表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/108

桜花探花とオレ

食べられます、食べられません。

「あれが更紗空木、食用では無い」


 ほむほむ。


「その隣が梅花空木、これも食用では無い」


 なるほど。


「夏椿、食用では無い」


 ふむ。


「マルス……別名クラブアップル、一応実が食べられる」


 ほほぅ。


「クレマチス、食用では無い。それからクリスマスローズ……これは食べてはいけない」


 デュランがゆっくりした速度でオレの隣を歩きながら、オレが視線を向けた植物を一つ一つ説明してくれる。


「じゃあ、あっちの金色シャワーみたいなのは?」

「あれはエニシダだな、食用では無い」

「あそこの赤い葉っぱの奴はモミジ?」

「あれはサトウカエデだ。あの木の樹液がメープルシロップの原料だ」

「そっちの卵そぼろみたいな奴は?」

「アカシアだな。食べられるぞ」


 うーん、なかなか桜が見つからない。

 一応携帯で検索して画像は取り込んでるんだけど……お?


「あ、あれ桜だろ!」

「あれは花桃だ。一応食べられる」

「じゃああれが桜?」

「それは木瓜だ」

「いや、ボケても突っ込んでもねぇし」

「違う。木瓜という品種だ……実で酒が作れる」

「じゃあ、あっちが桜だ」

「あれは蝋梅だな……食べられなくもない」

「じゃあ、あれが桜?」

「あれはアーモンドだな。食べられるぞ」

「……」

「いっそすがすがしいまでに見事なハズレっぷりだな」

「桜はどこじゃー!!」


 ぎゃーすと叫んだオレの隣でデュランがクスクスと笑う。

 うん、てことで現在、『双子の庭園:黒』の中に居ます。まだ内苑じゃなくて緩衝地帯な。

 何でオレが桜を探してるのかっつーと、さっきデュランが「ミレイの庭への目印は桜だ」とのたまったせいだ。

 桜がどう目印になるのか分からんけど、しかしオレのミレイマニア魂なめんな! 必ず見つけてミレイの庭に行くぞ。おー!

 ……って思ってるのに、何この桜もどきの数。くそぅ。


 いや、言い訳っぽいけどしょうがねぇんだよ。だって、ここすっげぇ植物の種類多いんだもん。

 入ってびっくりしたね。

 季節外れの花なんかが平気で咲いてるんだもん。

 デュラン曰くここは実は元は果樹試験場で、植物の状態を好きなところで止めたり、繰り返したり出来るんだそうな。へー。ちなみに今はここは果樹試験とかじゃなくて、時計塔から出られない双神子様の心を慰める為の大きな花瓶になってるらしい。ふーん。

 こんなに沢山必要なのか、と思うのは貧乏人のひがみだろうか?


「てか広いなー」

「外苑に比べれば当然狭いのだがな」

「何でこんな緩衝地帯みたいのがあるんだ?」

「まぁ一応外敵が直ぐに時計塔に入らないように一種の迷路になっているということだ。ここから内苑に入ってしまえば時計塔まですぐだからな」

「ほほぅ?」

「逆に言えば、正しい目印をたどらなければ内苑に……ひいては時計塔へは辿りつけない。お陰で、新人の中央十騎士などは迷子になる者も偶に居てな。ふふ」


 クスクスと笑うデュランの目が一瞬悪戯な色を浮かべてファリドさんを見た気がするけど……うん、あの人の名誉の為に気付かなかったふりをしておこう。


「そんなに分かりにくいと大変じゃね?」

「まぁ、あまり簡単に分かるようでは防衛の意味が無いからな。だが、注意して見て居れば色々なヒントがあるのだぞ。例えばあそこの……」

「……デュラン様、そんな気楽に機密をばらさないで下さい」


 さすがにファリドさんに止められました。

 ちなみにファリドさんのこと、オレはちょっと知ってるのですよ。

 中央十騎士第四位、ファリド。

 式典で双神子様の代わりに出席するのがこのファリドさんと、第三位のアールアーレフさん。

 ちなみに四位ってのは中央十騎士の中で四番目に偉い人ってことだ。

 でも、そのお偉いさんは今、デュラン(とオレ)が案内無視してガンガン先に進んでる(そして多分正規ルートも外れてる)せいで後ろを着いて来るので精いっぱいって言うか……思いっきり振り回されてます。

