一時救命とオレ
◆注意!
・以下の描写は現実に即したものではありません。真似してはいけません。
(演出上の理由により、あえて幾か所かかえてます)
・流血表現はありません。
・差別表現のつもりはありません。あくまで物語上の要素です。
◆それはさておき、ただ読むだけじゃ面白くないという貴方にちょっとしたクイズ。
Q1.ナカバの押したの短縮番号。ちょっとした遊びです。脱出ゲームとかではお馴染みのアレなんですけど……何でしょう?
Q2.いくらフィクションだからって、救急ならこれしなくちゃ!というのをナカバはすっかり忘れてます。さて、何でしょう?
Q3.基本的に尋はあるポリシーを持って統一している事があるのですが、今回に限ってはそれを守ってません。何でしょう?(知るか)
……では、本編をどうぞ。
息をしてない。
デュランが息をしてない。
息を。してない。
息が。
無い。
無い。
無い……どうしよう。
「落ちつけ、馬鹿」
オレは呟いて白いデュランの顔を見下ろす。
……落ちつけ。冷静になれオレ。クールになるんだ圭○。
落ちついてやるべき事を頭の中で復唱しろ。
この場で対応できるのはオレだけだ。
ホテルマンは呼べない。
普通の医者も拙い。
状況を発見したオレがファーストエイドをしっかりやって、状況を把握してしかるべき人……デイジーさんにつなぐ。
少なくともオレがこの部屋に入って十分以上経過している今、とにかく一秒でも早く対応しなくちゃ手遅れになるかもしれない。
だから、落ちつけ。
「良し、オッケー。了解した」
深呼吸良し、心構え良し、後は実行だけだ。
オレはまず靴を脱いでベッドの上に乗る。
状況確認。
出血や大きな怪我をしている様子は……無いな。
目立った腫れも無いし、手足が妙な方向に折れてる様子も無い。
次、無いと思うけど意識の確認。
「デュラン、おい、変態美形、誘拐魔、珈琲取っちゃうぞ」
呼びかけて肩をバシバシ叩いてみたが反応しない。
珈琲でも反応しないってことは意識は無いな。了解。
一応呼吸もあるかどうか、胸に耳をくっつけて、ついでに携帯の画面を顔の前にかざしてもう一度確認する。
うん、呼吸無し。
何か喉に詰まってる様子は……えーと無いな。
ついでに襟を緩めて、脈があるかどうかも確認する。脈無し、冷たい。了解。
リュックから取り出したタオルを丸めて、デュランの頭の下に入れて気道を確保する。
意識ない人間の体って結構重いんで苦労したが、これもなんとかクリア。よし、次。
オレは携帯を取って、ぐいっとコードを引きだす。
それから短縮番号「#578」を押す。
『緊急コール、B・L・Sを受信。一時救命処置の準備に入ります。マスクを準備して下さい』
はいよ。
オレは携帯がブブブと震えている間にリュックを漁って、薬箱からマスクを取り出してデュランの顔にセットする。
次に青いマークのついているコードを手に取る。
「テスト」
『テストします』
プシュー、とコードの先から空気が噴き出す。
良し。
オレはそれをデュランの顔に装着したマスクへ接続する。
『接続を確認しました』
「データリンク。男性、二四歳、身長一八〇、えーと……体重分からん……とにかく細身。呼吸停止、意識反応なし、脈反応なし、血圧不明」
『データリンク。クランケは男性、二四歳、身長身長一八〇、細身。意識不明、心肺停止。データの受信を完了しました』
「ブレス、ツー」
『ブレス、ツー』
プシューと音がしてデュランの肋骨が膨らむ。
もう一回。
それを見ながらオレは次の手順に入る。
今度は赤のマーカーの付いているコードからそのマーカーを外す。こうすると二本になるんだよ。
で、くそシャツ邪魔だな。
良いや、切っちゃえ。
オレ鋏を取り出して、とりあえず臍まで完璧に見えるようにデュランのシャツ前を縦に切り開く。
……後で弁償しろとか言われませんように
念の為シーツの端っこを引っ張って、タオル代わりにデュランの胸を軽く拭いてから一つを右胸の上に、もう一方を左わき腹の辺りに着ける。
掌でグッと押して……良し、しっかりくっついてるな。
『ブレスツー終了。脳波、反応ありません。心肺機能、反応ありません』
