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袖引股引とオレ

 その後も何故か周囲から注がれてる居たたまれない感じの視線をスル―スキル全開のATフィールド展開で乗り切って、二つ目のオレンジチョコレートパイでお腹もくちくなった。

 ふいー、何か凄く食べた気分。


「実際にかなり食べているからな……まぁ、お前なら問題ないだろう」

「何その断定」

「普段から人一倍食べているのではないか?」


 ……ま、そうっすけどね。

 食欲期ですから。これからぐんぐん成長する時期ですから。……燃費が悪いとも言う。

 いや、今回たっぷり食ってるのはちゃんと理由があってですね、


「あ、動いた」


 ゆっくりデュランに床に下ろされたオレは、奴の袖に掴まったまま恐る恐る数歩歩いてみる。

 うん、手離しても大丈夫っぽいな。

 確かめるようにぐるぐる歩いてたら、後ろから「ナカバ」と呼ばれた。


「何さ」

「じゃんけん」

「ポンッ!」

「あっち向いて」

「ホイッ!」


 おおお! ちゃんと動くぜオレの体!


 ま、つまりこう言う事です。

 ぴょんぴょんと小さくジャンプを何回か繰り返して、手を握ったり開いたりして見てからオレはデュランを見上げる。


「おっけー」

「そうか……まぁ、元が少ないからこの方法でも何とかなるとは思っていたが上手くいって何よりだ」

「一言多いんだよ」


 デュランが言っていた。

 魔族と人間の違いは魔力の補充方法。魔族は直に、そして人間は食べ物から摂取する(・・・・・・・・・)

 アドルフが一仕事終えた後にオレの大事な源氏○イを食いやがったのと同じ理屈です。

 消し飛びかけて魔力がほぼゼロ、デュランから充電状態だったオレですが、あんまり本来の方法と違うやり方で魔力を補充するのはよろしくないんだそうな。

 それに今のデュランは魔王様バージョンとは違って、持ってる魔力が結構カツカツだから、下手すると共倒れしかねないのですよ。

 なので、オレが食事出来る程度に元気に戻るくらいの魔力をデュランから貰って、残りは美味しいご飯で元気回復……と。まぁこういうことです。

 そんな理屈抜きにおなか減ってたし、旨いもん食えて幸せでしたけどね。

 もうポータブル・ナカバの必要は無くなったんで、店を出る時にはちゃんと自分の足で歩いて出ました。

 地面、久しぶり! 会いたかったよ!

 にまにましながら足踏みしていたら、生温かい目でデュランに見下ろされました。

 さっきより奴の頭が高い位置にある分、ふてぶてしさと腹立たしさは倍増ならぬ二乗です。

 ここはひとつ、オレの復活祝いに後ろから膝カックンをかますべきだと思うのですが、どうでしょうか?


「蹴って良い?」

「そう言いながら蹴るな」


 ちっ、かわしやがった。


「蹴らせろ」

「分かった」


 良し。

 最初からこうすれば良かったのか。

 大人しく立ってる奴の無駄に長い足をげしげしと数回けって、ついでに爪先を踏んで満足したのでオレはデュランを見上げて、「次何処行く?」と首を傾げる。


「そうだな……服を少し変えるか?」

「あ、お前か」

「お前も」


 何でオレ?