 さすが魔王。中央十騎士も翻弄しますか。

 って違うか。


「お願いですから、勝手に行かないで下さいデュラン様」

「何だ……この前はお前が勝手に行って迷子になっていたのを探してやっただろう?」

「デュラン様……」


 苦りきった顔をするファリドのおっちゃん。困った顔がちょっとチャーミングだ。

 オレの父親よりちょっと若いくらいかな。

 五十……はいってるよな気がする。いや、おっちゃんの年齢って正直良く分からんけど。


「しかし、ついこの前まであんなに小さかったのに……大分背が伸びたな」

「今はもう縮んでおります……本当に、貴方はあのデュラン(・・・・・・)なのですか?」

「ふふ、さてどうかな?」


 意地悪く笑うデュラン。あぁ、何か生き生きしてるなぁ。

 どうもデュランはこの手の真面目な人をからかって遊びたがる悪癖があるらしい。

 え? オレ? オレは真面目な人を弄んだりしてませんよ?


「てか、どう言う関係?」

「あぁ、前にここに来た時の案内役だ。どれくらい前だったかな……まぁ、とにかく最近だ」

「最近など……もう百数十年ほど前です」


 ばあさん飯はまだかいの?

 いやですねぇ、おじいさん。さっき食べたじゃあありませんか。


 そんな光景が頭をよぎった。

 ん?

 今、百数十年つったか?


「あの……ファリドさん? で良いんですかね」

「構いません。何か?」

「失礼ですけどおいくつなんですか? うちのじいちゃんより若く見えますけど……」

「今年でもう百八十になります」

「はぁっ?」


 いや。いやいやいやいやいや、年上に失礼だと思ったけど……いやいや、それは無いでしょ。

 幾ら医療が発達した今でもそんなご長寿は居ないですよ。


「二十三歳で今の位置を賜る名誉に浴し、以来ただ人よりも年を取るのが遅くなりましてな」

「人間じゃないの?」

「人間だ。ただし階位が違う」


 デュランには聞いてません。

 しかし、実は百八十歳とか……超若作りだな、ファリドじいちゃん。

 ところで階位って何?


「階級のことだ」

「……バカニシテルンデスカキサマ。てかデュランに聞いてないし」


 オレは期待の目をファリドさんに向ける。


「そう怒らないで下さい。デュラン様も、程々に」

「まぁ考えておこう」


 ……いや、期待の眼差しのつもりだったんだけど。

 怒ってないですよ?

 この目付の悪さはただの地です。

 そしてデュラン、お前程々にする気無いだろ。


「それよりファリド、お前のような堅物がペア抜きで迎えに来るとは随分変わったな……あまり感心しないぞ」

「あぁ、えぇ……本来はもう一人来る予定だったのですが」


 曖昧に言葉を濁すファリドさん。それにデュランが微かに顔を曇らせる。


「また発作を起こしたか」

「いえ、黒の君は健やかにお過ごしです。貴方にお会いすることを心待ちにされている様子で……しかし、まさかデュラン様ご自身が来るとは思っておりませんでしたな」


 普通百年以上経ってたら相手は死んでるか、そうでなくてもとんでもないじいちゃんになってるだろうしな。

 しかし、その割にはあっさり(多分)当時のままの姿で現れたデュランへの反応が薄いような?

 ……自分も年とるのが遅くなってるからあんまり気にならなかったのかね。


 と、ふとオレはデュランが明後日の方向を見ているのに気づいた。

 何見てるんだ?

