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円環舞踊とオレ

うまい、うまい、うまい、うまい、うまいどんぶりー

 まぁ、すげなく断っちゃった訳だがちょっと考えて欲しい。

 デュランは見た目こそ発禁処分物の美形で、行動は五歳児のオコチャマ以下のわがままっ子で困っちゃったチャンだけど、あれでも一応魔界最強の魔王様だ。

 自称「世界の敵」ってのもあながち大げさじゃない。

 実際「魔王VS世界」なんてタイトルマッチがあったとしてもわりと良い勝負しそうなぐらいのチート中のチート様なのだ。

 一方このオレはどうかっつーと、別に自虐趣味は無いけどはっきりいって同年代の中でも下から数えた方が早いってなぐらいの貧弱っぷりを誇ってる。

 体格はこれだし、ガラは悪くしてるし、取り立てて特技と言えるものも無い。

 これでどうしろってんですか? 無理だろ。無理無理。


 と、説明する前に双神子様の黒い目がじわっ、と潤んだ。

 ええー?!


「……」


 そのまま無言でポロポロと真珠のよーな涙を流し始める双神子様。

 えぇぇーっ?


『いーけないんだー、いけないんだー。なーかしたらいけないんだー』


 状況についてけずにパニくるオレの頭の中に、二頭身にデフォルメされたどっかの魔王様がわらわらと現れてきて、輪になってマイムマイムを踊り出す。


『なーかした、なーかした、せーんせーにいってやろー。いーけないんだー、いけないんだー』


 ぐーるぐる、ぐーるぐる。

 二頭身のぷにっとした外見を裏切る妙にキレのあるマイムマイムで踊りながらオレの頭の上をくるくる回る魔王様(イメージ)。

 そしてしくしくと声も無く泣いている双神子様。

 何このカオスな状況。

 オレにどうしろと?

 てか、何でここで泣き出す訳?


『いーけないんだー、いけないんだー。なーかしたらいけないんだー、あーららこーららー』


 ぐーるぐる。ぐーるぐる。

 ……。


『なーかしたー、なーかしたー』


 きゃいきゃいきゃい。


「でーい、うるさいっ!」


 しっしっ、と頭の中のちみ魔王ズをおっぱらって、オレは真っ黒な目を見開いてる双神子様の方へ向き直る。


「とりあえず、とにかく、無理ですから」


 断る時ははっきりきっぱり、誤解を招かないように、ですよ。

 まぁ我ながら可愛げのない態度だとは思うけど、オレに可愛げなんざ求めた時点で敗北決定だからその辺は別にOKだろう。

 心の中で「泣き落としかよ、オイ」とか思ってるのは事実だし。

 ……良い。

 自分、不器量ですから。 

 残念ながら目の前でぽろぽろ泣かれても「うわー、うざってー」とは思うが、それで気が咎めて「はい、言うこと聞きます」とか思うことは無い。

 そもそも、オレこういうことで簡単に泣く奴嫌いなんだよね。

 これってつまりアレだろ?

 自分がお願いすれば相手が言うこと聞くと思いこんでたから、断られたのがショックで「酷い」とか思ってるから泣いてるんだろ?

 どんだけ自信満々なんですか。

 頼りにしたのに裏切られて可哀そう?

 そうだろうか?

 勝手に相手の都合も考えずに自分の願いをさも当然のように押し付けてきた相手が可哀そうか?

 むしろ、こんな傲慢なことねぇんじゃねぇの?


 そう、思うのは底辺にいるオレのひがみなんだろうか?


