迷走抵抗とオレ
何かさっきここ通らなかっただろうか。
オレは何やらまだ語ってるファリドさんの後ろについて行きながらふと思う。
記憶力に自信が無いので断言出来ないが、あの辺の卵そぼろには見覚えがある気がするし……あっちにはシロップの元が居る。
うーん?
やっぱり見覚えある気がするんだけどなぁ……。
いや、ここ一応侵入を防ぐための迷路らしいから、わざと似たような景色が繰り返されてるのかもしれんけどさ。
オレの記憶力って基本当てにならないっつー悲しい現実もあるしなぁ。
あ、あれ食っちゃいけない奴だ。
……そう言えば今更だが、何故オレへの説明にあ奴はいちいち食える食えないとか付けてたんだろう。
いや、道草はくっても道の草は食いませんよ?
山羊じゃねぇし。
……や、山羊は草じゃなくて紙食うんだっけ?
ちなみにパンダは笹だけじゃなくて肉も食えるとか食えないとか。流石シロクロの熊。
怖いよパンダ。
じゃ、な、く、て。
いや、本当にこの調子でオレ、ミレイの庭に行けるのかなぁ……。
ものすごく先行き不安なんですけど。
案内がこの二人ってのもなぁ……普通中央十騎士とか偉い人の案内とかって恐縮しても不安は感じ無くね?
人類の味方のはずの中央十騎士の案内より、人類の敵こと魔王様の案内の方が安心感あるってこの状況。
結構問題あると思うんですけどね。
てかさぁ、ぶっちゃけこいつらオレを案内する気ねぇんじゃね?
喧嘩の方が興味あるっぽいしさぁ。
もうそういう話なら、道教えて貰ってオレだけ先に行くとかアリじゃないですか? アリですよね?
そうですか、ナシですか。
くそう、何だこのストレスフルでワンダフルな状況。
いやいや、めげるなオレ。
そんな事じゃミレイ好きを名乗れないぞ。ねばれオレ、頑張れオレ。とりあえず突破口を探せ。
ってことでまずファリドさんに聞こうかとも思ったけど、これは無駄っぽいから却下。
そうすると、質問候補は一応もう一人の方か……。
オレはさっきから嫌そうにファリドさんから顔を背けてるイケメン(呪われろ)を見る。
うーん、こいつもわりとビミョーなラインだけど、ファリドじいちゃんよりマシかなぁ?
にしても、こっちは随分若く見える。
オレらと同じぐらいかな?
いや、ファリドさんの百八十歳の例もあるから実際何歳かは分からないけどさ。
後はあれだ、天使のような美少年って奴。
デュランには負けるけどサラツヤの金茶の、細いふわふわした髪の毛。緑と青の混ざった大きな目は例によって無駄まつげが長い。
んで、垂れ目。
すらっと細い優男風と見せかけて、実は細マッチョ的な?
全体的に少女マンガチックな王子様、ただしちょっとひねくれ少年成分入りって感じ。
はい、美形ライン、スリーアウトー! 誰か交代してー!
……ふっ、空しい。
まぁ現実逃避するのは後にして、良く考えるとどこぞの見境なしにフェロモンまき散らしてる魔王様に比べればまだ人間としてマトモなレベルだ。
そう思えばちょっとはあの無駄に長い足に後ろから膝カックンかましたい衝動を我慢できる気がする。
睫毛の長さだけはタメ張りそうだけどな。
お前ら揃いも揃ってそんなに睫毛の長さ大事か?
ラクダですか?
