兄的指導とオレ
更新案内は役目を終えましたので、上書きしております。
では、久し振りのナカバ達をお楽しみください。
現状報告。
とりあえずあっちの方でにわか崇拝者に囲まれて、微妙に営業スマイルがひきつりだしてるデュランを肴にレーズン抜きラムレーズンアイスを食ってます。
それってただのラムアイスじゃないかって? いや違うんだなぁこれが。仄かに残るレーズンフレーバーがあるか無いかで全く違うんです。てか、ラムアイスって酒のアイスじゃん。
あ、デュランが壁際に追い詰められてる。
平和やなぁ。
アレ見てると魔王を倒すのに勇者は要らんな。
ファンクラブでも作って皆で押しかけたら、多分魔王の方から勝手に逃げてくぞ。うん。
うっとりした顔で詰め寄る店員さん達によって、「壁際・追いつめ・キス寸前(?)」と言うどっかのラブコメの王道を堪能してるデュランを微笑ましく傍観してると、急に近くから話しかけられた。
「それでさ……」
「ぐおぁっ?!」
「うわ、何だよ?!」
「あ、何だアポロか。びっくりした、忘れてた、まだ居たんだ」
「……」
アドルフだった。
はー、びっくりした。死ぬかと思った。
「お前なぁ、どう言う驚き方してんだよ……こっちが驚いたぞ」
「あー、や……何かごめん? っていやいや、今のはそっちが悪いだろ」
「あー、すまん」
「まぁ良いけどさ」
本気でどうでも良い話だった。
オレはカリカリとコーンの縁を齧る。
まずこうやってカリカリな部分を少し食べて、次にアイスが染みてふにふにした部分をコーンの縁を食べる。そしてまた少しカリカリ、また次にふにふにを順に食べる。こうやって交互に食べることで双方の感触が楽しめる。これが正しいコーンの食べ方である。
もちろん、コーンにココア味とかついてるのは邪道。
アイスの風味が楽しめない。
はー、うまー。
「おい、聞いてるか?」
「いや、オレはあんたの甥じゃねぇし、聞いてもねぇですが」
「……」
「で、何かオレに用か?」
「……真面目に聞けよ。お前の話なんだから」
はい?
「さっきの事だ」
重ねて言われてオレは急に食欲がなくなった気分になって、アイスを口から離す。
いや、食事中にそんなえぐい話するんじゃねぇよ。
じーっと食べたいけど食べる気を無くしたアイスを睨んでたら、アドルフもさすがに空気を読んだのか「ごめんな」と謝って来た。
いや、謝られても出てっちゃった食欲は戻ってこないけどさ。
ここは定番のあれか。「オレが悪かった、帰って来てくれ」って奥さんに逃げられたダメ夫みたく土下座するしかないのか。
そんなことをぐだぐだ考えてたら、アイスを食い終わってたアドルフが隣にドスンと座って来た。
うわーい、邪魔だ―。
「……お前さ、さっきの話あの子達にちゃんと話して無いだろ」
「話してねぇけどさ」
「今回かぎりのトラブルだってならそれも良いさ。けど、今後も続く問題なんだろ? あれ」
「終わって下さい」
「いや俺に言われてもな……」
妥当な返しだな。うん。
「あ、そうだ。お前ちょっと行ってあいつの頭殴って中身かっとばしてくれよ」
「アホか! 堂々と犯罪依頼するんじゃねぇよ!」
やっぱり駄目でした。
さっきのデュランの取引、もっかいやり直せないかな……。
「こら、現実逃避するな」
「痛ったぁっ?!」
おのれ、デコピンとは古典的な手を使いおって!
「お前が真面目に話聞かないからだろ」
「えー……てかさぁ、何でお前がそこまで口つっこんでくるわけ? 仕事関係ねぇじゃん」
「あるんだよ。俺、引き続きあの人の護衛請け負ったからな」
「……」
その護衛対象なら今丁度向こうの方で崇拝者の群れに襲われてますが。
守れよ。
「で?」
「オマケでくっついてるお前らが妙なトラブルに巻き込まれて、仕事に支障が出ちゃ迷惑だからな」
うぉ、意外と身も蓋も無い言い方するんだな。
でもオマケなめんじゃねぇぞ。
ビックリ○ンチョコの騒ぎをオレ知ってるからな。
あ、デュランが笑顔で取り巻きを無力化した。
相手するのが嫌になったんだな、きっと……しかし、あの死屍累々の皆さんを誰が片付けるんだろう?
