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昼食風景とオレ

たのしいしょくじのじかん?

 出てきた白パンはつつく指が食い込むぐらい柔らかくて、これをさくっと半分に割って間にチーズを三種類挟んである。

 チーズの色は白っぽい、黄色っぽい、それからオレンジと黄色の中間っぽいのの三枚で、メニューにはなんちゃらとかいう名前が載ってたけどもう忘れました。いや、でも見た目綺麗だよ。グラデーションで、正方形だから。

 その上に輪切りにした肉厚なフレッシュトマトの赤、それからパンの内側に緑鮮やかなジェノベーゼソースをたっぷり塗りつけると、白、赤、緑、黄色系、で目にも嬉しいサンドイッチの出来上がりだ。

 ペラっとした見た目に似合わず意外とこくのあるチーズは口当たりは滑らかで、一種類ずつ食べてもおいしいし他の二枚と組み合わせてもまた別の味わいが楽しめる。

 皮つきのままスライスされたトマトはやや酸味があって、皮の部分に歯を立てるとプチっと気持ちの良い歯ごたえがして、果肉の部分はシャリっとみずみずしい。

 もちっとした食感のパンはちと粉っぽいんだけど、にんにくの利いたジェノベーゼソースと汁気たっぷりの真っ赤なトマトを一緒に食べると丁度良い。

 こう言うのは大胆にばくっと食いつかないとね!

 てことで六口くらいで最後の一欠けを口に突っ込んでむぐむぐしてたら、デュランが苦笑してレモンの輪切りの入った水のグラスをオレの方に寄せてくれた。


「旨いか」


 訊いてきたけど口がいっぱいだったんで、口を抑えてうんうんと頷くと「良かったな」と笑み返される。


 結局あの後、デュランに持ち上げられたまんま時計塔を出て、そのまま八番街のカフェに入った。

 何故、途中で一度もデュランが道を迷わずすらすら抜け出したのか、謎だ。入る時はあんだけ苦労したのに……。

 まぁ、とにかく店に入ったんだけど当然ランチタイムは終了してまして。

 しょうがないから単品で幾つかお腹の膨れそうなものを選んで、お昼ごはんの代わりにする事にしました。

 ついでに、おやつ代わりのパイっぽいのも頼んでます。


 チーズサンドを食べ終わって、でもやっぱり一個じゃ足りないんでオレは二つ目の厚切りハムサンドに手を伸ばす。

 これはパリジャンっていうちっちゃめの楕円形のパンだ。

 外の皮が綺麗なキツネ色で、触らなくてもパリッとした感じが見ただけで分かる。入った切れ目の黄金色が綺麗だ。外見はそんなに凛々しいのに、中はしっとりできめ細かい餅肌……もといパン肌が隠れている。

 ここにどどーんと二枚挟まってるのが売り名にもなってる厚切りハム様でございます。

 本当に分厚いよ。オレの指の幅くらいあるよ。

 表面にたっぷり胡椒が降ってあるスパイシー仕様で、ローズピンクのお肉とアイボリーの脂身の対比を見てると「これって本当にハムですか?」って気分になる。

 それから忘れちゃいけないさっぱりした酸味のピクルス。ガブッと噛むと口の中にハムのしっかりした噛みごたえとお肉のうまみ、それから脂身の甘みがじゅわーっと広がって、次にピクルスのカリッ、で酸味がすーっと口の中を爽快にさせる。脂身美味しいけど口の中がベタベタしないのはこのピクルスのお陰だ。

 ピクルス、ぐっじょぶ。

 ちなみにこっちのソースはつぶつぶのマスタードです。

 うちの冷蔵庫にあるチューブの「粒入りマスタード」じゃない。本当につぶつぶっとした、でもちゃんとマスタードな不思議なソースなのだ。これが噛むと口の中でパチパチはじけるみたいな食感で大変美味しい。

 あっという間にこっちも食べ終わって、オレはさらにもう一つ欲しいなーと目を光らせる。


「ん? もう少し選ぶか?」

「うん」


 いや、オレが食いすぎとかじゃなくて、美味しいんだけど一個一個が小さめっていう、ね?


