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全面禁煙とオレ

「リムりーん、ヴィーたーん」


 駅前。東口を出て階段降りたところを右に曲がって二軒先。

 ここがオレのお気に入りな終日禁煙、全席禁煙のドーナツ販売の某チェーン店さんです。

 全面禁煙。

 これ大事なポイント、テストに出る。オレの一番好きな四文字熟語は全面禁煙ですから。

 偶に分煙とか言って一階が喫煙、二階が禁煙とかになってる店あるけど、あれって意味なくねぇ? つまり煙ん中通って行けってことでしょ? しかも煙って上に上がるもんだよね?

 ここはそんな事は無いので、安心してポンデをゆっくり食べられるのだ。


 って事で、やってきましたよー。

 店の入り口くぐってみると、いつものテーブルに愛しのリムりんとヴィーたんが座って待っててくれてた。


「あ。ナカちゃん、こっちこっちー」

「ゴメン、待った?」

「ううん、そんなに待ってないから大丈夫」


 にっこり笑って答えた蜂蜜色の髪のこちらの可愛いお嬢さんがリムりん。


「ナカ吉……後ろのその人はどなたですか?」


 丁寧な口調にびしっと背を伸ばした姿勢が凛々しいこちらの綺麗なお姉さんがヴィーたん。

 どうだ、凄いだろ。


「初めまして」


 そんな二人に笑顔(ただし鼻眼鏡)で挨拶するデュラン。

 怪しさ爆発である。また店中の注目集めちゃってるし……。

 ま、オーバー一八○の白ずくめだからほっといても目立つしね。リアル白い巨○。中身は黒いけど。


「えーっと、デュランもうそれ外して良いよ。てかオレがはずいから止めろ」

「もう良いのか?」

「良いんじゃん? ここなら変な事起こらんだろうし」

「ふむ」


 言って鼻眼鏡を外すデュラン。

 何か店中に今度は別な感じの沈黙が下りた。

 視線が矢印マークになってグサグサァッと刺さってくる感じ。実物なら流血の事態だな。

 こそっとデュランの陰に隠れてみたり。

 こう言う時オレみたいなコンパクトサイズは便利なのさっ……自分で考えてみて凹んだ。

 なので奴の背中にこそっと八つ当たりしてみたが、例によってデュランはスルーしつつ、暢気に「やっと見やすくなった、目が少々疲れたな」とか呟いて瞬きを繰り返している。

 マイペースな奴である。


「……あの、ナカちゃんのお知り合いですか?」

「あぁ……失礼」


 リムりんの控え目な問い掛けに目頭を押さえていた指を外し、微笑みを浮かべるデュラン。

 キラキラッと背景に薔薇が飛んだ気がした。


「私はデュラン・ケヒト。ナカバに先日私の友人の件でナカバに世話になってな。その縁で今日こちらに伺って……先約があるとの事だったので無理を言って同伴した次第だ」


 誰オマエ?


「ナカちゃん……」


 本当かよ、みたいな疑いの視線でリムりんがこっち見てる。

 うーん、名前以外嘘は言ってないんだけどね。さすがにここで「魔王です、エヘ」とか言うのが拙いのは分かるし。


「まぁ、うん。そんな感じ?」

貴女あなた達がリムりんさんと、ヴィーたんさん? ナカバから何度か話は聞いているが」


 曖昧に答えたオレの隣で、胡散臭さ百パーセントな煌びやかな笑顔でデュランが似非じぇんとるめんっぽく尋ねる。

 それにリムりんとヴィーたんは顔を見合わせ、


「えぇ……リミュリシエル・ミルフィリア魔法技官候補生です」

「ヴィクトリア・ミシディア刀指揮官候補生です」

「あぁ、マスター候補生か」


 納得したと言うように頷くデュラン。

 そのあっさりした反応にリムりん達が意外そうな顔をする。

 ま、普通驚くもんね、こんな美少女達がマスター候補生だもん。

 でも昔の百科事典並みに分厚い面の皮と、ダイヤモンドカッターでも切れない程頑丈で太い神経をしたデュランはにこやかな表情を保ったままだ。


「差し支えなければご一緒しても?」

「……どうしますか?」

「構わないんじゃない? こんな綺麗な方とご一緒できる機会とか貴重だと思うし」


 にっこり笑うリムりん。

 この愛想の良さとかちょっと見習いたいと思う。ま、オレがにっこりしてもキモイだけですけど。


「あそうだ。食べる奴もう決めた? リムりん達まだ食べてないよね?」

「先に席を確保してました……あなたの気に入りはここ、ですから」

「ヴィーたん気が利く! 嫁に来てくれっ!」


 感激してぎゅっと抱きついてみたが、ヴィーたんは「いえ、それは法律上無理ですから」とか冷静に突っ込みを入れてくれた。うん、そういうクールなところも大好きだ。


「あたしも確保してたんだけどなぁ?」

「あ、ごめん。リムりんもモチロン愛してます」


 ぎゅっとハグして、その格好のままオレは「あ、そうそう」とデュランを振り返る。


「デュラン、おごって」

「何?」

「同席代」

「有料なのか」

「だって美少女二人侍らすんだぜ? 安いもんじゃん。あんた金持ちだし」

「……」

「コーヒーだけオレがおごったげる」

「分かった」


 良し、釣れた。

 ちなみに此処のコーヒーは一杯二六二、ついでにお代わりし放題。それで釣れちゃう魔王……うむ、人類の未来は明るそうである。

 料金は後でデュランに請求することにして、荷物の見張りと席の確保を奴に任せてオレ達三人で列に並ぶ。


「ポンデー、ポンデー、ポポポンデー」

「ナカちゃんポンデ好きだねぇ」

「うん。リムりんはどれにする?」

「うーん……ひしお醤油のみたらしゴマ団子風味、あとマルゲリータ・ハンバーグ、それからラタトゥイユとクリームコロッケミックス、玄米たっぷりタコライスの四つにしようかなぁ」


