変形林檎とオレ
暫くナカバとデュランのターン。
多分……間挟んで五話ぐらいですかね。
……イマイチ文字に対する感覚が緩くて分からないんですが、フリガナ足りないとかあればどうぞ。
「で、何で死にかけてたのさ」
「あぁ、それか……」
物憂げな眼差しでオレが叩いたせいで乱れた前髪を直しながらデュランが溜息を吐く。
「悪かったな」
「いや、謝ることじゃねぇよ」
「いや、これは俺の責任だ」
目を伏せるデュラン。
無駄に色気満載でちとむかつくのですが、もっぱつ(もう一発)枕で殴って良いかな?
ちなみにさっきの一撃、さすがのデュランも空気を読んで避けずに受けておりました。
よろしい。
責任、ねぇ……。
まぁ、自分の生死には自分で責任を持つって考えは嫌いじゃねぇけどさ。
そこまでしょげる事ねぇんじゃね? ってな感じでデュランは明らかに落ち込んでいた。
あー、もう辛気臭いなー。
ちょっと心臓とか呼吸とか色々止まってただけじゃん。
それっくらいのことでガタガタぬかすんじゃねぇよ……いや、あんまりそれっくらいってなレベルの話じゃないか。
でもさぁ、いい加減立ち直れよ。
オレだって応急処置に関して恩に着ろとは思うけどさ、別に詫びて欲しい訳じゃあねぇんだよな。
謝るぐらいなら金をくれ。もしくは身長。
や、やっぱ身長だけで良い。くれ。
お金じゃ買えない価値がある、買える物はマスタードカードで。
「嫌な思いをさせたな……」
そんなオレの内心とは裏腹に相変わらず辛気臭いデュラン。
辛気臭くすぎて、隅っこでキノコ栽培でも始めたら大いに育ちそうな勢いのじめじめっぷりのくせに、それでも絵になるってどうよ。
美形なんて滅べば良いのに。
もしくは全身からナメコが生えれば良いのに。スープの具材になってしまえ。それか、真っ白炊き立てご飯のおかずに……あ、お腹減って来た。
ので、さくっと話を終わらせることにしました。
「あのさー、さっきからそればっかでさっぱり訳分からねぇし。さっさと先に進めよ」
「あ、あぁ……すまない」
「デュランが謝るのって初めて見たかも」
「……そうだったか?」
「うん。やっぱ魔王だから簡単に謝るとか出来ねぇんだなーって思ってたし」
「まぁ、な」
あ、やっと笑った。
「面倒だなー、王サマって」
「まぁ大してやる事も無いがな」
「いや、仕事しろよ。草葉の陰でワンコが泣いてるぞ」
「まだアレは生きているのだが……まぁ、あの忠犬から仕事を取り上げたりして泣かせるのは俺の特権だからな」
「んな特権ゴミ箱に捨ててしまえ」
ホントに胃に穴が開くぞそのうち。
もう手遅れかも知れねぇけど。
「で、そのも一個のほうの特権放棄してオレに謝っちゃって良かったのか?」
「まぁ、お前は魔族ではないしな……他の魔族も今はいない。問題ないだろう」
ずいぶんアバウトだな。
まぁ良いけどさ。
「でー、何で死にかけてたんだ?」
「そうだな、どう説明するべきか……」
「何、説明めんどうな話?」
「まぁ、な……」
何か煮え切らない返事が返ってきた。
「内容自体はさして難しくは無いのだが……」
「お前の簡単は当てにならん」
「そうか?」
「そーなんです。で?」
「まぁ、そうだな……世の中には知らない方が良い知識というものもあってな」
「ほむ? あれか、洗ったシャツが白いのは実は蛍光塗料のお陰ですよー、みたいな」
「……まぁ、それもそうかもしれんな」
ちょっと違ったらしい。
「そう、だな……まぁ話してもどうせお前は忘れるのだからある程度ならば問題ないか」
……死にたいのか貴様。
いや、オレの記憶能力は確かにポンコツスープですけど。
忘れるの前提って酷くね?
なぁ、その納得の理由酷くね?
……と心の中でしか反論できないオレもびみょーに酷いっつーか情けねーですが。はい。
「簡単に言うと、存在を構成する情報が壊れかけている可能性があったということだ」
「はい、デュラン先生」
「どうぞナカバ君」
「さっぱり簡単になってません」
てか存在を構成する情報って何?
「……。世界というのは情報で出来ていると言う認識はあるか?」
「んー?」
「世界をお前はどうやって認識している」
「どうやってって……んー、オレの場合は五感でってことか?」
「そう、各感覚を通じて入って来た情報を統合し、お前はこの世界を見ている。つまり、世界に存在する物はそれぞれ、お前の感覚を通じて入って来る情報の複合体と言い換える事も出来る」
「あー……もうちょっと細かくプリーズ」
「そうだな……例えばリンゴ」
ベッドサイドの備え付け冷蔵庫に手を伸ばし、デュランは中から一個リンゴを取り出す。
あ、うまそう。
「どうぞ」
いや、まるごと渡されても……。
「お前が今リンゴを認識しているのは例えば視覚情報……形状や色、質感。それから触れた手触り、重み。そして嗅覚での微かな香り。そう言った物の総合体としてリンゴを認識している。逆に言えばこれらの情報の集合体がリンゴを構成しているとも言える」
「ほむ」
「だが、この情報が例えばオレンジ色の楕円球状態であり、もう少し軽く、表面の手触りも凹凸のあるようなものへ変化した場合……お前はリンゴの認識をオレンジに切り替える」
「ふむふむ」
「つまり情報が変質したことによって、リンゴはリンゴという存在ではなくなったということだ」
「ありえるのかそれ? 手品じゃなくて?」
「手品でなくともあり得る」
滅多にある事ではないがな、とデュランはオレの手からリンゴを取り上げる。
あー!
……って何だ、剥いてくれるなら別に良いや。
「まぁ、部分的に変質するだけでも相当な痛みを伴ったり、人の形を保てなくなったりする。下手をすれば死亡する……或いは苦痛の中で死ぬことすら出来ないモノになる場合もある」
「意味逆だけど、どっちもどっちだなぁ」
どちらかというと後者が嫌だが、死ぬのも嫌だなぁ。
「だが、幸いにも今回は何事も無かったようだ」
「あ、大丈夫だったんだ」
「検査してみたが、特に情報に異常はみられなかった」
「ふーん」
「……まるで他人事だな」
八分の一に切ったリンゴをオレの掌に乗っけながらデュランが苦笑する。
いやいや、思い切り他人事ですから。
ま、無事なら別に良いんだけどさ。
何故か可愛らしくうさリンゴに剥かれてのを見て、オレは「確かに元気っぽいな」と何と無く納得した。
【作者後記】
林檎を剥くと必ずうさリンゴにする魔王様です。
裏話としてそれでうさ牧場を作って「食べ物で遊ぶな」としかられた事もあります。駄目な大人ですな。
それでは恒例(にしたい)のご挨拶をば。
初めての方も、またお会いしましたねの方も、ようこそおいで下さいました。
今晩は、尋でございます。
少しでも楽しんでいただけたなら、私としても嬉しい限りです。
今回も簡単なトリックをしのばせてありますので、気が向いた方はそれを見つけてみるのも面白いかもです。
ヒントは話題の転換、で。
それでは、また次の話でお会いできることを願って。
作者拝