……よし、アドルフ行け。お前の出番だ。
「おい、また聞いてないだろ」
「あだっ!」
お、おのれっ! 一度ならず二度までもこの私に傷をつけるとは!
許さん、許さんぞぉっ!
……微妙にセリフが混ざってるが気にしないように。
「お前さぁ……何かオレの扱いひどくね?」
「お前がちゃんとしないからだ。人の話聞く時は背を伸ばして、ちゃんと聞く。良いな」
ひしひしとお兄ちゃん系オーラを感じます。
うん、でもまぁ言ってる事はまともだし、こんなとこじいちゃんに見られたら確実に叱られること間違いなしなので、オレは嫌々背を伸ばして……あ、その前にアイス。
はぐっ。
「……お前な」
「むっめ、むーみむむむ……」
「あー、分からん分からん。良いからさっさと飲み込め」
アイアイサー。
オレは一口で口の中に押し込んだアイスをがしゅがしゅかじって、グイッと飲みこむ。
あー、勿体ない……。
でもしょうがねぇじゃん。話してる最中に確実に溶けて崩れるもん。
……オレのレーズン抜きラムレーズン。
「……後でもう一個ぐらいはおごってやるよ」
「マジで! お前意外と安い感じで良い奴!」
「……誉めてるんだよな?」
誉めてますよ。一応。それだけじゃないが。
閑話休題。
「良いか、今後も続くトラブルに関してはきちんと周囲と情報を共有して対策をたてるべきだ。一人で対処できる物でもそうだ。まして、お前の力じゃ対応できないことなんだろ?」
出来ます、何て言ってみても説得力ねぇだろうなぁ。
実際、こいつに引きずり出されるまでオレはあの場に居るしかなかった訳ですし。
オレがだんまりを貫いてると、アドルフの方が先に折れてくれた。
うん、そう言う所もとことんお兄ちゃんキャラですな。
……そう言えばこいつもデュラン見慣れたせいで忘れてたが、それなりに美形だっけか。うん、今思い出した。
「蹴って良い?」
「今の話の流れでなんでそうなる?!」
あ、確かに丸っと無視してた。
えーっと。
「うん、正論だけどオレ言う気ねぇから」
「おい」
だからオレはお前の甥じゃねぇですよ?
何て軽いボケを心の中で挟みつつ、オレはアドルフの目を見上げる。こう言う時は目をそらしちゃならない。心の中で一歩でも引けば、即座に相手にそれが伝わるから。
冷静に、激せずに、退かずに、オレの言いたい事を相手の目を見て告げる。
「コレはオレの個人的問題だから。リスクを受けるのはオレだけだし、リムりん達には迷惑かかるだけで何のメリットもねぇトラブルだろ。その、オレがケリをつけなきゃならねぇ話で、折角旅行楽しみに来てるあの子達に迷惑はかけらんねぇよ」
「お前、間違ってるだろ」
正面からばっさり言われました。
「大体さっきのだって、俺がいなかったらあのままずっと捕まっていただろ。その間あの子達は待たせっぱなしだってこと、分かってるよな」
「う、うん」
「心配だって掛けるし、探しに行く事だってする。それはデメリットじゃないのか?」
「お、おう……」
「黙ってたら迷惑かけないで済むとか思うな。あの二人だけじゃ無い、ボスだってそうだぞ」
「いや、デュランは面白がってほっとくような」
「あのな……一応、保護者責任ってのがあの人にだってあるんだぞ」
……、保護者。
オレは向こうの方で一人優雅に珈琲を飲んでるデュランを……って何時の間に。アイツ本当に珈琲好きだな。
そしていつの間にか倒れてた取り巻きさん達が綺麗に片づけられて……あ、救急車か、なんだ。
いや、でも保護者、ねぇ?
まぁ確かに保護というより庇護ぐらいはしてくれそうだ。生命の危険に陥れば、だけど。
命綱だけはつけとくから、それ以外は自分で頑張れ、があいつの主義だろう。
オレにとっちゃそれは有り難いんだけど。
「おい」
ふっ、今回は来る事を予想していたぜそのデコピン!