「野菜系が良いかも……」

「それならばこれはどうだ? 季節の彩り野菜と牛肉の薄切りの西大陸風サンド。あぁ、こちらには二色のズッキーニと丸ナスのボロネーゼサンド。クリームチーズとアボガド、卵、スモークサーモンのサラダサンド……」

「うーん……何かどれもおいしそうに見えてきた」


 いや、きっとおいしいんだと思うけどね。

 最初の西大陸風とかはちょっと珍しい感じだからきになるなぁ……グリルした牛肉を薄切りにして、甘辛いタレで炒めて、そこにグリーンリーフと玉ねぎスライス、トマト、アボガドディップ、ベビーコーン、赤いんげん、ほかもろもろ十二種類の野菜を詰め込んだ「豪華てんこ盛り」てな感じのサンドイッチだ。

 ああ、でもズッキーニも旨そうだし、ここのクリームチーズ絶品だって噂が……。


「あ、そうだ。お前は何食ってんの?」

「ん? これか? ツナとアーティチョークと黒オリーブだな」


 コーヒーを一口飲みつつ言うデュラン。

 ほむ。

 ……。


「……どうぞ」


 黙って見つめてたら、デュランが手で二つに割ってオレの方に差し出してきた。

 話の分かる奴だ。


「やた、いただきまーす」


 ワクワクしながらサンドイッチにガブッと齧りつく。

 ほむ、ツナは普通にツナだけど、脂が魚臭いとかいう感じじゃない。丁度良い塩加減。

 このシャキシャキしてる歯ごたえの正体がアーティチョークって奴だろうか。

 味はあんまり無いけど、ほのかな苦味を感じる。大人の味てやつですね。ツナの香ばしい旨みと良く合って、癖になりそうな味だ。

 ちなみに、生を茹でるのが一般的らしいけど、これはオイル漬けなのでほんのりとワインビネガーとどっかで食べたようなハーブの香りが一緒にします。

 ソースは無しで、シンプルに塩、胡椒。

 なかなかグッドですな。

 どれもう一口。


「ナカバ」

「む?」

「……俺の指まで食うなよ」

「むぐー」


 分かってますよ。

 微妙な顔で注文をつけるデュランに構わず最後の一欠けをガブッとやって、舌で口の中に巻き込んで完食。ついでにデュランの指にくっついてたのも舌で回収しておきました。

 文字通りぺろりと食い切りましたよ。


「なかなか結構なお味でございました」

「良かったな」


 言いながらデュランが手を伸ばして、オレの口の端っこをナプキンでくしくしと拭う。

 あ、どうも。


「もう少し食べるか?」

「うん、まだ余裕」

「では、このアボガドとてり焼きと大根のサンドはどうだ?」

「あ、美味しそう。それ良いな」


 てり焼きってジパング料理なんだぜ。知ってた? ……あ、知らないですか。まぁ、原型残ってないしね。

 ワクワクしながら待ってると、可愛いお姉さんがかごに入ったサンドイッチを運んできてくれた。

 おおお、これも好物の予感大ですよ!


