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目的意識とオレ

 ま、でもこれはこれ、それはそれなのでデュランを廊下に追い出して(帰れつったけど、素直に帰りそうにないのでそこは諦めた)オレは急いで着替えを終わらせた。

 てか邪魔が入ったせいでデートの前に色々ぶらぶらする予定が無理になった。

 おのれ魔王デュランめ、どこまで私の邪魔をしたら気が済むと言うのだ! とか、白ひげにローブの謎の爺さんっぽい感じで叫びたくなるぐらい、思い切り邪魔な魔王だった。

 オレの時間を返せ。


 その魔王デュランは、ドアを開けて部屋を出たところで、何故かオレを出待ちしてた。

 お前まだ居たのかよ。

 しかも何かこっちジーッと何か期待してるっぽい目で見てるし。

 ……えーっと。


「ごめーん、ハニー待ったぁ?」


 顎の下に手をやって、オクターブ高い声で言ってみた。

 それにデュランは思わず殴りたくなるほど整ってる顔でにっこり笑って、


「いや、今来たところだよダーリン」

「嘘吐けぇっ!」


 腹に蹴り入れといた。

 ついでにその勢いで後ろにこけそうになった。

 デュランが引き戻してくれた。

 屈辱だった。

 しかも自分でやって物凄く後悔した……二度とやるもんか。



 

 てな感じで、




「何か出かける前なのに無駄に疲れた……」

「体力が無いな」

「うっさい」


 取り合えず時間が惜しいのでちゃきちゃき出発です。

 エレベーターに掛け込んで、二階のボタンを押す。ついでにつっかけ履きしてたランニングシューズを履きなおす。一応紐もしっかり結んどかないとなぁ……。

 あ、デュランは当然連れてきてます。こいつに留守番何かさせられねぇし。

 てことで、オレの後ろには白い壁ことデュランが何やらぼけーっと突っ立ってさっきから「コーヒー」とか呟いてやがります。

 ちなみに例の白いトレンチコート装備済み。お前喧嘩売ってるだろってなぐらいにピタッと似合ってる。

 ついでに胸元には真っ赤なバラではなく黒い元サングラスだった物体が下がってる。

 さっきオレがケツの下に敷いて圧縮プレスで割った奴だ。


「あ、えーと……そうだ、そのグラサンごめん」


 レンズは完璧に割れてしまって修復不能。フレームも歪んでしまってちょっと使えない感じになってた。


「で、何でそのままの状態? この前の時みたいに魔法でちゃちゃっと直せば良いじゃん」


 デュランはこれでも一応魔王なので、チート能力満載なのだ。

 指パッチンで森が復活したり、コーヒーミルが出現したり、人の手を勝手に下ろさせちゃったりできるのだ。

 ……あれ? 何かこうやって並べてみるとどれも微妙だな。

 うん、でもまぁこいつならドラえも○なんてメじゃない。このグラサンだってパシっと直せるはず!


「無理だ」

「だよね……ってオイ、何でだ。気分が乗らないとか、雰囲気が足りないとかまた抜かしたらコロスからな」

「今の俺の魔力はお前と大して変わらん。大半の魔法が使用不可能と言う事だ」


 ……ナンデスト?


 って、今更だけどそう言えばデュランの姿形も前に魔界に呼ばれた時に見た状態と違う。

 殺意を抱きそうなくらい端正な顔とか、劣等感バリバリ刺激されそうな長い足とか、お前縮めよ邪魔だよってな具合に高い背とか、黒髪に紫の目は変わってない。

 でも耳がエルフ耳じゃなくて普通に人間っぽい。お前何時かそれ踏むぞ、な長さだった髪も今はうなじまでの長さのショートになってる。爪だって黒くないし長くも無い。きちんと切りそろえてある桜色。

 何ていうか……。


「全体的に人間っぽいね」

「そのように作ってあるからな」

「作って……ってことは、その体また人形オートマタ?」

「そう言う事だ」


 微笑むデュラン。

 技術屋なこの魔王様は自分で人形オートマタも作ってる人で、これがまた市販の作業用とか介護用のあんな奴とは月とスッポン、弘法と筆な感じでグレードが違うのだ。

 まぁ、ぶっちゃけマジな人間との見分けがつきません。

 ちなみにそう言うリアルすぎ人形オートマタの作成は法律で禁止されてるので、良い子の皆は真似しちゃダメだぞっ! これ、オレとの約束。

 うん、でもまぁ取り合えずデュランは何でだか知らんけど形の体に乗り移る……要は呪われた市松人形、動く人体模型な感じでこっちの世界に割り込んできてて、その副作用かなんかで魔法が全く使えない弱っちい奴になってるってことか。