ベチィ!
「……」
「……いや、涙目になるなよ。悪かったから」
分かってても避けられんもんはしょうがないのです。偉い人にはそれが分からんのです。
いや無理だよ。
分かってたら出来るんなら野球なんざホームラン打ちまくりですよ。
「てかこれで死んだら恨んで祟ってやる……額の左上という中途半端な位置からまだらハゲになって、ついでに痔で苦しんで椅子に座る時にふかふかクッションが必要な呪いをかけてやる……」
「呪いの内容がくだらない割に具体的で微妙に嫌な感じなのがものすごく怖いんだが」
ふっ、恨みの呪いに恐れ戦け。
我を称えよ。
……なんちゃって。
「赤くなってるな」
「誰かさんが弾いてくれたせいで細胞が幾らか死んでるだろうしな」
「恨みがましく言う前に治せば良いだろ」
「あー……や、オレそういうのほっとく派なんで」
「あぁ? あぁ、回復魔法が苦手だからってほっといたら何時までも上手くならないぞ」
「ほっとけ、余計な御世話だ」
「またああいう奴に絡まれたらどうするんだ? 怪我するかもしれないんだぞ」
「うっさいなぁ。回避するし、回避できなかったらさっき見たいに一人で愚痴らせとけば勝手に満足するから良いんだよ」
「お前、そう言う態度良くないぞ」
「あのさ、それも仕事?」
「言っただろ、不確定要素はなるべく排除する。お前みたいな体力も力も無い、おまけに人の話を聞かない態度の子供が、護衛対象の周りをうろつかれるのは迷惑なんだよ」
「……さいですか」
うん、プロの意見でした。
対抗しようとしたオレが馬鹿だった。
でも、こればっかりはなぁ。うーん、方針少し変えるか。
つまりこいつが気にしてるのは仕事に響くんじゃねぇかって点だしな。そこに問題が無いように持ってけばいい。
「じゃあ、この仕事中にああいうトラブルにオレが巻き込まれなければ問題ないよな」
「へ?」
「あいつ、前にリムりんとヴィーたんには叩きのめされてるから、彼女達が居れば絡んでこない。彼女達が居なくても、デュランが傍に居れば問題ないのも止そうとしちゃ妥当だよな。だって、あいつオレ一人抱えたぐらいじゃビクともしねぇだろうし、当然デュランの傍には護衛のお前とか他のDDDも居るはずだもんな」
「お、おう。まぁそうかもしれないけどな」
「つまり、こっちにデュランが居てお前らが仕事請け負ってる間オレが単独行動しなければさっきみたいな問題を起こすリスクはほぼゼロだし、起きたとしても即時に対応可能ってことだよな?」
「いや、まぁそりゃそうだがよ。俺が言いたいのはだな」
「じゃ、こっち居る間は控える。必ず誰かと行動する。これでオッケ?」
「……本当に話さなくて良いんだな?」
念押しされてしまった。
が、オレは迷わず頷いた。
それにアドルフが呆れたっぽく溜息をついて、明後日の方向を向く。
「しゃーねぇなー……その代わり、厄介事引き込んでくるなよ」
「平気平気」
そう言うトラブルメイカーの役割はおもにあっちで珈琲タイムしてる魔王様の役目ですから。
かるーく請け負ったオレに、アドルフがしばらく疑いの目で見てたことは猫の額より狭い心で許してやった。
ああいう世話焼きキャラはあまり関わらないのが吉なのである。
【作者後記】
子供の理屈VS大人の理由、というところでしょうか。
でも、子供には子供なりの理由や事情があって、一概に大人の理由が一般的で常識的であることが分かっていても言う事を聞けない事もあるんですよね。
どちらが正しいとか、簡単には言えないのかな、と。
勿論見守っている大人としては当然注意しなければならないのですけれど……。
まぁそんな真剣な話ではありませんが皆様お久しゅうございます。
久しく無い方、再びのご来訪に感謝を。
初めての方、幸か不幸か、袖すりあうも多生の縁。お気に召せば望外の幸い。
ナカバ達の珍道中は暫く続きますので、宜しければまたお付き合いくださいませ。
作者拝