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愛をください

「彼女がほしぃいいいよぉおお!!」

 真夏の太陽の下、少年の声が響く。

 他の年ごろ男子と同じく、魂の雄叫びを上げる少年がいた。大好(おおすき) 愛之助(あいのすけ)である。恋が峰高校1年生。夏休みが迫って1週間の放課後の帰り道。級友との話である。

「おぃ、親友どうしてなんだよ!どうして俺に彼女ができないんだよ!!昨日だって、昨日だって」

 隣にいる女子に話しかける。彼女は飴の棒をタバコみたいに咥えながら、俺のほうをまじまじとみる。目つきの悪い三白眼。ざっくりまとめたポニーテール。彼女とは幼稚園からの付き合いだ。

「んなこたぁ、言われてもな。お前がしたこと言ってみな。」

「竹中さんに告白した。」

「んで、こっぴどく振られたと。」

「うわああああ、ユーモアたっぷりに話かけたんだ。彼女が緊張しないように。でも、でも」

「しかたねーな、一つ格言を教えてやろう。」

「なんだ!なんだ!」

「イケメン男子のボケはかわいいが、ダサい男子のボケは殺意わく」

「がふっ。」

 つらい、言葉の刃が突き刺さる。

「お前の方は順調なのかよ。蓮」

「ふぅ。あー、まぁまぁだな。今週末の夏まつりに二人で行く予定だ。まぁ、頑張りな。あ、そうだ。アイ。お前、んー、いや、なんでもない。またな」

 彼女は手を振りながら家路についた。幼馴染な瀧山たきやまれんは、四月に先輩から告白されて、その人と付き合っているらしい。こう言う色恋沙汰とは、縁遠いはずなのにな。あっと言う間に置いてかれてしまった気分だ。


 この町の恋が峰と名前が示すためか、恋人たちの聖地として、観光客がよく訪れる。町側もPRをしてて、観光名所や菓子類や、まぁ、あれやそれやが多いようだ。「世界は愛に満ちている」だそうだ。地名はなんでも恋のキューピッドがこの地を訪れたからだそうだ。町のPR雑誌には、彼女はハートマークでデコレーションされた木の棒で、恋の仲介役をした伝説があるようで、ほんとに変な町である。普通ハートのついた矢だろ。ここ日本だよね。昔話なのかよくわからない。だが、そのためか、町はなんとなしに、恋だの愛だのがよく囁かれてしまい、多感な我ら子供達にも、その傾向がある。入学して一か月たったころには、そこらかしらで付き合ってるみたいな話を聞くことになる。



 昨日の放課後。同じクラスの竹中さんを呼び止めて呼吸を整え告白する。前日の夜に死ぬ気で考えた告白の文章は吹っ飛び頭の中に浮かんだ言葉は。

「ぼくとどつきあってください!あ、間違えた」

「歯ぁ食いしばれ」

 グーパンでした。腰の入ったいいパンチだったなぁ。いまだに腫れてる左頬をさする。おれってばいつもそうだ。緊張してか、空回って空回って、入学して数ヶ月着いたあだ名が、恋のハリケーン(笑)だの失恋大名神だの、散々で。

「あ、山本さん、消しゴムおとし、、、」

「ひぃいい!!」

 いまや、女子に話しかけるだけで逃げられる始末だ。



 思い出すと虚しくなる。

「はぁ…」

 家に着いて小腹が空いたのでカップ麺をすする。テレビをつけると恋が峰の街のPR CMが流れていた。世界は愛に満ちている!ぜひ!恋が峰にこいこいこーい!楽しげな音楽で町の観光スポットを次々に映し出す。

「世界は愛に満ちている?は?バカにするな。恋のキューピットがいるなら、この目で見てみたいもんだね。そしたら、こうだ!せいっせいっそい!!」

 箸を剣のように振り回す。


ずぼ


だが、最後の一振りになぜか手ごたえがあった。

「ずぼ?」

ほかの家族は買い物に出て行ったはず。手ごたえがあるのはおかしい。


「ふーん、ほもしろいことひゅうじゃない」


 僕の高々と上げた割り箸が鼻に刺さった女の子が修羅の顔でこちらを見下ろしていた。

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