「コール、30-2」
『コール30-2。実行します』
……これで上手く行くと良いんだけどな。
これで行かないならショックも考えないと。
オレはデュランの様子を、ショックの時に備えて少し離れて見守りながら思う。
基本的に携帯に搭載されているBLS機能任せだから、オレにはあまりやることが無いんだけどさ。
あ、ちなみにこの機能、法律で全ての携帯に搭載することが義務付けられてる。
リムりん達のも「#578」を押せば同じ現象が起きるはずだ。
『一分経過しました。回復が見られない為ショックに入ります』
「承認」
『承認を確認。被術者より離れてください』
ピピー、ピピーという音がし始めたのでオレは慌てて部屋の隅に行く。
五コール以内で離れないと危険なんです。えぇ、とても。
いや、ここまで離れる必要は本当は無いんだけどね。
『ショック開始します』
音声案内と同時にバンッと何かが破裂するような音がして、ガクンとデュランの体が跳ねた。
「うぉっ?! 怖っ?!」
いや、実際見るのは初めてなんで。
びっくりしたなぁ。
……強すぎてコレが原因でトドメ、とか無いよな? 無いと言ってくれ。
『再測定を開始しました。ツツー、ツツー、ツツー、ツツー、心臓の再鼓動を確認。呼吸器、グリーン。血圧、グリーン。被術者の状態確認をお願いします』
「……っ」
電子音声の無感動なアナウンスを聞いてオレは思わず小さく体を震わせて、大きく息を吐く。
冷静だと思ってたのに急に足から力が抜けるような。
背中に一瞬にしてびっしりと汗が浮かぶ。
……そっか、緊張してたのか。
久しぶりに自分の肺が膨らんだ感覚にその場に座り込みたくなるのを我慢して、オレは未だに起き上がってくる気配の無いデュランに近寄って顔を覗き込む。
いくら心肺機能が再起動したって、脳が死んでたら意味が無い。
意識、戻ってるよな?
もう、手遅れ、とか……言わない、よな? な?
低く重い音をたててた装置。
饐えたような体臭。
チューブを通る、薬で白濁した液。
脳裡をよぎったソレに手をきつく握りしめる。
馬鹿野郎。
ビビってんじゃねぇよ。後悔なんて一度で充分だ。
「……デュラン?」
やっぱり寝てるみたいな、こんな時でも泣きたいくらい綺麗な顔を覗き込んで声をかけてみる。
頭を揺すらないように、胸の所をぺチぺチ叩く。
「デュラン、おい、なぁってば。起きろよ、なぁ、起きろってば」
「……」
「なぁデュラン、なぁってばっ!」
堪らなくなって両手でゆさゆさ揺さぶったら(良い子は真似しないように。悪い子も右に同じ)、ようやく、デュランの目蓋が小さく震えた。
ゆっくりと開いた狭間の紫色。
深い菫色みたいなその色に力が抜けて、オレはぺたっと腹の上に座りこむ。
「……何だ、起きれるじゃん」
「……ナカ、バ」
「……あー、おう。何?」
へちょけながら答えたオレの肩にトンと何かの感触。
視界が急に回転する。
あれ、オレ、倒れてる?
【作者後記】
さて、如何だったでしょうか?
今回は結構尋にとって冒険の回なのですが……。(今ビクビクしてます)
描く場面があまりコメディに出来ない所なので、息抜きに小ネタを仕込んでみました。
挑むも挑まないも勿論皆様の自由ですが、「何故世界を征服するのか。そこに世界があるからだ」というそこの貴方の為にヒント。
Q1.時計とか
Q2.ナカバ、自分でやるって言ってたのにやって無い……。
Q3.「表記の統一」に関わる話なのですが……まぁ、今回は読み方が通常と違うので、敢えてこんな風になりました。
Q2だけは本編中でネタバラシしますが、1、3(特に3はナカバ達は感知しようが無いので)は本編中で語る予定はありません。
これだ、と思った貴方は拍手でぽそっと一言頂ければ。
勿論「勿体ぶらずに教えろ」でもOKです。
それでは、最後にご挨拶。
はじめていらっしゃった方、ご来訪に感謝を。お気に召したならこれ幸い。
またおいで下さった貴方、いつもお世話になっております。今後ともお見捨て無きよう邁進する所存でございます。
もし宜しければまたおいで下さいませ。
それでは、いずれまた。
作者拝




