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依頼三件とオレ

普通三つの願い事をするのは魔人ではなく、人間の方です。

ですが、魔人の願いを人間が叶えることだって出来ると思うのです。

「まぁ、少々面倒な仕事でこちらに来ていてな……」


 お前めんどくさい事ばっかだな。性格含めて。

 とは心優しいナカバさんは言わずに黙って頷いてあげました。優しいなオレ。

 誰も言わないから自分で言ってみました。

 自分でダメージ受けました。

 手間いらず。


「それを妨害したいと考えている者が居る」

「何で?」

「一つはあれの目的にとって望ましくない事を俺がしようとしているからだな」

「ほむ、もう一つは?」

「俺の事が嫌いなのだろう」


 気が合いそうだ。


「まぁ俺がこうしてこちらに来ると言うのはアレにとって嫌がらせの良い機会なのでな。張りきって色々構ってくれとやって来るということだ」

「ん? 何で良い機会? 護衛ワンコが居ないから?」

「いや、それもあるが……俺本体にはあれが傷をつける事は不可能だからな。だがこの人形オートマタの体は強度は人間並み、魔力に至っては体を動かす為の最低限程度しかない」

「あぁ、弱っちいから狙いやすいのか」

「そう言う事だ」

「せこいなー」


 まぁ、チート満載の魔王本人に立ち向かえつってもそれどんな無理ゲー? って感じだけどさ。

 ふーん、でもそれだけのリスク背負って、デュランは何しに来てるんだろう?

 そんな疑問を込めて見ると、デュランが小さく笑った。


「まぁ、パッチをな」

「はい?」


 バッチ? ブローチ見たいな奴?


「あぁ、いや、差分パッチだ。まぁ、メンテナンスの為にな」

「何のメンテ?」

「……」


 黙って微笑とかけまして、その心は黙秘権ってところか。

 全く整って無いが。


「で?」

「お前に頼みたいのは三点、一つは万一途中で俺がリタイアした際のパッチの回収だ」

「いきなり重いな……で、そのパッチってどんなのさ?」

「それは秘密だ」

「……ほほぅ」


 秘密ですか。そーですか。

 ゆらーりと某忍術学園の戸部先生のように立ち上がったオレから不穏な空気を感じたのか、さっとデイジーさんがオレを摘まみ上げた。

 ぎゃーす!


「駄目ですの! 落ちついて下さいのー!」

「はなせー! この馬鹿の顔、一度蹴る! 蹴り潰す!」

「まぁ落ちつけ」

「お前が言うな!」

「大体お前の足の長さでは俺の顔の高さまで届かん」

「うっさい!」

「教えてしまうとお前が危険だ」

「なら頼むな!」

「お前なら」


 オレの言葉を遮って、デュランが少しだけサングラスをずらす。

 縁から覗く紫の目。


「その時になれば分かるはずだ」

「……いや、無理ですから」

「分からなければ俺の所持品全てを処分してくれれば良い。元よりあまり持ち歩いていないからな。判別が出来ない状態ならお前は放置してかまわないから、代わりにデルギウスに連絡を取って残骸の回収に来るよう依頼して欲しい」

「あ、いやちょっと待って。えーと……」


 え? リタイアってつまり、そういうことですか?

 いや、うん……変じゃないよな。ほら、デュランって魔王だし。列車の時だって襲われてたし。あれマジで防衛失敗してたらそりゃあ、うん。アレだよな。こう、チュドーン、コッパミジーンと言いますか。

 まぁ立場もアレだし別に予測できない話じゃ、ない、よな? うん。


「ナカバ」


 ぶらぶらとデイジーさんのぶっとい腕の先にぶら下がってるオレのデコに、ポン、とデュランの手が乗る。


「……何でしょう」

「少しでも迷った時は直ぐにデルギウスに連絡を取り、DDDに保護を求めろ。良いな」

「……いや、まぁそうするけどさ」

人形オートマタもいずれ破損する。それだけのことだ」

「……うん」


 いや、ダミーだって分かってますよ。聞きましたから。

 平然と答えたオレに、何故かデュランが小さく眉根を寄せた。


「……すまんな、やめておくか」

「いや良いってば。ま、テキトーにしか出来んけどさ」


 デイジーさんに下ろして貰って、オレはもっかいソファーに腰を下ろす。

 うん、何か色々頭から血が引いた感じだ。

 そっか、さっきオレ達死ぬかもしれなかったんだ。

 今更そんな事に気付くなんて変だけどさ。

 でもあの時は全然そんなこと考えちゃなかったんだ。リムりん達が居たし、デュランも居たし、何か知らんけどDDDも後から来たし。何かドカドカ音がしたり光ったり揺れたりしてたけど、そんなの今時何処の遊園地だってやってる演出だし。

