欠損魔力とオレ―デュラン先生の講義4
切り良くしたら長くなりましたorz
それはさておき、デュランの講義第四回目です。
いい加減聞き飽きたと仰っしゃる方も多いと思いますが、この内容は世界設定の補足及び裏話のようなもので、本筋には僅かしか関わりません。
必要なヒントはこれ以前ので一通り張ってありますので、面倒な方は読み飛ばしてくださって結構です。
(今回は取り分け長いですし)
それでも読んでやろうじゃないか、と言う方だけ先にお進みください。
しかし、今の話聞く限りじゃオレは常にじり貧というなかなかスリリングな状態らしい。
死と隣り合わせの日常、とか。
どこのハードボイルドですか。責任者出てこい。
あ、魔王か。
「何か良い事とか、チート能力がつくとかないとやってらんねーな、コレ」
「チート能力は無理だな。元々少ない魔力をやりくりしているお前にそんな能力が付いたところで、使った瞬間に死にかねん」
テンさんサヨウナラ。こうですね、分かります。
「治んないのコレ?」
「疾病でも障害でも無い。治療するようなものではないのだ」
「そっ、か……そんならしょうがねぇよな」
デュランが変に誤魔化さずに言ってくれたことはありがたかった。
うん、奇跡が起こって治るんじゃないかなんて思ってた時期もありました。
でも、そういうもんじゃないなら、しょうがないよな。
「まぁ、確かにお前には一般に普及している回復や治癒といった魔法は意味を為さないし、大抵の攻撃魔法は効果は抜群だ、となる上に魔力の循環効率が悪いせいで成長も難しい体質だが」
「……何このスライム未満」
「その代わり魔力に働きかける探査や、魔力によって対象を判別したり阻害する施錠などの魔法は意味を為さない」
「……それって遭難したら終わりフラグ?」
「そうだな」
「もしかして、オレが良くゲートのエラーにひっかかるのも」
「ゲートがお前の魔力を感知出来ないからだな。うっかり一人で行動すると、永久に閉じ込められるという特典もついてくるかもしれんな」
「全然利点じゃねぇじゃん!」
オレ可哀そう! むっちゃオレ可哀そう!
てか、道理で良く防犯ゲートにひっかかったり、列車とかバスとかエレベーターのドアに挟まったり、オレがまだ居るのにチェッカーが下りたりしていたのか。
うわー、分かったのにちっとも嬉しくない何これ。
「……って、そう言えば何でそんな不便な状態にお前までなってるんだ?」
いや、確かにデュランの本体は魔界の魔王様なので、シャレんならんレベルで魔力がバカ高い。らしい。
オレには良く分からんけど、御主人大好きワンコさん(仮名)の証言ではそうらしい。
まぁ、あんな色気駄々漏れの奴がのこのこ物質界に来られちゃ迷惑なんで、人形でパワーダウンばーじょんでやって来たのはこいつにしちゃ賢明な判断だったと思う。
思うけど、何もオレレベルまで落とさなくても、普通の人レベルで良かったんじゃないか?
「やっぱマゾヒ……」
「違う。必要があったからだ。言っただろう、マナレスはその性質上、魔力を基準とした探査や判別に感知されないと。この体はその利点の為にほぼ仮死状態……お前達マナレスに近い状態に設定してある」
「感知されないことが必要って……泥棒する予定とか?」
「まぁ、その逆だがな」
逆って言うと、警察?
