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六身一体とオレ

サブタイトルが思いつかず、こっちに逃げました。

何度も話の中で書いてますが、ナカバは目つきが悪いです。

 痛いのが嫌いだ。

 怖いのも嫌いだ。

 辛いことが嫌いで、苦しいのが嫌いだ。


 ちっちゃいまんまのオレ。

 成長しないオレ。

 体も、考えも、心も、中身も、ちっぽけ。


 一体いつになったら、オレはマトモな人間になれるんだろう。

 マトモな人間に、なれるんだろうか。





 オレを何故かマナレスだと見破った双神子様の目には、別に蔑むような感じとか、嫌がるような感じとか、見下すような感じも無くて。

 ただ、底なしに真っ黒だった。

 黒いガラス玉みたいな目。

 大きいそれに、ポカンとしているオレの顔が小さく小さく映ってる。


「可哀そうな子……」


 頭が現実に追いつけないで、ぼーっとしているオレの手をやんわりと双神子様の手が包んでいる。

 背は双神子様の方が大きいのに、手は意外と小さい。

 デュランの手は大きくて、指がすらっと長くて、意外とちょっと骨っぽくて掌の一部がちと硬くて冷たいんだけど、双神子様の手は華奢で小さめで温かだった。

 掌の一部が硬いところだけちょっと似てる。

 しっとりした掌の中の、オレの傷だらけアンド泥だらけの手を見る。

 台風の日に水たまりに落ちて、タイヤでひかれて、そのまま一週間放置された軍手みたいな手だな、オレの手。


「こんな体で、今までずっと……耐えてきたのですね」


 たえるいがいにできることなんてなにひとつなくて。


 双神子様のピンク色の唇が動いて、そんな風に言う。

 しょうがないじゃないか。

 しかたないじゃないか。

 できなかったんだから。

 別に好きでじっとしてたわけじゃない。

 ただ、そうする以外に方法が無かったってだけだ。

 嵐とかと一緒だ。

 せいぜい通り過ぎるまで傘を掴んで中でじっとしてるしかない。

 嵐に向かって猫パンチしてみたって、嵐は痛くもかゆくも無い。オレの手が濡れるだけ。

 だから、自分の傘をふっ飛ばされないようにしながら、じっと過ぎ去るのを待つしかない。


「辛かったのですね」


 双神子様の柔らかい声。

 鈴を振るような声ってこういう声なんだろうか。


「何時も、ずっと、独りでそれを忍んで……」

「……」


 別に、望んでのことじゃないけどね。

 偶々……つーか、当然のように他にオレの方に手を貸す奴が居なかっただけだ。

 そりゃそうだ。

 何の得も無いうえに、リスクだけの案件に手を出す馬鹿さ加減なんて子供だってちゃんと分かってる。

 おまけに放っておいても自分達には何の問題も無い。

 だから、順当に、オレはひとりだった。

 まぁ、種類カテゴリが違うんだからしょうがない。

 要は、おたまじゃくし道端でが死にかけてたら助けますか? って話だ。

 まぁ、たまたま気が向いたとか、オタマジャクシにものすごーく思い入れがあるとか。そう言う理由があれば助けるかもしれないけどね。

 でもそれを常に期待するってのはアホだと思う。

 偶々だ。偶々。……あ、そんな名前の植物系ポケモ○が昔居たような。

 目付の悪さがオレにちょっと似てるんだぜ。

 こそっとコピーした奴の顔を切り抜いて、そっと学生証の写真部分に上書きしといたのを弟に見つかった時は呆れられたけどさ。

 良いじゃん、何か親近感覚えたんだよ。別に提出する訳じゃないし良いじゃん!


 ……って、あれ? 何でオレこんなこと考えてるんだっけ。

 えーと、全部言えるかなの歌ぐらいは余裕で歌えますけど……そうじゃなくって……。


 そうだ、デュランどうしてるんだろう。

 あの、珈琲好きで我がままで気まま勝手で……まるでオレをマトモな人間みたいに扱う魔王様は。

 あんまり放っておくと、そのうち拗ねるんじゃないんだろうか。

 妙なところで子供だからな、あいつ。

 まさか迷子とかは……いやいや。いや、しかし。だがしかし。……駄菓子菓子?

 あ、いや何か本気で心配になってきたよ。

 珈琲とかくっついた鼠捕りにひっかかってたら……それは是非見たい! 物凄く見たい! 絶対面白い!

