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魔王陛下とオレ

 寒いんで手をつないで歩く。

 この時間の中央セントラルは静まり返って人の気配が無い。

 この辺は商店街だからだろうか。

 何と無く二十四時間働けますか? って感じで営業してるイメージだったんだけどそうでもないらしい。

 回遊式ライトに照らされたオレの影が進行方向に向かって長く長く伸びて、聞こえる音はオレとデュランの足音。それから後ろからバイクを押してついてきてるアドルフの足音。

 手をつないだまま、オレとデュランは真っ直ぐな道を黙って歩く。

 風が冷たい。

 軽く身震いしたら、繋いだ手から気がついたのかデュランがオレを見下ろして、こっちの手を包み込むように握り直した。


「……デュランは寒くない?」

「ん? あぁ……無いな」

「ふーん」


 また暫く会話が途切れる。

 何か、何話して良いのか良く分からんけど、黙ってるのも別に悪くない気がしてオレはまた前を向く。


 何と無く分かってたことだけど、デュランと居るのは物凄く楽なんだよな。

 気を使わないというか、気が置けないというか。

 非常にイカンではございますが、多分、オレとデュランはどっかが似てるのだ。魔王に似てるなんて笑い話にもならんけど。

 多分、全く違っていて、違うところだらけだからオレはデュランに、デュランはオレに似ている。

 オレ達は偏ってる同士なんだ。

 極端同士なんて、最悪のペアなのかもしれないけどさ。

 それでも、デュランの隣はとても楽だ。

 ずっとこうしてても良いんじゃないかなんて、ちょっとだけ血迷ってみたりするぐらいには。


「あ」

「ん?」

「これ」

「あぁ……」


 思い出してオレは自分で巻いてたマフラーを外して、デュランを屈ませて奴の首に巻く。

 何度か直して、やっと満足な感じに巻けた。

 オレの行動にデュランがきょとんとしているから、オレは肩をポンと叩いてニヤッと笑う。


「貸し、返したからな」


 デュランが瞬いて、それからオレの言葉の意味に気付いて苦笑いする。


「……返しすぎだな」

「ふふん、ざまあみろですよ」


 勝手に黙って出かけやがったお前がいけないのです。

 ニタァと笑ったオレにデュランがクスリと苦笑する。


「あ、でもさ……返さんで良いよ」

「ん?」

「オレの借り、返したからこれでおしまいにしようぜ。もう貸しとか借りとかさ」


 オレの発言にデュランが不思議そうに首を傾げる。

 うん、意味分かんないよね。

 てかこう言う時こそ読みとれよ。悟れよ。


「……何故だ」


 悟れってば。


「えーっと……ほら、そういうのめんどいじゃん」

「だがお前は律儀に返してきただろう」

「いや、借りっぱなしだと落ちつかなくて」

「ならば何故俺は返さないことになる?」


 あー、うーん。まぁそうなんだけど。


「まぁ、なんだ。あれですよ。貸しとか借りとか抜きの関係っていうのも世の中あるわけですし」

「ふむ……?」

「なんつーか、ほら、貸し借りって言う話だけにすると何かドライじゃん」

「まぁ、そうかもしれんな」


 借りたら返せ。

 貸した分だけきっちり耳揃えて返せ。

 それは正しい。

 ギブがあればテイクもなくちゃ、釣り合いが取れない。

 でも、それは貸した、返したで行って帰って、そこでストップする話だ。

 一往復。

 それはシンプルでスマートかもしれないけれど、ちょっと、寂しい。


「良いよ、返さなくて」

「……しかし」

「良いってば。オレが良いって言ったから良いの」


 ぐいぐいデュランの手を引っ張って、オレは「ほら、あれだ。友達とかそういうもんじゃん」とぼそぼそと呟く。



 デュランが沈黙しやがった。



「……」

「……」

「……」

「……」

「……ふっ」


 沈黙を破るようにニヒルに笑うオレ。

 そのまま全力でデュランの爪先踏みつけてやりました。


「痛……っ」

「オレに何言わせてんじゃー! てか、せめて聞いたら何かリアクションしろよ! ボケとか、ツッコミとか、飛び降りとか!」

「あ、あぁ……。……」

「何も思いつかないのか」

「すまん」


 てか何でお前ほんのり顔赤くしてるんですか。

 こっちまで赤くなるだろうがボケ。


「ナカバ」

「何だよ。謝らねぇぞ」


 若干足引きずってるデュランからプイッと顔を背けてオレは眉間にしわを寄せる。

 こればっかりは謝る訳にはいかんし。

 オレ悪くないもん。


「ナカバ」


 デュランが微笑交じりの声でオレを呼ぶ。


「それは……」

「吊り合い取れねぇのは分かってる」


 ゼロと無限を天秤に乗っけてるようなもんだ。

 両方とも重さでも数字でも無いあたりがそもそも終わってる。

 でも、オレは不遜だろうが、誰も認めなかろうが、そう思っちゃってるんだからしょうがない。


 笑い話もいいとこだ。


 人類の、世界の敵の魔王様に対して、ちょっとした友情みたいのを感じてるだなんて。


「でも良いじゃん別に。オレが勝手にそう思ってたってさ」

「……ありがとう」

「何でお礼とか、イミフ」

「ナカバ」

「何だよしつこいな」

「俺は、お前の存在に心から感謝する」


 それは、オレがあの部屋で死にかけた後にも言われた言葉だった。


「……。何か、オレが困った時に助けに来い」


 なんて言い返したら良いか分からなくて、オレはそんな風に憎まれ口を叩く。

 「ああ」とデュランの声が隣でした。


「オレも、あんたが困ってたら助けに行く」


 友達ってそういうもんだから。


「だから無理すんな」





 それから後はずっと、オレも魔王ともだちも、何もしゃべらないで歩いた。


 

 手をつないでた。


 横に並んで一緒に歩いてた。


 空を見上げた。


 真っ暗な中に星がちらちらしてて綺麗だった。


 視界の端で、紫色の火が静かに燃えていた。


 それは、デコボコなオレの知人改め――

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