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過去物語とオレ

とりあえず裏方語りみたいなもんです。

いろんな話が含まれてますが、とりあえず観光旅行には基本関係ありません。


「デルギウスは物質界こちら側の協力者の一人でな」


 人払いが終わって、おにゅーの服を着たデュランはソファーに体を埋めて足を組む。

 相当際どいところまでスリットが入ってるせいで足組むのは楽々って感じだ。

 いや、下にズボン履いてるから別に問題ないですよ?

 誰だって魔王の生足なんざ見たかねぇだろ?


「デルギウスなんて名前で呼ばないで下さいのー。今はデイジーですのー」

「あぁ、そうだったな。まぁ、昔の彼の名前はディアヴォロス・デルギウス……まぁ後ろの称号はお前には意味を為さないから省略するが、元魔族ということだ」

「デイジーですのに……」


 ぶっとい指をつんつんと突き合わせていじけるデイジーさんこと、ディアヴォロス・デルギウスさん。

 やっぱり魔族でした。

 いや、普通に考えて普通の人間がデュランを「陛下」って呼ばんよ。

 「陛下」って呼ぶって言う事はつまり、こいつが魔王だって知ってて、なおかつその魔王を「陛下」って呼ぶポジションに居るってことだ。つまり、魔族。

 デイジーさんはしょっぱなからデュランの事を「陛下」って呼んでたし、デュランもそれを当然として受け取ってたし、加えて明らかにデュランが何らかの目的で中央セントラルに来てると分かってることをにおわせる発言。ここまで揃えば答えは簡単でしょ。

 まぁ、同じディアヴォロスって種族だとは思って無かったけどさ。

 ……ん?


魔族?」

「今は人間ですの」


 にっこり笑うデイジーさん。

 もしや、その格好は人間になる為の謎の儀式とかですか?


「関係ございませんのー」


 ……さいですか。

 説明を求めてデュランを見ると、コーヒーカップを両手で持ってたデュランが「ん?」と瞬いた。


「いや、えーと、元魔族で今人間ってどういうこと? 何で?」

「愛ゆえですの」


 いや意味が分かりません。

 取り合えずじーっとデュランを睨んでみると、奴はややあって小さく苦笑した。


「まぁ、確かにそうだな」

「んー?」

「私の妻が人間でしたの」


 ほー。

 デイジーさんの話にオレはちょっとびっくりする。


「結婚も真剣に考えたのですけれど、ちょっと色々と事情があって難しかったんですの。彼女と私と種族の差があったのもそうなのですけれど……」


 言って言葉を濁すデイジーさん。

 ほむ、あまり追及されたくないっぽいな。じゃ、触れないでおこう。


「それで、陛下に相談しましたの」

「マーガレットがな」

「あうぅ、それは言っちゃイヤですのー」

「あれはなかなかの見ものだったぞ。デルギウスの半分ほどの背丈の娘がこやつの耳を引っ張って俺の前に引きずり出してきた時はな」

「むー」


 嫁関白だったらしい。

 てか、嫁さんの名前、マーガレットさんって言ったんですか。


「今の姓も妻から貰ってますのー」

「ふーん。それでどうなったんですか?」

「それで、陛下に助けていただいて私は人間になって、マーガレットと二人物質界で新たな生活を始める事が出来ましたの」

「魔族って人間になれるもんなの?」

「まぁ原理としては充分可能な話だからな。とは言え、実行するのは難しい……俺でなければ無理だっただろうな」


 はいはい、チート説明乙。


「でも、陛下にはすっごく感謝してますのよ」


 とデイジーさん。


「私達が結婚できたのも、幸せな生活を送れるようになったのも、子供に恵まれたのも陛下のお陰ですもの」

「それでマーガレットさん今どちらに?」

「……亡くなりましたの」


 うわ、しまった。

 そう思ったのが顔に出たのか、デイジーさんはにっこり笑って「良いんですのよ」と首を振る。


「仕方ありませんの。人間ってとっても脆いって知ってましたもの。今の私も簡単な事で傷がつきますし、一度傷つけばなかなか治りませんもの」

「……何か、すみません」

「別にあなたのせいじゃありませんもの。それに、それまでずっと二人で居て幸せでしたもの」


 はっきりと幸せだったと言い切るデイジーさん。

 生まれ故郷も捨てて、魔族から人間になって、奥さん先に亡くして、それでもそれまで幸せだったって言い切れるこの人はきっと強い人なんだろう。そして、幸せだったんだろうな。

