表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/56

かわいいゆずちゃん

「結局あんまり眠れなかった……」


 ようやく眠れたのは三時を回ってから。その上、健康的に六時に起きたひまりは後ろから抱きつく形になっているのに、こちらを向き、強く抱きしめてきた。


 別にそれだけならいつもと同じなので何も思わない……わけではないが、そうダメージはなかったかもしれない。だが、あろうことか寝起きの俺にはにかみながら「おはよう」だ。それも、俺が抱きまくらにしていたことを思い出しながらか、少し頬を染めながら。

 おかげで今はひまりの顔が見れなさそうだ。


「和人さん? みんな待ってますよ。そろそろ起きましょう!」


 そのひまりの攻撃に「二度寝する」と宣言し、布団に潜り込んだ俺だったが、さすがにもう九時。皆いることだし出かけよう、と言っていたわけだし、そろそろ起きないといけないだろう。


「よいしょっと」


「ちょっと! 何やってるの!? 突然!」

 

 そういろいろ考えていたら、突然声を掛けてくれたゆずちゃんが布団に潜り込んできた。


「むう……私はさっき声かけたましたが!」


「え? そうなのか。ごめん……じゃなくって!」


 何故か離れようとしても向こうは密着するように近づいてくるので、体があたって精神的によくない。どくんと心臓が跳ねる。


「な、なんでベッドに潜り込んできたの?」


「聞きました。二人とは一緒に寝たことあるんでしょう?じゃあ私も拒否される道理はないと思うんですが」


 少し不機嫌そうに、つんと言い放つ。だれだ。だれがその情報を吐いた!


「もしかして、嫌ですか?それなら今すぐどくので……」


 ゆずちゃんは不安そうな顔になり、ぱっとベッドから出ようとする。


「待って!」


 俺は急いでその体を抱きしめて、頭を撫でる。ふわり、と昨日も嗅いだ記憶のあるシャンプーの匂いが鼻を刺激した。……って!その思考は良いから!

 ゆずちゃんを見ると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまっていた。


「別に嫌じゃないから。でも、突然はびっくりするから」


「は、はいぃぃ……」


 弱々しい返事。うーん、もしかしてこれだけ言っても嫌だったんじゃないかなんて気にしているのだろうか。全然嫌なんかじゃなかったんだけどな。

 とりあえず安心させるため、ぎゅう、ともう少し力強く抱きしめた。ひまりによくやる手法だ。


「きゅー……」


「あれ?」


 やけに動かないなあ、と思いゆずちゃんの顔を覗き込むと、真っ赤にして目を閉じていた。反応もない。……もしかして、気、失ってる?


 暫く待ってみたが起きる様子がなかったので、俺はベッドを降り、その場所にきちんと寝かせ、リビングに降りる。


「あれ、お兄ちゃんだけ?」


「ああ、ゆずちゃんは寝ちゃった。なんでだろ?」


 そう言うと、ひまりと咲ちゃんは怪訝な目を向けてきた。じーっと効果音が付きそうなくらいの痛い目線だ。


「……ねえ、なにかしたでしょ」


「なにがだ? 俺からは何もしてないぞ?」


「じゃあ高松ちゃんからはなにかされたってことですか?」


「……」


「わかりました。高松ちゃんですね?」


 ひまりと咲ちゃんから詰問され、一瞬でバレてしまう。

 ……しかし、そう言えばゆずちゃんがベッドにも潜り込んできたのはもともと二人のせいじゃなかったか?


「……ベッドに潜り込んできたんだが?」


「あ」


 そう言うと、露骨に咲ちゃんが目をそらし始めた。……なるほどね、犯人は咲ちゃんだったわけか。


「ねえ、咲ちゃん。ゆずちゃんは『二人は一緒に寝たんでしょう?』といって入ってきたんだけど、心当たりない?」


 目の位置が定まらず、きょろきょろと動き回る。目線を追っていると、今度は曖昧に笑みを浮かべてえへ、と笑った。可愛いけど、ごまかされないぞ。


「咲ちゃん?」


「……はい。昨日私が寝るときに話しました」


 咲ちゃんは、拗ねるようにそれを認めた。


「まあさ、正直話すことは全然いいんだけどね」


「へ? でもそのせいで高松ちゃんきぜ……じゃなくって寝ちゃったんですよね?」


「多分だけど、原因それじゃないんだよね。ひまり!」


「なにー?」


 俺がひまりを呼んで、大手を広げると、俺の意思を汲み取ってくれたのか、嬉しそうな顔をして胸元に飛び込んできた。


「どうしたの?」


「懐かしくないか?これ」


「うん。私が悩んでたりしたときによくしてくれてたよね」


「こんな感じのことをした」


「は?」


 二人の声が重なった。怖い。

 胸元のひまりは目に光がなくなり、殺さんという勢いで強く抱きしめてくる。痛いよ。

 咲ちゃんは、コレは私もやってもらわないと不公平ですよね……と呟いている。


 そこに、階段を降りる音が聞こえてくる。


「ふぁあ……ちょっと寝ちゃいました……」


 リビングに入ってきたゆずちゃんだったが、俺の顔を見ると、みるみるうちに顔を赤くしてぷいっと顔をそらした。


「ねえ、高松ちゃん、先輩とはベッドに潜り込んで、抱きしめてもらっただけだよね?それ以上はしてないんだよね?」


「は、はい」


「……恥ずかしがり過ぎじゃない?なんかもっとすごいことした人みたいになってるけど……」


「いや、思ったより幸せになっちゃって、頭がぎゅーっとして、とにかく何も考えられなくなっちゃって、頭が大変なことになっちゃったんです!」

 

 その瞬間、空間全体がしんとなる。

 そうして、ためにためて、俺と咲ちゃんとひまりは顔を見合わせた。アイコンタクト。伝わるはずだ。


「かわいい」


「なんでぇ!?」


 その三人の言葉は揃い、ゆずちゃんは恥ずかしそうにうつむくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