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第二十六話『一方その頃』


 私――ガーベラ・オーランドは、久しぶりに戻ったライゼンバッハ家の自室で悶々としていた。


「アリシアお姉さま……とっくに野垂れ死んだと思っていたのに、まさか生きていたなんて」


 郵便職員の少女を問い詰めたところ、アリシアお姉さまは職人街にある小さな宝石工房に身を寄せていることがわかった。

 そこで私は夫に頼み、この街周辺で一番大きなリングラッド採石場の採掘権を買い取ってもらった。

 オーナーとなった私は、さっそく石の無期限出荷停止命令を出した。


 お姉さまは有能な宝石職人を従えているらしいけど、材料となる宝石が手に入らなければ、あの小さなお店が立ち行かなくなるのも時間の問題よ。

 そうなれば、お姉さまは再び路頭に迷い、私が手を下すことなく行き倒れるはず。


 オーランド伯爵家の妻に双子の姉がいただなんて世間に知れたら、それこそ大問題。お姉さまには、人知れずいなくなってもらわないと。

 ……そんなことを考えていた矢先、部屋の扉がノックされた。


「はい。どうぞ」


 私が返事をすると、夫のエルディナンド伯爵が顔を覗かせた。


「あら、エルディナンド様。私の故郷はいかがです?」

「素朴でいい街だね。それより、ちょっといいかい」


 私の質問を軽く流して、エルディナンド様は歩み寄ってくる。その手には書類の束があった。


「ガーベラ、確かに僕は、君に採石場の運営を任せると言った。だけど、無期限の出荷停止命令はやりすぎだ。どういうつもりだい」


 紙束を机の上へ投げるように置き、彼は呆れた声で続ける。


「従業員たちから採石場の再開を求める嘆願書(たんがんじょ)がこんなに届いている。彼らにも生活があるんだし、いつまでも出荷を止めておくわけにはいかないよ」

「それでしたら出荷を止めている間、生活保証金を出して差し上げればよいではないですか?」

「簡単に言うけどね。あの採石場に、どれだけの従業員がいると思っているんだい? オーランド家の資産だって、無尽蔵に湧いてくるわけじゃないんだ」


 こめかみに手を当て、エルディナンド様は苛立ちを隠さずに言う。

 身内の前とはいえ、伯爵様とあろうものがはしたないですわ。


「それに君は常日頃から、洋服や宝石に手を出しすぎだ。もう少し節制してほしい」

「あ、あれは社交会に出る上で必要なものですのよ。女性は大変なのです」

「言い分はわかるが、今後は身の丈にあったものを身につけるようにしておくれ」


 エルディナンド様はぴしゃりと言い放つ。彼は倹約家でいらっしゃるし、私が浪費するのを良しとしていない。


「話が逸れたね。今は採石場についてだ。このままだと、従業員たちを(ないがし)ろにしているなんて噂が広まりかねない。ガーベラはオーランドの家名に泥を塗るつもりかい?」

「そ、そんな、滅相もありません」

「それなら、今すぐに出荷禁止命令を解くんだ」

「あ、あと十日……いえ、一週間だけお願いします。私も節制いたしますから」


 彼の前でしゃがみ込み、必死に懇願する。

 ここでやめてしまったら、私の計画は全て水の泡だ。


「……わかった。あと一週間だけだからね。従業員たちには一時金を出すことで、我慢してもらうとしよう」


 私の願いが通じたのか、エルディナンド様は多少態度を軟化させると、そう言って部屋を出ていく。

 思わず胸を撫で下ろした時、私はあることに気づく。


 そういえば、オーランド家のお屋敷も最近は使用人の数が減ってきた気がする。

 エルディナンド様は倹約しているわけではなく、まさか本当に資金繰りが厳しいのかしら。


「……いやいや、そんなはずないわ。たまたまよ」


 一瞬浮かんだそんな考えを、私はすぐに打ち消す。

 ここまで来たら、やめるにやめられないんだから。


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