 うわー、魔王の癖に役たたねー。


「まぁ、よってこれは後で修理に出すしかないな……」

「相当高いよね、多分……」

「あぁ、別にお前に請求はしないから安心しろ」


 良かった。破産する所だった。

 じゃあ、いい加減確認したくないけど確認しないとなぁ。


「で?」

「で、とは?」

「何でオレの部屋に不法侵入してたわけさ? 警察呼ぶよ?」


 いや、魔王に警察がどれだけ太刀打ちできるか分かりませんけど。


「あぁ、それはだな……約束の物を受け取りに来た」

「約束?」


 『一階です』と電子音声が喋ってエレベーターのドアが開く。

 外に出る。うーん、良い天気だ。

 本当なら色々ぐるぐるする予定だったけど、こいつのせいでだいぶ時間潰れたしなぁ……バス使うか。

 バス代払わせよう。


「インスタントコーヒーはどこだ?」

「は?」


 ごめん、考え事してて聞いてなかった。


「インスタントコーヒーだ。くれるのだろう?」

「魔界へお帰り。この先はお前の世界では無いのよ」


 コーヒーに我を忘れている。鎮めないと。


「ライ麦畑で捕まえればいいのか?」

「いや、確かに金色だけどそれやったらお百姓さんに絞め殺されますから」

「で、コーヒーの件だが」

「スーパー、コンビニ、薬局でご購入ください」

「くれないのか? 約束しただろう」


 はい、しましたね。覚えてますとも。

 この重度のコーヒー中毒者の魔王様にうっかりインスタントコーヒーの話を振ったオレが悪いんだけどさ。

 この前別れ際にそんな約束をさせられたような、そうでもないような。


「約束しただろう」


 誤魔化し切れなかった。


「でもさぁ、考えてみたらアンタの方がオレの何十倍、何百倍も金持ちじゃん。しかもこの前はホイホイ世界観移動したらやばい見たいな事言ってなかったっけか? コーヒーの為に来ちゃまずくね? さっさと帰った方がよくね?」

「だから負担を減らす為にこの体を使っている……それで、コーヒーの件だが」

「しつこい。帰れ」

「……」


 何だよ。何でそんなすごいがっかりプラスすごい悲しいみたいな、捨てられた子犬っぽい目をするんだよ。


「だって、金余ってるじゃねぇの? 苦学生にたからないで自分で買えよ」

「……ナカバは買ってくれないのか?」

「だから、オレが買う意味ないし。その辺のコンビニでも普通に売ってるから買ってくれば? そして帰れ」

「……」

「……」

「……」


 ……はぁ。

 ったく、しょうがねぇなこの野郎。


「分かった。買う」


 渋々頷くと、途端に顔をほころばせるデュラン。

 お前、そんなにオレの財布にダメージ与えたのが嬉しいか。そーかそーか、このまま無事で済むと思うなよ。


「ただし、条件」

「条件?」

「一つ目、今は無理。この後デートだし……だから文句を言わずに待て」

「ふむ」

「二つ目、受け取ったら即行帰れ」

「……」

「か、え、れ。迷惑です」


 にっこりするオレ。

 えー、見たいな顔で沈黙するデュラン。


「俺とて、一応やるべき用事があって来ているのだが……」

「新しい豆の購入とか?」

「無論それもある」


 堂々と頷いてんじゃねぇ。

 バス停まで歩きつつ、オレは無言でデュランの胸に突っ込みを入れる。拳を入れる、とも言う。

 押されたデュランが数歩つんのめったのを見てちょっとだけすっとした。


「いきなり何をする」

「いや、むかついたから……」

「……。まぁ、用が済めば直ぐにこちらからは消えるさ」

「そうして下さい」

「その前にコーヒーを……」

「あーもー! うっさい! 分かってるから!!」


 ぎゃーぎゃー騒ぎながら、オレと魔王は馬鹿みたいに晴れた空の下で並んでバス停までてくてく歩いて行ったのだった。

 はー……こいつの相手って疲れる。

 

【作者後記】

書きためつつ、投入しつつ、書きためつつしていると何処まで書いたか分からなくなるダメな作者ですこんばんは。

自分で読み返しつつ、書きつつ、話を書いていたらうっかり入れるはずの要素をすっ飛ばしてたりします。

それもこれもナカバとデュランが元気良すぎるから……(と責任転嫁してみる)


前置きが長くなりましたが、ご来訪の皆様ありがとうございます。

お気に入り新規登録して下さった方ありがとうございます。

評価して下さった方、励みになります。

うっかり来ちゃった方、……何かの縁と思って諦めて下さい。

大丈夫です、幸福はプラスマイナス1で釣り合い取ってるどんぶり勘定なので次は良い事があります、きっと。

幸運の女神はどんぶり勘定ってこの考え、気に入りなのですけどいかがでしょう?


作者拝

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