言葉遊びとオレ
飲み物も選んで(リムりんのホットメロンスープは止めさせました。あれヤバイ気がする)、トレイに山盛りのっけて席に戻るとデュランが暇そうにライターを弄ってた。
「禁煙だから」
「ん? あぁ、お帰り」
ライターを胸ポケットにしまうデュラン。よろしい。
ご褒美に目の前に真っ赤なマグカップを置いてやると、妙に嬉しそうな顔をした。安い男め。
オレ達もトレイを並べてご飯です。いただきまーす。
デュランは珍しそうにドーナツを眺めて、でもやっぱりコーヒーから先に口をつけていた。どうやら気に入ったみたいだった。てか、ポンデ食べないのかな……。
じーっと見てると目が合った。あ、気付かれた。
「……これが好きなのか?」
「うーん、けっこう。もっちりウマウマですよ」
「ふむ」
デュランはオレの返事に少し考え、それから何か納得したのか一つ頷いてから抹茶ポンデをちぎった。
そして大きい方をオレに差し出す。
「ほら」
「良いの?」
やったー。貰っとこう。
デュランは残った欠片を口にして、「ふむ」とか何とか言ってる。
「うまい?」
「あぁ、良いな。ありがとう、気に入りを勧めてくれたのだろう?」
「まぁ気に入らんの押し付ける事はしないしね」
「ふむ……」
オレの言葉にデュランは少し考え、
「コー「要りません」
あんな苦いもん飲むか。
デュランが「これは苦味が美味だというのに」とかブツブツ言ってるけど無視してオレンジジュースを飲む。
お子様味覚だろうがほっといてくれ。
「それにしても、デュランさんって美人ですよね」
リムりんがにっこりエンジェルスマイルを浮かべる。
その手に持っているのが赤と緑と茶色が入り混ざった玄米たっぷりタコライスドーナツでも絵になるのが美少女補正って奴だろう。
その言葉にデュランがこれまたキラキラ背景効果がつきそうな――いや、ついてないけど、上品な笑顔で「ありがとう」と卒のない言葉を返す。
ま、かるーく口の端がひきつってたのは見逃しませんでしたけど。
アンタ、自分の顔とか見た目誉められるの大っきらいだもんね。
ザマーミロ。良い気味だ。
「お仕事は何をされているんですか?」
「ん? 私に興味でも?」
キラキラ成分さっきの二割増しで女神さまの微笑みを浮かべて首を傾げたデュランにリムりんが「うっ」と呻いて顔を赤くして目を逸らす。
あぁ、分かるよ。殺意沸くもんね、あの美形っぷりは。
「手強い……っ」とか小声で呟いてるリムりんにオレは「がんばって」と視線のエールを送る。
バトンタッチ、代打ヴィーたん。
「その服、素敵ですね」
「あぁ、ありがとう」
「『SENSES』ですか?」
「良くご存じで」
クス、と艶めかしく笑むデュラン。
手に持ったオレンジジュースをぶっかけるのを我慢したのは、お店の人に迷惑だからだ。
「お好き、ですか」
「あぁ……実は友人がここのデザイナーでな。新しく作るたびにお前が着ると宣伝になるから着ろ、と送りつけて来るのでな。一種のモデルのバイトのようなものだよ」
「……筋は通りますね」
「筋を通すのが付き合い方の基本だろうからな」
「てか、デュランバイトなんてするんだ」
「するぞ」
オレを見て「何を言ってるのやらこのチビは」と言う感じで肩を竦めるデュラン。あ、殺意が……。
「今何か脳内補完しなかったか?」
「いーえ、別に。小さくて悪かったな……」
「あぁ、背が高くて足が長くて悪かったな」
言ってすぐにサッとマグカップを後ろへ避難させるデュラン。空を切るオレの手。
チッと舌打ちするとデュランが勝ち誇ったような顔でニヤッとした。
ぎにゃー! 腹立つーっ!!
「このやろー、お前なんてポンデだー!!」
「全く……ナカバは意味不明だな。理解不能だな。人事不省だな」
「勝手に人をこん睡状態にしないでもらおうか、この年齢不詳」
「だから二十四歳だと言っているだろう、永遠の」
「煩い黙れこのアイドルシェイク」
「何味だそれは?」
フェイクの言い間違いだって分かってるくせに突っ込むか、この性悪め。
テーブルの下で足を伸ばし、けっとばしてやったら逆に何が受けたのか笑われた。こんちくしょー。身を乗り出してぐいぐいーっとデュランの耳を引っ張る。デュランは逆に大受けして笑っている。
くそぅ……。
疲れたので椅子に座り直し、口直しにオレンジジュースを飲む。
と、オレ達のおバカなやりとりに呆れたのか、リムりんがふぅと溜息を吐いた。
「仲が良いのね、ナカちゃんとデュランさん」
ぶぺっ。
「ナカバ、汚い」
「ナカちゃん……そんなに噴き出すくらい慌てなくても」
「ナカ吉、お手拭き使いますか?」
マジごめん。拭きますよ自分で。
「で、え? 何だって?」
「ううん、仲良いなって思ったの。ナカがそれだけ人に打ち解けてるところ見るの久しぶりだもん」
ちょっと妬いちゃうなぁとか可愛い事をリムりんが言ってるけどちょっと待って、打ち解けるって何さ。
あぁ、今の遠慮のない地金剥き出しサビでもカビでもどんと来い状態の事デスカ?
