大人二枚とオレ
何で街中でいたいけな子供が振り回されても誰も助けてくれなかった。
ま、世の中そんなもんだろう。
ってことでオレは、
「ここはどこ?」
「……振り回しすぎて頭に何か影響でも出てしまったか。すまない、ただでさえ貧しいお前の頭が」
「貧しい言うな!」
いや、文字ぐらい読めますよ。
チケットセンターでしょ、ここ。そこに堂々とチケットセンターって書いてあるし。
問題は何故に、何時、ここに来たんだって話だ。さっぱり記憶にないんだが。
「まぁ、お前は先刻から「コロス、いつかコロス」と俺の背中ばかり睨んでいたからな。気付かなかったのも仕方のない事だ」
「あー、はいはい。アンタの無駄に高い身長のせいか。で、何故にここに?」
「俺にも用事があると言っただろう」
そうだっけか。興味ねぇから聞き流してたけど。
デュランは券売機の前に立って、慣れた仕草で操作する。
ふむふむ、明日八時発のアサギ二号か。
ん? って事は行き先は中央?
「禁煙、席はこの辺りでは良いか。後は大人一……」
ていっ。
「……おい」
大人二枚。
「……。さて、キャンセルしてやり直すか」
「ちっ、その手に気付いたか」
「ナカバ」
「オレも行きたい」
オレが見上げると珍しくデュランがたじろぐ。
「……お前、俺とはさっさと別れる予定では無かったのか?」
「だって、アサギ乗るんだろ?」
「まぁ、そうだな」
「って事はセントラルまで行くんだよな?」
「……まぁ、そうだな」
「行きたいです」
「……そうか。さてキャンセルするか」
「泣くぞ」
「何?」
「そして心の中で長さんに訴える。デュランがオレを散々利用した挙句、言葉も聞かずに捨てたって」
「何だと?」
オレはじーっと後は黙って目で訴えてみる。
リムりん曰く、女の子が男に頼みごとをする時は目で訴えるのが一番らしい。
ま、デュラン相手なら問答無用で上目遣いになるし。
言葉は要らない。
後はひたすら黙って目で抉りこむように訴えるべし。訴えるべし。訴えるべし。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
デュランが先に目を逸らした。
うし、勝った。
はー、と大きく溜息を吐いて、デュランは前髪をかき上げ、腕を組む。
「……お前がそこまで何かに執着するのも珍しいな」
「だってセントラルだし」
天壇。ノーディアス陸橋。あと双子の空中庭園にベルディアン寺院。忘れちゃいけないセントラルステーション。
ミレイ式建築でおなじみ、ジャン・ジャック・ミレイの作品だ。
カッコ良いよな、アレ。
映像でしか見た事無いけど。
「生で見たいです。だから行きたいです」
「だが……」
「家族は休みの間帰ってこないし、戻っても家に一人だし」
「しかし……」
「休み中の課題は終わってるし、やる事も無いし。期待されてないし」
「いや……」
「よって、いきなり決めても他に影響は出ないし」
「……つまり、俺への影響は最初から考慮の外と言う事か」
「あんたは自力でどうにでもなるじゃん」
「……」
正論。
人間が一人二人加わった程度でアンタの負担なんて微々たるもんじゃん。
魔王だし。
デュランだし。
「オレ一人じゃ絶対、行けないし。連れてけ」
重ねて言ったオレにデュランがふーっと大きく溜息を吐きだした。
「……分かった。ただし」
「ただし?」
「お前の保護者気どりのあの二人には報告しておけ。後で色々と邪魔をされるのは迷惑だ」
「邪魔なんかしねぇよ。あの二人良い子だもん」
「どうだか」
「良い子なんです」
「まぁ、お前にはそうなのかもな。ともかく報告しておけ。良いな?」
「うぃうぃ」
まぁ、それぐらいは構わんし。
「後は?」
「……そうだな」
デュランは手を出す。
「ん?」
「リディルを返せ」
……そうでした。
【作者後記】
別作業していたらいつの間にかこんな時間!
どうも、尋です。
ストックがそろそろ尽きそうです。
そして、閑話を仕上げたいので明日の更新は多分おやすみです。
ご来訪いつもありがとうございます。
どうぞよろしければこの先もお付き合いくださいませ。
作者拝