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猫耳論争とオレ

「とっとと歩け、お前遅くて邪魔」

「……」


 いつか殺そうと思います。

 ということで休みなく歩き続けてていやもう、何この徒競走。

 五十走るだけでも息切れするオレにどんな試練ですか。

 でも今喋ると体力の時間切れが早まるので何も言えません。

 おのれ、デュランの呪いか。

 取り合えず都合悪いことは全部デュランのせいにしながら、オレは何とかボーなんとかにくっついてく。

 てかマジで名前なんだっけ?

 ボー……、ボー……ボボ○ボーボボーボじゃないのは確かなんだけど。


 や、もうお前「ボ」で良いよ。今度からボ、な。


「あの、ボさん」


 あ、やっと止まった。


「……何だそのつるっぱげ系の呼び方」

「ボーさん?」

「もっとダメだろ! てか俺の名前覚えてんのか!」

「いいえ、さっぱり」

「……ボルナー」

「ナーさん」

「……」

「息切れしてるんで無理です」

「そんな流暢に喋る息切れがあって堪るか……チッ、妙なガキだな」

「ところでボーさん」

「……」

「おボーさん?」

「……」


 うん、やりすぎたか。


「じゃあナーさん」

「何で知らないガキに愛称つけられなきゃなんないんだ」

「いや興味無い人の名前って覚えにくかったりしませんか?」

「……じゃあお前はガキで充分だな」

「はい充分ですよ」


 笑顔で返してやったら渋い顔をされた。

 まぁ発言内容なのか、オレの笑顔に見えない笑顔のせいかどっちなのかは分からんけど。


「お前さぁ、何サマ?」

「一般人のお客様です」

「……。中央十騎士の意味分かってる?」

「取り合えず何か偉い人らしいけど自分には関係ないねププッ、ってとこでしょうか」

「このガキ……」

「はい」

「は?」

「だって今名前呼んだでしょう?」

「……もう良い」


 チッとか舌打ちして、そっぽを向くナーさん。

 ナー、って言うと何か可愛いよね。猫の鳴き声みたいでさ。


「ニャーさん」

「はぁっ?」

「いえ、ナーさんでした。語尾にニャーって付けると萌えそうだなとかちょっと思っただけです」

「お前がぁ? やめろよ気持ち悪ぃな」

「いえ、ナーさんが」

「もっと止めろ!」

「えぇ? 絶対に合うのに勿体ないですね。あ、猫耳は要らないです」

「付けるかぁっ!」

「ですよねぇ。あれ付ける位置で二大派閥に分かれてる危険な代物ですし。ちなみにオレは耳の位置派です」

「……」


 信じられない物を見るような目で見られた。


「あれ? 頭派だったんですかニャー……ナーさん。でもあの耳が四つの絵ってどうかと思うんですけど。耳が四つですよ? 鼻が二つ顔についてたら不気味ですよね? 頭に二つ、顔の脇に二つで耳が四つなんですよ?」

「勘弁してくれよ、何でオレがこんなとんでもないガキの案内しなきゃなんねぇんだよぉ……」


 泣きが入って来たので勘弁してやることにした。

 ふっ、この程度で音を上げるとは軟弱者め。修行が足りん。

 デュランが聞いていたら「何の修行だ」とか突っ込みそうなことを考えつつ、オレはよたよたとナーさんの後にくっついてゆく。

 まぁさっきあれだけ苛めたのでもう近寄ってこないだろうし。

 しかし、ナーさんは一応ちゃんと仕事はしてるっぽくて明らかにさっきと景色が違う。

 やっぱあのファリドさん、同じ場所回って時間潰してたんだな……。

 様々な形に刈り込まれた植木が並ぶコロッセオみたいなエリアに入って、オレはそう思う。

 さっきまでこんなの無かったし。

 あっちにはチェスの駒を模した刈り込みをされた木がざくざく並んでるし、こっちには動物を模した木がある。

 他にも木で出来た(生きた植木でね)ティーセット、人物像、魚、天秤なんかの雑貨シリーズ、剣とか弓矢の武器シリーズ、どこぞのテーマパークに出て来そうな建物のミニチュア版植木とか、うん、凝ってるなぁって感じだ。

 それが円形段々畑なところのあちこちに置いてあって、真ん中はでっかい日時計っぽいものになっている。

 なんだろう? 日時計っていうよりあれカレンダーかな?