うーん、まぁ確かにオレがこんな風に他人に接するのは珍しいかもしれない。かもしれないけど、これは不可抗力だ。
何せ魔界に行ってた時はオレの思考は基本デュランに駄々もれ、プライバシー保護ゼロ、ネコなんか被るだけムダな感じだったのだ。
まぁ、それなので開き直って口なり手なり足なり出してたノリがまだ残ってるだけであって、けっしてこれを「打ち解けてる」とは呼ばないと思う。
「もしかしてデュランさんってナカちゃんの彼氏?」
「げふっ……リムりんはオレをコロス気デスカ?」
「ごめんごめん」
「コレがそんなモンになった日には人類滅ぶからね? マジで、冗談抜きで!」
「分かってるって。ナカちゃん美形アレルギーだもんね」
「いや、確かにこの手の顔見ると寒気に鳥肌、頭痛、吐き気、動悸、息切れ」
「気つけに○心」
「お前はちょっと黙ってろ」
立ち上がって襟首掴んだオレにデュランは愉快そうに笑うばっかりでまるで取り合う気配が無い。
「ねぇ、リムりん。仲良く見える? これが見える? ねぇ?」
「うーん……お兄さんと妹みたいには見えるけど」
「兄弟げんかのようですね」
実態は生ける古代のミイラと、生後数秒のヒヨコみたいな関係ですけど。こいつ数千歳だし。
「仲良いとかあり得ないから」
「あり得ないのですか?」
「らしいな」
「ヲイ当事者。何他人事っぽく言ってるんですくぁ」
「私はナカバを気に入っているからな」
ぶぺっ。
あ、これはオレじゃないです。周りの気の毒なお客さん達、あんど従業員さん達が噎せた音だ。
そんな爆弾発言を落としておいて、デュランは優雅に微笑んで足を組み替える。
「この珍妙な言動が見ていて見飽きないからな。とても面白い」
「やっぱりオシツオサレツ扱いか!」
「あ、ちょっと気持ち分かるかも……」
「ブルータスお前もか!」
うわーん、ヴィーたーんと取り合えずヴィーたんに抱きついておいた。
律儀なヴィーたんは困ってたみたいだけど、ぎこちなく「大丈夫です、ナカ吉は人間ですよ」とずれた慰めを言ってくれた。……微妙に喜んで良いのか微妙だな、コレ。
「じゃあ、恋愛感情はお互い無いのね」
……はい?
「レンアイカンジョー……?」
「勘定奉行」
「……奉行所」
「所得格差」
「……格差社会?」
「社会貢献」
「えーっと、貢献……貢献……ってしりとり違う」
びしっとデュランの後頭部に一撃入れて置いて、オレは「うーん」と唸る。
「や、ムリ」
「そうなの?」
「うん、ムリ。生理的に無理」
てか、魔族ですから。見た目こんなんでも「真の姿」とやらは別ですから。
「デュランさんも?」
「年下には興味が無いな」
アンタより年上って幾つだよ。一万と四十二歳の閣下ぐらいしか思いつかないよ。
「ふぅん……」
何を納得したのリムりん? 聞くのがすっごい怖いんですけど。
そしてさりげなく完食してるヴィーたん。
「他にご質問は?」
マグカップの中のコーヒーを飲み干し、デュランは振り返り硬直してる店員さんに「お代わりをお願いできるか?」と笑みを向ける。
三人ぐらいすっ飛んできた。
しかも、先陣争いしたせいでマグカップが傾いて、うん、まぁある意味お約束な感じに。
「あちっ!」
「ナカちゃん!」
「ナカ吉!」
「申し訳ございません!」
「あー、いや良いです……」
店員さんが真っ青になるけど、まぁしょうがない。デュランだし。
厚手の生地だったから火傷するような事は無いし……ただ、色ついちゃったな。
「ナカ吉、大丈夫ですか?」
「んー……ちょっとお手洗いで洗ってくる」
落ちない気がひしひしとしますけど。
くそぅ、デュランの疫病神め。今日は碌な事無いな。
オレはぶちぶち言いながら、大きく茶色の染みがついてしまったパーカーの端っこをひっぱりつつトイレへ向かった。
【作者後記】
遅くなりましたどうも、作者です。
ご来訪ありがとうございます。
ちょっと明日は更新できないかもしれません。
取り急ぎUPとお礼とご報告まで。
作者拝