人間電池とオレ
デュランにアドルフ、オレ、それから捕虜になった襲撃者。その襲撃者を連れて来るDDDの人。それから心配だからとついてきたリムりん、ヴィーたん。総勢七名。
「狭っ……」
「これだけ居ればな」
思わず突っ込んだオレにデュランが苦笑いしながら答える。
場所はオレらが朝飯食ってたコンパートメントの隣。
まぁ、広さは変わらん訳でして……四人用のところに七人詰め込んだらそりゃ狭いわな。しかも一人は気絶中なんでやたら広い面積取ってるし。
「ボス、これで良いのか?」
「あぁ、上出来だ」
クスと微笑みを向けられて赤面するDDDの皆さん。
口元が「平常心、平常心」と唱えてるような気がするのはオレの思いすごしだろうか?
デュランはそのまま慣れた手つきで捕虜を椅子に座らせる。
おお、さすがデュラン。誘拐のプロ。
「ナカバ……」
「冗談だってば。じょーだん。重い冗談」
てかオレの思考を読むなよ。
「さて……誰か手を」
デュランが「お手」ってな感じで手を出す。
とりあえずオレがはたき落としておいた。
ふぅ、良い仕事したぜっ。
「おい」
「何さ」
「遊ぶな。まったくお前は子供だな」
お前にだけは言われたくねぇ……。
てか、
「や、意味他の人に通じてねぇぞ。ほら、オレ以外ポカーンじゃん」
言われてデュランは振り返り、「あぁ」と小さく呟く。
な、オレの言った通りだろ? オレ正しい。
ふふんと笑ったオレにデュランは微苦笑して、言い直す。
「すまないが、誰か魔力の提供を頼む」
「魔力の提供?」
「今の状態では魔法が使えないのでな。端的に言えば魔力貸与……魔力の外部供給の源を人間に求めると言う事だ」
あ、成程。魔力が自分に無いなら外から手に入れればいいのか。
考えてみれば魔術書なんかは本自体に魔力が込められてるタイプもあるしな。魔力が中に無いなら外から取るってな考えもあるのか。
えーと、つまり……人間電池。
「……」
え? 何で沈黙?
「分かった」
沈黙を破ったのはアドルフだった。
「俺がやろう」
「出来るの?」
疑問を投げかけたのはリムりん。ヴィーたんがその隣で頷く。
それに対してアドルフの答えは気が抜ける感じの奴だった。
「さぁ?」
「さぁ、って」
「やってみれば分かるだろ。おい、お前らも待機しておけ。俺が取り合えず消耗具合を測る。それを基準にローテ組むぞ」
「了解」
「民間人のお嬢さん方は下がっててくれ。万一暴走した場合に備えて彼女たちにシールド展開を」
「了解」
てきぱきと指示を出すアドルフ。さすが班長。所属は神南署ですか?
「ふふ、なかなか良い思い切りだな」
「ま、実際見てみたい興味半分……あとは追加報酬よろしく頼むぜ、ボス」
「成程。では、貰うぞ……お前の力を」
こら、手を取って妖艶に微笑むな。
そして皆さん、一斉に顔を赤らめて視線を逸らさないように。
大して意味ねぇんだから、あの動作。何も考えちゃねぇんだからあの五歳児。
ふぇろもんまおうじじゅーせよ。
口パクでやるとデュランが苦笑いした。いや、本当に自重しろよ。
「それを言うなら自重だ」
「へ?」
「いや、良い……始めよう。手を」
きょとんと聞き返したアドルフに緩く首を振って、デュランはさっきのように手を差し出す。
その手の上にフォークダンスっぽくアドルフが手を重ねる。
「さてと……」
目を閉じるデュラン。すっ、と小さく息を吸って口を開く。
「『巡りて来たれ 来たりて集え 集いて従い 従いて成せ 二重の螺旋 弛む事無き流転 終わりに始まり 始まりに終わる』」
ん? 急にどうしたデュラン。ついに可笑しくなったか? ……って可笑しいのは前からか。
「詠唱……」
「あ、あれ詠唱なんだ」
「聞いた事の無いフレーズですが……恐らく」
「大体魔力の外部供給と魔法行使と同時に出来る物なのかしら……」
「出来ないの?」
「成功したと言う話は聞いたことがありませんね。理論上は可能なのですが……人から人というのは」
「ふーん。でもまぁ何とかなるんじゃね?」
「信頼しているのですね、随分」
「や、別にそう言う訳じゃあ……」
何と無く声を潜めてひそひそと囁き交わしながらオレは呟く。
いや、デュランが珍しく見た目真剣モードだし。
や、こっち背中向いてるから顔は見えんけど、何か雰囲気が「邪魔するなよ。したらどうなるか分かってるだろうなぁ? あぁっ? 命が惜しけりゃその口しっかり噤んでろやコラ」みたいな感じだし。
意訳ですが何か。
「でもデュランなら何とかするだろ」
魔王だし。
「『集いたる者の宴 原初の渦 混沌の褥 汝は我を知り 我は汝を知る 今一度空の座に宿れ、最小の単位にして最大の欠片よ』」
それにしても何も知らんで見てたらイタイ感じのポエマーだな、これは。
しかも白ずくめ。
……。
「ナカちゃん、何か目に入ったの?」
「いや、痛々しさに思わず涙が出そうな気がして……」
や、実際には出ないけど。
「うわ、すご……」
アドルフが何か言ってる。
リムりん達を見ると何か信じられない物を見たような顔をしている。
え? 何? 見えねー!!
ビョンビョンとジャンプを繰り返し、オレはようやく見る事が出来た。
デュランの手に淡い白の光が宿っていた。
……え? それだけ?
【作者後記】
久々のリアルタイム投稿です。
気分的にはお久しぶりです、尋です。
毎度ご来訪ありがとうございます。
お気に入り登録81人目、ありがとうございます。
拍手ありがとうございます。
今回ばれない程度に魔力の正体をデュランの詠唱に混ぜてみました。
詠唱の辺りは説明の下書きは出来あがってるので、その内魔女編で書きたいと思ってます……。
まだ列車から降りられませんが……続きます。
作者拝