首を捻るオレをほっといて、デュランの説明は先に進む。
「もう一つ、俺の魔力が少々お前達のそれとは違うのも理由だな。お前がマナレスであるが故に一般例として適切でないのと同様に、俺もまた一般的な対象としては適切ではない」
「魔力が重い、だっけ?」
「そうだ。良く覚えていたな」
デュランが微笑む。
「魔力が世界に干渉する力である以上、それは他者へ干渉する力ともなる。他者もまた世界の一部だからな」
「ほむ」
「俺の持つ魔力は、お前達のそれよりも重い……密度が高いというか、故にお前達には大きく影響する。俺が望むと望まざるとを問わず、な」
微笑するデュラン。
「例えばそれは魅了という形で表層に現れたりする。バスや街中での騒ぎを覚えているだろう」
「忘れようっつってもありゃ無理だけどな」
「俺の魔力による一種の意志汚染だな……人間であっても俺の持つ魔力に酔うと、ああ言う状態になる。本来持っている魔力をかき乱され、意志を圧迫された、まるで自らの意志でそうしているかのように錯覚し、俺に従い歓心を買おうと奔走する。哀れな話だ」
お前はジャン○史上最凶最悪のヒロインですか。
お色気ポーズで威力が増したりした日には五光石かますしかない。濃ゆい顔になってしまえ。
……あ、今でも相当濃い目なのか。
「これを転用すれば俺は好きにお前達を支配下に置く事もたやすい……魔族が俺に従属しているの主な理由もそれだ。そして、お前達ではその事に気付く事は出来ない」
「出来ない、って。断言出来るのか」
「出来る」
静かに一つ頷いたデュランに、オレは無意識に少し体を後ろに引く。
それを見て、デュランは少し悲しげに笑った。
「逃げても無駄だ。俺がそのつもりになればお前は喜んで、まるで自ら望むかのように俺の方に来るだろうからな」
「いやいやいやいやいやいや。あり得ないから」
「ならば何故、俺がお前を抑えて検査をしている時に抵抗しなかった」
「いや、そこまでするのも大人げないかと思って……多分」
「……自覚できるものではない、と教えてあげただろう?」
甘く囁かれ、オレは鳥肌を立てて椅子の上に縮こまる。
いやもう支配がどうとか、魔力がどーのより、この無駄にエロい空気をまき散らす今のお前が怖いよ!
正直にそう申告したらデュランはやっと少し表情を緩めて苦笑した。
「まぁ、お前の場合影響を受ける魔力そのものが少ないからな……滅多な事では俺に影響されて自己を失うことは無い」
「あ、そうなんだ」
「そもそも人間は魔力を直に取り込む器官が備わっていないからな。それに、お前の器には大して余裕が無い。俺の力が混入した所で直ぐにオーバーフローで抜けてしまう。基本的には、な」
何か意味深な事を最後に付け加えやがった。
「基本的には、って……何」
「説明しよう。基本と言うのは」
「……絞めるぞ」
「冗談だ」
立ち上がったオレにデュランがにっこり笑う。
軽く絞めておいた。
「こほっ……大事に扱え。器はさほど丈夫ではないのだぞ」
「やだ」
「まったく……まぁ、基本的にと付け加えたのは普段は俺がなるべく魔力を体外に放出しないようにしているから、という前提をつけているからだ」
「漏れてたじゃん。思いっきり」
某吸水性実証のCMみたいな勢いで駄々もれだったじゃん。
「だから、お前には直に触れなかっただろう」
「……そうだっけ? 最終日に宙づりにされた覚えが」
「あれは服に触れただけだ。ドラウプニルを持たせ、阿修羅王も傍に待機し、かつお前の精神が殆ど向こう側へ引かれていたからな」
そうでもなければ危険すぎる。
デュランは淡々と言う。
成程。
魔王は危険物。お子様の手の届かない所に置いておいて下さい、と。
「でも、今は平気なんだろ? 魔力殆どない人形なんだし」
「そうとも言えん。今も俺から界を超えて魔力をこちらの器へ注いで操作しているからな。お前たちの魔力よりも重い俺の魔力は少量でもお前には致命的だ」
「ん? ちょっと待って。界を越えて俺からって……お前今何処に居るんだ?」
「魔界だな。この人形はいわば遠隔操作で動いているということだ。まぁ、意識を分割してこちらの体にも俺自身を埋め込んでいると言えばいいのか……」
感覚も共有しているし、分裂したようなものだな、とデュラン。
ちなみにさっきの死体っぽいアレは、意識の接続を切って本体に集約した結果の抜け殻が残って立って事らしい。ややこしやー、ああややこしやー。
「まぁ、並行処理だけは昔から得意でな……平常状態の人形ならば十体程度までは楽に操作できる。それを超えると少々情報処理が面倒になるな」
「情報処理って?」
「この体で受け取る情報を本体で処理しているからな。情報の双方向交換というべきか……情報を受信し、本体が判断し、結果をこちらの器にフィードバックする。まぁ、複数の体を一つの精神で処理していると思えば良い」
良く分からん。お前の話は良く分からん。
「まぁ、この人形の手でお前に触れても今は問題が起こる確率が低いのは、俺が魔力がお前の方に流れ込まないように常に制御しているから、ということだ」
「なるー」
「それと、あの服だな」
と、視線で例の白づくしルックを指すデュラン。
あぁ、パナ○ェーブですか
「そうではない……この服の素材となっている生地には一応内外の魔力交流を遮断する効果があってな。服越しであれば接触しても問題はまず起こらんようになっている。まぁ、お陰で毎度デルギウスの世話になるが」
「それでデイジーさんがお前のスタイリストなのか」
「あぁ」
ほむー。
……んん?