 よし、ちょっとひっかかってるデュランを探しに行ってこよう。

 とか立ち上がろうとしたら、急に誰かに引き寄せられた。

 へ?


「行かないで……」

「え?」

「独りにしないで……」

「そ、みこさま?」

「独りは嫌……」


 い、嫌って言われましてもですねごにょごにょ。


「独りは嫌なのです……」

「や、そう言われ……じゃなくて、おっしゃられますで……ん? おっしゃります……」


 えーと、ちょっと出てこい正しい敬語。

 セシェン君の言葉づかいを思い出すんだ! えーと、えーと……ございます? ざます?


「おっしゃございますでもですね……?」


 いや我ながら意味分からん、とか思ってたらさらに引き寄せられて、なし崩しにハグされました。

 おお! 何と言うオレ得!

 じゃなくて。


「あ、あの離してくだ……えーと、ございま……まぁ良いやとにかく離して下さい。ほら、オレ泥ついてますし。汗臭いですから。ね?」

「行かないで……」


 ……もしもーし? 聞いてます? あ、聞いてないんですね成程ね。

 しかし、この状況ちょっとときめくかも。

 だって、銀髪サラツヤの美女にハグされてますよ。

 双神子様が巻いた毛皮のふわふわ越しに、女神の谷間に顔埋めちゃってますよ。

 ぱふぱふですね。分かります。

 オレの場合はかっこよさは上昇しないきがしますが。

 いやもう、このふくよかで柔らかな良い匂いな谷間に埋まっていたいです……っていやいや、ダメだろそれ。

 人間として何かダメだろ。

 ああ、しかし父さん、乳枕の誘惑に負けそうです父さん……。

 その付けてるもこもこで隠さない状態で拝みたかった。

 絶対動くたんびにユッサワッサと揺れるんだよ。プルンプルンしてるんだよ。ばいーんでぼいーんですよ!

 三回拝んでワンって言ったら御利益がありそうな感じになってるんだよきっと。

 きょぬー好きに転向してしまおうか。

 リムりんは喜びそうだ。


 なんて、オレのスケベ心丸出しの思考は、消えそうな双神子様の声であっさり吹っ飛んだ。


「寂しいのです」


 泣き出しそうな子供みたいな声だった。

 オレみたいな人でないしの胸までズキリと痛むような、悲しそうな声だった。


「私だけ、独りなのは……嫌……」

「そんなことは……」


 だって双神子様には中央十騎士ファンクラブが居るじゃないか。

 守ってくれる人が。

 何をおいても貴方が一番大事だと迷い無く言ってくれる人が十人も居るのに。


「誰も助けてはくれない辛さは……貴方も良く知っているのでしょう」

「オレは……」

「耐えるしかない痛みを、貴方も知っているのでしょう」


 たたみかけるよな双神子様の言葉に、オレは口をつぐむ。


「怒りが悲しみに、やがて諦めに変わってゆく……理不尽だと嘆いても、貴方の言葉は誰にも届かない」


 黙り込んだオレに双神子様がそっと囁きかける。


「誰も耳を貸そうとしない……そうでしょう」

「……当然のことだと思いますけれど」

「当然だから、苦しいと思うのでしょう……当たり前のことは、ずっと変わらず続いてゆくことだから……」


 何処にも逃げ場が無いから。

 ここがどん詰まりだから。

 先も無ければ後ろも無い。行き止まりで、生き詰まり。


「それはとても辛いことでしょう」


 オレは答えない。


「苦しいでしょう」


 オレは答えない。


「楽になれるならなりたいでしょう」


 オレは答えない。


「死んで楽になれるならそうなりたいと思うほど、苦しんでのでしょう」



 オレは応えないことに決めた。


 

【作者後記】

悪戦苦闘の回になりましたが、結局こういう形になりました。

最初はもっとドロドロと重くする予定でしたが、ナカバに拒否されました。

おかげで立ち直りが予想以上に早くなりました。

無駄に強い子ナカバ。まさかポケモンに逸れて行くとは……。


ちなみに、ナカバの顔は左下の口をへの字にしてるタマタマ(ポケモン)に似てます。もうちょっと目付悪いですが……。


どうも今晩は、尋でございます。

初めての方もそうでない方もようこそおいで下さいました。

お気に召したなら幸いです。


では、ナカバがすごくナカバっぽい次回でまたお会いできることを願って。


作者拝

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