表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/108

戦力確認とオレ

 ひとまずアサギの出発には間に合いました。

 二両編成のちっさい列車なんだけど、なかなかおしゃれなデザインでマニアの間だけじゃなくてもこのロイヤルブルーの列車はわりと有名だ。

 焦げ茶色の木版張りの車内はちょっとした高級ホテルっぽい雰囲気になってる。

 マットレス、カーテン、それから廊下のカーペットは外側と同じロイヤルブルーで、ユリの形を模したランプはアールなんちゃらってなデザインらしい。クリーム色のガラスシェードがなかなか綺麗だ。

 前に雑誌の特集で見た事あったけど、マジで凝ってるなぁ。

 金かかってんだろうなぁ。

 ずるずるーっと通路を引き摺ってオレを運んできたデュランが無造作にコンパートメントの扉を開き、中の座席の上にオレをペイッと投げ落とす。

 ぼよよーん。

 おお、座席がふっかふか、あんどスプリングが利いててトランポリンみてぇだ。


「おおおお、楽しい!」


 べよん、べよんと上で何度か座りジャンプしてると、デュランが小さく苦笑した。

 む。


「気に入ったか」

「うん、すげぇな。やっぱ金持ち列車違うなー。てか、これ本当に車内?」

「そうだぞ」


 何かホテルの一室ってな感じ。

 お、天井の板パネルにユリの花が彫ってある。芸が細かいな。


「荷物、上の棚に置いておくぞ」

「うぃうぃ」

「ナカちゃん、大丈夫?」

「あ、リムりんやっほー」

「……これは、凄いですね」


 遅れてコンパートメント内に入ってきたリムりんの後ろでヴィーたんも室内の装飾にびっくりしてる。

 うんうん、だよね。驚くのオレだけじゃないよね。

 オレがきょろきょろしてると、リムりんがやってきてオレに視線を合わせるようにしゃがんで肩に手を置いてきた。


「何かされてない? 大丈夫?」

「んー、多分服がちょっと伸びてるかもしれないぐらいかな。てかさ、てかさ、この座席楽しい」

「そ、良かったね」


 べいんべいんと跳ねてみせたオレにリムりんがにっこり笑う。


「荷物はどちらに置けば良いでしょうか」

「そこにクローゼットがある。そこに入れておくと良いだろう」

「分かりました」


 ヴィーたんが頷いて壁際に一体化してたクローゼットを開いて、グローブトロッタ○・サファリのスーツケースを入れる。

 あれカッコ良いよな、デザイン。ちょっとシックで、んでもって古い感じで。

 柔らかいクリーム色が上品で、ヴィーたんの仕事できるぜってな雰囲気にピッタリだと思う。

 リムりんも同じようにメタルピンクのスーツケースを中に入れる。

 リムりんはどっちかっつーとああ言うシンプルかつ機能的みたいなデザインが好きなんだよな。オレはヴィーたんのアンティーク系のアイテムの方が好きなんだけど。


「さてと」


 デュランは手荷物ゼロだったんで一番早くくつろいだ状態になって、例によって優雅に足を組んで腕組みした姿勢で椅子に座っていた。

 ん? オレの方が早くリラックスムードだったって?

 細かい事は気にすんなー、それわかちこわかちこー……ちっちゃいとか口が裂けても言わんもん。


「では、まず戦力の確認をしておこうか」


 え? そこ?

 朝飯は? まず朝飯じゃねぇの? 腹が減ったら力が出ないっていうじゃん。

 オレの心の訴えを無視して、デュランは無駄に長い足を組み替え、グラサンの向こうの紫の眼を細める。


「私もナカバも所有魔力はゼロだと思ってくれて良い。よって不慮の事態の際、ナカバの護衛に回れるとすれば貴女達だけと言う事になる」

「……」

「まるで不慮の事態が起こる事が決まっているかのよう、ですね」


 ヴィーたんの言葉にデュランは小さく、しかし不敵に笑う。


「貴女達は彼女の為に来たのではないのか?」

「……。良いわ、話を続けて」

「ありがとう」


 リムりんの言葉を受けてデュランが頷き、座席の背もたれに背中を預ける。

 余裕ってか?


