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執行猶予とオレ

ファリドじいちゃんに愛の手を

「あ、また隠しウッサーが」

「隠しウッサー?」


 例のアーチ型の扉をくぐった時にアーチの内側にまた一匹発見しました。

 思わず呟いたオレにデュランが怪訝そうな顔をして、それから「あぁ、あれか」と納得したように呟いた。


「まだあったのだな」

「まだ、って?」

「随分古い物だからな……まぁ、ここの機能を考えればそうそう簡単に風化するはずもないか……」


 何か一人で納得してるんですけど。


「そう言えばここ何の部屋……ってまたファリドさん置いてってるし」

「あぁ、そう言えば彼は入れないのだったな」


 先にそういうことは言えよ。

 入り口でうろうろしてる放置プレイまっさかりのファリドじいちゃん可哀そう。

 しかし、何故に入れないんでしょう?

 見た感じただのアーチがあるだけで、障害物はせいぜい空気しかないんですけど。


「ここのセキュリティの問題でな」

「ほむ?」

「最重要機密、とでも言えば良いのか……それらの大半の制御、監視、及び操作の為の設備が揃っている部屋だったからな。それ故に立ち入り制限があるということだ」

「えー、見た目ただの子供部屋じゃん」

「部屋の主人は実際子供のようなものだったしな」


 どこのショタロー君ですか。

 鉄人操作しちゃうんですね、分かります。


「中身が子供だと言っているだけなのだが」

「あー、お前ですか」

「……。……違う」


 微妙な顔で否定されました。

 それはお前じゃないって意味? それともお前が精神年齢五歳児じゃないって意味ですか?


「あれと一緒にされると少々複雑だな……出来れば止めてくれ」

「あ、そんなにそいつのこと嫌いなんだ」

「嫌いでは無いんだが……」


 珍しくはっきりしないな。

 デュランって大抵こういう場合は適当なこと言って笑ってけむに巻く癖に、この話題に関しちゃそれすらできないぐらい引っかかりがあるらしい。

 可哀そうなのでそれ以上つつかないであげることにした。

 別に弱点突っつきあうのは悪いとは思わんのだけど、冗談で済ませられないところにゃ踏みこんじゃならんと思うし。


「で、ファリドさんどうすんの?」

「権限がなければ入れないからな……さて、どうしたものか」

「権限って?」

「文字通りの権限だ。此処には重要機関が集まっていると言っただろう? それを滅多な相手に操作されては困るからな……入れるのは此処を制作したメンバーか、もしくはここで制作された者だけだ」

