表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/39

第二十五話『新たな戦略』


 その翌日から、さっそく宝石の買い取りを始めた。

 キャシーちゃんやルイド君に話を広めてもらったおかげか、お昼前には買い取りを希望するお客さんがやってきた。


「……このサファイアの指輪ですと、1200ルピアスが相場ですね。いかがでしょう」

「あら、買った時には3000ルピアスはしたのよ?」

「こちら、台座の腐食が進んでおりますし、宝石自体も色がくすんでおります」

「い、言われてみれば……わかりました。その金額で手を打ちましょう」

「ありがとうございます」


 商家の娘さんとウィルさんの会話を聞きながら、私は確かな手応えを感じていた。


 正直不安もあったけれど……宝石はあるところにはあるもの。

 気がつけば、予想を遥かに上回る数の宝石が、私たちのもとに集まっていた。


 ◇


 その日の夜。私は買い取った宝石たちを一箇所に集めていた。


「かなりの数が集まりましたね。次の問題は、どう加工するかですが」

「そこも考えています。見ていてください」


 不安顔のウィルさんにそんな言葉を返し、私は宝石たちを見渡す。そして息を吸い込んだ。


「この中で、イヤリングになりたい方!」

『はい!』

『俺もイヤリングがいい! 女の子の耳につきたいんだ!』


 私が問いかけると、サファイアとエメラルドが声を上げた。それぞれ、サファイアはブローチ、エメラルドはペンダントになっていた。


「ウィルさん、このサファイアとエメラルド、イヤリングになりたいそうです。加工をお願いします」


 そう口にして、二つの宝石をウィルさんに手渡すも……彼は驚きの表情で固まっていた。


「……なるほど。今、宝石たちの希望を聞いたのですか」


「そうです。望む姿になった彼らは喜び、その輝きを何倍にも増してくれます。そうすると、非常に高品質な一品として店頭に出すことができます」

「言われてみれば……この宝石たちの光沢がわずかに増したような気もします」

「そうでしょう。どんどん希望を聞いていきますので、ウィルさんは加工作業、頑張ってくださいね」


 そう言うとすぐ、私は再び宝石たちへと向き直ったのだった。


 ……黙々と加工作業を続けるウィルさんの隣に立ち、全ての宝石たちの希望を聞き終わったのは日が変わった頃だった。


「これで最後です。このトパーズとエメラルド、イヤリングになりたいそうです。ただし、セットで」

「え、セットですか?」


 私が宝石たちの希望を伝えると、ウィルさんは驚きの声を上げる。


「はい。この子たち、どうやら仲が良いそうで……離れ離れになりたくないらしいです」

「それは……加工そのものは簡単ですが、うーむ」


 そう説明するもウィルさんは難しい顔をする。


「本来、イヤリングは同じ宝石で対になるように作るものです。左右で違う宝石のイヤリングなど、聞いたこともありません」

『そこをなんとか! お願い!』

『そう! 僕と彼女は離れられない運命なんだ!』


 ウィルさんが思い悩む間にも、宝石たちの必死の声が私の耳に届いていた。


「この子たちの希望なんです。奇抜なデザインになるかもしれませんが、どうかお願いします」

「……わかりました。やれるだけやってみましょう」


 しばしの間があって、ウィルさんはそう言ってくれた。私は宝石たちと一緒にお礼を言う。


「しかし……これはイヤリングの部品そのものを新たに作らねばいけませんね。徹夜仕事になりそうだ」

「ふふ、私もできる限り手伝いますから、頑張ってくださいね」


 少しだけ距離を詰めながらそう口にすると、彼はどこか恥ずかしそうに視線をそらし、頭を掻いたのだった。


 ◇


 それからほとんど徹夜で作業をした結果、左右で別の宝石を使った、全く新しいデザインのイヤリングが完成した。

 オレンジ色をしたトパーズと、透き通るような緑色のエメラルド。異なる二つの宝石は絶妙に調和していた。

 私が姿見の前に立って試着しても、不思議と違和感はない。


「これは……予想以上に馴染みますね。アリシアさんだからでしょうか」

「こ、こんな時にお世辞はやめてください。宝石たちの意思を汲んだのですから、当然です」


 ウィルさんの唐突な発言に、思わず顔が熱くなる。


『本当だよ! 僕と彼女も大満足さ!』

「わひゃあ!?」


 その直後、すぐ耳元で宝石たちの声が聞こえた。

 ……宝石たちの声が聞こえる私にとって、このイヤリングはあまりよろしくない。耳がどうにかなってしまいそうだ。


「と、とにかく、さっそく店頭に並べてみましょう。新デザインの装飾品として、ショーウィンドウの一番目立つところに」

「そうですね。二人とも、頼みましたよ」


 宝石たちにそう言葉をかけるウィルさんを、私は嬉しい気持ちになりながら見ていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