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朝食戦争とオレ

弱肉強食の世界


(6月19日追記:お気に入り人数がいつの間にか99名になってました。おめでとう自分!

カウンターついてないので自己申告になりますが、「我こそは100人目の気がする!」と言う方、良かったらぽそっと仰って下さいな。

ついでにリクエストあれば受けます……ち、遅筆にも程がありますけど……)

「おおお……」


 白磁のお皿の上にこんもりと盛られた赤いアイツを見つけて、オレはバイキングの皿片手に思わず声を上げる。


「梅干しだぁ……」


 まさかこんな所で出会うとは。

 ちょっぴり感激してるオレに、ヴィーたんが不思議そうに首を捻る。


「何ですかこれは?」

「梅干し。和食の一つで、えーっと……梅の実のピクルスっていうか」

「違うぞ」


 デュランうっさい。お前にゃ聞いてねぇんだよ。


「それ、梅の実なの?」

「あ、リムりん。うん、そうだよ。確か」

「でも、毒があるんじゃなかったかしら?」


 ……はい?


「そうなの?」

「確か実と種に強力な毒が含まれているって聞いたことがあるけれど」

「口にして問題ないのですか、これは」

「オレは普通に生きてますけど……って何笑ってんだ貴様」


 オレ達の話題を聞いてクスクスと笑っていたデュランの足をけっとばしておいた。


「失礼。いや、確かに青梅……未成熟の梅の実や天神様と呼ばれる核の部分には青酸配糖体が含まれている。」

「青酸って、あの推理小説で良く出て来る青酸カリみたいな?」

「まぁそうだな」


 デュランの言葉に「プラム?」と言いながら梅干しに手を出そうとしていた人達が硬直した。

 うん、思いとどまって良かったと思うぞ。

 梅干しをプラムと思って食べると痛い目見るからな。マジで。

 オレはあれをヨーグルトに入れてしまった人を知っている。


「だが、この状態になれば毒性は抜けている。毒の抜ける原理を詳しく聞きたいのならば説明するが……」

「や、良い。要らん。され」

「はいはい」

「はいは一回だっつーの」


 言いながらオレは梅干しを三つ、皿に乗せる。

 しっかし流石天下の中央セントラルだな。メニューに和食があって、しかも梅干しとかマイナーなもんまで揃ってる。ま、他の地域の料理に比べるとやっぱりちょっと少ないけどさ。

