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広い背中とオレ

 その後はオレも勝手な行動してデュランの邪魔したことを謝って、デュランはデュランで黙って出かけたことが配慮不足だったってことで謝って、最後は握手して仲直りした。

 喧嘩両成敗。

 大分オレの方が重いことやってる気がするが(一世一代の、命がけの仕事邪魔したとか)デュランはその辺は気にしてないっぽかった。

 心が広いというより、こいつの場合は天然の可能性が高い。

 それに、魔王様は人間にどろっどろに、甘いのだ。


 その甘さはけっして優しさではないけれど、限りなく優しさに似ていると思う。


「さて」


 オレと手をつないでたデュランがそのまま手をスライドさせて、オレの手首の所からするっと何かを抜きとる。

 ……あれ?


「この際だから仕事も片付けておこうか……」

「何かやたら握ってる時間が長いと思ったらそれが理由かこの野郎」


 てか何でバレた。

 ええ、まぁ何かぐだぐだデュランを蹴りまくってたから言いそびれたけど、ちゃんと持ってきてますよ本物。

 オレじゃ使い道分からんし。

 どこに持っていたかと言うとですね、オレの大事な時計と手首の間に挟んでました。袖で隠れるから丁度良いのさ。万が一の時はすぐに取り出せるし。

 しかし何故バレた。


「分からないと思っていたのか?」

「少なくとも他の人は気付いてなかったっぽいですよ?」

「……ふむ」


 デュランは周りを見回し、何故だろうなと言いたげな顔で首を傾げた。

 そろそろお前は自分のスペックに気がついて下さい。

 オレのじとっとした視線に不思議そうに首を傾げるデュラン。

 いや、男にそうやって可愛らしく首傾げられても何も萌えませんよ。

 女の子なら当然オッケーです。

 むしろお姉様でも、おば様でも、奥様でも、おばあ様でも全然いけます。

 是非一度と言わず何度でもやって下さい。


「まぁ、自分で作った物の状態や場所と言うのは何と無く分かる物だからな」

「え。なにそれ怖い」

「ん? お前は違うのか?」


 オレはそもそも物作りしませんから。

 そう言ったらデュランは一瞬妙な顔をして、それから何か一人で納得していた。

 ……何を納得したんだろう。


 まぁ、そんなやりとりの後で、デュランは例の謎のスティックメモリーもどきを使って何かの作業をした。

 その辺の話はさくっと省略するとして、


「あああああー!」

「どうした、ついに縮んだか」

「縮んでねぇ」


 不吉なこと言うでねぇだよ。

 そうじゃなくて、


「ロアにお前引き合わせるの忘れてたー!」


 うわーん、ロア超ごめん! とか叫んで携帯ぱちぱちするけどオレのじいさま携帯は既に充電がお亡くなりになっているらしく、うんともすんともゲコとも言わない。

 ロア……ごめん、デュラン捕まえたのに話すの忘れてた。

 携帯弄りながら半泣きになってるオレの隣で「ロア……?」と小さく呟くデュラン。


「デュランの知り合いだろ? むっちゃ心配してたのに連絡取るの忘れてたー……あーもー、ごめん、マジでごめんなさい。あー、やべぇ。オレも豆腐の角に頭ぶつけろ」

「ロア、と言ったか?」

「うん、多分読み方ロアだと思うよ? L、O、A」


 空中に文字を書いてみせると、デュランが何とも言い難い感じの顔を一瞬して、それから苦笑して首を横に振った。

 何で? すっげー心配してたよ? 一言「元気だよ、最近どう?」ぐらい言えば良いじゃん。

 そう言ってみたけど、デュランは頷かなかった。

 えーって見上げてみたら、何と無く苦笑いっぽい顔をしていた。


「知り合いじゃねぇの?」

「……友人だった、かな」

「過去形の上に疑問系とか」

「随分懐かしい名前だが……今の俺は当時とは大分様変わりしてしまったからな。会ったとしてもこちらが分からないかもしれない」

「でもすごい心配してた」


 少なくともオレに間違いメール送ったって分かった後も、それでも無愛想なオレに食いさがって頼み込むぐらいにデュランのこと心配してたのに。

 自分で探したくても出来無くて、それでも見ず知らずのガキに頼ってでもデュランの安否が知りたかった人なのに。

 ……や、まぁ見つけたのに電池切れるまで思い出さなかったオレも悪いんですが。


「……」


 デュランは苦笑しているだけで、うんと言う気はないっぽかった。

 ふむー……。

 デュランは今は魔王だけど昔は魔王じゃなかったらしい。あ、これはデュランのところの不憫で苦労性で弄られ三昧のもっふりワンコが言ってた話なんだけどね。

 ロアから聞いた感じだと、デュランとロアは随分長いこと音信不通だったそうだから……もしかすると、デュランが魔王になる前の知り合いなのかもしれない。デュランが魔王だって知ってたら、説明する時に真っ先に特徴としてそれを挙げててもおかしくないもんな。