 取り合えず傍にいた馬の植木によっかかってオレは一息つく。

 残念ながら本物の馬じゃないので乗れないし、寄りかかるとチクチクしますけどね。いや、本物の馬なんて映像でしか知らんけどさ。


「ガキ」

「何ですかナーさん」

「ここから動いたら首が落ちるからな」

「はい、質問」

「……何だ」

「ここで餓死したら景観的によろしくないと思います」

「質問じゃないじゃないか……とにかく、俺が戻るまで余計なことはするな。分かったな。死にかけても助けないからな」

「あ、それ」

「まだ文句あんのか」


 いや文句つけた覚えは無いんですけどね。


「さっきもファリドさんが似たような事」

「はぁ?! 俺とあの爺のどこが似てるって?」

「オレの話を最後まで聞かない辺りそっくりですね」

「……続きを言え」

「や、それってさっきの中央十騎士は回復魔法は使わないって話と関係するのかなぁと」

「はぁ? お前頭悪いな」


 ……。


「相手のレベルを見て、判断して、分かるように説明する事もできないんですか。へー。ふーん。ほー」

「……ちっ」

「けっ。ぺっ」

「つば吐くな!」


 吐いてませんよ。さすがに。

 言ってみただけです。


「中央十騎士が何かも分かってねぇからそういう馬鹿丸出しの馬鹿発言するような馬鹿になるんだよ」

「で?」

「ちっとも応えてねぇな……つまり、中央十騎士はご主人様の為だけの存在なんだよ。他の奴なんかに魔法なんてもったいない真似するはずないってこと」

「?」

「くそ、これでも分からないか」

「はいまったく」

「極端な話、呼吸するのも生きるのも死ぬのも全てご主人様の為。他の奴の為には指一本も動かさないのが中央十騎士ってもんなんだよ」

「ほーほー」


 ほけきょ。

 納得した。

 つまり、ご主人様の為なら指のささくれだろうが、足の魚の目だろうが喜んで治しますワンワン。

 でもその辺のクズ(つまりオレ)の為には瞬き一つだって惜しいぜあっち行けワンワン。

 こうですね。

 そんなの十人も侍らせて何がしたいんですか双神子様。貴方を見る目が変わりそうな気がします。


「で、そろそろ良いか。あまりお待たせしたくないんだけど」

「あー、はいすみませんでした。教えていただきありがとうございました」

「……ちっ」


 えー、何その態度。

 何で素直にお礼を言ったのに舌打ちされにゃならんのでしょう。理不尽だ。マダム・リーに説教されてしまえ。

 ついでにバーコード禿げになって、顔は綺麗なのに残念だよねぇって言われるようになってしまえ。

 何か中央の日時計もどきをガチャガチャやってるナーさんの後ろから呪詛を送ってると、暫く何かやっていたナーさんがこんどはずかずかと大股で戻って来た。


「おい」


 いや、寄ってこられたら逃げますよ。


「待て」

「無理です」


「待てって。動いたら首落すつっただろうが」

「じゃあ、落されないように逃げます」

「ちっ、めんどくせぇ……」


 ぎゃー! 何か急につかまったー!


「ジャムおじ○ーん! 新しい首をー!!」

「うるさい!」

「画面の前の皆さんさようならー! ばーいばーいき○ん!」

「……こいつやっぱどっかおかしいんじゃねぇの?」


 うん、ただのノリですから意味は無いのですよ。


「あ、ちなみにオレの体って掴まれるとちぎれますんで、運搬にはリュックを掴んでおくのがお勧めです」

「チッ」


 舌うちはしたけど律儀にリュックに持つ場所を変えて、ナーさんはオレをずるずると引き摺ってゆく。

 うん、お勧めといったけどマジで引き摺られるのはちょっと予想外でした。

 ま、いいやー。靴脱げなきゃ問題無いし。

 あ、スカートの裾が地面に……いやまぁさっきジベタリアンしたばっかだから今更か。

 後でリムりんに叱られそうだなーとかつらつら考えて、オレは何と無く頭を捻って行き先を見る。

 あ、首ちゃんと付いてますよ。まだ。

 ほらほら、ね?

 ……って、誰も見てない状況でやってもむなしい。

 はやくデュラン帰ってこないかなぁ。

 突っ込み要員としてナーさんは微妙に物足りないんだもんよ。


 ……って、何か行き先が思いっきり植木な気がするのは気のせいですかね?

 いや、シャレじゃなくって。


「あのー、どこに行くんですか」

「煩い」


 言ってるうちにみるみる緑の群れが近づいてくる。

 ナーさんがぐっとオレのリュックを掴み直す。

 そして、無造作にオレをクイーンの植木に向かって投げ込んだ。ってえええー!



「くれぐれも粗相のないようにな」



【作者後記】

ナカバはああ言ってますが、派閥があるかどうかは知りません。

そしてぶっちゃけどっちでも良い……あ、こんな時間に誰か来たみたいだ。


誰かをお待たせしつつ今晩は、尋でございます。

初めての方ようこそ、いつもの方いらっしゃいませ。

どうもお世話になっております。

暑い最中、こんな人外魔境までお越しいただき誠にありがとうございます。

…ま、随分呑気な人外魔境ですけどね。お化け屋敷の方がまだ殺伐としてますよ。


さて、次でまた一人増えます。

綺麗なおねいさんは好きですか? 私は大好きです。


では、待たせてる何者かのところにちょっと逝ってきます。


作者拝

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