変身顔貌とオレ
久し振りの本筋ですが、まだまだ息抜きターン。
何の伏線も張ってませんのでゆっくりお楽しみください。
「ナ、カ、ちゃん」
ほっぺたつつかれて目が覚めました。
「うぁ……?」
「おはよ、ナカちゃん」
「おはようございます」
「うーん……おはよー……」
まだ頭が起きとらんですよ。
ボケーとしてたらひょいとリムりんの顔がオレを覗き込んできた。
うん、目の覚めるような美少女……ふあぁ。
「起きた?」
「うん、まぁ……わりと。何? 朝飯?」
「かわいいっ!」
ぎゃー!
いや、まぁリムりんに飛び乗り抱きゅされても大してダメージは無いけどさ。
とりあえずスリスリしてくるリムりんをほっといて、ヴィーたんの方に目を向ける。
「今何時?」
「六時半ですよ」
「あ、そうなんだ……まだ朝食には早くね?」
「色々と計画があるようですよ、彼女には」
「そうなの!」
ヴぃーたんの解説にリムりんがひょいと起きあがる。
そして、何やら紙袋を取り出し、取り出した中の物をオレの前にぐいっと掲げた。
「じゃじゃーん。可愛いでしょ」
「え? あぁ、そのワンピ見た事ないな。新しく買ったとか?」
「大当たり! さっすがナカちゃん。ちゃんと見てるのね」
いや見てますけど、リムりんにしちゃ珍しく大人しい感じのワンピだな。
それにサイズがちと小さいような。
……あれ、嫌な予感。
「えーと、あのさ、リムりん。それってもしかしてオレ……」
「ナカちゃん変身大作戦よ!」
ぎゃー! やっぱりー!
いやいやいや、無理無理無理、いやホントに良いってば。ありえねぇってば。
オレ女装する気ないんだってば。
スカートとか要らないし。女の子っぽさとか要らないし。そんな胸元が段々のヒラヒラになってるとか、そういうの大平原の小さなオレに着せてどうするんだ。
と、全身で拒否ってみたらリムりんの顔がすーっと曇った。
……あ、えーと。
「ナカ吉、普段の服にしておきますか?」
ヴィーたんの声が優しい。
うぅ。
「……やっぱり、嫌?」
ダメ押しのように美少女に悲しい顔で訊かれてYESと言えるか?
オレは無理だね。
言ったら男が廃る。
いいさ、こうなったらトコトン受けてやる。
ってことで、昨日風呂に入ったのに再度風呂に入り直し、普段使わないドライヤーまで使って髪を乾かして、うん、まぁその後は色々ですよ。下着まで取り替える羽目になったですよ。
てか、聞いて良いリムりん?
下着のサイズがぴったりすぎるんですけど。
ちょっと怖いんですけど。
そしてブラに胸パッドが入ってる事をオレはどう解釈すれば良いわけ?
いや、追及すると怖い事になりそうだから聞かないけどさ。
えーと、でこれがさっきのワンピか。
うーん、こういう襞がヒラヒラしてるのとか、見てる分には良いんだけどなー。
てかどうやって着るんだ?
あ、背中のチャック外せば良いのか。よいしょっと。
「ナカ吉、着替えは出来ましたか?」
「あー、あとちっとですよ」
あとは背中のチャックを上げて……上げ……上が……上がれぇっ!
「ぐぬぬぬ……」
「ナカ吉、大丈夫ですか?」
「いや、ちょっと、チャックが……」
背中のチャックが上げられねー!
腕が回らない。
いや、オレの体が硬いのが行けないんだけどさ。ぐっ、くそっ、このっ!