つまり何か? 服越しで、かつデュランの意識がはっきりしてれば大体安全ってことは……。
「つまり、お前が先程意識の無い俺の服を無理矢理引き裂き、肌と肌を重ねた為に」
「ちぇすとー!」
ごるぅらあああー!
「何だ急に。危ないぞ」
「表現を考えろ! 表現!」
オレが襲ったみてぇじゃねぇか!
「そうか?」
そこできょとんと首を捻るな。きょとんと。なんで可愛らしさアピールしてるんですか。
てかさぁ、二十四歳でその手の仕草が似合うって人としてどうかと思うよ?
あ、人間じゃなくて魔族だっけか。
「では、制御の利かない俺の体とお前の体が直に交じわ」
「ぎゃーす!」
わざとか! わざとなのかこの野郎!
だから、「え? 何で僕ちゃん怒られてるの?」みたいな目を向けるな! お前は五歳児ですか!
「まぁ、俺が不在で魔力のコントロールが出来ない状態の時に、お前が直肌接触をしたからな……運が良くなければ、あのままこの器に残留した俺本体の魔力に浸食されて死んでいたかも知れん」
「最初からそう言え。最初から。で、確認してどうだったんだよ」
「幸いお前の情報に異常値は見当たらなかった……恐らく、幸運にもこの器と、お前の保有魔力量の値が近く、交流が起こらなかったのだろう」
「ふーん」
「手遅れにならなくて、良かった」
デュランがふわっと笑む。
その笑顔にオレは何て返して良いのか分からなくて、取り合えず氷満タンの水を飲んだ。
凄く冷たかった。
【魔王講義】
さて、良く集まってくれた受講生諸君。
四回続いた講義も今回が最後だな……では、始めようか。
引き続きマナレスについて説明する。
現在の物質界の文明レベルでは測れないものが大きく二つ。
一つは最大魔力許容量。もう一つが最低魔力量だ。
前者はまだ測定方法が確立されておらず、後者はそもそも存在が認識されていない。
よって、平均的な所要魔力量すなわち、グリーヤの定理を用いて計算すればすぐに出て来るが……まぁ、現在の年齢分布及び人口比率からすると八十キリア前後。
これにニダー定数を掛けた数値が現在の製品規格に用いられている魔力量だ。
この量から三十キリア以上下回った場合は作動しない製品が多い……これは誤作動防止の為だな。
誰も居ない状態でスイッチが入ると危険だからな……まぁ、この安全措置の為にマナレスの多くが苦労している。
ちなみに、一般には出回っていないがアラクネと呼ばれるこの繊維はヴァンパイアの開発した魔力遮断呪を織り込んだ繊維の模造品だな。
まぁ、物質界では魔界と気候や大気中の魔力濃度も違うし、そもそも材料が手に入らんからな……。
一部はDDDに捕縛用の網として提供されている。
ただし、魔力を遮断するとは言え強度は一般の合成繊維とさほど変わらないので扱いには注意が必要だ。
……さて、以上を持って今回の講義を終了する。
何か質問のある者は下の拍手から聞きに来るように……6月18日までなら私は研究室に居るからな。
では、解散。