 オレにはまだ、そういうのは良く分からんけど。

 これから先も分からんダろうけど。


「それに、今の仕事もずっと性にあってて楽しいですの」

「仕事って、社長さん?」

「そっちじゃなくて、お洋服の方ですの」

「あぁ、成程。ちなみに元は何をやってたんですか?」

「ディアヴォロスですから軍人ですの」

「……成程」


 すっげー軍人っぽい体格ですよ。物凄く納得してしまった。


「でも、向いてませんでしたのね、きっと。今の方がずっと充実してますもの」

「その服もご自分で作ったんですか?」

「ですの。妻がこう言うのが好きだったんですのよ」

「ほむー」


 ……んー? 趣味じゃなくて、仕事でも無くてとなると。


「その服装とか喋り方って奥様を偲んで……とかですか? 夫婦一心同体っつーか」

「ですの!」


 ぎゃー! 鋼鉄ハグー!


「この子賢いですのー! さすが陛下のお気に入りですのー」

「ぎゃー、しぬー」

「あら、ごめんなさいですのー」


 ぜーぜー、と肩で息をするオレにデイジーさんが済まなそうに謝ってくれました。

 が、もう少しで複雑骨折する所だったと主張しておきます。

 てかデュラン、お前も珈琲眺めてないで助けろよこう言う時は。役たたねぇな。


「でも、元魔族と知っても普通にお話ししてくれるなんて、良い子ですの。陛下が気に入られるのも分かる気がしますのー」

「いや、気に入られてませんから。それに、オレは魔族についちゃあんまし現実味ないっつーか、知り合いがそちらの魔王陛下と、セシェンさんと、あとえーと……後もう一人だけで、特に恐怖とか憎悪を感じるような経験したことが無いだけですから」

「んー、でもなかなか貴重ですのよ?」


 そう言われてもなぁ。

 オレはぐにー、とノビをしてここまでずっと黙ってるデュランの方へ眼を向ける。


「で……何でオレだけここに残した訳?」

「……」

「おーい」

「あ、あぁ。すまんな」


 ちょっと、しっかりしてくれよな。

 そう思うオレの前でデュランは珈琲の入ったカップを机の上に置いて、足を組み直す。


「まぁ、簡単に言うと今後のお前達の行動方針について、かな」

「お前達って……オレとリムりんとヴィーたんのこと?」

「そうだな」


 行ってデュランは小さく眉を顰め、天井を見上げる。


「連れてきた以上、お前達の事はなるべく守る。だが、この体では限度があるのでな……お前も少し事情を知っておいた方が良い。そう思ってここへ残って貰った」

「うーん、オレ知っちゃって良いわけ?」

「問題ない程度しか教える気は無い」


 この野郎。

 尊大な態度でふんぞりかえる魔王様の胸倉を掴んでガクガク揺さぶって居たら、デイジーさんに「服が乱れますのー!」と強制剥離されてしまいました。

 てか、こんな時も服の心配ですか。本当にデュランに感謝してるんだろうか?

 ……で、仕切り直し。


「つまり、オレは協力はしなくて良いけど、最低限身を守れるぐらいの事情は知っとけってことか」

「まぁ、それだけではないがな」

「ふーん」


 並々と湛えられた黒い水面を眺めながらオレは呟く。


「じゃ、あんたの目的に邪魔が入らないようにオレがどうしたらいいのか教えてくれよ」


 ちょっと目を見張ったデイジーさんの隣でデュランが微笑んだ。

 

【作者後記】

ということでデイジーさんの昔話でした。

デイジーさんはこのシリーズにおいては珍しく幸せなカップルです。(まぁ奥さん死んじゃってますけれど)


今晩は、尋でございます。

再びのご来訪、或いは初めてのご来訪感謝いたします。

前回、前々回はコメディ風味強めでしたが今回と次回はややシリアス色が強くなると思われます。

一般人で、特に力も無いナカバが「力あるモノ」にどう関わってゆくのか。

若干退屈かもしれませんが、見守って頂ければ幸いです。


それではまたいずれ、次の機会にお会いできることを願って。


作者拝

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