「単独襲撃はこの列車の構造及び特性上考えにくい。よって複数での行動となるはずだ…まぁ、単独の場合の対応は貴女達にとっては対複数よりはやりやすいだろう」

「……。それで、複数の場合はどうしろと言いたいのかしら?」

「ナカバを守れ」


 何言ってんだこいつ、ってな顔をリムりんがする。

 そこにデュランはすぐにもう一つ言葉を重ねる。


「私の事は放置する事」

「……大した自信ですね」

「自信など無いさ」


 苦笑するデュランにヴィーたんが微かに赤面して視線を逸らす。

 こら、オレのヴィーたんに何しやがる。色目使うんじゃねぇよ。

 こそっと足で横からキックしといた。

 デュランは例によって顔色一つ変えず、眉一つ動かさないでさらっと流しやがったけど。

 案外こいつ、本当の意味で無神経なのかもしれない。

 人形オートマタだし。


「魔法技官」

「候補生だけど」

「この車両ぐらいは捕捉範囲に入っているな?」

「……えぇ」

「戦力剥奪は?」

「……」

「使えないのならば後方から出るな。幸い剣技官が居るようだしな。獲物は何だ」


 さっきからオレには意味不明の会話が続いてます。

 それよりご飯……あ、そうだ。鞄ん中にお菓子詰めて来たんだった。源氏パ○。あれ食ってよ。

 そう思ったが考えてみればさっきリュックはデュランによってオレの手の届かない所に置かれたんだった。

 えーい、嫌がらせか、くそっ。

 オレは仕方ないので靴を脱いで座席に上り、上の棚めがけて手を伸ばす。

 おのれー、微妙に届かねー。


「大体分かった」


 オレの努力を嘲笑うかの如く鮮やかな手つきで、横から伸びたデュランの手が目の前でオレのリュックをかっさらう。


「返せ」


 蹴飛ばして、奪い返しておいた。

 お帰りマイリュック。魔王に変な事されなかったか?

 デュランは何故かかるーくこっちを睨んでるようだったけど、当然のように無視だ無視。

 それより愛しの源○パイですよ。

 はー、空腹で死ぬかと思った。

 ピリピリと袋を破って先に食べてると、何故かリムりんがにこにこしながらデュランを見てた。

 何? 恋の芽生え? 止めた方が良いぞそいつだけは。

 リムりんがその気ならオレは一生涯かけて止めるぞ。やめとけ、そいつだけは相手にしちゃいけない、と。


「私の手持ちの武器はこれだけだ」


 ん? 例のまっくろくろす……じゃない、上から下まで真黒な小太刀もどきリディルの登場か?

 そう思ってオレは視線だけデュランの手元に動かしてみたが、そこにあったのは手のひらサイズの銃だった。


「デンジャー」

「それはお前だ」


 すかさず返ってくる冷ややかな一言。

 あれ? デンジャーってなんだっけ……おお、あれか。危険デンジャー


 ……。


「デリンジャー、ですか。変わっていますね」


 後ろからドスドスと無言で背中に拳を打ち込まれてるデュランにヴィーたんが戸惑うように呟く。

 てか誰がデンジャーだ、誰が。

 ……まぁオレだろうけど。

 セシェン君とか絶対にこいつに手ぇ挙げないもん。多分。


「ナカ、バ。喋りにくい」


 ひょいっと首根っこを摘ままれて座席へリターンさせられた。

 くそぅ。

 気が済まないので下でベシベシと奴の足を踏んでおく。


「まぁ、携帯に便利なのでな……それに反動の問題もある」

「魔弾の射手。本物ね」


 ごく気軽に銃を渡したデュランからそれを受け取って、調べ終わったリムりんが「大体貴方のやり方は分かったわ」と頷く。そしてデュランにサリンジャーを返す。


「それはライ麦畑だ……どうやらお前にも捕獲役が必要らしいな」


 デュランに思考トレースされてしまった。


「何だ、図星か」

「うっさい。てかマジでアンタの頭はどうなってんだ」


 ここまで見抜かれるとむしろ怖いっての。本当に読んでるんじゃないだろうな?


 

【作者後記】

前の話が短くなったのは、この話があまりに長いから……うん、しょうもない理由だ。

どうも、しょうもない尋ですこんばんは。


予約投稿なので、ちょっと掲載時点の状況は分からないのですが……ご来訪ありがとうございます。(と見栄を張ってみる)

拍手ありがとうございます(と希望的観測を述べてみる)

リクエストありが……あったら良いな(と目をそらしてみる)


本日いっぱいまで受け付けておりますので、宜しければどうぞ。

では、どうぞ皆様良い夜を。


作者拝

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