授業終了とオレ
放課後のだらだら
つーことで、大体事情は分かった。
つまり、寝てるデュランは起こすな。
起きてる時だったら攻撃判定アリ、ってことだ。
そう言ってみたらデュランは苦笑して、「コントロールが常に万全とは限らんからな、直肌接触はあまりするなよ」と訂正してきた。
ほむ、つまり服の上からなら良い、と。
納得したので取り合えず腹んところにタックルかけてみた。
避けられた。
「何だよ、平気なんだろ」
「お前はな。ぶつかられたら器が痛む。大事に扱え」
「やなこった」
喰らえ! フライングアターック!
「だから止めろと言っているだろう」
さくっと回避されました。畜生。
よし、分かった。飛んだら急には止まれない。なら、じっくり距離を詰めて、追いつめて攻めれば良いんだな。
オレはニタァッと笑って、両手の指をわきわきさせる。
デュランが珍しく素で退いた。
「……何だその不吉な指の動きは」
「何だと思いますか?」
「……嫌な予感しかしないな」
「ヒント、ゴールドフィンガー」
「……銃の分解か?」
いや、そんな芸当は出来ません。
答えは、くすぐりです。
「魔王、覚悟!」
「くっ……良かろう勇者ナカバ、かかって来るが良い」
で、結果。
五秒待たずにデュランがKOされました。
弱っ。
もう一度言おう。
弱っ! 魔王の癖にくすぐりが弱点とか、弱っ!
どんだけ、わき腹とか弱いんだコイツ。
「勝利とは意外と空しいものだな……なんちゃって」
まだベッドに撃沈してるデュランを見下ろし、オレはちょっとたそがれてみたり。
うん、でも折角分かった弱点だけど、致命的な欠陥があるんだな、これが。
それは、ですね。
デュランのダメージ声がやたらにえろいってことだ。
お陰で危うく変な世界に目覚めそうになりました。
ここか? ここなのか? ここが良いのか? こうされるのが好きなんだろう? ほれほれ、とか。
ちょっぴり悪代官の気分が分かった気がします。
意外と危険な遊びだったんだな、ゴールドフィンガーごっこ……危険すぎて封印されし技になりそうだ。
「おーい、生きてるかー」
「……何とか、な」
まるで襲われて悪戯されちゃったいたいけな少女、みたいな感じで起きあがる魔王、かっこ自称二十四歳男多分独身重度のコーヒー中毒かっこ閉じ。
……あれ、いたいけな少女って以外のところは結構当たってるかも。
「酷い目にあった……」
「ごめんごめん。反応が良いから止まんなくってさ」
「もう勘弁して貰いたいものだな。万一本体の魔力操作を誤ったらどうする」
「何で本体?」
「言っただろう。接続していると……感覚を共有しているのだから、俺のぶれは本体の俺にも影響する。指先が傷つけば本体も痛みを感じる。そういうことだ」
「あ、そうなんだ……うん、オレも何か止めとこうと思う。別の意味で危険だから」
そのうちマシンガンぶっぱなして、か、い、か、ん、とか喋る人格になったら困るし。
「それと、今はまだあまりはしゃぐな……良いか、お前に本当の意味で異常が起こらなかったかどうかは断言出来んのだぞ」
「え? さっき検査したんじゃねぇの?」
「したが、完全では無い」
ちゃんとやれよ。
「完全というのはな……お前を構成する情報全てを視ると言うことだ。その意味が分かっているか?」
「いや、まったく」
「……つまり、お前が机の奥に何を隠しているのかから、今日取得した全ての情報、子供の頃の思い出も、何もかも全て俺に視られることになるということだ。それでも良いのか?」
「や、それは……ちょっと……てか、何でそこまで見るのさ」
「本来そういうものだからだ。今は俺が意図的に情報を選別し、フィルターをかけているからお前の身体構成情報しか見ていない」
「体だけ?」
「そうだ」
「いやーん、でゅらんさんのえっちー」
「俺はどこぞの青タヌキにすがりつく眼鏡少年か……? しかし、その反応は初めてだな」
「だってそれ、服ひん剥かれて素っ裸にされてるようなもんじゃん」
「……まぁ、確かにな」
「何かそれ聞いたら微妙だなー、さっきの検査って奴。にらめっこしてるだけかと思ってたのに」
「俺はあまり気にしたことは無いが・……」
ま、魔族のデュランからすればオレらはその辺の犬猫と変わらんもんな。
オレだって道端を素っ裸の猫が歩いてても別に何とも思わんし。まぁ、そう言うのに興奮を覚える人間もいるのかもしれないけど。
しかし、みられた側としてはちっとばかり複雑だ。うん。
「よし、じゃあデュランお前ここで脱げよ。そしたらチャラにしよう」
ざ、裸の付き合い。
「だが断る」
「何だよケチ、減るもんじゃねぇだろ」
「お前は先程何を聞いていたんだ……服で力を遮断しているといっただろう。第一、この体は俺の作った人形だぞ。見てどうする」
「あ、そっか。何だつまらん。減れば良いのに」
「まったく……まさか、今の話が影響の余波で無いだろうな」
どうなんだろう?
