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魔力分与とオレ―デュラン先生の講義2

しつこいようですが、この段は世界観の説明が主な目的であって読み飛ばし可です。

読まなくても大体の伏線もどきは他で補えます。

また、説明しているのがラスボスの魔王なので、その内容はこの世界の常識とイコールではありません。

非常に核心に近く、かつ適当にぼかしている内容です。


以上の事を踏まえて、それでも読んで差し上げようという強者の方はお進みください。

「では、ここに二つの魔力許容量の異なるサンプルを用意しよう」


 ペットボトルをグラスの脇に置くデュラン。


「俺とお前とダイゴローだ」

「いや一人多いし」

「ではお前とダイゴローで」

「お前が戻ってこい」


 本題にも戻ってこいよ。遊んでないで。


「まぁ、お前も俺もサンプルとしては不適切だからな……仮にAとBとしようか」

「最初からそうしろよ」

「さて、Aをこのグラス、Bをこのボトルとする。前提条件として二つとも魔力を保有し、かつ魔力保有量がに異なる事が必要だが……さて、この二つの個体が接触した時どう言う事が起こると思う?」

「ぶつかったなら痛いんじゃね?」

「いや、まぁそうだが……分かってやっているな?」


 そりゃ勿論。


「では、ヒントだ。基本的には、エネルギーは高い方から低い方へ流れる」

「エネルギーは……ってことは、魔力もエネルギーだから、じゃあ魔力の少ないグラスの方にボトルから魔力が流れ込むって事か?」


 温度は高い方から低い方へ流れるように。

 物質は必要エネルギーが高い方から低い方へシフトした方が安定するし。

 空気の対流だって、あれは冷たくて重い空気が温かく軽い空気の方に流れ込むから。

 差っていうのは自然界では平均化したほうが安定するように出来てるらしい。

 ま、根拠がある訳じゃなくて、オレの感覚だけどさ。


「Exactly」


 この丁寧過ぎる態度……神経に障る男だ。


「接触した点から、高い方から低い方へ魔力は流れる」


 ストローでバイパスを作って、デュランがボトルからグラスに水を流す。

 意外と小器用だよな……こう言う工作とか、うさリンゴとか。もしかしたら裁縫だってやっちゃうのかも。

 グラスに流れ込んでいた水は、水面の高さが一緒になった所で止まった。


「これを魔力の流出、或いは流入と呼ぶ。意図的に行う場合は分与、だな」

「そのまんまだな」

「……まぁ、な」


 その反応。もしかして命名はお前なのか。


「あぁ、ついでに言うと手当てもこれと同じ原理だな」

「手当てが?」

「基本的に怪我や疾病の際、その個体は治癒に魔力を消費する為普段の保有魔力量よりも魔力量が減っている。つまり、より生存最低ラインの最低魔力量に所有量が近付いていると言う事だ」

「あ、弱ってるってそういう見方もあるのか。で?」

「そこへ、より高い魔力量を持つ個体が手を当てる事によって接触による魔力分与が起こる。そして、魔力を与えられた弱った個体は与えられた魔力の分だけ負担が減り、存在消滅の危機からも遠ざかる。手当てを行った方は魔力が減った事で疲労を覚える。

 アサギで俺に魔力を抜かれた後にアドルフが食事を摂っていただろう。あれは、抜けた魔力の分を食物を介して補おうとする生理的な反応だな。人間は食事、消化、吸収といった各プロセスを介して間接的に魔力を体に取り込んでいるからな。

 ついでに補足すると、魔族は食物から消化、分解などの過程を経ずに直に魔力を吸収する。この魔力吸収の過程の違いが人間と魔族の根本的な差だ……と、この話は前にしたな?」

「あー、うん……」


 何だかパズルみたいにパチパチと連鎖して問題が解けてく。

 ちょっと気持ち良い。

 けど、肝心の問題が解けてないぞ。


「で、結局それがオレが死にかけたことにどう繋がるんだ?」

「お前と俺だからだ」


 ダイゴローは出てこないらしい。


「俺の保有魔力量は多い」

「はいはい、自慢乙」

「……本体にも収まりきらず、コントロールもままならないものを自慢する気にはならんさ」


 苦笑するデュラン。

 ……いや、うん。何かゴメン。そう言うつもりじゃなかったんだけど。


「先程、二つの魔力を有する個体が接触した際には魔力の流出、流入が起こると教えたな」


 足を組み替え、眼鏡の縁を指で軽く押さえてデュランが言う。

 うん、聞いたよ。


「この時、二個体間の保有魔力量と最大許容魔力量が大きく異なる場合、魔力のオーバーフローが起きる……そして、通常ならば許容量を超えた魔力は器の外へ流れ出す事によってバランスを保つ。これも分かるな」

「何となくな……で、何だよ。さっきから回りくどいぞ」

「では、イメージしてご覧。このグラスにボトルいっぱいの水を一息に注げばどうなる」

「溢れるだろ」

「では、ダム一つ分の水を一息に注げばどうなる」


 溢れる……じゃなくて、割れる?


