ただいま
静かに風が吹く。
砂漠に吹く少し温かい風とは違って、泉の前で吹く風は少し冷んやりしていた。
特に何もする事はない。
ただ沈黙していた。
きっと記憶が無くなる前の俺は、この場所で誰かと一緒に居て、とても大切な時間を過ごしたんだと……そう思ってならなかった。
強は立ちあがろうとした。手足は震えて力が入らない。
何か掴まる物も無い。
それでも強は立ち上がろうと、車椅子を無理矢理降りようと腰に力を入れると、体はバランスを保てず、車椅子ごと倒れ込んだ。
「いてて……」
体を強打する強。
その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
痛みではない。心で泣いていた。
無力な自分と、何も思い出せない自分がとても悲しくて涙が溢れていた。
すると、泉の近くで光を放つ何かがあるのが見える。
それに気づいた強は、拳を握り締め、両腕の最後の力を振り絞り、報復前進でその光を目指した。
一歩、一歩と、少しづつ、少しずつ前に進んでいく強。
光を放つその正体は、折れた剣先だった。
『これは……一体…』恐る恐るその剣に触れる強。
触れた瞬間、その剣は強の体の自由を解放し、手足に力が込められる状態になった。
強は奇跡の回復を遂げた。
だが、急に立ち上がった拍子に、強は足を滑らせ、その場に転倒すると、手に持っていた折れた剣先を泉に落としてしまう。
すると次第に泉から眩い光が現れ、その光は次第に大きさを増していった。
その光から羽の生えたシルエットが現れる。
「あなたは……女神様ですか…?」
と自信なさげに強が尋ねる。
「はい、そうです。」
と女神が答えると、続けて話し出す。
「あなたが落としたものは、“無くした大切な記憶“ですか?……それとも金の美女ですか?」
強は少し迷っていた。無くした記憶を選択すればきっと今胸の中にある締め付けるナニカも全て思い出せる。だが、そんな事より強は自分に正直になりたかった。俺は何度生まれ変わっても“本能のままに生きる“そう誓っていたのだ。
「俺が落としたのは、金の美女です!」
強は大粒の涙を流しながらそう回答すると、女神は微笑みながら答える。
「はぁ〜あ、やっぱりそうなるのね。あなたは最高の人間ね」
そう言うと、女神の左側から美しい光が現れ、次第にその光は人型のシルエットとなり、絶世の美女が現れた。
「あ、あの……はじめまして。強って言います…良かったら俺と…」
下を向きながら答える強見て、金の美女は———
強の元へ走りだし、強を強く抱きしめた。
「おかえりなさい、強」
「た……ただいま」