「……ナカちゃん」
「ごめん、ちょっと手伝って」
ギブアップしましたともさ。えぇ。
情けないぞオレ。
「ナカちゃん可愛いわー!」
「良くお似合いですよ」
「いや、何かコレ、やっぱ変じゃね?」
「あら、ホント可愛いわよ。もうちょっとレースとか多くても良いと思うけど」
「いや、この胸の段々だけで充分ですから」
「ストッキングはどうしますか?」
「生足の方が私の好みだから良いのよ。あ、袖はちゃんとこうやって留めなきゃ」
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! くすぐったー!」
「ちょ、ナカちゃんじっとして」
「あ、ごめん」
「はい、これで出来たわよ」
「ありがと。ん? これなんか意味あるのか?」
「この方が可愛いの」
「いや、服は可愛いかも知んないけどさ」
「ベルトも通しましょうか」
「え? これリボンじゃね?」
「こう言うリボンなのですよ。前で結びますか? 後ろで結びますか?」
「いや、前後左右何処でも良いですけど」
「駄目よ、そんな投げやりじゃ。そうね、でもやっぱり後ろの方が似合うと思うわ」
「では、後ろに」
いや、もう好きにして下さい。
その辺オレは分からんのでお任せします。
で、やっと服を着たと思ったらその後がまた大変で。
ヘアバンドで前髪をがさーっと上げて、その状態でお化粧タイム。
いや、化粧水って何、乳液って美味しいの? ベースって楽器じゃないのか。シャドウとかハイライトだとか何処の君は光で僕は影。
もう何が何やら分からんうちに肌にべたべた、バタバタ、塗り塗り、ついでに眉毛切られたりってなもんで。
うう、肌が重たいし。
睫毛が固いってか何これ。
唇もグロ……なんだっけ、気分的にはグロイなんだけど、多分違う何かでべたべたするし。
化粧品の匂いっていうの? あれに酔いそうです。
気持ち悪い……うぅ、うぇっぷ。
世間の女性様はこれに一時間二時間と言わず付き合ってらっしゃるそうで。
……オレには理解できません。はい。
いや、もう気分はまな板の上のフグですよ。
好きにしてくれ。
いっそひと思いに殺してくれ。
や、うん、でもまぁヴィーたんもリムりんもすごく楽しそうだから良いんだけどさ。
可愛い女の子が喜んでくれるなら、化粧の一時間や二時間、付き合いますよ。
「ナカちゃん、やっぱり可愛いわー。肌綺麗だもんねー」
「えー、いやそれリムりんに言われむみっ」
「ほら、眉間にしわよせないの。ファンデが皺に入りこんじゃうでしょ」
「んー……」
終わったら終わったで髪をピンでとめようと言う話になりまして。
「はい、お疲れ様ナカちゃん」
「ナカ吉、大丈夫ですか?」
「……」
デュランじゃないが、器から魂が抜けかかってました。
何ていうか、朝から疲労感と敗北感でいっぱいです。
で、劇的ビフォー○フター。
誰これ。
「なんじゃこりゃ」
あ、待って。今の無し。やり直し。
オレはおもむろに腹に一度手を当て、それからその手を見下ろして。
「なんじゃこりゃー!」
「ナカちゃんよ?」
……あ、はい。そうですね。
「お腹痛いの?」とか心配しているリムりん達にちょっと悲しくなりながらオレは何でもないと手を振って、改めて鏡に映ったオレを見る。
いや、マジで別人二十八号。
ショタに操縦されそうだ。
ま、鏡の中からガン飛ばして来る表情だけはしっかりオレなんだけどさ。うん、我ながら目付悪いよな。
しっかし……異世界トリップ時にも回避した「お着替え、メイクアップ、これが私?」という王道イベントをまさか今体験することになるとは……人生何があるか分からんな。
その点、デュランはオレにアレを着ろだの、これを着ろだの言わなかったし、当然のように舞踏会なんかにも参加させなかったし、お披露目もしなかった。
案内つけて、財布を渡して「好きな服を自分で選んで着替えを用意して来い」だったもんな。
選んだ服について一々センスがどーの、似合うかに合わないかどーの、とも言わなかったし。
必要になったならまた買いに言って構わないぞ、とそれだけだった。
ま、あーゆーのを甲斐性無しとか、放任主義というのかもしれんけど、オレにはそのデュラン流の扱いが結構有り難かったんだよな。もしかしたら、今更だけどデュランって結構オレの気持ちを汲んでくれてたんだろうか?
……や、無いな。デュランだし。
そんな事を考えながらオレはまだテンションの高いリムりんと、それから一工事……じゃなかった、仕事終えた満足感に浸ってるヴィーたんに一応お礼を言って、丁度朝飯の時間も近くなってきたんで三階のロビーに降りる事にした。
【作者後記】
異世界トリップにつきもののお着替えイベントをすっとばしたナカバですが、何故か本来の世界でこんな目に。
しかし女装って……ナカバお前……。
さて、皆様今晩は。
初めましての方も、そうでない方もようこそ。
どうも、尋でございます。
さて、観光旅行実はまだ三日目という……えぇ、でもゴールデンウィーク内の日数で終わります。
よろしければ今しばらくお付き合いください。
では、また来週、縁があえばお会いしましょう。
感謝をこめて 作者拝