「制作された物?」

「お前達の言う双神子とか、掃除用ロボットとか」


 双神子様とル○バが同レベルで語られてしまった。

 他の中央十騎士の皆さんが聞いたら憤死しそうな話だった。


「って、あれ? 何でオレは入れてるんですか?」

「恐らく、マナレスだからだろう……ここは一番最初のマナレスの誕生の場でもあるからな」


 あ、成程……つまりオレもルン○と同レベルなんですね。


「まぁ、仕方ないな。ファリドには外で待機して貰おう」

「えー、入れてあげようよ。あの人あんまり好きじゃないけど」

「俺には許可権限がない。無理だ」


 あ、じゃあしょうがないね。さよならファリドじいちゃん。


「まぁ、後は此処から出なければまず危険な目に会うことは無いだろう……他の人間は此処には入ってこられないしな」

「なーデュラン」

「ん?」

「そんなに今危険な状態なのか? オレ」

「……。あぁ、そうだ」


 またあっさり肯定されたなぁ。

 別に驚く話でも無いのでオレは冷静にそう思う。

 むしろ逆にオレの反応にデュランの方が少し驚いてるというか、戸惑っているようだった。


「もう止めて、帰るか」

「へ?」


 帰るってホテルにですか? まだ半日も観光してないんですけど。

 まだ遊び足りませんってなことを言ったら、デュランはちょっと苦笑して「そうか」と頷いた。


「まぁ、それならしばらくここで待っていてくれ」

「あ、それなら何か読むものとか無い? 退屈なんですけど」

「読み物か……お前に読める文字となると無いだろうな」

「いや、普通の文字くらいなら読めますけど」

「あの頃はまだ文字文化の発掘中で文法も字体も統一性がないのだが、それでも良いなら渡そう」

「要りません」


 どう頑張って解釈しても読める代物じゃなさそうじゃん。

 しかし、どうしよう。暇だ。

 デュランってもしかして普段こんな感じで暇なんだろうか? それなら暇つぶしにちょっくら人間でも誘拐するかーってなる気持ちも分からなくもない……訳がない。

 迷惑かける良くない。


「そうだな……代わりに何かお前の興味を惹きそうなもの、か。これはどうだ」


 言って、デュランは棚の中からバレーボールサイズの球体を幾つか取り出す。

 なんだろう。楕円形のガラス玉みたいな中に何か色々入ってる。

 色が変だけど……これって土と水、それから草とか、かな。イメージとしては箱庭とか盆栽が近いのかもしれない。


「テラリウムだ」

「寺?」

「土や水を作ろうとしていた時期の試作品だな。何がなじむのか、何が有利なのかロアの計算だけでは確定しないからな」

「何で土とか水を作る必要がある訳?」


 他にもあるぞ、と四角い箱やら丸い金魚蜂みたいのとかを取り出すデュランにオレは首を捻る。

 水なんてその辺行けば汲めるし、土だってホームセンターに行けば売ってるし。


「昔はそれらが無い時代もあったということだ」


 蛍光緑の気体が詰まってるひょうたん型のテラリウムを置きながらデュランが苦笑する。


「今は時計塔としての役目のみが残っているが、ここは元は住居で、一つの巨大な研究所であり、実験場だった。その研究課題の一つが「生活出来る空間の構築」だ。このテラリウムもそのうちの一つ」

「うーん……?」

「今の形に落ち着く前には色々な試行錯誤があった、ということだ」


 それと、とオレの前にデュランはやたら古めかしいスケッチブックを置く。


「何これ」

「ここの設計者のメモだ」


 はいっ?!


「まぁ、大分昔のだから劣化しているが……興味があったら見てみると良い」

「い、いや興味とかのレベルじゃねぇですよこれ」


 え? 良いのこんなもんオレが見ちゃっても。


「構わんぞ。持ち出されては困るが」

「んなあっさりと……」

「それを見る覚悟が決まったのならば、後は好きにすると良い」


 ぽん、と投下された言葉にオレは、スケッチブックに伸ばそうとしていた手を止める。


「やりたいことがあるようだが」


 そんなオレを真上から見下ろして、デュランが言う。


「それに手を伸ばさないというのならば、それを見ても辛いだけだぞ」

「……」

「今すぐ選べとは言わない。だが、決まらないのならば見ないでおく方が良いことだけは教えておこう」

「……はっ」


 いや、まさかこのタイミングでそういうこと言いますか。

 さすが、悪魔ディアヴォロスってだけあるよ、お前。正しい悪魔の誘惑ってやつだ。


「じゃ、良いや。オレこれ要らな」

「ナカバ」


 返そうとしたオレの手を指先一つで止めて、デュランが小さく首を振る。


「何故お前がそれを諦めようとしているのか、良く考えることだ……」

「何だそれ。執行猶予みたいな話だな」

「お前はまだ幼い」


 デュランの目は紫色で、静かに澄んでいた。

 や、人形オートマタの目なんですけどね。

 目の前の人型のそれに、前に会った魔王の面影が重なる。数千年以上を生きてるらしい、人外の美貌をもった、人外バケモノ


「今一度、良く、己の考えを分析し直して……それからこれを見るかどうかを決めると良い」


 再び手に押し付けられたスケッチブックは、全然薄っぺらいのに何故かずっしり重い気がした。

 重さに負けて、手放して落しちゃえるなら楽なんだけど。

 手放して落せるようなシロモノじゃねぇもんなー……時計塔の設計者のメモなんて。面倒な物取っちゃったな。


「ナカバ」

「何さ」

「決めた道に進むことは尊い」


 踵を返して、ファリドさんが立ち入り禁止でお預け喰らってる方向に歩きながらデュランが言う。


「だが、決めた道に進むことだけが尊いのではない」

「意味分からん」

「決断すること。それだけでも充分な意味がある」



 お前達は生きて存在しているのだから。



 何やら哲学めいたことを言い逃げして、デュランの背の高い後ろ姿がアーチの向こうに消える。

 オレはそれを見送って「あんにゃろー……」と力なく呟くしかなかった。


 

【作者後記】

デュランは人間贔屓でチートな魔王様ですが、それゆえに誰よりも人間に高い期待をかけてる部分があります。

その高く厳しい要求レベルに応えられる人間はわずかで、殆どはその期待は報われず、下手をすれば受け取られさえせずに終わるのでしょうが……。


さて、今晩は、とりあえず魔王様の要求には応えられない派代表の尋でございます。

初めての方もそうでない方もようこそいらっしゃいました。

貴方のその一回の訪問が文字の一つ一つを書く原動力になっております。

ありがとうございます。


わりとチラシの裏的な話が満載の回になりましたが、まぁ深くは掘り下げずに次に進みます。

ナカバにとって一つの山場になる回がこの後の方に待ち構えてます。

多分次の次の次辺りで来るはずです。

虚実織り交ぜた登場人物たちの駆け引きを上手く描けるように精進しますので、よろしければお付き合いくださいませ。


作者拝

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