 あー、おささん家でまたご飯食べたい。アユの塩焼き食いてー。生姜おこわも良いなー。

 とか思いながらじーっとヒジキの煮物の前で、これを取るかとらないか迷ってたらリムりんが「ナカちゃんどうしたの?」と声をかけてくれた。


「あー、うん。ちょっと迷っててさ」

「え、なにそれ……虫?」

「いやいやいや……ヒジキっていう草だから」

「草食べるの? ジパング人って変わってるのね……」


 うん、まぁ。でもニラとかだって草だしね。


「草じゃないだろ。それ、確か海藻だぞ」


 と、口を挟んできたのはデュラン……じゃなくてアドルフだった。

 あ、はいさっきから居ますよこいつも。

 ずーっと未練たらしくオレとリムりんの後をくっついてきてます。

 お前……仕事しろ。

 とか厳しい事は食事前なので言わないであげました。ご飯は美味しく食べたいし。


「あー、そうだっけ」

「なぁ、チ……」

「それ以上言ったらコロス」

「……あー、いや、なんだ。お前ってさ」

「はぁなんでしょう」

「……その、もしかしてジパング人なのか? それ、ハシって奴だろ」

「あー、うん」


 なんだ、これ気になってたのか。

 オレは言われて持ってた箸をカチカチさせる。

 これ、ホントは行儀悪いことなんだけど、考えてるとついやっちゃうんだよなぁ。

 他にも色々箸には箸のマナーってのがあって、色々じいちゃんに教わったんだけど……うん、忘れた。何だっけなぁ。涙箸とかあった気がするけど。

 それを呆れたっぽい目で見て、アドルフが「そんなただの棒きれで良く食べるよな」と呟いた。

 棒きれじゃねぇよ。れっきとした食器なんです。

 オレがムッとした目を向けると、アドルフがちょっと退いた。

 チッと舌打ちすると更に退いて、何か言いたそうな目でこっちを見る。

 何だよ。喧嘩なら買うぞ。


「箸もそう悪くないぞ」


 取り合えずもっかい急所蹴飛ばしとくか? とオレが思った所でデュランがヒョイとオレとアドルフの間にくちばし、じゃなくて箸を挟んだ。

 あ、そう言えばこいつ魔王の癖に箸使える奴だった。

 唐突に乱入したデュランをアドルフとリムりんがポカンとデュランを見上げ、にっこりとほほ笑まれて一緒に顔を赤くする。

 こら、アドルフはどうでも良いけどリムりんに色目使うな。


「ま、陛下がそう言うなら仕方ない、か」

「その呼び名は確定なのか……」


 あ、デュランが軽く嫌がってる。ふーん。


「良いじゃん陛下。頑張れ陛下。負けるな陛下。笑えるぞ陛下」

「……」


 折角なので後押ししてみたら、デュランがじとっとした目でオレを見下ろして、


「ぎゃーっ! オレのポテトさんがー!」

「良いじゃないかナカバ。頑張れナカバ。負けるなナカバ。笑えるぞナカバ」

「返せー! 返せってばこの誘拐魔! それオレのポテト!」

「……愛されてるなぁ」

「……愛なのかしら」


 なんじゃそりゃー! てか、返しやがれ!

 箸を伸ばすけどデュランはそれをひょいひょいと避けやがる。

 こ、の、や、ろ、うっ!

 くそぅ、こうなったら奥の手だ。

 勿体ないけど皿に取っておいたロールパンを掴んで奴に向かって投げつける。

 が、デュランはそれを持っていた箸であっさりと空中キャッチし、優雅な動作で自分の皿に乗せる。


「すっげ……」


 その鮮やかな箸さばきにアドルフが喉の奥で呻いた。

 むぅ、流石デュラン……無駄に器用な奴め。

 ならばこれでどうだっ!

 オレは皿の上のプチトマトさんをペイペイッと立て続けに投げつける。

 どうだ、同時に二個はいくら箸が使えても捉えられるまい! これぞ頭脳ぷれい!


「……」


 デュランが小さく笑う。

 そのまま落ちついた動作で一個目を箸であっさり空中キャッチ。

 くぅ、やりおるな。だが、第二段が既にそこまで迫ってるぞ! 一度に二つは持てるまい。


 そんな風に考えていた時期がオレにもありました。


 デュランがやったことはシンプルだった。

 一個目のプチトマトを持ったまま、その箸で飛んできた二個目のプチトマトを真上にバレーボールをレシーブするみたいに打ち上げる。

 ポーンと天井高く舞い上がるプチトマト二号。

 その間にキャッチしていた一個目をやっぱり優雅な手つきでデュランは皿の上に置く。

 その横に、数秒遅れて真っ直ぐ落下してきたプチトマト二号がちょこんと乗っかった。


「おお……」


 どよめくギャラリー……って何時の間に。

 それに皿をウェイターよろしく持ち直し、恭しく、茶目っけたっぷりに一礼して見せるデュラン。

 拍手が沸き起こった。

 何これ。

 しかも何故かオレにチップをくれる人もいた。

 何これありがとうございますもっとください。

 やった、臨時収入だ。

 ……でも気が咎めるので後で募金箱に入れようと思います。オレが稼いだ金じゃねぇし。

 デュランに渡すのが筋なんだが、多分受け取らない気がするし。

 魔王様セレブだからなー。




 ちなみに、奪われたポテト達は帰ってきませんでした。

 くそぅ。


 

【作者後記】

食べ物で遊んではいけません。

勿論投げてはいけませんし、打ち上げたり、落としたりするものでもありません。

ただし制作中のピザとオムレツは許される気がします。


今晩は、尋でございます。

おいで下さった皆様に心からの感謝を。

さて、ゆるゆると本筋に戻って来ました。

観光旅行の日程も後しばらく。気長にお付き頂ければ幸いです。


それではまた来週、縁があればお会いしましょう。


作者拝

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