何もしなかった」

「あの……すみませんでした」

「……あのな」


 色々言いかけた言い訳を飲み込んで頭を下げたオレにアドルフが溜息を吐く。


「謝ってくれるのは良い。でも俺は理由を聞いてるんだ。この後も同じようなことが続くようじゃ困るんだ。分かるか?」

「……」

「で、何で何も対応しなかった。考えられないほど馬鹿じゃないと見てるんだけどな」


 ……。


「は? いや、待ってくれ。泣くなよ」

「泣いてないし!」


 これはちょっぴり目の縁に水分が溜まってるだけで、まだ落っこちてないから泣いてるにカウントしないんです!


「いや、だって……あーもー、何なんだ。これじゃ俺がいじめてるみたいじゃないか」

「いじめられてねぇし!」

「分かった……分かったから、ほら、怒って悪かったって」

「悪くないのに簡単に謝るんじゃねぇ!」

「どうしろっつーんだよ……」


 困り果てた様子で天井を見上げて、アドルフは「なんなんだかなぁ」とぼやく。


「まぁ、悪かったよ」

「何がさ」

「客に対する態度じゃなかった」

「……そういうことなら許す」

「偉そうだな……ま、良いけどさ。それで、理由、俺には言えないのか」

「……言えなくはない、けど」


 正直あんまり言いたくない。

 それでも、アドルフはきちんと対応して、詫びまで入れて来たんだからここでオレがだんまりを貫くってのは不義理ってもんだろう。

 オレは渋々口を開いて、ぼそぼそと白状する。


「動かなきゃなんないとか……分かってたけど……」

「けど?」

「足も、声も、出なくて……」

「……」

「行動、出来なくて、すみませんでした……」

「あああ、分かったから泣くなって」

「泣いてないし」

「分かった。……はぁ」

「……人に白状させておいて溜息か、コラァ」

「いや、違うって」


 ドスの利いた声で唸ったオレに、アドルフは慌てたように手を振って、ポリと頬を掻く。


「ったく、俺もまだまだだな……と、思ってさ。」


 ん? 何で今の話でそうなるんだ?

 オレが首を捻ってると、アドルフが一歩下がって、両膝を床に着くように座った。

 そして、腰の鞘にアイスバーもどきを収めて、そのまま両手を床について、




 ……って、飛んだあっ?!



 

【作者後記】

アイルビーバック、と言ったかどうかは知りませんが先輩再び。

ちなみに、大分前の伏字の回答をこの辺で。


「だけどこわい。こわいから、こないで」でした。


涙が出ちゃう。だって女の子だもん。


そんな古いネタを振りつつ「女心は永遠の謎」と思っている尋でございます。今晩は。

初見の方初めまして。いきなり下品な内容で申し訳ありません。

再会の方、相変わらず微妙にピンチな状況でも真面目になれない主人公ですみません。

まあ、一種の防衛なんですけど。


さて、アポ……アドルフが飛んだあたりで次につづきます。

機会があれば次の話でまたお会いしましょう。


作者拝






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