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信念疑念とオレ

 まぁ、説得とか同情を引く手としては悪くなかったけどね。

 内心でそんな可愛げのないことを言ってみたりして。

 オレはぐっと手に力を込めて、ハグから抜け出す。

 さよなら、きょぬー枕。


「すみませんけど」


 抜けだして、オレはどこか驚いたような顔でオレを見てる双神子様ににっこり笑顔を向ける。


「死にたいとか、あり得ませんから、オレ」


 でも、説得したいなら地雷踏んじゃあダメだよなー。

 悪いけど、その「辛いから死んでしまいたい」とか、そのセリフだけは絶対に無しだ。

 一度目はとりあえず我慢したけど、もう一度同じセリフを聞いたらプツンとかいきそうだし。

 流石に双神子様に切れたらまずいだろ。


「どうして……」

「どうして?」


 そんな事も分からないんだろうか。

 オレは不敬だと分かっててもイラっとする。


「どうして、ですか? それこそ当たり前だからですよ」

「あたり、まえ……」

「何でオレがまだ生きてると思ってたんですか?」


 マナレスのオレ。

 マトモな人間とは呼べないオレ。

 ちっぽけで、成長しなくて、どこもかしこも欠陥だらけのオレ。そんなオレがまだ生きてるっていう事実。



「独りじゃ無かったからに決まってんでしょ」


 マナレスだと判明した後もオレを処分せず、自力で育てて学校に行かせてくれてる両親あのひとたち

 普段から淡々としてるけど、何かあった時には助けてくれるうちの愚弟。

 マナレスのオレにも「色々経験しなさい」と教えてくれたじいちゃん。

 それを嫌な顔せず見守ってくれたばあちゃん。

 自分達の予定をキャンセルしてまで、こんなところまで心配してついてきてくれたリムりん、ヴィーたん。

 オレには勿体ないぐらい、凄い人達。


「オレの周りにはいっぱいいましたよ」


 悪意すらなく、ただ何と無くでオレの背中に火球投げつける奴らも居た。

 それをただ傍観するだけの「良い子」の皆さんも居た。

 でも、そうじゃない人もいた。いてくれた。


「その人達が生かそうとしてくれたから、してくれてるから、オレは今こうやって十四年間を生き延びてます」


 それはどれだけ大変なことだったんだろう。

 どれだけ辛くて、苦しくて、そして凄いことなんだろう。

 想像もできない。

 自分のことじゃないのに。そんな大きな重い責任を自分の意志で選びとって、背負って。


 オレには、とても、真似できない。


「それをオレは知ってます」


 それを。その努力を。行動を。信念を。


「それなのに、辛いから死にたい……? ふざけんなって話ですよ」


 辛い?

 どの面下げてそんな事言うって?

 それは周り見てからもう一度言ってみろってんだよ。

 自分(てめぇ)を庇って守って、生かしてる奴らのこと見てもまだ、そんなこと言えるならやってみやがれってんだ。


 自分は独りなんです。迫害されてるんです。って、馬鹿じゃねぇの?

 オレはそういう「自分は可哀そうな被害者なんです」って顔するのが大嫌いだ。

 ヘドが出る。

 自分の不幸に酔って、それを楽しんでるなんて。

  

「そう言う奴に言う言葉、知ってます?」


 オレは笑顔を消す。


「甘ったれんなボケ、ですよ」

「……」

「という感じにオレ、恵まれまくっちゃってるんで双神子様の気持ちは分かりません」


 言って、オレはやっちまったなーと思う。

 でもムリだ。

 さっきの話はどーしてもムリ。

 生理的に無理。あのストーカー先輩と同じレベルで生理的に無理。

 これでも割と大人しめに主張したつもりです。

 うん、分かってる、オレ控え目だけどちょっぴり怒りっぽいんだ。控え目っていうと「えー」って顔されるけど。失礼な。

 控え目ですよ。

 愚弟に言わせりゃ控え目なんじゃなくて臆病なんだよアネキは、となるけど。うっさいほっとけ。


「ってことで、双神子様のお気持ちはオレには分かりません。これっぽっちも」

「……」

「もう行って良いですよね?」


 確認と呼べないような確認をとって、オレは踵を返す。

 その後ろで、双神子様は疲れたように小さな笑い声を立てた。


「そう、ですね……ごめんなさいね、貴方まで、私と同じみたいに言ってしまって……」

「や、別に……共感できないだけですから」

「そうですね……貴方は、もうすぐデュランお義姉様にマナレスでなくしていただけるのに………」

 

 ……はい?

 マナレスでなくしていただける、って……どういうことだ?


「それとも、もう変えていただいたのですか」


 双神子様の無邪気な微笑みと問い掛けに、オレは聞き返すのを躊躇う。

 まるで当たり前みたいにそんなこと言われるなんて……。


「いえ……」

「そう、でもきっとすぐでしょうね……」

「や、その……デュランにも出来ることと出来ないことがあるでしょうし」

「あら、どうして?」

「どうして、って……」


 だってデュランは言ってた。

 マナレスは治せるようなもんじゃないって。そう言ってたのに。

 まさか、冗談? でもあいつに限ってそんな冗談言うか?

 ……あいつに、限って?


 混乱するオレを不思議そうに見て、双神子様は首を傾げて微笑む。


「貴方をマナレスでなくすることぐらい、お義姉様にはとっても簡単なことでしょう」


 だってお義姉様なのですから。

 確信をもってそう言って双神子様はにっこりと、そりゃあ綺麗に笑って見せた。



 

【作者後記】

念の為、ナカバは十四歳です。

ということで、ナカバっぽいナカバの為のナカバな回でした。


今晩は、尋でございます。

ちょっと覗いてみたそこの貴方、ようこそ。お気に召せば幸い。

当然来てますよと胸を張ってる奇特な貴方、ありがとうございます。また来て頂けるよう頑張ります。


さて、もうちょっとで魔王様お戻りになるのですが……もう少しナカバのターンです。

また次回、お会いできることを願ってます。


作者拝

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