 ……ま、良いや。

 泣こうが笑おうが、引き受けられんことに変わりは無いんだし。


「オレがデュランに対してで出来ることなんて何一つありません。お帰り下さい」

「お義姉様は……」


 オレの言葉に青ざめた顔になりつつ、双神子様が入口の端っこを握りしめる。

 ……てか、何故に入ってこないんですか。

 某テレビから這い寄るっぽくってナイアーラ……なんちゃらっぽくなってますよ。

 折角の美人が台無しだ。


 何か微妙に死にそうな感じの細い呼吸をしながら、双神子様はやっとのことで、ってな感じでか細い声で呟く。


「お義姉様は、このようなところにいらっしゃってはいけなかったのです……」


 ……って、ここ貴方の家ですよ。

 何やら自分の家を急に罵倒し出した双神子様の斬新さにオレはついてけずに首を捻る。

 それをどう受け取ったのか、双神子様は勢いこんで顔を上げ、「お義姉様は、いらっしゃってはいけなかったのです」と強い調子で繰り返した。


「……はぁ」

「お義姉様のお体は……私などの比では無く、傷ついてらっしゃるのです」


 いまいち乗りきれないオレを置いてきぼりのまま、ぽつぽつと双神子様が語りだした。


「長年の魔力の行使で、とても傷つき弱ってらっしゃるのです……それなのに、いつも私のことばかり心配なさって、無茶をなさって……」


 ぎゅ、と入口の縁を握る手に力を込めて双神子様は思いつめたような表情をする。

 ……うん、心動かされる場面のはずなんだけど某ホラーの怨霊を連想しちゃったせいでなんだか心が別の方向に動きそうです。

 どうしよう、笑ったら拙いよな。


「本当ならばお義姉様こそ横になってらっしゃらなくてはならないのです……私よりも余程痛い思いをなさってるのです」


 双神子様の目に浮かぶ涙の量がランクアップした。

 てれれれてっれれー。


「きっと、今もお義姉様は喋ることもままならないほどの激痛に耐えてらっしゃる……そう、思うと、私……」

「……」

「……」

「……」

「……あの」

「はぁ、何でしょう」

「驚かれないのですね」

「えぇ、まぁ」


 うるるん滞在○……じゃなかった、うるるな瞳とさららな髪で首を傾げた双神子様にオレはぼかした返事を返す。

 うん、まぁそんな気はしてたんですけどね。本人にちらっと訊いてみたこともあるし。

 例によってデュランはアタリともハズレとも惜しい! とも言わんかったから、それっきりにしてあったけど。


「あの……」

「ま、大変ですね皆さん」


 自分で言ってても空々しいぐらいに心がこもってないセリフだった。


「でも、デュランならやりたいようにやるでしょうし、やりたいようにしかやらないでしょうから、オレの出る幕なんて一切ありませんよ」

「そんなことはありません」


 おお、意外と粘るな双神子様。


「貴方にしかお願いできないのです」


 ちょっと驚いたオレに、双神子様はやたら必死な様子で言う。


「お義姉様を助けられるのは貴方しか居ないのです。あれ以上無理をなさっては……それなのに、お義姉様はいつもああして一人で痛みを隠して……」


 助けられるのがオレだけ、ね。

 随分と大げさな話だ。

 オレに誰かを助けるなんて芸当、出来るなんて本当にこの人は思っているんだろうか。

 それが本当なら、どれだけ……。

 オレは首をちょっと振って考えを仕切り直す。


「双神子様」

「はい、聞いて下さいますか!」


 んなこと言ってねぇよ。


「お話は分かりました。要はデュランは一人で突っ走った挙句、無茶してそのうち死ぬかもって話ですよね」

「はい……」

「で、なんだか知らないけどオレならそれを予防なり、軽減なりできるかもしれない、と」

「そうなのです。ですから」

「良いんじゃないんですか?」


 オレの言葉に双神子様が唖然とした顔になる。

 その双神子様にオレはなるべく平坦な声で言葉を続けて返す。


「聞いた話、相当辛そうですけどそれでも隠し通してやってやるっつー意地があるからやってるんですよね。自覚があって、覚悟があって、それでも貫き通したいプライドがあって行動してるんですよね、あいつ。それなら、やりたいようにやらせてやった方が良いんじゃないんですか?」