 さっき庭園を歩きまわった時に泥だらけにしたはずのワンピは、さっきのデュランの「復元」とやらで新品同然の状態に戻ってますけど。

 そう言ったら、デュランは苦笑して、


「本当はその下に一枚、欲しいのではないのか?」

「あー……」


 ま、ね。


 他の女の子の生足なら喜んで拝みますが、自分のじゃ別に面白くも無いし。

 スカートもあの日以来基本履いてないからなぁ……足がすかすかして落ちつかない。スパッツ欲しい。

 オレはショーウィンドに映る自分の姿を発見して、ごしごしと手櫛で髪を撫でつけてみる。

 ……あ。


「櫛!」

「櫛が欲しいのか?」

「そうじゃなくて、双神……」


 言いかけてオレはここじゃ拙いと思って、デュランの手を掴んでぐいぐいと建物と建物の間の陰に連れ込む。


「何だ急に。どうした」

「えーとね、何て言ったら良いのかな……」

「……あぁ。成程」


 捕まえっぱなしの手を見下ろし、デュランが頷く。


「昼間から物陰に連れ込むとは、思いがけない大胆な誘いに胸が高鳴るな」

「棒読みでボケんな」


 ていっ、とついでに爪先踏んでやろうとしたけどまた逃げられました。


「踏ませろ」

「こういう場所でその発言は誤解されるぞ」

「誰が女王様じゃー!」


 鞭でしばくぞコラ。


「じゃ、なくて……えーと、ほら、『クロ』様のことなんだけど」


 他人の耳のあるところじゃ双神子様の名前を出すのは拙いだろうと思って、苦し紛れにデュランの付けた残念なあだ名を言ったオレに、デュランがちょっとだけ紫の目を見開く。


「頼まれてたのに、うっかり出て来ちゃった……」

「頼まれていた?」

「うん。えーと、あの部屋。モービルのあった部屋の奥にある螺旋階段登った先の……何だっけ? データの貯蔵室だっけ。あそこに取りに行ったんだよ」

「何を?」

「櫛。クロ様が無くしたけど、自分じゃ探しに行けないんですーっつーからオレが代わ……」


 言いかけてオレは「あれ」と小さく呟く。

 デュランはそんなオレに一つ瞬いて、それからゆっくりと首を振った。


「そうか」

「あ、の」

「一つ確認するが」


 オレから視線を通りの方に、多分時計塔のある方角に向けるデュラン。


「お前の言うモービルの部屋には、入ってこなかったのだな」


 オレは答えられなかった。

 でも、デュランにとってはそれで充分答えになったらしい。

 紫色の目がぱちりと瞬く。


「分かった。それは後で俺が片付けておこう」

「あのさ」

「大丈夫だ」


 何が大丈夫なんだか。

 ようやくさっきのデュランの言葉が身にしみて来る。

 でも、デュランが原因であっても、デュランの責任じゃない。そこは分かってる。

 オレは魔王モードの目つきになってるデュランの手を握る。怖がってないと証明するように。

 それにデュランはちょっとびっくりした感じでオレを見下ろして、それから小さく苦笑した。


「まぁ、後始末ぐらいはこちらでつける」

「オレに任されても困ります」

「その通りだな……ああ、しかし流石に着替えないと気分が悪いな。脱いでしまおうか」

「こんな場所で脱ぐなー! 変態か貴様ー!」

「冗談に決まっているだろう。まぁ、お前がどうしても望むというのであればまぁ、仕方なく従うが」

「望んでねぇし! おら、とっととシャツでも何でも買いやがれ!」


 ま、つまり「櫛」の話はさておいて、服をどうにかしようってことらしい。

 で、うろうろとデュランを引きずりまわしてさまよった挙句、オレでも買えそうな店をやっとで発見しました。


 ただいま全国チェーン展開中。

 「うにくろー」とオレが勝手に呼んでる某お店でございます。


 ちなみに、その日の気分によっては「はちまんたろうにくろう」と呼んでるけど、デュランにこの話をしたら「気の毒だから止めておけ」と窘められてしまった。

 何で? 肉だから?

 とにかく中に入って、デュランはシャツ、オレはスパッツを買うことにした。


「……何故ついてくる」

「え?」

「メンズコーナーでは扱っていないと思うが?」

「あ、そっか」

「それにお前のサイズはどちらかと言えばキッズコー」

「とりゃ!」


 袖から手を離して、とりあえず別れのあいさつに一発蹴りをかましておきました。


 そのあと暫く、店内をうろうろと歩きまわって、やっとでお目当てのスパッツを発見しました。

 ……何処のコーナーに居るのかは訊かないでくれ。

 まぁ、あれです。下着とか靴下のコーナーです。周りが可愛らしいプリント柄のが揃ってる理由は訊かないで下さい。

 ちくしょう! オレの背!

 あともう十、十あればオレだって……っ! くぅっ。


「てか、デュランの参考にしたのが昨日の夜のオレってことは、昨日の夜から昼にかけて伸びた分が消えて無くなってるってことだよな……後で水増し請求しちゃる」


 ところで、これって本当にスパッツなんだろうか? 品名が「レギンス」なんだけど。

 レギンスってあれだよね? 赤ちゃんようの靴下一体型毛糸のパンツのことだよね?

 ……赤ん坊物って、どこの羞恥プレイですか。

 いやいや、でも見た目はスパッツなんだよな。

 きっとスパッツ。多分スパッツ。もしかしたらスパッツ。

 でもうっかり買っちゃって、実は幼児用の毛糸パンツだったらどうしよう。

 知らずに履いて出てって、通りすがりのおっさんに「やだー、あの子幼児用の毛糸パンツ履いてる。ちょーしんじらんないんですけどー、マジうけるんですけどー」とか言われちゃったら立ち直れない。

 何が立ち直れないってそんな言葉づかいのおっさんの存在がまず立ち直れない。

 い、いや……でもスパッツだよね?

 説明書きの感じからするとスパッツだと思う……うん、ほら、生地だって綿とか毛じゃなくてポリウレタンとポリエステルとポリピルフィレンの混交だし。

 ……念の為店員探して訊いてみるか?

 商品片手にずっと考え込んでいたから気付かなかった。


「マサキさん」



 背後からの猫撫で声に、オレの手からスパッツ(仮)が滑り落ちた。

 


 

【作者後記】

お腹がくちくなる=腹いっぱいになる、です。

形容詞くちい+なる、ですね。あまり最近は聞かなくなりました。


どうも、成長期は終わりましたが偶に食欲期は舞い戻って来る尋でございます今晩は。

初めましての方、ようこそいらっしゃいました。

当方はけっして肌着類フェチの話ではございませんのでご了承ください。

また来てみたという方、再びお目にかかれて光栄です。

当方はけっして肌着(略)


さて、次回はやられ役の登場ですかね。

またのお越しをお待ちしております。


作者拝


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