夏祭り4
張られた頬の痛みよりも、そのショックで立ち尽くしていた。
彼氏である流川や友達はこちらを睨みつけつつ、蓮を追いかけて行ってしまった。
「あっちゃあ」
ラブも額を押えて天を仰ぎ見る。
「ん?」
視界の先にいたのは、うさぎの天使。くすくすと笑っている。彼女の手にはうさ耳が握られていた。
「うまくいったぴょん!それぴょん。」
フリスビーのようにうさ耳をなげると、それは彼氏の頭にすっぽりとハマった。
「……みんな、手分けをして、蓮ちゃんをさがそう」
「え、いや、」
だが、流川の目は否定を許さないという強い意志の目つきをしていた。
「君たちはあちらから回って、挟み撃ちにしよう」
「わ、わかったわ」
「それでいい……ぴょん」
ラブは駆けていく蓮の背中を目で追いかける。彼女の頭には、うさ耳があった。
「……っ!この、うさぎ!蓮ちゃんにも、うさ耳を」
彼女の押し込めていた想いが解放されたのか。
「ん?私が見えるぴょん?あぁアンタが嗅ぎ回ってた天使なわけぴょんね」
その黒い瞳は標的に狙いを定める。
「脱兎」
「がはっ!」
空中を蹴ることで加速したうさぎはそのままラブ目掛けて飛んできた。うさぎの蹴りはラブの腹部に直撃した。
「ラブ!」
「っ!!あんた、なんのつもり」
「こっちのセリフぴょん。コソコソとなんのつもりぴょん」
「こいつが。うさぎの天使」
傍目にはコスプレしたお姉さんだった。バニーガールのお姉さんって感じだ。その背中に白い翼が生えてる以外は。彼女の手にはうさ耳がある。
「ん?人間。お前も見えてるぴょんか?」
ゆらりとうさぎの天使が立ち上がる。彼女はその場にしゃがみこみ。
「邪魔ぴょん。気絶でもしてろぴょん。脱兎」
跳ね上がるように、こちらに突っ込んで来ようとする。だが、その足元に矢が突き刺さり、その動きは牽制される。
「ぴょん?」
「早く行って!」
ラブが叫ぶ。
「蓮ちゃんの頭にも、うさ耳があったわ。早くとってあげないと。うさ耳同士出会うなら、あっという間にぴょんぴょんしちゃうわよ!!」
「お、おう」
「させないぴょん!!」
早く蓮の所にいかないと。でも、激しく戦う天使の2人の争いは他の人には見えない。加勢しないとどう見たって、ラブが勝てそうな気がしない。
「早く行け!愛之助!!私のせいで間に合わなくなるなんてまっぴらよ!!」
「すまない」
彼女の声に背中を押され、走り出す。
「邪魔するなぴょん。あんたも天使見習いならわかるぴょん?私たちには時間が無いぴょん!、」
「だからといって無理やり付き合わせるっての?!」
弓矢を放つ。矢が放たれる音を聞き、するりとウサギは矢をかわす。
「所詮妥協だぴょん。生き物は子孫残すのに選り好みしてる暇なんてないぴょん。」
「そんなことはないわ!」
「……綺麗事をぬかしても無駄ぴょん。お前も天使見習いなら、恋叶わなかった身に過ぎないぴょん」
「……うるさいウサギね。こんがり焼いて食べてしまうわよ。あたしは、あの子たちには幸せになってもらいたいの」
蓮が走って行った先は、神社の裏山。
「はぁ……はぁ……」
自分の手を見た。愛之助を叩いた手がじんじんする。普段は自制が聞くのにどうして。頭を抱える。
「はぁ、はぁ、」
愛之助に謝らなければ。いや、愛之助もデリカシーがない発言をしていた。ギタギタにしてやりたい。わたしは。
「蓮」
呼びかけられた名前に振り向く。祭りの光が逆光になってよく見えない。
「アイ?」
恐る恐る尋ねる。問いかけには返事はなく。腕を思いっきり引っ張られる。
「いたい、痛いってば!離して!」
その手の掴む力は強く、振りほどこうとしても離れない。
「良いかげんにし、て、、、、」
ようやく目が慣れてきた。その目に写ったのは、異様な恋人の姿だった。
「離さない、ぴょん」
「ぴょん?」
「いっつも、いっつも、お預け、キスはおろか、体に触れさせない!!おれの性欲をぶちかまさせろ!!ぴょん!」
流川はバニーガールの姿に頭にはうさ耳、葉巻のようにニンジンを咥えている。テッカテカの水着。くい込み盛り上がる股間。目が血走り赤く充血している。
「ぴょいぃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「きゃあああ!!!だ、ぴょん、、、、、!!」
思わず口を抑える。
「なに、ぴょん?!」
「ふんす、はぁ、はぁ、」
変態の前にして、逃げ出したいのに足が動かない。それどころか。段々とこの変態のことが逞しく、頼もしく見えてきた。
頭に手を伸ばすと、自分の頭にうさぎの耳が生えていた。なにこれ、なにこれ、なにこれ。
「……アイ、助けて、ぴょ、ん」




