正体暴露とオレ
どんな格好をしていてもナカバはナカバってことでしょうか。
ということで、まだまだ息抜きターン。
(誤字修正いれました)
チン、と古めかしいベルの音を立ててクラシックなメーター付きのエレベーターのドアが開く。
三階は食堂のフロアで、あっちが昨日夕食を取ったレストラン。
他にも五つのお店が入ってて、オレ達が今朝食べる予定なのはそこに今白い木の看板を出してる店だ。朝食がバイキングになってて、和食もちょこっと出るらしい。
気の早いお客さんとかは既にその店や、その隣のサウザンド料理専門店何かに入って行ったりしている。
他にもロビーでパソコンを広げてる人、何やら打ち合わせ中っぽい数名のビジネスマン、それから……あ、いたいた。
ロビーの端でソファーに腰掛け、足を組んでるデュランを発見。相変わらず遠巻きに観察されてるけど、本人は気にせずに新聞を広げて読んでいる。
しかし、今時ペーパーの新聞とか目立ち過ぎだろ。
てか、この前読んでたのもメディアじゃなくてハードカバーだったよな。
そういう紙の奴好きなんだろうか。高いのに。
「デュラン、あろーはー」
近寄ってって挨拶すると、デュランはちらっと紫の目を上げて「ん?」とオレを見た。
「あぁ、おはよう」
「ってそれだけかいっ!」
つっこめよ! 格好とかセリフとかさ!
オレのセリフにデュランはちょっと首を傾げて、
「……ございます?」
「違ぇよ」
誰が挨拶が足りないと言った。
「可愛いでしょ」
リムりんが自分のことのように自慢する。ま、これリムりんの力作みたいなもんだもんな。
リムりんに促されてデュランはちらっとオレの服装を確認し、それからオレの顔をじっと見た。
何だよ。
「サイズは合っているようだな」
「あー、うん。ぴったりフィットですけど」
リムりんにオレのスリーサイズがいつばれたのか。凄い不思議です。
「でもさー、変じゃね?」
「そうか?」
「や、リムりんが選んでくれたんだし、色とかデザインだってまぁ……嫌いってほどじゃねぇし? でもなぁ、何かほら、あれだ孫にも衣装っぽい感じなんだろうなぁ、って」
「あぁ、成程。馬子にも衣装か」
ん?
「今お前、ちょっと訛ってなかったか?」
「そうか?」
「孫にも衣装だろ?」
「あぁ、馬子にも衣装だな」
「……孫」
「馬子だろう?」
んー? やっぱり訛ってるっぽいような……ま、いっか。
そんな会話をしてると、またチーンと音がしてアドルフ達が姿を現した。
アドルフもすぐにオレらの方に気がついたのか、きびきびした足取りでこっちにやって来て、まずデュランに向かって挨拶する。
「おはようございます、陛下」
「……」
デュランが珍しく黙ってこめかみを抑えた。
「一つ、良いか」
「何ですか?」
「何故陛下、と?」
「いや、イーニングウッド氏がそう言ってるのを聞いてから、うちの連中の間で流行っちゃっいまして。でも似合ってますよ、陛下」
「……」
複雑な表情で苦笑するデュラン。ま、確かにDDDに言われてもな。
「オレも陛下って呼ぶか?」
「やめておけ」
「あれ、こっちのお嬢さんも陛下の知り合い………」
言って、アドルフがこっちを見て……凍る。
あぁ、そうそう。これこれ。
こう言う「何か妙な物見ちゃった!」的リアクションを求めていたのですよ。
「お前……」
「はいよ」
「その格好」
「リムりんに買って貰いました」
「……女装趣味だったのか」
……はい?
ポカンとしたオレをほっといて、アドルフは何故か大笑いしだした。
「ぶっは! すげー! 何だこりゃ、最高だ! うわー、その胸パッドだろ? どうせならもっとデカイの入れろよ。あ、無理か。しっかし、いや、マジ最高! お前面白過ぎる!」
「……」
腹を抱えて笑い転げているアドルフを見下ろし、オレは黙ってデュランの方に手を出す。
「デュラン」
「どうぞ」
スパーン、と渡された新聞紙を丸めて、チョコ男の頭を殴っておきました。
それから新聞を広げて、デュランに差し出す。
「はい返す」
「どうも」
「……おい」
「何だよ」
何事も無かったかのように新聞をまた読んでるデュランから視線を外して、オレはさっきの爆笑男を見る。
それに、アドルフはちょっと困った顔をして頬を掻き、
「いや、まぁお前の趣味を笑うつもりじゃなかったんだが……悪かったな。どんな格好だって個人の自由だよな」
「まぁ、だな」
別にオレ、女装趣味の人じゃないけどな。
そんなアドルフとオレの会話に傍観していたデュランが口を挟んできた。
「アドルフ」
「何スか、陛下」
何を言う気だ?
