5・もふもふとぷにぷに
「おはようございます」
温室に入ると、すぐそこにフェンリル姿のクリストフ様が待っていてくれた。朝日を浴びて、銀色の毛がキラキラと輝いている。
「きれい! ふれてもいいですか?」
「……どうぞ」
きのうとは反対側の肩に、そっと手を伸ばす。
ふわ、もふ。
もふもふもふ。
もふもふもふもふ。
ああっ!
顔をうずめたい。
思い切り、吸いたい。
もふもふもふ。
「エヴリーヌ様。そろそろ食卓に」と、ここまで案内してくれたギルベルトが急かす。
仕方ない。
クリストフ様から離れようとして、ふと気になった。もふい毛に顔を近づける。
「クリストフ様はお日様の匂いがしますね」
『わふっ!?』
「たくさん太陽の光に当たっているからでしょうか」
「かもしれませんね」とギルベルト。「お手入れは大変なんですよ」
「そうですね。こんなに大きいのですもの。そうだ、私にも手伝わせてくださいな。お世話になるお礼に」
「お願いします」
「ギルベルト、勝手に決めるな!」クリストフ様が慌てたように抗議した。
「おイヤなのですか?」
きのうの一晩でずいぶんと仲良くなれた気がしたのだけど。朝食も昼食も、クリストフ様と一緒に(といっても彼はフェンリル姿のままだけれど)とることになったし、祈りの儀式も温室の一角を借りることになった。
でもお手入れはさせてもらえないらしい。
がっかりしてしまう。
「エヴリーヌ嬢、そんなに気落ちしないでくれ」
「リトルは私がお風呂にいれて、綺麗にしてあげていたんです。上手ですよ」
『わふん……』
「でも無理強いはよくありませんものね」
「……いや。令嬢には重労働だと思ったのだが、君がそれでも構わないというのなら、頼もうかな」
「まあ! ぜひ、やらせてくださいな」
ギルベルトが『よかったですねえ』と微笑む。優しい執事だ。
こんな素敵なひとたちに出会えて、追放されたのはかえって幸運だったのじゃないかしら。
◇◇
午前のうちに祈りの儀式を終えたので、午後はやることがない。クリストフ様のお役に立てることをしたいと思っているのだけど――。
結局、私の願いをきいてもらってしまっている。
肉球ぷにぷに。
といっても、私の顔ほどのサイズがあるそれは、あまりぷにぷにではない。
「よく駆ける場合は、固いと聞いたことがあります」
クリストフ様の右前足を膝にのせて、ぷにぷにしている。
ときどき、『わふん』とのため息が聞こえるから、気持ちいいみたい。だとしたら、お役に立てているのかも。よかった。
「エヴリーヌ嬢。そろそろ終わりにしてもらっても、いいだろうか」
「わかりました。左手ですね」
「いや、そうじゃなくてだね」
「おや。ずいぶん楽しそうですね」
そんな声が突然割り込んできた。目を向けると、見目好い青年が笑顔で立っていた。