 だから、あれが一歩間違えれば死んでて可笑しくない状況だってオレは今の今まで分かって無かったんだ。

 デュランが、そういう目的の為なら列車一つ平気で巻き込めるような奴に狙われてるなんて。それも、他人を操ってそう言う事させてる奴に狙われてるなんて。少し考えれば分かることだって全然思いもしてなかったんだ。

 今更だ。ホントに。


「ナカバ」

「や、平気平気。ちょっと自分鈍いなってだけだからさ」

「……。二つ目、このホテルは一種の結界だ」


 目を閉じて小さく息を吐いて、デュランが急に話題を変えてきた。

 あ、いや変えてねぇのか。


「つまり、緊急時にはここへ逃げ込めってことか」

「そう言う事だ。お前は連れの二人と、それからDDDを誘導する為の標になれ」


 ふむー。

 確かに一番弱いオレが動くってのは良い誘導の標になるな。適役だ。

 でも誘導はまぁやってみるとして、問題は逃げ込んだ先……このホテルの強度だよな。

 見た所大した防衛機構とかも備えてないっぽいし、結界とかは良く分からんけど絶対壊れないってもんじゃねぇだろ。

 中に内通者が居るかもだし、誰かが操られてるかもしれねぇし。

 目的の為に列車まるごと一つ破壊しようとするような奴が、ホテルに対して手加減するようには思えない。

 ので、聞いてみた。


「でもさ、そういう結界って『もうダメ、耐えられない。結界が破られる!』とかなるのがお約束じゃね?」

「あぁ……多分それは問題ない。ここを破ることは、あれの望みそのものを壊すことになるからな」

「ほむ?」


 結界を破るイコール向こうの目的が失敗、ですか。

 良く分からんな。

 何かえげつない手でも使ってるんだろうか。きっとそうだな。

 とりあえず、ここは安全っと。

 了解。


 あれ、でも良く考えたらオレ、魔王の手先になって良いのか?


「あぁ、問題ない。今回の仕事は魔王としての仕事では無いのでな」

「あ、そうなんだ」

「強いて言うならメンテナンスだ」

「それさっき聞いた。で、何の?」

「黙秘権を」

「させねぇよ」


 笑顔で断言したら、デュランが沈黙した。

 そしておもむろに指を一本立てる。


「それは秘密です」

「謎のゴキブリ神官の真似とか古いアニメ引っ張り出すんじゃねぇ! 通じないだろうが!」


 いや、オレは通じちゃいましたがね。


「まぁ、秘密だ」

「結局秘密なのか」

「ヒントは時計塔。君にこの謎が解けるか」

「いや、だから古いんだってば。犯人この中に居たら困るし」

「では、見た目は子供で頭脳は大人のバーローの真似を」

「せんで良い」


 いやそっちはまだやってるけどさ。この前劇場公開もしてたけどさ。


「で、頼み事の二つは分かったけどさ。最後のは何?」

「あぁ、それはな」


 デュランがオレを真面目な顔で見つめる。

 紫の瞳。

 良い色だな、とふと思う。


「ナカバ」

「おう」

「付き合ってくれ」



【作者後記】

最後に何気に何か魔王様がおっしゃっておられますがそれはさておき、ナカバがやっと現実感をもって今の状況に臨むようになってきました。


それでは恒例……と言う程でも無いご挨拶をば。

今晩は、尋でございます。

再びお越し下さった方、またお目にかかれた事を嬉しく思います。

初めてのお客様、ようこそいらっしゃいました。

お気に召したなら幸い。

無駄なお時間を費やさせてしまったのなら申し訳ない。


まだインターバルが続きますが、お付き合い頂ければ幸いです。


作者拝

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