まあ、そんなふざけた会話をしてみたり(半分冗談ですから)、デュラン直々に正しい噛み合わせの講義あんどリフレクト……ん? 何か違うな、まぁいっか……リフレクトをしてくれやがったり、最近読んだ漫画の話をしたり、魔界に居るうさっこという萌えキャラの話を聞いたりとその後はだらだらと過ごして、気が付いたら会話も止んで、オレはデュランの背中によっかかってポチポチと携帯を弄っていた。
背もたれ代わりのデュランはデュランで、何か本を読んでるらしくって時々パラ、とページをめくる音がする。
いや、もうオレ帰れよって感じなんだけど……ま、もうちょっと良いか。
よし、メール送信、っと。
一仕事終わったんで、オレはもぞもぞとベッドの上で方向転換して、デュランの方を見る。
やっぱり何か読んでるっぽい。後ろから見てるんで、肩越しにデュランの横顔がちらっと見えるだけで本の内容とかタイトルまではこっからじゃ見えない。
ふむ……何真剣な顔して読んでるんだろ?
「何見てんの?」
座ったまま背伸びしてみたがさっぱり見えないので、オレは膝立ちになってデュランの肩越しに奴の手元を覗き込む。
って、コレ……同人じゃん。
数年前に流行った某アニメの二次創作本だ。
しかも素人お手製って感じバリバリの、それこそ東大陸のビッグドリームの夏の祭典で販売されてそうな奴。
小難しい哲学書か、難解な専門書でも見てるみたいな顔してるから何かと思ったら、お前何読んでるんだよ。
「面白いのか? それ」
呆れたついでにごん、と肩に顎を落としたら、デュランがちらっとオレの方を見て「そうだな」と微笑した。
「参考になる」
「参考?」
「あぁ。一応世界の敵たるもの、いつ何時その場面が来ても良いよう、演出を考えなければならんからな」
「ふーん?」
言われてもう一度デュランの読んでる辺りを見直してみる。
丁度ラスボスがやられる場面だった。
そのシーンをじっくり読んで、オレは「おい」と呟く。
「まさか、最後にうぼぁー、とか言う気じゃねぇだろうな」
「駄目か?」
「駄目だろ明らかに」
「なかなか個性的で良いと思ったのだが……」
「そんな個性捨ててしまえ」
いや、だって苦労して苦労して倒したチート魔王の最後のセリフが「うぼわー」とかあり得ねぇって。
そんなセリフをかけて良いのはユンケ○……じゃないな、何だっけ、ヒュン○ルはアバンの○徒の人だし。
「ついでにあべしっ、とかひでぶっ、とかも禁止な」
「……」
「なんちゃって」
「……」
え? 冗談で言ったのにマジで候補に入ってたのか?
止めろよ。お前その顔でそのセリフは絶対に言うなよ。
真剣にやってる勇者に失礼だろ。
「てか、何でそんな台詞をチョイスしたんだよ」
「いや、あまり悲壮な最期にしてトラウマを植え付けると拙いと思ったのでな。緊張を緩和できるようなものを……」
「そんな分かり難い優しさは要らんですよ」
むしろ逆に妙なトラウマになりそうだ。
だってデュランの見た目こんなだぜ?
この見た目で「うぼわー」とか、ヤマトがポテトになるぐらいの違和感だろ。
こんな魔王を相手にしなくちゃならん勇者の皆さんの精神の平和の冥福を心からお祈りします。エイメン。
……っつーか。
「何でお前、自分が死ぬ時のことシュミレートしてんの?」
「誰が趣味だ。それを言うならばシミュレートだ」
「そうだっけ?」
「そうだ。シミュレート……ほら、言ってみろ」
「シ、シミュレート」
「良く出来ました。さて、迎えが来たようだな……」
「へ? 迎え?」
「今アドルフがこちらに向かって来ている。どうやらお前の連れがしびれを切らして迎えにこさせたようだな」
「あ、リムりんにちょっかい出しに行ってふられたのかアイツ」
ついでにパシられたってところだろう。
それであっさり従っちゃうあたり情けねぇって考えもあるんだろうけど……ま、オレはそう言う奴嫌いじゃないな。
ま、リムりんは手ごわいから一先ず言うこと聞いて好感度上げて、ついでに周囲のオレから突破口開こうってとこだろう。
ふーん、頑張ってるじゃん。
少なくとも、年下の女の子の言うこと聞いて興味もねぇガキのおもり引き受ける程度にはやる気あるってことだ。
なら、一応素直に一緒に帰ってやりますかね。
「もう行って良い?」
「……あぁ」
返事する時ぐらい本読むの止めろよ。
「帰るぞー、おーい」
「あぁ」
「だから帰るんだってば」
「ん? あぁ」
ようやく本から顔を上げて、デュランはにっこり笑った。
「またな、ナカバ」
「おう、またな」
うん挨拶は大事だよな。
【作者後記】
魔王、覚悟!と挑まれるとつい受けてしまうデュランでした。
相変わらず二人ともノリノリです。
今晩は、首にマフラーを巻くとかくすぐったくて出来ない作者こと尋でございます。
昔はハイネックも着られませんでした。とっくりセーターとか何処の地獄かと……。
そんな事はさておき、