 同じ方向を振り返ってみたけど空があるだけで何も見えない。

 もっかいデュランの顔を見る。

 いや、うん、普段と同じように微笑スマイルなんだけど……サングラス越しの目の温度が違う。


「デュラン……?」

「ふ」


 小さく息を吐き出すようにデュランが笑った。

 魔王スマイル。


「デュラン様?」

「放蕩息子が帰って来たらしい……このタイミングで入ってくるとは、どうやら相当俺にご執心らしいな」

「ほーとーむすこ?」


 何か美味しそうだな、ほうとう息子。


「それは鍋料理だ」

「鍋うまいよ、鍋」

「分かった分かった、後で何か食べるものを買ってやろう」


 オレ、そんな胃袋キャラだと思われてるんだろうか。

 敢えて言おう。誤解であると。


「デュラン様、一体」

「ここの結界に少し端子を忍ばせておいた。問題なく通過したとなるとまず間違いなく……」

「……あの方が?」


 そこ、二人だけで分かる会話とか始めないでくれないかなぁ。

 疎外感バリバリだな。

 慣れてるから良いけど……お、あれ桜じゃね? ほら、名前に「サクラソウ」って書いてある。

 ……やっぱ違うかな。


 とか考えてたら、デュランがひょいとオレの首根っこを掴んでファリドさんの方に突き出した。


「ファリド、これを預かっていてくれ」


 オレはお前のペットですかこら。

 ファリドさんがむっちゃ困った顔でオレを受け止めるべきかどうか迷ってるぽかったので、全身で「不要です」と主張オーラを放っておいた。

 誰も彼もポンポン気安くオレを扱って良いと思ってんなら大間違いだからな。

 オレに触ってオッケーなのは女の子と職業上必要な人だけです。

 五歳児魔王様はもう何言っても無駄だろうから放置してるけどさ。いや高くて楽しいとか思ってませんからホント。って急に持ち方変えるな!


「お前も聞いていたな?」


 高い高ーい、とばかりに、服の肩を掴んでオレを持ちあげた状態でデュランが聞いて来る。

 あのさー、百八十歳の若作りじいちゃんと、それからさらに数千歳上の生きた化石のお前からすりゃ確かにオレは若いよ? 若いけど……赤ん坊じゃないからね?


「聞いてたけどさ。先にオレに言えよ。で? お前何処行くんだよ」

「少し探し物を、な」

「場所分かってんのか?」

「いや」


 分からんのか。役たたねぇなぁ。


「生憎探査をかけることも今は出来ないしな……まぁ、ここの出入りだけは分かるからな」


 随分大雑把だなぁ、と思ったのが顔に出たのかデュランは苦笑して……で、オレを下ろす。


「ファリドをつけておく。案内して貰え……それと、けっして、誰にも――るなよ」

「へ?」


 いや、最後の条件の意味が良く分からないんですけど。えーと、とりあえず言わなきゃ良いんだな。

 分かった、とオレが頷くとデュランはちょっと笑ってファリドさんの方を向く。


「ファリド、黒の君の客人の名に置いて十騎士に命じる。これに近づかず、遠ざからず、守り、案内せよ。それ以上もそれ以下も許さない」


 デュランの言葉にオレは横暴だな、と思ったけど敢えてつっこまなかった。

 ……てかデュラン、どこまで分かってやってるんだろう。


「良いな?」


 誰が逆らえるんだ? みたいな心蕩かすような微笑を浮かべたデュランに、ファリドさんが冷や汗流しながら頷いていた。

 うん、ごめんねファリドじいちゃん。


 

【作者後記】

ファリド氏に若作りとかナカバは言ってますが、もっと若作りな奴が傍に居ますからね?

そして説明にいちいち食用の有無をつけるデュラン……まぁどういうつもりなのかはご想像にお任せします。


さて、今晩は皆様。

初めての方もそうでないかたも、何でここに居るのか思い出せない方もようこそいらっしゃいました。

ご来訪に感謝を。

短くさっくり読み終わるように心掛けてたのに最近文字数が多くなりがちで、ちと反省してます。

もう少し短くしたいのですが、デュランとナカバが喋り出すと伸びる伸びる……あの不自由人達どうしてくれよう。

それはさておき、デュランとナカバ暫く会いません。

それでも良いや、と言う方はまた次の回でお会いしましょう。

暑い日が続きますが、どうぞ皆様お体に気を付けて。


作者拝。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