表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

詐欺に遭った

作者: 千子

ある日、いつものようにネットショッピングをしていたら突然警報音とエラーなど色々な表示がされて、カスタマーセンターにご連絡くださいと表示されたので素直にそこへ電話した。

詐欺とも知らずに。

パソコンを直すのに八万掛かり、Apple Cardで支払えと言われた。

この時点でおかしいなと思ったのだが、なにせ喧しい警報音と初めての事態に慌てていたのだ。

慌ててコンビニでお金を下ろしてApple Cardを八万円分買い、言われるままパソコンのカメラに番号を映しパソコンにも入力した。

そしたらエラーでまた八万掛かると言われた。

エラーで登録出来なかった八万は現金書留で返金すると言われた。

またもおかしいな、とは思いながらもコンビニに走って同じ手順で八万支払った。

そうしたらハッカーに八万取られたと言われた。

お金がなくなり、どうしようもなく、また不信感がどんどん増していったので、返金された八万で支払うと言った。

しかし相手は引かなかった。

お金が無かったら誰かに借りろと言うのだ。

普通、カスタマーセンターの人はそんなこと言わない。

だが、十六万既に支払っていたので八万支払えば十六万返すと言われて動転してしまい身内に頭を下げて八万借りる事にした。

そこで身内がそんなのおかしいと言い、こちらの洗脳も解けた。

そうだよな、おかしいよな。

じわじわとこれは詐欺だと思った。

いや、本当は最初から思っていたのかもしれない。

まさか自分が詐欺に掛かるなんて思いもしなかった。

その気持ちが大きかった。

警察署で事情聴取されている間も、翌日の仕事中もどこか他人事みたく感じていた。

だが、確かに自分は騙されて十六万取られたのだ。


結局、十六万は詐欺師グループに取られて返っては来なかった。

警察に被害届を出したが返ってきたり捕まる望みは薄いだろう。


なくなった十六万は返ってこない。

金欠なのにどうすべきか。

考えた末に一つの結論に辿り着いた。

こうなったら、自分も詐欺をするしかない。

そう思い、適当に電話を掛けてみた。

特殊詐欺のやり方はニュースで散々やっている。

自分もやられた。

だから誰か引っ掛かるだろう。

そんな軽い気持ちで始めた特殊詐欺は、一度目で上手くいき、二十万手に入った。

なんだ、簡単じゃないか。

そう思い次々と詐欺を仕掛けていく。

引っ掛かる人もそうじゃない人もいるが、意外と自分みたいに「まさか引っ掛かるなんて」と思っている人が多いようだった。

調子に乗って人を雇って規模は大きくなっていった。

どんどんお金は入っていった。

記帳された通帳の額を見て顔が緩む。

雇ったのは不法労働者の外国人がほとんどで、安く済む。

とうとう家まで買った。

今まで普通に働いていたんじゃ買えないような家だ。

ゆったりとしたソファに座りテレビを見る。

特に見たい番組がなくて、適当にニュースを流しておく。

ニュースは飢餓で人が亡くなったというものだった。

「……騙した事がある名前だな」

ニュースのアナウンサーは続ける。

詐欺に遭い、お金がなくなりどうしようもなくなって餓死したのだと。

プツリとテレビを消して寝転がる。

そいつが騙した相手かどうかは知らない。

同姓同名なだけかもしれない。

ふと、騙された時の自分を思い出す。

「……出掛けるか」

なんとなく騙した金で買った家の居心地が悪くなって財布とスマホだけ持って外に出た。

行く宛なんかなく、ただふらふらと街を歩いていると、精一杯の大きな声が聞こえてきた。

「募金のお願いします!食べられなくて困っている人がいるんです!病気の人もいます!そんな方々を助けるためにも善意の募金をお願いします!」

中学生の集団が、声を張り上げて箱を道行く人々に差し出していた。

大多数の人間は素通りしていった。

なんとなく近寄ると、目を煌めかせて頭を下げられた。

「募金のお願いをしています!」

気付いたら財布から箱に持っていた最高額の二十万を突っ込んでいた。

騙された額より高額だ。

大体、募金も本当の使用用途なんかわかったもんじゃない。

詐欺の一環かもしれない、と腐った脳で思ったが、入れられた札束に呆然としている中学生達に何か言われる前にさっさとその場を立ち去った。

何を言われるかが怖かったからだ。

自分が何をしたのか自分でも分からなかった。

だけど、同じグループの部下相手から折り返しの電話が来てもなんとなく出る気にはなれなかった。


一歩踏み出した。

そんな気がした。

まだ変われるか。

…どうだろうか。

ぐるぐる考えながら帰路に着いた。


スマホは相変わらず鳴っている。

俺の道はどこだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