コスプレではありません
牢屋で食べた料理もなかなか美味しかったが、改めて出された料理は別格だった。
どれも見たことがない食材だが、どれも幸福レベルに美味しかった。
「あ、金の美女、ほっぺにご飯ついてるぞ」
「食事中に話しかけないでください。あと、あなたはおでこにご飯ついてますよ」
「ほんとだ…なんで…」
2人が食事を済ませると、メイド服をきたコスプレイヤーが2人現れ、天然露天風呂へ案内してくれた。
到着するとメイドコスプレイヤー達は一例して『ごゆっくり』と言い残し、静かに去っていった。
強にとっては人生最大の緊張の瞬間が訪れる。
強は全集中を使い自身の生命エネルギーの全てをこれから放つ言葉に込めた。
「一緒にお風呂に入りませんか?」
「◯ね」
しかし強は諦めなかった。
(ここで終わるわけにはいかないんだ…!!)
生命エネルギー再投下、この力を次の言葉に込める。
「必ずバスタオルは巻くことを条件に」
「◯ね」
強の精神は完全に玉砕した。
地面に倒れ込む強。
それを横目に何事もなかったかのように金の美女は露天風呂へ入っていく。
廊下で待機している強。
ここで悪魔の囁きが強を誘惑する。
『見たくないか?』
「見たいです」
『行ってしまえ』
「アイアイサ!」
死亡フラグが立った——
その後、強の姿を見るものは現れなかった。
露天風呂を終えた金の美女が王様の元へ戻る。
「王様、美味しいお食事にお風呂まで、心から感謝申し上げます」
と深々と頭を下げながら金の美女が答えた。
「よかろう。外出の支度も出来ておる。付き添いのメイドも一名手配しよう。何なりと申しつけるがよい。そして……なんとしても勇者を捕らえて連れて参ってくれ」
「かしこまりました」
と金の美女が答える。すると何かを思い出しかのように王様が口を開く。
「さっき隣におった若者はどこへ参ったのだ?」
「露天風呂で後頭部を強めに打って倒れていました」
と金の美女が冷静に答えた。
「そうか、それなら僧侶を向かわせよう」
と王様の粋な計らい。
しばらくすると、少し気まずそうな顔で強が王様と金の美女の前に現れる。
「ははは……なんかすみません」
と強が口を開くと、金の美女が目を細めて強を睨みつけていた。
「よしよし、それでは準備も整ったようだな。ではご武運を祈っておるぞ」
と寛大な雰囲気で王様が言葉を投げかけた。
王国を後にした強一行。
一時的ではあるが、メイド服をきたコスプレイヤーが一名加わっていた。
「君はコスプレ歴長いの?」
と強が投げかけると、少し嫌そうな雰囲気でメイドが答える。
「コスプレではありません」