「そうだ。一度に器が受け切れる魔力の量にも限度がある。あまりに過剰な魔力を急激に受ければ器はその力に耐えきれずに壊れる。先程お前がパ○ックと言っていたから電気製品の例を引こうか」

「ほむ?」

「家庭用電機は通常何テクスで動くか知っているか?」

「いや知らん。千ぐらいじゃないの?」

「まさか。百だ……やれやれ、この程度も知らないとは」

「うっさいなー」


 しょうがないじゃん。知らないんだもん。


「ちなみに、電池は?」

「あ、それは分かる五テクスだろ」

「そうだ。単純一位電池から単純七位電池まで、全て五テクスとなっている」


 電池って何であんなに種類があるんだろ。単三だけで良いじゃん、とか思うんだけど。

 そう言えば、どうでも良いけど魔界にも電池とかってあるんだろうか。


「無いぞ」


 あ、そうなんだ。

 つまりこんなに詳しく知ってるデュランはやっぱり人間フリークだってことらしい。


「発電所で作られた際、その電圧は約二万テクスだが……これを直に百テクス対応のパルッ○に接続した場合、○ルックはどうなる」

「割れる?」

「そうだ。魔力も同じように、その器の容量をあまりに過剰に越える強さの力で魔力を流入した場合、器が壊れる。まぁ、電気と違って魔力は大抵圧と力、及び質量が比例するがな」


 ほむー。


「ちなみに、そのたとえで行くとデュランとオレってどれぐらい違うんだ?」

「そうだな、お前を五テクスの単純三位電池とすると……いや、単純七位ぐらいか」


 テクスは変わらんのに、わざわざ小さいサイズ選びやがったなこの野郎!


「テクスは変わらずとも容積が小さい分先に息切れするのだが」


 すみませんでした。適切な表現でした。


「まぁ、お前を電池だとすると……。……」

「お前は?」

「無いな」


 無いのかよ。


「差がありすぎて適当な例がない」

「ほーほーそりゃーすごいことでございますねー」

「怒っているのか?」


 呆れてるだけです。


「まぁ、中位魔族を電池レベル5テクスとすれば、俺は落雷レベルぐらいかな……」

「落雷ってどれぐらいだっけ?」

「どの時点で測るかによるが、そうだな……お前達の知識は側雷のケースで一度対象物に電流を流した後の地表面測定を行っていたのだったか。それならば二千万テクス程度だな」

「……何か笑う気にもならん差だな」

「俺は少々特殊だからな」


 苦笑するデュラン。

 中位魔族でそれぐらいの差ってことは、オレとはもっと差があるってことだよな。


「まぁ、実際器が破壊される程の極端な差があるケースは少ないのだが……今回はお前と俺だからな。運が悪ければあのままお前を構成する情報と言う情報を俺の魔力でズタズタにされて、エンド、だ」


 つまり、単七電池のオレに、君の瞳は百万テクスのデュランが接続されると、オレ、パーン! ってことか。

 うわー、こえー。


 って、アレ?


 オレは一つの事に気付いてはたと首を捻る。


「あのさ、デュラン」

「何だ」

「でもその流入と流出って魔力を持った個体間の現象なんだよな? じゃあオレ関係ないじゃん」


 だって、オレ魔力無し(マナレス)だもんよ。

 魔力検知器にかけたって数値ゼロだぜ?

 魔力を持ってない個体であるオレには関係ない話じゃん。なーんだ。聞いてた時間無駄じゃん。


 そう思ったオレに、何故かデュランは少し寂しそうな顔で首を横にゆっくりと振った。


「ナカバ、それは違う」


 それってどれ?


「お前にも、魔力は備わっている」





 世界が外れる音がした。


 

【魔王講義】

さて、学生諸君。今日も良く集まってくれた。

根源学担当のディアヴォロス・デュランだ。

さて、本日は接触による個体間の魔力分与について説明しよう。


通常、個体同士の間には魔力差が存在する。それらに個体が接触した際、より高い魔力をもつ個体から、低い個体へ魔力が流出する。

とは言え、その量は基本的には微々たるもので存在に影響を及ぼす事は少ない。

減少分も全ての個体には自己復元能力が備わっている為、時間を置けば回復する。


ただし、例外的にその差が一定レベルを超えると、流入した魔力が流入された側の情報を変質させることがある。

その変質の程度によっては器の完全破壊を招くこともある。

……。(ノートを取るのを待っている)


さて、今日はここまで。

次回の授業は五月の二十九日……いや、六月の四日だな。

今回の授業について質問のある者は下の拍手ボタンから聞きに来るように。以上。



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