睫毛なんて、目にゴミはいらねぇ長さあれば充分だろ訳分からん。
いっそ切るか。
ラジオペンチで。
そんな呪詛(あれ? 元々何しようとしてたんだっけ?)を心の中で呟いてたら、心底面倒くさそうな顔で若い方(ボーなんとか)がこっちを振り返った。
そんで、先程から何やら一人で盛り上がってるファリドさんに「おい、おっさん」とぶっきらぼうに声をかける。
「あんたさぁ、そんなにその何? デュランだっけ? に会いたいならそっち行けよ」
「……何だ急に。どういうつもりだ」
「どーゆーつもりかは俺が聞きたいね。案内の癖に何で一匹しかいねぇんだよ、ってな」
「デュラン様なら問題ない」
「俺はさぁ、お前に問題があるつってんだよ、おっ、さ、ん」
見た目は天使や王子様でも、中身はこんなもんらしい。
棘のある、攻撃的なボーイソプラノにオレはちょっと距離を取る。
うん、こう言うの苦手ですから。近寄らずですよ。
「片方野放しにして、それでよく仕事しろとか他人に言えるよな、もうボケてんのかよ? え?」
「配慮の足りぬ若造に言われたくないですね」
……。
ちっ。
後でデュラン呪う。絞める。でもって何か恥かかせる。嫌がらせしてやる。呪われろ、くたばれ美形。
心の中で十回ほど呪いの言葉を繰り返してからオレは「空気の読めないお子様ですよ」って顔を作って切り出す。
「じゃあ、ファリドさんお迎えに行って来て下さい。オレもデュラン一人だと心配ですし、そちらの人も心配みたいですから」
あえて心配の意味を履き違えて、オレは何も気づいてませんよという顔で二人を見る。
悲しいけど馬鹿な子供の役は得意だ。
オレ賢くないから、殆ど地で行けるのさ……ふっ、空しい自慢だ。
「デュランも、お友達のファリドさんが迎えに来てくれた方が喜びそうですし」
あの魔王が「お友達」とかそんなタマじゃねぇのは分かってるけどね。
てか、二人いるうちのファリドさんの方を差し向けるのは本当は得策じゃねぇんだけどな……ファリドさんは一応オレへの保険としてデュランが置き土産してった人だし。
ただ、この場合動かしやすいのがファリドさんだってのはどうしようもない事実だ。
実際、オレが分かり易く投げかけた餌、『お友達』って言葉にパァッって顔が明るくなってるし。
うん、ここまで効果抜群だと軽く退くな……。
「しかし、デュラン様からは案内をと……」
あ、一応その辺の自覚はまだ残っていたのか。消し飛んでるのかと思ってたけど。
オレは考え事するようなふりをして、顔を俯ける。
こう言う時にオレの目付の悪さがあだになるのはよーく知ってますから……べ、別に傷ついてなんかないんだからねっ!
……よし、今日のツンデレノルマ終了。
「案内ならもう一人の方が来て下さったみたいですし……デュランが心配ですし……」
ざ、曖昧な語尾。
空気を読まず、肝心なところはぼかす。見事に弱者の戦法だというのは分かってる。
けど、オレは魔王じゃない。
その反対側。十四歳の、何もかもが中途半端な小僧でしかない。
弱いなら弱いなりの戦い方を身につけるしかない。
とりあえず今拙いなりに使えるスキルをフル活用して、オレは後は反応を待つ。
かかれ。
かかれ。
ひっかかれ。
「まぁ、それならば仕方ない」
かかった。
オレは安堵を見せないように注意しながら、「ありがとうございます」と頭を下げる。
腰を低くするのもそうだけど、声や表情をコントロールする自信が無いからだ。
その姿勢のまま言う。
「デュランを宜しくお願いします」
むしろデュラン、こいつよろしく。
お前こういう手合い慣れてるだろ?
心の中でそっと奴にハナムケの言葉を送っておく。大丈夫、草葉の陰から見送ってやるからな。
スキップでもしそうな勢いでそそくさと離れてゆくファリドさんを、オレは笑顔で見送った。
やー、すっきりした。
「お前、腹黒いな」
何か失礼なことを言われた。
【作者後記】
ナカバは自分は腹黒くないと思ってます。
賛成するかどうかはお任せします。
さて、今晩は尋でございます。
いつもお世話になっております。今後ともよろしくお願いいたします。
身の危険より精神的疲労の軽減をとったナカバですが、この選択が吉と出るか凶と出るか。
……どっちに出てもさらっとスルーされそうな気もしますな。
さて、別行動のデュランはもう少し放置したまままだ続きます。
この一日が一番長くなりますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
作者拝