新旧対立とオレ
新と旧と、どちらが正しいとか良いって問題では無いんですけどね。
「……」
「……」
「……」
「……」
会話がありません。
黙々と進むファリドさんの後ろに三尺下がって影を踏まずにくっついてってます。
や、一応ファリドさんも時々振り返ってオレが遅れてると立ち止まって待ってくれるますよ?
でも、それ以上に向こうから近寄ってくることもない。
嫌われてるとかじゃなくて、単純にデュランが釘刺してたせいなんだろうし、実際あまり近寄られても困るんでそれは助かるんだけどさ、これじゃなんか案内っていうより先導してるって感じだな。
肝心のミレイ庭園の目印になる桜も、さっきから探してるんだけど何処に在るか分からんし、色々咲いてる植物の名前とか由来もさっぱりだ。
ただ「あ、綺麗だなー」で通り過ぎるだけ。
別に普段ならそう言う感じでも良いんだけど、さっきのデュランのガイドを受けた後だと、ちょいと味気ない。
それと、ファリドさんが先導してくれるのはありがたいんだけど歩くの速すぎる。
何? さっき置いてったことの意趣返しですか?
呼びとめようにもずんずん進んでくからタイミングがつかめない。
しょうがないから、ファリドさんが立ち止まって振り返った時を見計らって、オレも足を止めた。
「如何されましたかな」
「あー、えーっと……ちょっと体力切れっつーかですね」
てか百八十歳なのにきびきび動き過ぎですよファリドさん。
オレはちょっと膝に手を着いて息を整える。
はー、しんど。
ぜーぜー言ってるオレにファリドさんはやっと気付いたようで「すみませんな」と眉尻を下げた。
うん、もう少し早く気付いて欲しかったですよ。
デュランの察しの良さはちょいと異常だからあそこまでなれとは言わんけど、もうちょっと早く気付いて欲しいぜひゅー。
「あのー、座って良いですかね」
「良いですよ。では今椅子を」
「いやいやいやいやいや、良いでしゅから……」
や、今の葉別に赤ちゃん系にキャラがえしたんじゃなくってですね。
息が切れてもう舌が回らないと言うか……良いや、もう座っちゃえ。
オレは肩で息をしながらぺたーっと地面に座る。
ジベタリアンばんざい。
はー、ケツ冷てぇ……気持ち良い。
「大丈夫ですか?」
「あー、まぁ……魔法とか良いんでほっといて下さいね」
一応先に言っといたら、何故かファリドさんは苦笑した。
うーん、苦笑いまでダンディだな。ヴィーたん好みだ。
「大丈夫です。頼まれても出来ませんから」
「それってどう言う」
「十騎士が一般人の為に力を使うわけないでしょ、馬鹿じゃないの」
今馬鹿つったの誰だ。前に出やがれ。
とか心の中でこっそり言ってたら本当に出てきた。
うわ、すっげー生意気そうだなガキ。おまけに目付悪いし、感じ悪いし……あれ、お前もしかしてオレじゃね?
や、冗談ですけどね。
「ボルナー……今まで何をしていたのだ」
「仕事してたに決まってるでしょ。おっさんこそ仕事ちゃんとしなよ。遊んでないでさ」
名称不明のガキの言葉にファリドさんの眉間にしわが寄る。
怒った顔もダンディですなファリドさん。
「遊び歩いているのはお前の方ではないか。いつも勝手に出歩きおって。全く最近の若いもんは」
「あーあ、また始まった。老人の僻みって嫌だね」
「ひよっこが何を言うか」
……えーっと。
もしかしなくてもこれは仲悪いってことですかね。
まぁ同じ職場だからって皆が仲良しってありえねぇよなぁ。しかし、ここまで堂々と部外者のオレの前でここまで堂々と不仲見せつけて良いんだろうか?
さすがにまずいんじゃないか?
そう思って、オレはとりあえず「よっこいせ」と呟いて立ちあがった。
それにファリドさんがはっとしたようにオレの方を見る。うん、今まで完璧に存在忘れられてたな。
「あ、これは……お見苦しいところを」
「何、まだ居たんだ」
「休憩とっていただいてありがとうございました。もう歩けますから」
二人目の発言をスルーして、ついでにさっくり今までの流れもスルーして、オレはファリドさんにお礼だけを述べておく。
むしろ二人目あうとおぶがんちゅー。誰が好き好んで美形男なんか見るもんか。
「おいチビ」
……。
「何ですかガキ」
ギン、と睨んだら敵意満々に睨み返された。
なにおぅ、ガンつけるとは……負けるか! とさらに睨み返したら何故か不貞腐れた。
良く分からんけど勝った気がする。
「ボルナー! ただ人相手に殺気を振りまく奴がいるか!」
「だってこいつ生意気だ」
「そんな理由で」
「あーのー」
手を上げたら両方から不可解な物を見るような目で見られました。
いや、オレの方がむしろお前らのことが分からんよ。これが階級の差ですか?