 相変わらずディープなチョイスで素敵だぞリムりん。

 と言うか、制作側も何考えてこのドーナツ作ったんだろう。あくまでドーナツである辺りが結構シュールだ。


「ヴィーたんはいつものか」

「はい」


 そう言うヴィーたんはエンジェルピンクとか、ピュアバナナとか、スイートスイートミルクとか可愛い感じの奴が好きなのだ。他の人の前だとこう言うのが選べないらしくて、オレら三人の時にはここぞとばかりに注文してる。何か決まりが悪そうな顔してるけど、別に気にしなくて良いのに。

 可愛いぞ、ヴィーたん。このこのっ。

 ちなみに、デュラン用にコーヒービーンズって名前の奴と、オレのオススメな抹茶ポンデを選んでおいた。

 ま、コーヒー与えておけば問題ないだろうって判断。

 あ、そうだ……どうせだからこの機会に全種類ポンデ制覇でもしようかな。

 考えながらトレイを持ってたらクイクイと袖を横から引っ張られた。


「ナカちゃん」

「ん?」

「あの人一体何者なの?」


 リムりんが席の方をちらっと目で指して小声で聞いてくる。

 あー、まぁやっぱデュラン怪しいよなぁ。

 白ずくめだし、顔はアレだし、鼻眼鏡だったし……最後のはオレのせいだけど。

 オレの美形アレルギーを知ってるリムりんやヴィーたんからしたら違和感ありまくりだろうな。


「知り合ったのはきっかけとか、何処で知り合ったとか」

「うーん……きっかけはまぁ、偶々目を付けられたと言うか」


 ポンデのクルミ味をトレイに追加しながらオレは曖昧に笑う。

 さすがに「異世界の魔王城に召喚されました」とか言えない……あぁ、言えねぇよなぁ。


「えーっと、この前通りすがりに捕まってさ。『長期自宅療養になってる友人と喧嘩っぽい雰囲気になって気まずいから付き合え』って」

「随分勝手な言い草ね。それで、付き合っちゃったんだ」

「うん、まぁ成り行きで」

「ナカ吉はお人好しですね」

「えー……それはどうだろう」


 オレ基本的には冷たいと思うけど。偶に自分が嫌になるぐらいに。 


「うん、まぁ断っても人の話聞く奴じゃなかったし、暇だったから取り合えず。あ、あと和食ごちそうしてもらった!」

「……餌付けされたのね」

「食べ物で釣られたんですね」


 何だよ。

 ……まぁ、ちょっぴり釣られなかったかと言えばアレだけど。でも、二人して生温ーい視線向けなくったって良いじゃないか。拗ねるぞ。


「和食、美味しかったですか?」

「うん、うましだった」

「よかったですね」


 控え目に笑むヴィーたん。

 こんなんだから彼女には「おねー様」と呼んで慕う後輩の女子皆さんが絶えない。男のファンも多いけど。


「知り合った時の事情は大まかには分かったけど……それで、結局何者なの?」

「リムりん、何かものすごい警戒モードなってない?」

「ナカちゃんの人を見る目は信じてるけど……何だか、そうね、正直得体が知れない人、って言うか」

「そうですね……」


 ……うーん、何か二人して心配してるようだ。まぁ、見た目アレだしなぁ。

 しかしどう説明したもんだろう?

 友達だから余計な嘘は吐きたくないし、かと言って正直に話せる内容には限度があるし。

 オレはちょっと考えて口を開く。


「詳しい事はオレも聞いてないけど、自称魔王。仕事は一応あるけどさぼって遊びまわってるみたい。

 性悪じゃないけど性格は悪いな。うん、悪意は無いけど悪気あり。その気は無くとも邪魔で、その気があっても邪魔。

 後はうーん……あぁ、意外と天然入ってるな、アレは。

 特に顔関係。ほら、アイツ不気味なぐらい美形じゃん。顔とかマジ死ねよだよね? なのに本人普通とか言い張るしさ。

 結局見た目デカイけど、中身はガキなんだよね。五歳児五歳児」

「……」

「……」


 あれ? 沈黙?

 何か気まずーい空気が……えーっと、ここはフォロー入れるべきデスカ?


「でも、まぁ……迷惑だけど害は無い、と、思う」

「えーっと……そう。とりあえず、変な事されたりとかは無いのね?」

「あぁ……うん、別にアイツはストーカーとかじゃないから。オレ完璧珍獣扱いだし、コーヒーの方がむしろ価値的に上っつーか。顔に慣れれば割と面白い奴だよ」


 だから心配ご無用、とレジにドーナツ山盛りになったトレイを置いて笑うとリムりんとヴィーたんは顔を見合わせて何故か一緒に肩を落とした。


「そっか……何か嫌な事されたら直ぐに言ってね。私達でやっつけちゃうから」

「うん、ありがと」



 心配してくれる人が居るっていうのは良いもんだ。 


 

【作者後記】

こんばんは、尋です。

ご来訪の皆様に深い感謝を。


新キャラやっと追加できました。

女の子成分が欲しかったので。美少女リムりんと美女ヴィーたんです。

とは言え、もっとも小柄なのはナカバですけれど。

女子同士の会話はちょっと想像がつかないので妄想で補ってますが、ナカバのネーミングセンスの微妙さも一緒に感じ取って頂ければ幸いです。


作者拝

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