オレもちょっと興味が出てデュランを見る。
デュランは新聞をぱたりと閉じて、サングラスの奥から真面目な紫の目をアドルフに向ける。
「お前の発言は正確ではない」
つーか、九割くらいハズレですが。
「あの服装はナカバの趣味ではない。そして、視覚効果の約八割は確かに内蔵されているパッド部分だが、一割五分はあの服のデザイン……具体的には胸部部分にあるラッフルと、サイドのギャザーによる錯視、そして五分がナカバの体型によるものだ。分析をするならば正確に行うように」
……。
「デュラン」
「どうぞ」
スパーン、と渡された新聞紙を丸めて、デュランの頭を殴っておきました。
周りが「信じられないもの見た!」みたいな目でオレの方を見てるけど、今更だろ。
人生開き直りが必要だ。
「はい返す」
「どうも」
てか、ちっともお前は動じてないんだなデュラン。
二度も武器使用という本来の用途からすると百八十度間違ってる利用をされた新聞は、哀れくしゃくしゃにされてましたが、デュランはそれをちらっと一瞥すると特に何の感慨も込めずに端っこを持ってピシッと引っ張った。
一瞬で皺クリア。復元完了。
ついでに片手でちょっと払っただけで、髪の乱れもさらっとクリア。
すげー、アレどうやるんだろ? いや、髪じゃなくて紙の方ね。
「あー……えーと……」
「何見てやがる」
「いやいや、そっちは見てません」
ギンッと睨んだらアドルフが逃げ腰になった。が、まだこっちを見てる。何だよ。
「……趣味じゃない? ん? どういうことだ?」
あぁ、そこですか。てかまだ分かって無かったのか。
うーん、ここまでくると逆にこのまま誤解させとくってのも面白そうだな。うん、アリだな、アリ。
「……ナカバ」
「へいへい」
分かりましたよ。種明かしすりゃいいんだろ。
てか、別に隠しては無かったんだけど……訂正しなかっただけで。
「おーいアポロ。ほれ」
オレはウンウンと悩んで唸ってる奴の目の前にパスを掲げてやる。
それを見て、アドルフが苺ピンクの目を大きく見開いた。
「……おん、な?」
「うん」
「――っ!」
あ、頭抱えてしゃがみこんだ。
お、面白すぎる……っ! やばい、こいつの反応癖になりそうだ。
とりあえずオレはぺちぺちと苺色の頭を上から叩いてやる。
「まぁ落ち込むなよ少年」
「少年って、お前……面白がってただろ……」
「うん」
というか現在進行形で面白い。オレって結構いい性格してる?
「ナカちゃんみたいな可愛い子を間違えるなんて最低ね。人間の屑、いいえ、男の屑ね」
リムりんが何やらとどめを刺している。
「そこまで言わなくても……ただ、人間を見る目が腐っているどころかそもそも備わっていないのでしょう」
ヴィーたんが追撃をかけている。
「その辺にしておけ」
アドルフふるぼっこ(ばい、言葉)ごっこに終止符を打ったのはデュランだった。
新聞を閉じて、立ち上がると一気に視線の上下が逆転する。
「食堂が開いた。行くぞ」
「飯!」
そうですよ! ごはんですよ! ご飯何かなー。和食もあるかなー。楽しみだー。
「……あれで女なのか」
何か聞こえたので振り返ってニッコリ笑ってやった。
「今度こそ蹴り潰すぞコラ」
何処をとは言いませんが。
ズササァッと青ざめた顔で退いたアドルフにふふんと鼻で笑ってやる。
ついでに既にオレ達のコントに見切りをつけて先に歩きだしてたデュランを追っかけて、白いサマーセーターを着てるわき腹を横からちょいちょいとつっついた。
ピクッと反応された。
「んっ……よせ、くすぐるな」
「くすぐってねぇよ。なぁなぁ、オレDDDに勝った」
「そうか、それは良かったな」
ウキウキと報告するオレに少しだけ唇の端を吊り上げるデュラン。
「おぅ」
ついでにイエーイとハイタッチ。ハイッタッ……ハイ……ハッ……トゥッ……テリャッ!
「届かねー!」
「ハイタッチなのだろう?」
「うっさい、しゃがめ、縮め、おーろーせー!」
お前が手ぇ上げたら届かねぇだろうが!
しかも、微妙に下ろして、オレが届く寸前でひょいっと上げるとか。おちょくっとんのか貴様ー!
ゲシゲシと足の甲を踏みつけて抗議したら、やっとこさでデュランが笑いながら手を下ろしてきた。
良し。
「やり直し」
「はいはい」
「はいは五回」
「はいはいはいはいはいはい」
「……多くなかったか?」
「気のせいだろう」
下の位置で掌同士と甲同士をバシバシと一回ずつ合わせて、オレは満足する。
よし、じゃあ飯食うか。
「おーい、アポロー、置いてくぞー」
「アドルフ!」
うん、実は覚えてるけどね。
【作者後記】
一晩明けて、デュランとナカバ再会です。
しかし新聞ではたかれて……まぁ、ナカバですしね。
さて、恒例?のご挨拶を。
初めての方もそうでない方もようこそおいで下さいました。尋でございます。
貴方のご来訪に心からの感謝を。
次回は六月十八日(じゃねえ十九だ!)、食事風景です。
現在下書き中ですが、長くなりそうな予感が今からしてます……内容は軽いのですけれど。
もし宜しければまたおいで下さいませ。
では、また縁があればお会いしましょう。
作者拝