第三十五話『幻の宝石を探して 後編』
謎の浮遊感と光が収まると、私たちは山の入口に立っていた。
「……どうやら、エレナの転送魔法は成功したようですね」
「さすがウィルさんの妹さんです」
「ありがとうございます。彼女のおかげで移動時間も短縮できましたし、私たちはここから頑張りましょうか」
「そうですね。日があるうちに、ここまで戻ってこないといけませんし」
言いながら、私は自分の荷物を背負う。
採石道具の多くはウィルさんが持ってくれているのだけど、それ以外の品物もけっこうな重さだった。
「なかなかに険しそうな山ですし、慎重に進みましょう。きつくなったら遠慮せずに言ってくださいね」
ウィルさんの言葉にうなずいて、私は気合を入れる。体力に自信はないけど、なるべく彼に迷惑はかけないようにしないと。
……それから、ゆっくりと山に分け入っていく。
先を行くウィルさんが道を作ってくれるおかげで、私は比較的楽に進むことができた。
それでも、気を抜いたら転んでしまいそうなくらい、道は険しいものだった。
「……大丈夫ですか? この岩を超えたら、少し休憩にしましょう」
「へ、平気です。もう少し進みましょう」
自分の体力のなさを今更ながら後悔しつつ、必死に山道を登っていく。
……やがて、それまでの荒れ道が突如として終わりを告げ、目の前が開けた。
「はぁ、はぁ……ついたんですか?」
「……ええ。ここが目的地のようです」
周囲を見渡してみると、山の中にぽっかりと、謎の空間が広がっていた。
丸い石が無数に転がっているところからして、元々川があったのかもしれない。
「何らかの原因で、最近になって川が干上がったのでしょうか」
足元の石を見ながら、ウィルさんが言う。妙にすべすべしていて、注意していないと滑ってしまいそうだった。
「このあたりに鉱脈があるらしいのですが……アリシアさん、何か聞こえますか?」
「そう、ですね……」
ウィルさんに言われて、私は周囲の石たちの声に耳を傾ける。
『こんなところに人が来るなんて、珍しいね』
『クスクス。ホントだね』
ややあって、小さな声が聞こえてきた。
「あなたたちは、ユークレースの原石ですか?」
『そうだよ。よく知ってるね』
『もしかして、ボクたちを採りに来たの?』
「そうです。今度、街一番の職人を決めるコンテストがありまして。ぜひ、皆さんの力をお借りしたいと――」
声の出どころを探りながら、私は彼らに問いかける。
普段人と接する機会がないためか、ユークレースの原石たちはとても好奇心旺盛で、多くの石たちがコンテストへの参加を申し出てくれた。
「皆さん、ありがとうございます。それでは、採らせていただきますね」
そんな彼らから許可をもらったあと、私はウィルさんとともに、最も石の声がよく聞こえる場所へと移動する。
それは少し前まで、川底だったであろう場所だった。
「……なるほど。鉱脈が川底にあったのなら、最近まで発見されなかったわけだ」
ウィルさんは感心しつつ石をどけると、ツルハシを振り下ろした。
◇
……その後、川底の鉱脈からは数多くのユークレースの原石を採取することができた。
その大きさや色は多種多様で、爽やかな水色のものもあれば、濃い青色をしたもの、雪のように白いものやピンク色のものなどがあった。
「同じ場所で、ここまで色の違う原石が採れるとは。本当に不思議です」
「ええ……」
返事はしたものの、私はその美しさに見入ってしまっていた。
さすが幻の宝石と呼ばれるだけある。
「これだけ数が採れれば十分でしょう。日が暮れる前に戻りましょうか」
その矢先、ウィルさんにそう言われ、私は我に返る。
「そうですね。この原石たち、早く加工してあげたいですし」
そう言って立ち上がり、原石の入ったカゴを背負って歩き出す。
……その時の私は、すっかり気が急いていて、足元が疎かになっていた。
「あっ……!」
直後に丸石に足を滑らせて転倒。その拍子に、思いっきり足をくじいてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
持っていた荷物を放り投げ、ウィルさんが私に駆け寄ってくれる。
「へ、平気です……うっ」
すぐさま立ち上がろうとするも、右足に鈍い痛みが走り、その場に座り込んでしまう。
「足を痛めたのですか。見せてください」
ウィルさんは神妙な顔で言って、私の靴を脱がす。
じんじんと痛む右足首はわずかに赤くなり、熱を持っていた。
「これは……」
「だ、大丈夫です。歩けますので、肩を貸してください」
言葉を失うウィルさんに対し、私はできるだけ気丈に振る舞う。
彼は一瞬だけ表情を曇らせるも、黙って肩を貸してくれた。
それからウィルさんに支えてもらいながら、私は必死に山を降りていく。
行きと違い、今は大量の原石を背負っているし、下り坂のほうが足に負担がかかる。その歩みは極端に遅かった。
「はぁ、はぁ……」
「……アリシアさん、あの岩の上で、少し休みましょう」
「でも、ついさっき休んだばかりです……」
「顔色が悪いですよ。気にせず休んでください」
少し強めの口調で言って、彼は私を岩の上に座らせてくれた。これでもう、何回目の休憩かわからない。
「もう一度、足を見せてもらっていいですか」
「は、はい……」
許可を得たあと、ウィルさんは再び私の足を見る。ややあって、彼は難しい顔をした。
「……先程より、腫れが酷くなっています。これは、今日中の下山は諦めましょう」
「……すみません。私のせいで」
太陽はすでにかなり傾いているし、こうなることは薄々覚悟していた。
でも実際にそうなってしまうと、どうしても責任を感じてしまう。
「アリシアさんが気にすることではないですよ。ここは安全そうですし、火を起こしてきます」
続けてそう言い、ウィルさんは野宿の準備を始めた。