 でも、それをロアが知らなかったとしたらどうなんだろう。

 魔王なんてオレはそれほど思い入れ無いけど、基本的には悪役だからなぁ。


 今の自分を知られるのが怖いんだろうか。

 知られて、どう言う反応されるのかが怖いんだろうか。

 それとも、知ったことで相手が態度を変えるかもしれないと疑ってしまう自分が嫌なんだろうか。

 意外とデュランはそういうこと気にしそうなタイプ、の気がするし。

 まぁでも良い年した奴のお付き合いに口出しするのも野暮ってもんだろう。


「ふーん、ま、今は連絡とれねぇししょうがねぇか」


 オレは携帯をパチンと閉じる。


「……良いのか?」

「何が?」

「ロアに……連絡を取るべきだ、とは言わないのか?」

「取れないじゃん。しょうがないっつーか、結果的に今は不可抗力だろ」

「……」

「後はお前とロアの問題だろ。オレは知らんし、どうしろっつーことも言えんだろ」

「……そうだな。俺の問題か」

「そうそう。あ、でも」

「ん?」

「後でロアのアドレス教えてやるから、それは受け取れよ。オレだって引き受けたんだし」


 そのアドレスをどうするかはデュランの判断すべきことだ。

 無視するのか、自分から連絡するのか、何を伝えるて何を黙っておくのか。

 そこまではオレは面倒見られんし、手を出して良いことじゃない。

 結局誰かとの関係っていうのは突き詰めれば当人間の問題だから。余所が手を出すなんてのは思い上がりも良いところだ。

 ……それに、デュランなら。

 デュランなら、きっと悪いようにはしないと思う。何と無くだけどね。

 オレはうぎーっと伸びをして、あくびを一つ。

 さっきうとうとしたけど、流石に眠い。


「夜に伸びるはずのオレの身長を返せー……」

「あぁ……そう言えばもうこんな時間か。クロ、すまなかったな」

「いいえ、お義姉様。そのようにおっしゃらないで下さい……私達が至らないばかりにいつもこうしてお手数をおかけしているのですから……」


 目を伏せて、クロ様は「アールアーレフのことも、私の責任です」と小さく悲しげに呟く。


「最後までお義姉様の手をお借りしなければならない我が身の卑小さが、非力さが……悔しゅうございます」

「あまり思い詰めるな……と、俺が言っても困らせるだけかも知れんがな。ファリド、クロを部屋まで送ってやってくれ」

「勿論です、さ、姫様……」


 ふらふらしているクロ様を支えるようにして、ファリドさんが入口の方に誘導してゆく。

 ああ、しかし眠い。


「……大丈夫か?」

「だめかも」

「運んでやろうか」

「うーん……じゃあ、出口んとこまでお願いします」


 眠すぎてぼーっとする頭で頷いたら、デュランは「分かった」と言ってしゃがんでオレに背中を見せた。

 ……乗れと?

 いや、うん……もう「大漁だー」のマグロ横抱きはお腹いっぱいですけどね。

 でもお前の服まだ結構血塗れなんですけど。

 いや、でも眠いし。

 うん。

 じゃ、失礼して。


「どっこい、しょ」

「掴まったか?」

「うん」


 あー、意外と快適だ。

 もうちょっとひんやりしてるかと思ったけど、予想より暖かいし、安定感パネェし。見た目細いのに意外と背中広いんだ。

 何かいい匂い。落ちつく。

 頭ごとごちっと背中に当ててみると、血液の流れる音が聞こえて眠気が更にパワーアップした。

 オレを抱えあげてる手に体重を預けて、目を閉じる。

 そのまま数秒待たないで、プツっと落ちるようにオレは眠りに落ちた。

 多分寝てたんだと思う。

 何と無く、歩いているデュランのゆったりした歩幅の揺れを覚えているような気もするけれど……。









「ナカバ」

「……うぁい」

「起きたか」

「はぁ……? ……あー、うん。起きてる気がする」

「出たぞ」

「うー……」

「降りるか。このまま行くか」

「うーん……んー?」

「ホテルまで運ぶぐらいは構わんぞ」

「……おー、デュランじゃん」

「そうだな」

「んー……」

「……猫だな」


 ぐりぐりと頭を擦りつけたところが小さな苦笑と一緒に僅かに振動して、それでオレはやっと目が覚める。

 あぁ、そっか。デュランにおんぶされてたんでした。


「どうする?」

「降ります」


 それぐらいは自分で歩きますよ。オレにだってプライドがある。

 しゃがんだデュランの背中からえっちらおっちら降りて、オレは服を確認する。

 血のシミは着いてない。良かった。

 うにゃーと伸びを一つ。ああ、外の空気が旨いぜ。


「ところで」

「何?」

「お前、あれに何か心当たりはあるのか?」

「あれって?」


 言われるままにデュランの指差した方向を見て、オレは心底後悔した。

 門のところに見覚えのあるピンクが、腕組んで待ち構えて居やがった。



 ……やっべぇ、死亡フラグの匂いがします。


 

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