 デュラン。

 いつも余裕ぶった、皮肉っぽい笑みを浮かべて、飄々として煙に巻いて知らん顔をしている魔王様。


 もしかしたら、相当具合が悪いかもしれないことぐらい気付いてたさ。

 だけど、気付いて欲しくないっぽかったから、よっぽど悪そうな時以外は知らない顔をしてきた。

 それは、正しくないのかもしれない。

 でも、それは当人には正しいより大事なことだったりすることもある。オレには、そういうものがあるから。

 そこへ善意と言う名前の土足で踏み込んで行くことが、デュランにとって嬉しいことかどうか、オレには分からない。

 それは、余計な御世話じゃないのか?


「デュランだって自分の状況が分からないほどアホじゃないでしょ。分かった上でやってるなら、見ないふりしておいて良いんじゃないんですか?」

「……貴方は」


 双神子様の声に一瞬何か揺らぎが混ざった。

 それは多分非難だったんだろう。

 冷たい、とか。酷い、とか。

 その言葉に大抵後に「これだからマナレスは」が続く。

 何かもうちょっとレパートリーが欲しいけど、拝啓で始まったら敬具でしめるみたいなもんだからしょうがないんだろうな。

 さすがにこれで退散するだろう、てかさっさと寝た方が良いんじゃね? とかオレが考えてると、双神子様は一つ、か細い溜息をついて残念そうに眼を伏せた。


「分かり、ました」


 はい分かって下さい。


「では、どうか最後に一つだけ……お願いを聞いてはいただけませんか?」

「……交換条件ですか」

「え? ……そう、かもしれません」


 自覚なしですか? 本当ですか?

 しかし、さっききっぱりバッサリ断った身としてはちょいと断りにくそうな空気が出来上がっちゃってる。

 しかも双神子様の顔色が半端ない。

 何か、「古代……私の艦ごと撃て!」とか言いだしそうな顔色をしてる。

 ……とりあえず聞くだけ聞いてみよう。


「何ですか?」

「あの……あの奥の階段の上にある部屋に、お義姉様から頂いた櫛を置いて来てしまって……」

「はぁ」


 意外とうっかりさんだな。


「取ってきて欲しい、と」

「はい……せめて、それをもってお義姉様の無事を祈りたいのです」

「他の人で良いんじゃないんでしょうか」

「お義姉様と一緒でないとここは通れないのです……私も、中には……」

「あー……」


 で、落して無くしたのは知られたくない、と。

 ……まぁ、それぐらいなら良いか。

 そろそろ双神子様の言葉を断り続けると、中央十騎士しんえいたいの皆さんに抹殺されそうな予感もするし。


「上に行って、取ってくればいいんですね?」

「……行って、いただけるのですか?」

「じゃあ、オレからも交換条件を出します」


 切り返したオレに双神子様がちょっと身構える。


「……何で、しょう」

「さっきのデュランの具合が悪いこと、オレが聞かなかったことにして下さい」


 双神子様がポカンとした。何か不安なので念押しする。


「そちらはオレに言わなかった。オレは聞かなかった。良いですか?」

「……どうして」

「どうして、って……そりゃ言ったとおりです」


 オレはスケッチブックを近くの棚に置いて、格好つけてデュランっぽく肩を竦めて見せる。



「デュランに通したい意地があるなら、それをオレは尊重したい。そんだけです」


 

【作者後記】

レッドカーペットの上を歩きながら変わってゆく顔色。

なかなか衝撃的ですよね。


どうも今晩は。ナチュラルに顔色が悪いと言われたことがある尋でございます。

初めての方、こんな辺境へようこそおいで下さいました。

お気に召したならゆるりと散策でもなさっていってください。

初めてじゃない方、またお目にかかれたことを嬉しく思います。

最近コメディ不足で申し訳ないです。

一つシリアスの山場なのでご容赦を……。



もう少しシリアス続きますが、宜しくお願いします。


作者拝

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