「ありがとうございます」

「ありがとう」


 接客は仕事でしょうけど、お礼は大事ですよ。

 オレに続いてデュランもにっこり微笑んでお礼を言ったら、お姉さんが「うっ」と胸を抑えてよろめきながら去って行った。……お姉さん可哀そう。


「ナカバ」

「へいっ?」

「食べるか?」

「あ、うん食べる食べる」


 頷いたオレに、デュランがサンドイッチを差し出す。

 おお、良い匂いするなぁ。

 いっただっきまーす、がぶりっ。もっしゃもっしゃ。


「良い食べっぷりだな……」

「むふー」

「そうか、旨いか」


 満足げに鼻から息を吐き出したオレにデュランが可笑しそうに笑う。

 何? 旨いんだから別に良いじゃん。てか、お前が動くと食べにくいんですけど。


 ……はい? いや、気にしないで下さい何でも無いですスルーしましょうね皆さん。


「今度はこちらの端から食べた方が良いのでは?」

「だー! うっさい! 黙って差し出しやがれ!」


 オレはサンドイッチ支え機、もといデュランに向かって唸る。

 だーかーらー、ほっといて普通に出しといてくれれば十分だって最初に言っただろうが!

 ……はい、そろそろお気づきですね。

 ただ今ナカバ・マサキ(分類:へーへーぼんぼんな一般人、年齢十四歳)は、世界の敵でラスボスな魔王様にご飯を食べさせてもらってます。

 あれです。

 はい、アーン、の世界です。

 ……。

 ……。

 ……。

 一応、一言断っておこう。


 不本意じゃーこんにゃろー!


 ま、でもオレの手足がまだ上手く動かないんだからしょうがない。

 ここまでデュランに抱えられてきただけでも充分注目浴びてたのに、椅子に座るのも手が上手くつけなくて失敗して、大して多くないお客さん(あ、時間が悪いせいですよ?)と店員さん達の視線を一人占めしちゃったし。コップを持つにも手に力が入らなくて持ちあがらんし。

 ぶっちゃけサンドイッチを手を使って食べるとか無理です。無理無理。

 その時点で店を変えれば良かったんだろうけど、並んでるサンドイッチがあんまり美味しそうだったのと、そろそろオレの腹と背中がくっつきそうだったんで駄々をこねてここでお昼に決定し、「パンが無いならケーキを食べれば良いじゃない」的なノリで、隣でオレが座れるよう支えてるデュランの手からご飯を貰っております。

 何か幼児扱いされてる気がひしひしとするのですがどうでしょうか?

 しかも、軽くオレを見るデュランの目が「餌付け」と語っている気がするのですがどうでしょうか?

 おまけに、何か無駄にこういう手際良いし。

 まぁ、この魔王様は無駄チート満載だから何が出来たって別に不思議じゃないけどね。

 丁度「飲みたいなー」と思ったタイミングで、非常に飲みやすい位置にコップを持ってきてくれたデュランを横目で眺めてオレは溜息を吐く。

 お前もう、魔王止めて介護の人になっちゃえよ。勿体ないよこの才能。


「ナカバ」

「何さ」

「デザートにイチジクと胡桃のパイが今焼きあがったと聞いたのだが」

「食べる!」


 あ、今度は小さく切り分けて一口ずつフォークでお願いします。

 素手から口とか、罰ゲームとしてしか思えんし。

 そう伝えるとデュランは罰ゲームのくだりには首を傾げてたけど、素直に頷いていた。

 毎度思うんだけど、この魔王様って基本的にやらせたい放題だよな。前に口ん中に手ぇ突っ込んだ時も無抵抗だったし、ああして欲しいって言えば大抵あっさり従うし。

 それで良いのか、魔王なのに。

 ま、こっちは都合が良いから良いけど……利用してる罪悪感とか、考えるだけ無駄なんだろうなぁ。



 あ、イチジクうまー。


 

【作者後記】

食べてるだけで4000文字使い切りました。

……一話にまとめるはずが二話に増量されました。


今晩は。とりあえず美味しそうな食事が書けるようになりたい尋でございます。

初めての方、こんな調子のスピードでしか進まない話ですがお気に召したなら幸いです。

この前も来たよ、というそこの貴方。

「あ、また進んでないな」と生温く笑って頂ければ幸いです。

ちなみに次回も話は進みません(待て)


次も特に何と言う場面でもありません。遊んでるだけです。

それでも宜しければまたのご来訪をお待ちしております。


作者拝

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