ま、今はそのことは後回しで良いんだ。後でデュランに聞けば良いし。
それより今は別の件が控えてるし。
「殺気とか良く分からんので正直どうでも良いです。十騎士の品性とかもどうでも良いです、てか興味ないんです。そもそも十騎士とか良く知りませんし、知りたいとも思いませんし。なんで、とりあえず案内続けて貰って良いですか?」
今度は珍獣を見る目で見られた。
何? 何か文句でもあるんですか? ごく普通のことしか言ってませんよ?
てか、オレの言ってることは形式上は確認でも、はっきり言えば「さっさと仕事しろ」ってことですから。
内輪もめならオレが居なくなってからやってくれ。
そういうオレの思いが通じたのか通じなかったのか、とりあえず中央十騎士二人(だよね? もう一人が正体不明だけど)による先導が再開しました。
しっかし、後ろから見てても分かるこの不仲っぷり。
どうにかならんのかね?
上司らしい黒の君(オレの予想が正しければ「あの方」なんだけど)も、どういうつもりでこの二人をデュランへのお使いにしたんだか分からんな。
もしかして嫌われてるのか? デュラン。
「ところで」
うわ、びっくりした!
いきなり話しかけてきたファリドさんから全速離脱して距離を取ったら、ファリドさんの眉がまた下がった。
いや、うん……びっくりしたからですよ。本当にそれだけです。
「近寄るな、でしたな。失礼」
「あー……いえ、びっくりしただけですから。それで何ですか?」
さっきまで黙りっぱだったのに、今更何を話しかけて来るのか。さっきの内輪もめの詫びか?
そう考えてたら、ファリドさんは少し迷ってからダンディな笑みを浮かべてこう聞いてきた。
「デュラン様とのお付き合いはもう長いのですか?」
あー、そうきますか。
オレは置いて行かれないようにせかせかと足を動かしながらそう思う。
ふーん、そーすかそーすかそーですか……や、まぁ良いですけど。
ただ思惑にのるもの微妙にイヤだったんで、オレはとりあえず「長いんですかね?」とすっとぼけてみる。
「ファリドさんは昔からのお知り合いなんですよね?」
そして間を空けずに質問返し。
「それなりですよ」
「そうですか。凄いですね」
間髪いれずにヨイショしておく。
何が凄いのかとかつっこんじゃいけない。オレも分かってないから。
するとファリドさんは分かり易く照れた。
……。
あんの男誑しめ。本当に見境ねぇな。死ねばいいのに。
「黒の君がデュラン様をことのほか気に入っておられるのです」
「ほぅほぅ」
「今まではその見目麗しさを愛でてらっしゃるのかと思っておりましたが……今日納得しました」
「納得って、何がですか?」
「あの方も特別な選ばれた存在だったということです。もっと早く、百年前のあの時に気付いていれば色々と違ったのだろうと思うと、今まで惜しいことをしてましたな……」
何やら熱っぽい表情で熱く語るファリドさん。
ふーん。何がどう惜しかったのやら。
まぁデュランはあれで結構お人良しと言うか、側近さんいわく「人間贔屓」の魔王様だからファリドさんが何しても笑って流すんだろうけどさ。
嬉々として何か喋っているファリドさんに適当に相槌を打ちながらオレはそろっと視線を脇に逃す。
しかし、今までは「顔が良いからって上手く取りいってた奴」だと思われてたと知ったらデュランはどんな顔するんだろ?
やっぱり嫌そうに「誰の顔が良いだと? 冗談も大概にして欲しいものだな」とか言うんだろうか。
その様子がリアルに思い浮かんで、オレはこっそり笑いをかみ殺した。
何だか急に、早くデュランの顔を見たくなってきた。
【作者後記】
せっかく登場したのに影が薄いボルナー君。
まぁ、ちゃんと見せ場は作るつもりです。後二人程登場人物を増やしたら、多分それ以上は増やしません。
と、予告したところで今晩は、尋でございます。
いつもの方もそうでない方もようこそいらっしゃいました。
感謝、感激、雨あられ雷にはこの時期注意しましょう。
(と、知り合いに送ったら「やかましい」と返信されました。そんなつれないトコロもグッドだ我が友よ)
30度を超える真夏日でも世間様は節電とやらでなかなか涼しくなりませんが、どうかお体気を付けてお過ごしくださいね。
さて、せっかく二人きりデートのハズがさくっと別れたナカバとデュラン。
まだしばらく別行動ですが宜しければお付き合いくださいませ。
作者拝




